宇垣美里と宇多丸『はちどり』『ガール・コップス』を語る

宇垣美里と宇多丸『はちどり』『ガール・コップス』を語る アフター6ジャンクション

宇垣美里さんと宇多丸さんが2020年7月14日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で韓国映画『はちどり』『ガール・コップス』について話していました。

(宇多丸)映画の話で言いますと、僕は宇垣さんとちょいちょいお話をしている時に「『はちどり』がいいですよ」ってね。先週のムービーウォッチメンで扱いましたけども。「きっと宇垣さんもお好きだと思うんで」って。それをご覧になったみたいで。

(宇垣美里)はい。行きました。私は渋谷のユーロスペースに行ったんですけども。結構空いていまして。すごいゆったりと見れました。

(宇多丸)いまTOHOシネマズでやってるから逆にユーロスペースの方は見やすくなったのかもしれないね。いかがでした?

(宇垣美里)良かった! 良かった! なんでしょう? なにか大きな事件が起きるわけじゃない……その彼らの背景ではたくさん起こるんですけど。事件が起きるわけじゃないんだけども、なにか小さい芽生えとか、そういうものがずっと追われている視線。なんかこう、見覚えがあるし。自分もあった気がするし。そこからのまた、あの運命の女性というか。

(宇多丸)ああ、メンターとなるヨンジさんね。塾講師の。

(宇垣美里)あの出会いって時にあるよなって。世界の見え方を変えてくれるような人との出会いって人生にあるかなって。私はあったので。すごいそれを思い出して。「ああ、きっとこういうのが世界を輝かせる一歩になるんだな」って思うし。

(宇多丸)宇垣さんにとってもああいう、あの映画におけるヨンジさんのようなメンターとなるような、世界の見方をちょっと開いている方が?

(宇垣美里)いました。

(宇多丸)いらっしゃった。ああ、いいね!

(宇垣美里)いました、いました。すごい大好きっていうか……変えてもらった? なんて言うんだろう? と、思いますし。あと、細かい笑えるところがたくさんあって。私はもう本当にあの後輩が言う「それは前期の話です」っていうのがめちゃくちゃ好きで(笑)。

(宇多丸)ぜひ実際に見ていただきたいですけども。まあ後輩に慕われて……っていう、あの年頃の女の子とかにはあるかな?っていうようなね。で、いい感じになってっていうのはいいんだけど。なんていうの? このタイムスパンのさ。これは『グッド・ボーイズ』という僕が映画評をした作品でも、最後はすごい感動的なんですよ。出会いと別れ、元トモ感もあって。「ああ、泣ける!」って思うんだけども、タイムスパンが我々が見ると「えっ、短っ!」っていう。でもやっぱり、その密度が違うから。

(宇垣美里)彼らにとっての体感時間ていうのはやっぱり若いから若い分だけ1日が濃厚だわっていう。

(宇多丸)だからやっぱり「1年」ってめっちゃあるわけじゃん? そう考えると、1年めっちゃあるってことは、3ヶ月だってかなりなものなので。「先輩、何言ってんの? 3ヶ月前の話ですよ?」っていうのはやっぱり彼らにしてみれば、要するに僕らの感覚で言うと「3年前の話ですよ?」みたいなことなのかもしれないよね。それはね。

(宇垣美里)しかし、どの面を下げて……ええっ?

(宇多丸)あんな目が……はしごを外された感がね(笑)。もうね、あれは……。

(宇垣美里)私、ずっとニヤニヤしちゃった(笑)。

(宇多丸)でも、いいですよね。そこはかとないユーモアがあるところもいっぱいあって。そこも拾っていただいたのがやっぱりいいですね。

(宇垣美里)男の人も韓国のあの時代の……いわゆる、そのおっしゃっていた『82年生まれ、キム・ジヨン』の時代ですよね。「ああ、すごい生きにくそう。絶対に行きたくない」って思っていたけども、男の人も男の人で大変だったんだろうなって。

(宇多丸)いや、本当に。威張っている男性たちもものの見事に誰ひとり幸せそうじゃないですからね。

(宇垣美里)すごい苦しそうで。

男性たちもまた苦しそう

(宇多丸)特にあのおじさんとか、そこに疲れ切っているっていう風情じゃない? で、要するに「お前が学業に行っていればよかったのに、男というだけで俺がそれを背負って……本当にお前にも悪いし、俺も楽しくないし……」っていう。

(宇垣美里)「別に向いてなかったし……」っていうことでしょうね。おそらく。

(宇多丸)そうそう。というところもあるし。そこも見せていて。だからすごく視点が成熟しているというか。

(宇垣美里)優しいなって。

(宇多丸)あと、あの監督って長編一作目ですよ? すごくない? 「えっ、巨匠?」っていう。

(宇垣美里)ある種の玄人感が強すぎて。逆に一作目とかっていうフレッシュさとかではない、急に傑作みたいな(笑)。

(宇多丸)いきなり名匠感がありますよね。いや、本当にちょっと僕も度肝を抜かれたんですよね。それはね。

(宇垣美里)あと、視線の透明さっていうんでしょうか? よかった。

(宇多丸)「目線を交わし合う」ということがすごく雄弁に。だからあれって映画でしかできないことじゃないですか。舞台でも違う。もちろん小説とかだとまた違う表現になる。目線を交わすだけで、たとえばあのお兄ちゃんに殴られた。で、それを両親に訴えたら、要するに家庭内暴力じゃないですか。なんだけど、お兄さんを諌めるどころか、自分が怒られるっていう。「喧嘩してるんじゃない!」って。まあ、親はああいう叱り方をしがちっていうところはあるけども。「ええっ?」って思っていたら、お姉さんが、なんていうのかな?

(宇垣美里)虚無の目をしていましたよ。

(宇多丸)虚無なのか……あのお姉さんもひょっとしたら暴力を振るわれたことがあっての共感の目線なのか、それとも「あんた、これを今話題に出すか?」みたいな。責めているようにも見える。ちょっと何とも言いがたい。

(宇垣美里)なんだろう? もうなんか諦めきっているのかな?って私は思ったんですけども。「そういうものなの」って。

(宇多丸)とにかく、同い年ぐらいで家庭内で同じような抑圧を受けてる者でしか通じない……しかも言葉ではなく通じ合うあのヒリヒリした視線とかさ。

(宇垣美里)「苦しい……」って思いました。

(宇多丸)そこの読み取りだけでもすごく味わえるし。もちろんそうだから本当に分析しがいがあるというか。味わえば味わうほど……。

(宇垣美里)お母さんもすごい疲れてましたしね。

(宇多丸)あの、なんか疲れたように、ふてくされて寝てるじゃない? で、あるところではあの主人公のウニさんも全く同じポーズで寝てるところが出てくる。だからその、やっぱりお母さんと同じ道に行くのか? そうじゃないのか? お母さんとしたら、最後はお母さんの目線に移って。

(宇垣美里)ご飯を食べているところで。チヂミを、。

(宇多丸)あのチヂミね! チヂミってそうやって食べるんだっていう(笑)。

(宇垣美里)最初、ちょっと引きで見た時にパンケーキかなんかかと思って(笑)。もしゃもしゃした何かってなんだろう?って思っていたら。

(宇多丸)あんな両手で手づかみで食ったりしていてね。

(宇垣美里)熱くない? だって焼きたてよね、みたいな。

(宇多丸)そういう、だから生々しい生活感も含めて、非常に我々は学ぶところもあるし、味わいどころもあるという。宇垣さんには絶対にバイブスが合うと思ってね。

(宇垣美里)でしたね。

(宇多丸)バイブスと言えばね、今週ちょっと先に言っちゃいますけども。『透明人間』、面白かったよ!

(宇垣美里)ええっ、見たいんだよ。それも見に行くかー! 「見たいんですよ」って言っていたじゃないですか。

(宇多丸)すいません。こんなことを言うと僕ももう1回見に行かなきゃいけないから混んだりすると嫌なんだけど。めっちゃ面白い!

(宇垣美里)うわっ! 見に行かな!

(宇多丸)あのね、その……すげえ面白い(笑)。

(宇垣美里)絶対に私、来週までに見に行く!

(宇多丸)うん。今までの『透明人間』とは全くまたアプローチが違って。

(宇垣美里)なんかちょっと気持ち悪い雰囲気だけは感じ取っているんですが。

(宇多丸)本当に気色悪い話だし。予想の斜め上を行く方向できっちりと、最後の最後まで「ああ、そう来るか!」って楽しませてくれるし。見事なもんでしたね。最高でした。ここんところ、面白い映画が……最近、面白い映画ばかり見ていてバカになるんじゃないかと思って。そこが心配!

(宇垣美里)でも全体のクオリティーが上がっているんですかね?

(宇多丸)そうかもね。今日ね、それこそ西森路代さんにいろいろとご紹介いただく中で。

(宇垣美里)全部面白かった。

『ガール・コップス』

(宇多丸)ねえ。いろんなトーンはあるんだよ。同じ韓国映画と言っても『はちどり』から『ガール・コップス』までいろいろとトーンはあるんだけど。でも『ガール・コップス』もやっぱり女性の抑圧という……。

(宇垣美里)すごいよかった。途中、ちょっと泣きそうになりましたもん。

(宇多丸)ねえ。ちゃんと今日的なテーマであって。あんなふざけた映画だけど大事なことを言っているし。

(宇垣美里)まさに今、おそらく韓国であった「n番部屋事件」。あれかな? みたいな気持ちにもなりましたし。

(宇多丸)いや、だからすごくあんな映画であんなタッチで……だって途中の。

(宇垣美里)ギャグ。「FBIよ」みたいな(笑)。

(宇多丸)あ、本当に彫る?っていうね(笑)。

(宇垣美里)止めるタイミング、あったろう?っていうね(笑)。

(宇多丸)ぜひ見てください(笑)。でもちゃんとそれがさ、「えっ、それが伏線になるの!」みたいな(笑)。めちゃくちゃ面白かったです。後ほどね、西森さんともお話したいと思っております。

<書き起こしおわり>

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