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町山智浩『イット・カムズ・アット・ナイト』『ヘレディタリー/継承』を語る

町山智浩『イット・カムズ・アット・ナイト』『ヘレディタリー/継承』を語る たまむすび
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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『イット・カムズ・アット・ナイト』『ヘレディタリー/継承』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日紹介するのは今週末日本公開の映画『イット・カムズ・アット・ナイト』という映画と11月30日に日本公開の『ヘレディタリー/継承』という映画についてお話します。この2本はアメリカで両方とも非常に低予算で作られて大ヒットをしていまして。『ヘレディタリー』の方は1000万ドル(約10億円)ぐらい。これだと、アメリカでは安いんですよ。それで8000万ドル(約80億円)の興行収入を出していて。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)『イット・カムズ・アット・ナイト』の方はもっと安くて2億円(200万ドル)ぐらいの制作費なんですけど、これが2000万ドル(約20億円)の興行収入ということで。まあ、ヒットですね。制作費の3倍以上の興行収入でヒットなんで。ただ、この2本ともに嫌な映画で。嫌な嫌な映画です。

(赤江珠緒)ふーん!

(山里亮太)「嫌な」?

(町山智浩)そう。だから映画とかで見たくない、聞きたくない、現実でも絶対にかかわりたくないっていうシーンやセリフがある映画なんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから「映画ではまさかこんなひどいことは起こらないだろう」って思うようなことが起こるんですよ。「絶対にこういうことはしない」っていうことをしちゃう映画なんでうよ。だから、これでヒットしているんでまたすごいんですけど。ちょっと順番に説明しますと、『イット・カムズ・アット・ナイト』っていうのはこれは「それは夜にやってくる」という意味のタイトルなんですが。伝染病ですでに世界がほとんど破滅している状況から始まるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、伝染病にかからないように森の中にひとつの家族、お父さんとお母さんと息子が家の中に閉じこもって暮らしているんですね。で、外に出る時には防護服を着て。水も全部煮沸して使っている。菌に感染しないように。っていうような話なんですけど、これ、非常によく似た映画が最近、日本でも大ヒットしたんですが。『ア・クワイエット・プレイス』っていう映画がやっぱりそういう話でしたね。

(山里亮太)ああ、はいはい!

町山智浩 『ア・クワイエット・プレイス』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカで大ヒット中のホラー映画『ア・クワイエット・プレイス』を紹介していました。

(町山智浩)そっちは全世界がもうほとんど破滅していて、ある謎の存在がいて、それが音を立てると襲ってくるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。

(町山智浩)だから森の中で子供たちとお父さんとお母さんが暮らしていて、音を一切立てないようにしていて。枯れ葉も踏まないようにして生活しているという映画が『ア・クワイエット・プレイス』なんですね。で、この『イット・カムズ・アット・ナイト』はほとんど同じなんですけども。ただ、『ア・クワイエット・プレイス』の方はもう本当にボロ泣きするような感動的な映画なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)親子の絆を描いた、もう本当に泣けて泣けてしょうがない映画なんですね。僕はこういう映画を「パパ泣き映画」という風に分類してるんですけども。一連の。ところが、この『イット・カムズ・アット・ナイト』はその裏返しで。本当に嫌な嫌な展開になっていくんですよ。そこから。

(赤江珠緒)えっ? そんな親子で孤立して家族で……っていう中で、嫌な展開?

(町山智浩)これね、お父さんはその前から世界が破滅する時に備えて、いろんな準備をしてきた人なんですね。で、すごく家族を守るためだったらどんなことでもするっていうような人なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、これはこの映画の監督のトレイ・エドワード・シュルツさんという人が……現在、30歳ぐらいの人なんですけど。その人のお母さんが再婚した相手。だから継父(ままちち)ですね(笑)。継父さんが実際にそういう人だったんですよ。

(赤江珠緒)ほうほう。

(町山智浩)英語では「Prepper(プレッパー)」って言うんですね。プレッパーっていうのは「Prepare(準備する)」。核戦争とかに備えて水とか食べ物とか銃を用意している人たちのことをプレッパーって言うんですよ。

(赤江珠緒)はー!

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監督自身の体験がベース

(町山智浩)そういう人だったんですね。で、その継父との体験がこの映画の中に生かされているんですけど。このトレイ・エドワード・シュルツさんっていう人がこの前に作った映画はすごく意地悪な親の話で。ものすごく酔っぱらいで家族を傷つけて、子供たちにひどいことを言ってもう最悪の毒親についての映画でデビューした人なんですけども。それは離婚した自分の産みの父のことなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 産みの父親のこと?

(町山智浩)そう。その死を看取ったっていう経験があって。この『イット・カムズ・アット・ナイト』はおじいさんが出てきて、そのおじいさんの死を看取るところから始まるんですけどもそれは監督本人の体験ですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、プレッパーのすごく厳格で用意周到で家族を守る立派な継父の下で暮らすんですけど、この映画の中でもお母さんと息子は前の結婚で作った息子で。この映画の中での父親はやっぱり継父になっているんですけどね。だからこの監督自身の体験と同じなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、世界の破滅から家族を守ってくれると思うじゃないですか。ところが、これが最悪の結果になっていくんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! でもこの状況だと、それぐらいのお父さんの方が頼りになる感じがしますけどね。

(町山智浩)見ているとそう思うんですね。もう本当にきっちりしていて細かくて絶対に家族を危険にさらさないっていう人なんですけども。そういう人ってひっくり返すと、要するに世界が破滅しても自分たちだけがよければいい人じゃないですか。

(山里亮太)まあ、たしかに。裏返して言うと。

(町山智浩)ものすごいエゴイストなんですよ。こういう映画って結構いっぱいあるんですけど。実はこういうプレッパーの人たちというのの最悪の問題っていうのは、「世界が破滅すればいい」って思っているんだよね。自分たちだけは生き残れるから。

(赤江珠緒)ふーん! うんうん。

(町山智浩)そういう非常にエゴみたいなものがその家族自体を内側から食いつぶしていくっていう話なんですよ。

(山里亮太)うわーっ! 逃げ場のない中でそれは嫌だな!

(赤江珠緒)それがホラーになるって、怖くないですか? 相当怖い話になってきますね。

(町山智浩)怖いですよ。これね、監督はこの映画のヒントになったのは『ツリー・オブ・ライフ』という映画だって言っているんですね。『ツリー・オブ・ライフ』っていう映画はテレンス・マリック監督が作った映画なんですけど、ブラッド・ピットがお父さん役で。ものすごく意地悪なお父さんの役なんですよ、ブラッド・ピットは。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)たとえば子供たちが「パパー!」って甘えると、「パパとか言って甘えるんじゃねえ!」とかって言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 毒親……。

(町山智浩)で、子供をとにかく全部否定していくんですね。一生懸命になにをやっても「それはダメだ! ダメだ! 甘い、ダメだ!」って。徹底的に叩き潰していくんですけど、自分自身は「子供を立派に育てようとしている」って思い込んでいるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)「これは子供にとっていいことなんだ。しつけなんだ」って思っているんですけど、完全に子供のことを破壊しているんですよ。ブラッド・ピットが。それが『ツリー・オブ・ライフ』っていう映画なんですけど、それもテレンス・マリック監督の本当のお父さんの話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、それにヒントを得たっていう風にトレイ・エドワード・シュルツ監督は言っているんで、相当にキツい映画ですね。

(赤江珠緒)ええーっ!

(山里亮太)それは怖くて見れないな……。

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