SUPER BEAVER 渋谷龍太 山下達郎の日本語発音のすごさを語る

SUPER BEAVER 渋谷龍太 山下達郎の日本語発音のすごさを語る NHK FM

SUPER BEAVER 渋谷龍太さんが2023年5月4日放送のNHK FM『今日は一日“山下達郎”三昧 レコード特集2023』の中でミュージシャン山下達郎についてトーク。楽曲内での日本語の発音のすごさなどについて、すごいと感じる部分を話していました。

(杉浦友紀)さあ、ここまで山下達郎フリークとしての渋谷さんのお話を聞いていますけれども。ミュージシャンとしての渋谷龍太さんが、既にいろいろお話が出ていますが。ミュージシャン山下達郎さんについて、渋谷龍太さんはどう見ているのかを聞いていきたいと思います。まず、この歌ですよね。どんなところに注目してますか?

(渋谷龍太)やっぱり響きづらい子音の発音の仕方っていうのは、かなり革命的だなっていう風に思ってます。

(杉浦友紀)ほう……どういうことなんでしょうか?

(渋谷龍太)日本語ならではだとは思うんですが。他の国の言語であれば、そんなに弱くならない言葉も、日本語になると……たとえば「H」。「はひふへほ」とかってやっぱり力が入りづらかったりするんですよね。

(杉浦友紀)息が抜けますもんね。

(渋谷龍太)はい。で、力が入りづらい、すなわちアクセントが作りづらい。イコール、グルーヴが乗りにくい。グルーヴしにくいっていうのはやっぱりあるんですよね。点として響かない。縦のラインが作りづらいっていうのがあるんすけど。山下達郎さんの「はひふへほ」はすごくわかりやすく、聞きやすくて。どちらかというとフランス語に近い発音なんだなっていう風に個人的には感じてます。

(杉浦友紀)それを象徴する曲を渋谷さんが選んでくれたんですけれど。

革命的な子音の発音

(渋谷龍太)はい。『スプリンクラー』ですね。もっと、どの曲にもあったりするんですけど。全部でやってるわけではなくて、おそらく……考えてやってはいないとは思うんですけど。自然とグルーヴが気持ちいいところに山下達郎さんはそれを入れ込んでいる部分がありまして。結構『スプリンクラー』は僕、わかりやすいなと思っていて、選ばせていただいたんですけど。

(杉浦友紀)ちょっと聞いてみましょうか?

(渋谷龍太)今のところですね。「振りほどいた」っていうところ。「ふりほどいた」って、普通は息が抜けちゃうところを……。

(杉浦友紀)普通は、吹いちゃいますよね。

(渋谷龍太)舌の割と奥の方と上顎をくっつけて「Fu」って言ってるんですよ。なので、その1音に対する子音……要は喉を震わす前の段階から1音目の準備が始まってるんですよね。なので、縦のラインがすごく見えやすいんですよ。なのでこれをこの「はひふへほ」、発明じゃん!っていう風に俺は勝手に思っていて(笑)。「日本語に落とし込むのが」っていう点ですね。僕は発明なんじゃないのかなっていう。だから楽器と歌が馴染む。

グルーヴが……僕は日本語って、グルーヴが作りにくい言語なんじゃないのかなって思ってるんですけど、それでもグルーヴが生まれるのはそういう細部のこだわりであったりとか。これは意図してやってるのか、グルーヴを作るために自ずと生まれたものなのかはちょっと、わからないんですが。ご本人ではないのでね。僕は、勝手にそういう風に感じてます。

(杉浦友紀)その今の「はひふへほ」は、ボーカリストとしてやろうと思ってできることなんですか? できないことなんですか?

(渋谷龍太)意識しなかったら、できないと思います。日本語の発音の中ではたぶんないので。意識して「これをやろう」って思わないとできない部分ではありますね。はい。

(杉浦友紀)達郎さん、意識してるのか、どうしているのかって、ねえ。聞いてみたいですけどね。

(渋谷龍太)だからきっと、日本語としては正しい発音ではないですよね。だから、オリジナリティーですよね。

(杉浦友紀)おっしゃる通り、フランス語っぽいですよね。ちょっと。面白いな。なんかいろんな「はひふへほ」を見つけたくなってきたな(笑)。そしてもう1個。次に『マーマレイド・グッドバイ』を聞いていただこうと思うんですけど。これは、どういうところに注目しているんですか?

(渋谷龍太)結構、楽曲で一番象徴的な部分この曲の1番のAメロの2回し目。「そうだね」っていう言葉に詰まってると思うんですけど。この耳に残る、一番象徴的なのはここだなっていうのがわかるのって、僕は名曲の条件なんじゃないのかなって勝手に思ってまして。で、「そうだね」って普通に日本語表記をしたら「そうだね」って4文字で表現できるんですよね。ただ、歌になると4文字じゃどうしても表現できない部分っていうのがあって。これをローマ字に書き起こすと、すごくわかりやすいんですけど。この「そうだね」には実は11音、入ってるっていう(笑)。

(杉浦友紀)おおーっ! だから「SO……」。

(渋谷龍太)実は「SO」じゃなくて「SUO」なんですよ(笑)。

(杉浦友紀)「SUO」?

(渋谷龍太)「すぅお」なんですよ(笑)。

(杉浦友紀)ああ、それで!

(渋谷龍太)ごめんなさい(笑)。なんか気持ち悪い話に……。

(杉浦友紀)いや、私は「あれ? ローマ字にしても11、あるかな?」って今、思っちゃったんですけども。

(渋谷龍太)なので「SUOOUDAHANE」なんですよ(笑)。

(杉浦友紀)「SUOO、A」?

(渋谷龍太)「SUOOUDAHANE」っていう(笑)。アハハハハハハハハッ! ごめんなさい(笑)。

(杉浦友紀)あ、本当だ。11だ(笑)。

(渋谷龍太)これはその、節回しとか。「そうだね♪」っていう、その細かい節回しみたいなところにも「O」をあえて入れさせていただいたりしてるんですけど。厳密に言うと、この最後の「ね」はほぼ発音をしていないので「(NE)」なんですけども(笑)。すごく、たった4文字なんですが、そこにグルーヴを乗せたりとか、メロディーライン、気持ちいい部分っていうのを付けるために、これだけの発音をしてるんですよね。だから、そういうすごく細かい、このギミックの細部に感情が乗ってるっていうのが……独りよがりの歌じゃないところが好きなんですよ。

(杉浦友紀)うんうん。ちょっと聞いてみましょうか? まず。

山下達郎『マーマレイド・グッドバイ』

(杉浦友紀)言ってました。

(渋谷龍太)言ってましたよね?

(杉浦友紀)はい。11音でした。

(渋谷龍太)なんか、何が素敵なのか、何がいいのか、そんなに追求するのは……とか言っておきながら、めちゃくちゃ解き明かしている(笑)。勝手に(笑)。

(杉浦友紀)しかもその次の「ごめんね」では、4文字でした。

(渋谷龍太)そうなんですよ。だから、わざと感覚なんだと思うんですけど。山下達郎さんがね、こんなローマ字に起こして11字を書いて歌を歌ってるとは、どうしても考えられないので、感覚だと思うんですけど。やっぱり、ねえ。そういう風にしたいからにじみ出てるものっていうのは、すごいっすよね。

(杉浦友紀)だから、このグルーヴ、リズムが生まれて。曲にちゃんと色が出てくるというか。

(渋谷龍太)うん。僕の中で、あの部分が一番のハイライトなんですよ。「これ、すげえ!」みたいな(笑)。

(杉浦友紀)いや、今日はもうみんな、卓も副調も今、ここにいる私たち3人も「ああーっ!」って(笑)。

(渋谷龍太)「ここね!」って(笑)。

(杉浦友紀)おそらく、聞いてる人たちもそうなっていたと思います。そして次、もう1曲選曲していただきました。何を?

(渋谷龍太)『ターナーの汽罐車』。

(杉浦友紀)いい曲ですね。この『ターナーの汽罐車』で注目する音、歌い方、何かありますか?

(渋谷龍太)歌詞にはない歌詞の部分っていうところですね。

(杉浦友紀)歌詞にはない歌詞の部分?

(渋谷龍太)その言葉をひとつ発音するにも、ただ発音すればいいのか?っていうと、そうではなくて。気持ちがこもると、言葉の前に何かしら、つくと思うんですよ。たとえば、鼻で息を吸うのか、口で息を吸うのかっていうのでも違いますし。もちろん間もそうだと思うんですけど。この曲、「まるで」っていう言葉が出てくるんですけど。それが一番、顕著にわかりやすいかなって思うんですが。「まるで」の前に「N」が入るんです。「ん」の発音が入るんです。「(ん)まるで」ってなるんですけど。

この部分って、すごく歌詞には絶対……歌詞カードには決して乗らない歌詞だと僕は思っていて。ここって、すごくいろんな気持ちが乗っかる部分だと思うんですよ。で、歌詞カードには記載されないけど、実は一番いい部分だなって僕は思っていて。結構、山下達郎さんの歌の中には、そういう細かいニュアンス……ブレスであったりとか、Nの音とか、あとは語尾の処理の仕方とか。

「なぜ」っていう言葉がこの曲には出てくるんですけど。その「ぜ」の処理の仕方とかっていうのが、はっきり言わない。だからこそ生まれる、それこそさっきも言わせていただいたんですけども。のりしろであったりとか。そういうのがちゃんとできる。いろんな歌詞が聞こえるっていうのが、すごく素敵だなと思ったのでこの曲を選ばせていただきました。

(杉浦友紀)では、聞いていただきましょうか。

(渋谷龍太)はい。山下達郎で『ターナーの汽罐車』。

山下達郎『ターナーの汽罐車』

(杉浦友紀)『ターナーの汽罐車』、聞いていただきました。いや、言ってた。「N」。

(渋谷龍太)言ってましたよね?

(杉浦友紀)「こんな」の前もちょっと入りますよね?

(渋谷龍太)そうですね。あのニュアンスの付け方っていうのはね、なんかすごくグッと引き込まれる、聞いてる人が没入できるきっかけになりますよね。

(杉浦友紀)渋谷さん自身をボーカリストとして、そういうところで影響を受けたりとか、されないんですか?

(渋谷龍太)ああ、ええと、もちろんずっと聞いてきている音楽だし。影響を受けてる部分っていうのは多分にあるとは思ってます。ただ、やっぱり山下達郎さんだからできることっていうのはもちろんあって。それを丸のまんま真似したところで、いいものができるか?って言われると、誰でもやっていい技法ではない気はしてるんですよね。なので、自分がしっかりと伝えたいって思ったやり方っていうのが一番いいんじゃないのかな?っていうのは思ってるんですけど。

やっぱりその言葉の端々に、そのイズムっていうのはにじんじゃうんですよね。大好きであるがゆえに、にじんじゃう部分っていうのはあります。だから全く似てないとは思うんですが、すごく細かいニュアンスは僕はすごくたぶん影響を受けてると思ってます。

(杉浦友紀)私、今朝のNHKに来る時にSUPER BEAVERの曲を聞いていて。『名前を呼ぶよ』を聞いてたんですよ。

(渋谷龍太)ありがとうございます。

(杉浦友紀)なんかあの、伸びやかな声とか。結構、達郎さんと通じるものがあるというか。

(渋谷龍太)ああー! 恐縮です(笑)。

(杉浦友紀)聞きながら「ああ、気持ちいい! これ、ライブで聞いたら最高だろうな!」ってやっぱり思いました。

(渋谷龍太)嬉しいっす。ありがとうございます!(笑)。

(杉浦友紀)で、実際にメッセージもいただいていて。京都の方。「私にとって山下達郎さんは小さい時に一番耳に残ったアーティストです。テレビやドラマから流れてくる曲が何とも言えない気持ちで心に残り、切なくなったり、キュンとなったりしていました。山下達郎さんの素晴らしさを渋谷さんはうまく言葉にしてくださり、あの日の切なさやキュンはこういうことだったのだと改めて感じます。その思いを熱く語る渋谷さんは、私にとって大好きで尊敬する素晴らしいアーティストです。大好きです!」という。

(渋谷龍太)ああ、嬉しいっす! 本当に、嬉しいですね。こういうのがあるから、頑張れます。

(杉浦友紀)いや、本当にキュンとかときめきとか、「くぅーっ!」ってなる感じを渋谷さんが言葉にしてくれてるの、わかります。

(渋谷龍太)ああー、嬉しいですね。ええ(笑)。

(杉浦友紀)渋谷さん、ちなみに達郎さんのライブを何回かご覧になってるそうですね?

(渋谷龍太)4回かな? 全部で。はい。見させていただいております。

(杉浦友紀)どうですか?

(渋谷龍太)いやー、すごいっすよ。本当にね、僕がしゃべることなんか、ないとは思うんですけど。すごいっす。ご年齢も、もちろんのこと。僕、山下達郎さんのご年齢になった時に、「あの歌を歌えるのか?」って言われたら、わかんねえなっていう風に思っちゃいますね。なんか、すごいっすよ。唯一無二ってこういうことか!っていう部分。あとは、もちろんたくさん研究をされて、いろんなことにこだわりを持ってる方だと思うんですけど。持って生まれたもののすごさみたいなものも感じてます。

(杉浦友紀)今年も行きたいですね。

(渋谷龍太)行きたいですよ!(笑)。

(杉浦友紀)抽選、当てなきゃなー!(笑)。

(渋谷龍太)あと、自分たちのライブの本数も、そのためにちょっと減らさなくちゃいけなくなったり……(笑)。そうなったら本末転倒になっちゃう(笑)。

(杉浦友紀)それはダメですよ(笑)。スケジュールが合うところで、行けることを願っております(笑)。

(渋谷龍太)そうですね(笑)。

(杉浦友紀)さあ、残念ながらそろそろお別れのお時間がやってまいりました。最後にもう1曲、渋谷さんセレクトの山下達郎ナンバーでお別れしたいと思うんですけれども。どうでしょうか?

(渋谷龍太)じゃあ、『Kissからはじまるミステリー』を。

(杉浦友紀)おおーっ! これは、なぜでしょうか?

(渋谷龍太)セルフカバーというのは世の中にたくさんあると思うんですけど。僕の中では、ナンバーワンセルフカバー。

(杉浦友紀)ああ、その達郎さんだけじゃなくて、全アーティスト?

(渋谷龍太)全部ひっくるめてナンバーワンセルフカバーだって思ってます。

(杉浦友紀)では、この曲で。ああ、名残惜しい。もっと話、聞きたい!

(渋谷龍太)全然、まだまだしゃべれます(笑)。お腹いっぱいになっちゃうんでね、ちょっと、はい(笑)。

(杉浦友紀)また来てください。

(渋谷龍太)はい。ぜひです。お願いします。

(杉浦友紀)SUPER BEAVERの渋谷龍太さんにお越しいただきました。渋谷さん、ありがとうございました。

(渋谷龍太)お世話になりました。ありがとうございました。

山下達郎『Kissからはじまるミステリー』

<書き起こしおわり>

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