町山智浩『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を語る

町山智浩『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を語る たまむすび

町山智浩さんは2022年12月27日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』を紹介していました。

(町山智浩)今日紹介する映画の話をします。『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』というタイトルの映画です。もうこれは公開されていると思います。日本では、先週から。で、ホイットニー・ヒューストンというアメリカの歌手の伝記映画なんですけど。ちょうど彼女が亡くなってから10年なんですね。

(赤江珠緒)そうか。

(町山智浩)で、このホイットニー・ヒューストンの一番有名な映画『ボディガード』公開からなんと30年目なんですよ。これ、ちょっとびっくりしたんです。僕。

(赤江珠緒)ねえ。あれからもう30年、経っているんだ。見ましたよ! 大ヒットでしたもんね。

(町山智浩)赤江さんって30年前って、いくつ?

(赤江珠緒)30年前は、学生でしたね。一応ね。大学生っていう感じかな?

(町山智浩)僕ね、30年ってどのぐらいの感覚なのかなと思ってこの間ね、ちょっと調べてみたらピンク・レディーとか、サザンオールスターズとかが人気だった時が1978年ぐらいで。で、その30年前ってね、『リンゴの唄』とかね、『青い山脈』がヒットした時なんですよね。

(山里亮太)昔って感じ!

(町山智浩)1948年なんで、30年っていうのはそのくらいの差があるんですね。サザンオールスターズと『リンゴの唄』って全然違うわけです。

(山里亮太)たしかに!

(町山智浩)だからホイットニー・ヒューストンについて語るっていうのは、そのぐらいの昔のものなんだなっていうね。だから今の人は全然わかんないんだろうなと思うんで、ちょっと話したいんですけど。僕にとっては社会に出た時。1985年に彼女のファーストアルバムが大ヒットしたんですよ。で、非常に覚えてるんですけど。バブル時代でしたからね。みんな、すごい髪の毛を盛って遊んでましたけど。その時に彼女は22歳でデビューして。そこからですね、シングル7枚連続で全米ナンバー1にするというですね。これは誰も破ってない記録なんじゃないかな? ビートルズよりも売れたんですね。で、アルバム……「アルバム」って言っても難しいか。もうアルバムっていうのも、あんまり言わなくなった言葉ですね。

(山里亮太)そうか。CDでっていうことじゃなくなってきたから。

(町山智浩)そう。CDを買わなくなっちゃったからね。アルバムのセールスだけで、全世界で1億4000万枚なんです。ちょっと考えられない数字なんですよ。

(赤江珠緒)ちょっとすさまじいですね。

(町山智浩)すさまじい売れ行きだったんですね。でも、この人はどういう人かって、あんまり知られてないですよね。日本でもね。で、それがわかる伝記映画になっているんですけど。彼女はとにかくね、一種の歌手のエリートの家から出てきた人で。お母さんも歌手だったんですね。シシーさんっていう人でね。で、いとこはディオンヌ・ワーウィックという、R&Bのすごいシンガーで。お父さんも結構お金持ちで。お父さんはね、ニューアークという市の政府の役員だった人ですね。そういう結構いい家の子なんですけれども。しかも、スタイルがめちゃくちゃよかったんですよ。八頭身ですよね。もう典型的なね。ホイットニー・ヒューストンは。だから10代の頃からモデルとして結構人気だったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからもう見た目も何もかも、揃ってるという完璧な人だったんですね。で、めちゃくちゃ売れたんですが、逆に売れすぎたんで、すごく叩かれて、大変だったんですよ。アメリカでは。「これは黒人の音楽じゃない」って言われたんですよね。

(赤江珠緒)えっ、どうして?

(町山智浩)歌のこぶしの効かせ方とか、そういうところで黒人音楽風のファンキーな要素はないんですよね。で、彼女は人種を超えて全世界に売れたんですけども。あまりにも黒人っぽくないっていうのと、歌詞にその黒人の問題みたいなものがあまり語られてなかったので。だから「ホイットニー」ではなく「ホワイティー」っていう。「白っぽい」みたいなことを言われて、結構ブラックミュージックの方からは叩かれたりもしてたんですけれどもね。

ただね、彼女の特殊性っていうのは、この人は作詞もしないし、作曲もしないんですよ。で、最初からもうある歌を歌うんですよ。ところが、この人、ホイットニー・ヒューストンが歌うとね、その歌は全然違うものになるんですよ。この人の力っていうのは、そこにあって。ちょっと聞いてもらうといいんですけれども。彼女の歌でかなり有名な歌で、『Greatest Love Of All』って歌があるんですね。これ、僕は何度も『たまむすび』で実はかけている歌なんですけども。元々はモハメド・アリの伝記映画の『アリ/ザ・グレーテスト』っていう映画の主題歌として作られた歌なんですよ。で、それはジョージ・ベンソンという人が歌っているんで。ちょっとそれを聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。この歌はね、元々はモハメド・アリが自分のことを「グレーテスト(最高に偉大だ)」って言っていたんで。それを元にした歌で。それで前にも紹介したんですけども。『Greatest Love Of All』……その、この世で最も偉大な愛とは何か? それは自分自身を愛することなんだっていう歌なんですね。

(赤江珠緒)いい歌ですね。

(町山智浩)はい。モハメド・アリの頃は黒人が差別されてたんで。「自分をグレートだと言うところから始まるんだ。俺たちは偉大なんだ! 俺は何でもできるんだ!って思わなければ何も始まらないんだ」っていう歌なんですけれども。この歌は今、聞いてもらうと非常にナチュラルに素朴に歌ってるでしょう? この元歌は。ところが、これをホイットニー・ヒューストンが歌うとどうなるか? 聞いてください。

Whitney Houston『Greatest Love Of All』

(町山智浩)はい。すごいでしょう? 元歌との差が。

(赤江珠緒)全然違う感じの曲に聞こえる! 湧き上がる感じですね。

(町山智浩)ものすごくスケールが大きくなっちゃうんですよ。歌い方で。これは彼女がすごく強弱の付け方がうまくて。すごく静かな低いところから、どんどん大きく上がってくんですよね。で、これは歌が先にいくに従って、どんどんどんどん上昇していくというね。もう巨大なスケールの歌い方をする人なんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。壮大な感じになりますね。

(町山智浩)はい。それがねホイットニー・ヒューストンと他のR&Bとか、他の歌手の人たちとの決定的な違いなんですよ。もう決定的にそこが違うんですね。スケールがとにかくでかい。セリーヌ・ディオンが同じぐらいでかいかな? これ、要するに自分自身を愛することなんだって言ってること。それはモハメド・アリの非常に個人的なことだったのが、彼女が歌うともう全人類に対して歌っているメッセージソングなっているんですよ。強烈な。これね、英語でアンセムっていう言葉があって。アンセムっていうのは「讃歌」とかですね。そういう意味で、応援歌とかね。ナショナルアンセムっていうと、国歌のことなんですけども。彼女が歌うと、なんでもアンセムになっちゃうんすよ。

(赤江珠緒)たしかに。鼓舞される感じ、ありますもんね。

(町山智浩)すごいですよ。上がっていくんですよ。クラシックに近い感じですね。だからね。クラシックっていうのは元々、神を称えるために始まったものなので。すごくどんどん上がってくところがあるわけですね。賛美歌とかね。それに近いです。元々、ゴスペルっていう黒人の賛美歌から始まったことなんで、そういう能力を持ってるんですけども。で、一番すごいのはね、『ボディーガード』で人気になった『I Will Always Love You』っていう歌がありましたよね。あれの元歌をちょっと聞いてほしいんですけど。ドリー・パートンの『I Will Always Love You』。これが元歌です。どうぞ。

(赤江珠緒)えっ?

(山里亮太)へっ?

(町山智浩)これが元歌なんです。

(赤江珠緒)なんか街角で1人でね、歌ってるような。これはこれでいいですけど。さりげないですもんね。

(町山智浩)これ、素朴なんですよ。力も抜いててね。これはドリー・パートンが自分で作詞・作曲した歌で。彼女はカントリー歌手なんですよ。で、『テキサス1の赤いバラ』っていう、あまりヒットしなかった恋愛映画がありまして。それの主題歌で。ひっそりと、素朴にその映画の中でも歌うんです。愛するバート・レイノルズに対して歌う歌なんですけども。これを、今と全く同じ曲をですね、ホイットニー・ヒューストンが歌うと、こうなっちゃうんですね。どうぞ。

Whitney Houston『I Will Always Love You』

(赤江珠緒)すごい!

(町山智浩)こうなると、もうラブソングですらなくなっちゃうっていうね。1人の誰かに対して歌ってるっていうよりも、全人類に対して「愛してるわ!」って歌ってるように聞こえるんですよね。

(赤江珠緒)たしかに。そうですよね。

(町山智浩)スケール100万倍ぐらいになってるんですけど(笑)。

(赤江珠緒)そうね。見えてる景色がなんか本当、地球の水平線に向かってるような、壮大な歌になる。

(町山智浩)これ、南アフリカでずっとアパルトヘイトっていう人差別が続いていて。ところが、そこで革命が起こって、アパルトヘイトが撤廃されて。ネルソン・マンデラ氏が大統領になった時に本当にホイットニー・ヒューストンは呼ばれて。南アフリカの人民に対してこれを歌ったんですよ。「私はずっとこれからもあなたたちを愛し続けますよ!」と。もう本当にだからね、国民レベルの歌になっちゃうんですよ。彼女が歌うと。

(町山智浩)でも、これがすごいのは詞とか彼女は書いていないんだけど、本当に声の出し方。それだけで歌に巨大なメッセージを込めていくというね。

(赤江珠緒)そうですよね。自分が書いた曲じゃないんですもんね?

(町山智浩)書いた曲じゃないし、歌詞の目的も違うんですよ。これ、すごいんですよ。これ、関係ないけど、ドリー・パートンはこの歌が大ヒットしておかげで、作詞・作曲者としてものすごくお金が儲かったと思いますよ?(笑)。

(赤江珠緒)そうでしょうね(笑)。

(町山智浩)自分が歌ったように売れたから、悔しいと思いますが。だってこれ、今YouTubeで『I Will Always Love You』の再生回数って13億回とかですよ。

(赤江珠緒)うーわっ!

(町山智浩)もう、人類規模の人なんですよ。このホイットニー・ヒューストンという人は。すごいんです。で、そのなんでもアンセムにしちゃうっていう能力というものが最大限に発揮されたのが、スーパーボウルっていうアメリカンフットボールの最大の大会があるんですが。それで1991年に彼女はアメリカ国歌を歌ったんですよ。で、これはあまりにもすごかったんで、その後にシングルとして発売されたぐらいだったんですが。

(赤江珠緒)ええっ、国歌が?

(町山智浩)あまりにもすごかったんで。今も、これを超える歌はないと言われてます。アメリカ史上、ずっといろんな人が国歌を歌ってきたんですけども。ホイットニー・ヒューストン以上の国歌は誰も歌えないって言われてるんです。ちょっと今、聞いていただけますか?

Whitney Houston『National Anthem (Star Spangled Banner)』

(町山智浩)まあ、すさまじいんですね。

(赤江珠緒)すごい! これ、1人の人の声で、こんなにっていうね。

(町山智浩)これほどすごかった人が実はその後、破産して。っていうか、借金を20億円ぐらいになって。そのまま、ドラッグ中毒の果てにお風呂で溺死という、すごい死に方をするんですよ。もう、亡くなる直前は生活がめちゃくちゃで、お金もなくて。どうしてそんなことになってしまったのか?っていうね。

(赤江珠緒)ねえ。こんなにも天賦の恵まれた声を持ってる方が。

(町山智浩)そう。もう人類の遺産みたいなものだったのに。それを全く失ってしまうというね。何が起こったかは、この映画の中で描かれてますけど。まあ、本当にひどいことが起こったんですね。旦那のこととか。家族もひどいしね。ちょっと信じられないような悲劇を彼女が襲っていくんですけれども。それもね、ほとんど知ってる人はいないと思いますよ。日本でも。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)ほとんどね、亡くなる直前の10年ぐらいは、本当にひどかったんで。いなくなってた形なんですよね。

(赤江珠緒)そうか。だから本当に急に「ええっ? ホイットニー・ヒューストンが亡くなった?」みたいな。突然のニュースでしたもんね。

(町山智浩)それもちゃんとこの映画の中で描かれてますんで。本当にもう、人類史上の比類なき才能だったんで。その人を巡る悲劇をね、ぜひこの映画でご覧なっていただきたいと思います。

(赤江珠緒)『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』は現在、全国公開中でございます。いやー、この歌声は改めて、すごいですね。

(町山智浩)この映画の中では、本物の彼女の歌が全部使われてますんで。すさまじい迫力です。

(赤江珠緒)はい。わかりました。町山さん、今年も1年、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)はい。また来年もよろしくお願いします! どうもありっがとうございました。

<書き起こしおわり>

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