トミヤマユキコ よしながふみ『環と周』を語る

トミヤマユキコ よしながふみ『環と周』を語る アフター6ジャンクション

トミヤマユキコさんが2023年12月11日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の「アトロク漫画部が選ぶベスト漫画2023」の中でよしながふみ先生の『環と周』を紹介していました。

(宇多丸)では、1人目はトミヤマユキコさんです。トミヤマ先生、お願いいたします。

(トミヤマユキコ)はい。よしながふみ先生の『環と周』です。

(一同)(拍手)

(宇垣美里)こんなん、ええに決まっとるやん!っていう。

(宇多丸)よしながふみさん。

(トミヤマユキコ)宇垣さんにとってね、よしながふみ先生っていうのはとっても大事な作家さんの1人なので。

(宇垣美里)神!

(トミヤマユキコ)神様だよね! なので、宇垣さんにプレゼンしてほしいぐらいなんですけど、今日はちょっと私からということで。よしなが先生といえば『きのう何食べた?』が今は有名だったりとか。あとは『大奥』も皆さん、ご存知かと思います。なので、割と息の長い話を書かれる先生というイメージがあると思うんですが。私はよしなが先生って本当にこの1冊で終わるとか、1話で終わるとか、短い話を書くプロフェッショナルとしても大大大尊敬していて。「短い話も読んでほしい!」と思っていたところに、つい最近、これが出たんですよ。10月28日に1刷が出たということで、本当に最新作です。

(宇多丸)じゃあ、短編集なんですか?

よしなが先生の短い話も読んでほしい

(トミヤマユキコ)短編連作と言ったらいいかな? あるひとつの背骨は通ってます。ただ、いろんな登場人物が出てくる。で、タイトルの『環と周』という字に注目してほしいんですけど。これある種の円環構造とか、繰り返しとか、ループとか。

(宇多丸)「環」と「周」っていう。

(トミヤマユキコ)ということで、何て言ったらいいの? マルチバースみたいな? と言えば、伝わりやすいのか。家族、恋、友情……様々な関係性で綴られる「好き」の形というのがこの本のキャッチフレーズなんですが。「環」という名前の人と「周」という名前の人がいろんな時代、いろんな性別、いろんな関係性で出てくる。でも、そこにいろんな愛があるっていう話です。なので、まず構造の巧みさみたいなところがひとつ、あるんですね。この時代の環と周はこうなったとか。また別の時代の環と周はまた別の性別でこういう関係性を築いてるみたいなことをまず楽しむというのがひとつある。

と同時に、やっぱりそのよしながふみ先生が持っている、なんていうんですか? 「人の人生、ままならないことありますよね。しかし、それでも生きていく」みたいなテーマ性というか。ただ構造として素晴らしいだけではなくて。人間として読んでおきたい、人生の参考書感がもうめっちゃある。

(宇垣美里)まちがいねえ!

(トミヤマユキコ)あんまり言うと、ネタバレになっちゃうんですけど。やっぱりみんな、困難を抱えているっていう話なんですね。添い遂げたいのに添い遂げられそうにない夫婦のような人たちがいたりとか。なかなか学校に行って普通の生活が送れていなそうな子供と、その人を心配してる同じアパートの住人がいたりとか。あとは大昔。女学校を出たらお見合いをするのが当たり前みたいな時代に、本当の友情とはなにか、みたいなことを考えてる人がいたりとか。みんな、そこそこままならないんですけど。そのままならなさっていうものを、すごく繊細にすくい上げて。それで、安易な解決はしない。安易な解決はしないんだけど、でも別に暗い気持ちで終わるわけではないという、この微妙なさじ加減をプレゼンしたかったという。で、なんせ1冊で終わるのがよくないですか?

(宇多丸)ああ、これは完全にこれだけで完結?

(吉川きっちょむ)読みやすい!

(宇垣美里)読みやすいし、最後まで読んだ後、もう1回最初から読むと、またちょっと味わいが変わりますよね?

(トミヤマユキコ)答え合わせ。ということなんですよ。なのでぜひ、皆さんがどう思われたかも聞きたいので、ちょっと私のプレゼンはこれぐらいにして。ちょっとみんなでしゃべってほしいです。

(宇多丸)皆さん、読まれているんですね。

(宇垣美里)もう必読の書というか。私、よしなが先生の描く親子関係がめちゃくちゃ好きなんですよ。なんかこう、たぶんよしなが先生の思う「親ってこうあるべき」みたいなのがすごくあるなって、読んでいて感じていて。それを今回もすごく、「その姿勢を私もすごく尊重したい」という気持ちで読みました。好き!

(宇多丸)つづ井さん、どうですか?

(つづ井)さっき、裏で漫画部の部員4人でお話をしていたんですけども。よしなが先生の漫画って、すごくセリフの量、文字の量自体は多くて。パッとページを開いた瞬間に「あっ、文字」って思うんですけども。でも、読んでいて全然苦にならないっていうか。スラスラ読めちゃう。「えっ、このセリフ、意味がわからない。なんてなんて?」って戻ることがないというか。その読みやすさがすごいあって。スラスラ入ってきます。

(宇多丸)さっき、宇垣さんがしみじみとね、「漫画うまい!」って。

「漫画うまい!」(宇垣美里)

(澤部渡)本当に漫画、うまいですね。僕、実はよしながふみ先生、初めて読んだんです。今まで読んだことなかったんですけど。いや、本当に面白い! そしてさっき、ちょっと話が出たんですけど。なんか説明が本当に上手いというか。

(トミヤマユキコ)そうなんですよ。その物語を書く時に、説明のセリフとかって必要なんだど、あんまり説明臭が臭ってくると「ああ、今、フィクションを読まされてる」みたいな感じになるんで。その脱臭をする技術っていうのが作り手には絶対に必要なんですけど。よしなが先生は本当に……。

(澤部渡)すごいです! しかも、それがそのための演出じゃないんだよね。「ここでこうなったら、この人はそう思うだろうな」みたいな、そういうのの連続で今の状況とかを読者にも説明するし、その登場人物にも説明するから。もう、スッと入ってくる。これは衝撃的でした!

(トミヤマユキコ)「衝撃的」とまで言ってくださって。でも、本当にそうです。

(宇垣美里)いかがでした?

(吉川きっちょむ)いや、もう本当にどの話も救いだったり、喪失だったりを抱えていて。それがもういちいち……特に華族の娘さんと洋食屋さんの娘さんのお話。

(宇垣美里)あれ、たまらんでしたね!

(吉川きっちょむ)いや、あれはちょっと泣いちゃって。「たまらなんな!」って思って。もうそれぞれの関係性が本当に1話にこんなにうまくフィットできるんだっていう。で、またこのタイトルの円環構造的なあれも……最後のセリフがまた!

(トミヤマユキコ)言えないけどっていう(笑)。

(吉川きっちょむ)こればっかりは言えないんですけど……(笑)。

(宇垣美里)「読んで!」っていう(笑)。読んでください!

(宇多丸)はい。読みます! もちろん。私だけがこのスタジオで読んでいないので。『環と周』、よしながふみ先生でございます。トミヤマ先生の推薦でございました。

(トミヤマユキコ)ありがとうございます。

<書き起こしおわり>

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