高橋芳朗 星野源『YELLOW DANCER』と現行ブラックミュージックを語る

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音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』の中で、2015年の最新ブラックミュージックのトレンドが星野源さんのアルバム『YELLOW DANCER』に与えた影響について話していました。

(高橋芳朗)じゃあ、もう今週の洋楽コーナー、行きたいと思います。12月に入りまして、様々な音楽メディアが今年の年間ベストアルバムのランキングを発表してますので。それについてちょっと話したいと思います。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)海外で最も影響力がある音楽メディアっていうとね、やっぱりなんだかんだ、アメリカの老舗『Rolling Stone(ローリングストーン)』。日本版もありますよね。ローリングストーンが根強いと思うので。今回はそのローリングストーンが12月2日に発表した年間ベストアルバム50選から上位5作品。まず、トップ5を紹介したいと思います。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)こんな感じになっています。一位、ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』。これ、ヒップホップですね。二位、アデル『25』。強いですね。出たばっかりなのに二位。三位、ドレイク『If You’re Reading This It’s Too Late』。これもヒップホップです。

(熊崎風斗)うん。

(高橋芳朗)四位、ディアンジェロ『Black Messiah』。これ、R&Bですね。五位はザ・ウィークエンド『Beauty Behind Madness』。これもR&Bになります。で、こんな具合になっているんですけども。まあ、ヒップホップとかR&Bの作品が大半を占めて、結構ブラックミュージック優勢のセレクションになっています。はい。で、僕もね、ジャンルで言うとヒップホップとかR&Bみたいなブラックミュージックの仕事がメインだったりするので、ちょっと贔屓目に見てしまうところがあるかもしれないんですけど。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)でも、2015年がブラックミュージックが面白かった年。充実した年であることは間違いないと思います。ただ、ここでね、僕が1人で2015年はブラックミュージックが面白かったとか充実してたとか言っても、あんまり説得力がないと思うんですよ。

(熊崎風斗)そんなことないと思いますけどね(笑)。

(高橋芳朗)すごい被害妄想ですけども(笑)。信ぴょう性に欠けると思うので、ちょっとここでね、あるJポップのアーティストの方の力をお借りしてですね。例に出して、2015年のブラックミュージックがいかに面白かったのか?をちょっと証明してみたいと思います。おそらくこの方はこのランキング。いま紹介したランキングも共感してくれると思うし、このランキングに象徴されるような今年のブラックミュージックを楽しんだのではないか?と思います。

(熊崎風斗)はい。ええ。

(高橋芳朗)しかもその方はこのランキングに打ち出されているような今年のブラックミュージックのムードを自身の作品ですくい上げてるんですね。で、そのアーティストとは、いまiTunesランキングにも入っておりました。12月2日にニューアルバム『YELLOW DANCER』をリリースしたばかりの星野源さんでございます。でもこれ、ちょっと一応お断りしておくと、別に星野さんに裏を取ったわけではないです。

(熊崎風斗)もしかしたら星野さんは『違うよ、高橋さん!』っていう話もあるかもしれない。

(高橋芳朗)『高橋、テメー、違う!』って言われるかも知れないですけど。これ、星野さんの発言とか楽曲を踏まえての僕の勝手な妄想、推測にすぎません。ただね、間違いないと思います。はい。

(熊崎風斗)自信はかなりあると?

(高橋芳朗)そうですね。まったく裏付けがなく話すわけではないんで。じゃあちょっと、実際にですね、星野源さんの楽曲とか発言をこのランキングと照らしあわせて行きたいと思います。まず一位のケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』。いま、後ろでかかってますけども。これ、『i』という曲になります。

Kendrick Lamar『i』

(高橋芳朗)で、ケンドリック・ラマーはいまいちばんイケてるラッパーです。アメリカで。で、昨日発表になった来年のグラミー賞でも最多の11部門にノミネートされているんですね。で、この『To Pimp A Butterfly』というアルバムはここ数年、アメリカで結構問題になっています黒人差別問題を扱った、ちょっと重厚なコンセプトアルバムで。

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(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)まあこのローリングストーンに限らずですね、ほとんどの音楽メディアが今年の年間ベストの上位に選んでいます。で、星野源さん。このケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』に収録されている、いまかかっている『i』という曲。この曲が大のお気に入りのようでですね、今年の6月5日にニッポン放送の『オールナイトニッポンGOLD』に出演された際に、『ほぼ毎日聞いている』とおっしゃってました。

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(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)と、ともにこの曲をかけていました。しかもね、先に間違えてシングルバージョンをかけてしまって。『いや、俺が聞きたいのはアルバムバージョンなんだよ!』って。2回かけていたぐらいですから。

(熊崎風斗)相当こだわりが。

(高橋芳朗)相当こだわりがあると思いますし、アルバムも聞き込まれているのではないか?と思います。で、続いてちょっとニ位と三位は飛ばしまして、四位のディアンジェロ『Black Messiah』。ディアンジェロという人はR&Bのカリスマシンガーで。この『Black Messiah』はね、去年の12月、15年ぶりにリリースしたアルバムになります。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)星野源さんはこのディアンジェロの『Black Messiah』もかなり愛聴されているようでですね。リリース翌日に開催されたご自身の横浜アリーナのコンサートの客入れの時に、さっそく会場でこのアルバムを流していたそうです。で、いま後ろでかかっているのはそのアルバム『Black Messiah』収録曲で。これも来年のグラミー賞でレコード・オブ・ジ・イヤーにノミネートされました『Really Love』という曲になるんです。

D’Angelo and The Vanguard『Really Love』

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)ちょっとこの曲、聞いてもらえますか?

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)『Really Love』と並べて聞いてもらいたいのが、星野源さんが9月に公開した『Snow Men』という曲。かけてもらえますか?

星野 源『Snow Men』

(高橋芳朗)これ、ニューアルバム『YELLOW DANCER』にも収録されている曲なんですけども。ちょっと聞いていただけますでしょうか。ちょっと通じるものがありますよね?これ、おそらく星野さんがディアンジェロの影響をご自身のスタイルに落とし込んだ曲なんじゃないかと。

(熊崎風斗)ムーディーな。

(高橋芳朗)これはね、本当に素敵な曲ですね。僕、いましょっちゅう、毎日のように聞いてるんですけども。で、最後。五位のザ・ウィークエンド『Beauty Behind Madness』。これ、カナダのR&Bシンガー。これ、かけてもらえますか?いま、後ろでかかってますね。

(熊崎風斗)これですね。

(高橋芳朗)これ、ザ・ウィークエンド。今年に入って本格ブレイクしたアーティストで。彼もね、来年のグラミー賞で7部門にノミネートされています。で、このザ・ウィークエンドのアルバムから、いまかかっている曲はさっきのディアンジェロ『Really Love』と同じく、グラミー賞でレコード・オブ・ジ・イヤーにノミネートされている『Can’t Feel My Face』っていう曲になります。この曲ね、ちょっと聞いてもらえます?

The Weeknd『Can’t Feel My Face』

(高橋芳朗)このぐらい聞いただけでもわかる方にはすぐわかると思いますけども。かなりモロなマイケル・ジャクソンのオマージュなんです。

(熊崎風斗)あ、そうなんですか。

(高橋芳朗)で、ここ数年のポップミュージックシーンって世界的にディスコブームなんですよ。さっきのiTunes四位のコールドプレイもディスコサウンド、完全にやっていましたけども。ディスコミュージックのリバイバルが巻き起こっているんですね。そんな中でも、マイケル・ジャクソンにオマージュを捧げる曲が大量に作られているんですよ。

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(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、これは僕の見解なんですけど、昨今のディスコ再評価の流れでリリースされたたくさんのマイケル・ジャクソンのオマージュの中でも、このザ・ウィークエンドの『Can’t Feel My Face』はもう最高峰っていうか。決定打になるんじゃないか?と思います。

(熊崎風斗)へー。

(高橋芳朗)で、また星野源さんに話を移すとですね、今年5月にリリースされて大ヒットしました。これ、熊崎くんも知っていると思いますけど、『SUN』という曲。

(熊崎風斗)これは知ってますね。私も。

(高橋芳朗)いま、後ろでかけてもらいますけども。これもニューアルバムの『YELLOW DANCER』に収録されているんですけども。これはね、星野さん流のディスコ解釈。

星野 源『SUN』

(熊崎風斗)なんですか?

(高橋芳朗)と、言える曲ですね。で、実際にね、5月にTBSラジオの『バナナマンのバナナムーンGOLD』にゲスト出演した際にこの曲についてコメントしてまして。『70年代後半から80年代頭ぐらいのダンスクラシックやディスコティックな音楽をJポップにして、自分なりに歌いたいなと思って作った曲』と。

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(熊崎風斗)じゃあ、まさにそうなんですね。

(高橋芳朗)そうなんです。しかもね、この『SUN』という曲は星野さんによるマイケル・ジャクソンへのオマージュでもあり、トリビュートでもあるそうで。タイトルの『SUN』はマイケル・ジャクソンのことでもあるらしいです。星野さんにとってマイケルはもう、アイドル。太陽のような存在っていうことで、『SUN』というところにマイケルの思いも込めるということです。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)つまり、ディスコミュージックを意識しつつマイケル・ジャクソンにオマージュを捧げた『SUN』という曲は、結構いまのブラックミュージックのトレンドに完全に足並みを揃えた作品と言えると思います。発想的にはザ・ウィークエンドの『Can’t Feel My Face』と同じ方向を向いている楽曲と言ってもいいんじゃないかな?と思います。はい。

(熊崎風斗)うん。

(高橋芳朗)で、星野源さんのニューアルバム『YELLOW DANCER』の全体的に非常にブラックミュージック色が強いんですけども。単にブラックミュージック色が強いだけじゃなくて、いまのブラックミュージックの面白いところを上手く、見事にJポップに落とし込んでいるのがミソというか。聞き所だと思います。だから星野源さんのファンの方。このローリングストーンのさっき紹介した年間チャートを手引きにしてブラックミュージックを聞いていったらきっと、『YELLOW DANCER』が楽しめるんじゃないかな?と思います。

(熊崎風斗)なるほど。

(高橋芳朗)でもね、そういういまのブラックミュージックの気分を汲みとって作ったアルバムが今週のオリコンチャート一位。初登場一位。しかも初週で12万枚も売れたそうなので。これはもう痛快というかですね、非常に興奮させられました。じゃあ、そんなわけで最後にね、もう1曲。星野さんつながりでかけたいと思うんですけど。

(熊崎風斗)お願いします。

(高橋芳朗)さっき星野さんの『Snow Men』という曲とディアンジェロの『Really Love』という曲を聞き比べてみましたけど。おそらくですね、星野さんは『Snow Men』を作りながら、こちらのディアンジェロの曲。1枚前のアルバムのこの曲からインスピレーションを得たんじゃないかな?という気がするので。そっちを聞いてもらいたいと思います。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)この曲ね、AMで聞いても味があると思うんですけど。低音が効いているのでFM。90.5の方で聞いてみると、また音の輪郭がはっきるするんじゃないかな?と思います。聞いてください。じゃあ、ディアンジェロで『Feel Like Makin’ Love』。

D’Angelo『Feel Like Makin’ Love』

(高橋芳朗)ディアンジェロの2000年の作品で『Feel Like Makin’ Love』、聞いていただいております。どうでしょうかね?星野源さんの『Snow Men』との共通項を聞き取っていただけたかな?どうかな?

(熊崎風斗)はい。一緒に順番に聞いていくと、やっぱり似てるところも多いなっていうことがわかりますね。

(高橋芳朗)はい。星野源の新作と言えばですね、今週土曜日の『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』でですね、星野さんのニューアルバム『YELLOW DANCER』の特集があるそうなので。そちらでもうちょっとね、突っ込んだ話が聞けるかもしれないので。僕も非常に楽しみにしています。

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(高橋芳朗)あと、最後にもうひとつ、付け加えておくとですね、いま紹介したローリングストーンの年間ベストアルバムの一位、ケンドリック・ラマーと三位、ドレイクと五位、ザ・ウィークエンドの日本版CDの解説、私が執筆しておりますので。

(熊崎風斗)ああ。

(高橋芳朗)もしくは執筆する予定になっておりますので。みなさん、チェックのほど、よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>

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