町山智浩『マイスモールランド』を語る

町山智浩『マイスモールランド』を語る こねくと

町山智浩さんが2023年5月2日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『マイスモールランド』を紹介していました。

(石山蓮華)先週は町山さんに似つかわしくない……(笑)。

(でか美ちゃん)ちょっと珍しめなね。

(石山蓮華)セレクトで。ラブコメ作品『恋のツアーガイド』と『ロンゲスト・デート』をご紹介していただきました。見ました?

(でか美ちゃん)『ロンゲスト・デート』、見させてもらったんですけど。

(石山蓮華)私も、見た。

(でか美ちゃん)面白かったです!

(石山蓮華)ねえ! あれは面白いですね! あんなに……なんか正直、石山はその『ロンゲスト・デート』というタイトルから、こんなに楽しめるとは思いませんでした。

(でか美ちゃん)いや、本当に! あと、本当に語弊がないように何とか伝えたいんですけど。思ったより、そのメインの2人が割となんだろう? さっぱり、楽観的な部分が強い2人だったから。ちょっとシリアスなシーンでも、なんだろうな? なんかそこまで心が、いい意味で持ってかれづらいというか。さらっと見れる作品なのがすごい良かったです。私的には。

(石山蓮華)ねえ。なんか本当に明るく、なんとなく旅行気分で楽しめる。「ああ、恋愛って、楽しい!」みたいなね(笑)。

(でか美ちゃん)あとちゃんとね、旅行に行く前に、止めてくれた友人が周りにいたのとかも安心した(笑)。いやー、素敵な作品。

(石山蓮華)なんか、大人の成長譚として楽しめるような映画だなと思いました。

(でか美ちゃん)紹介していただいてありがとうございました。

(石山蓮華)ありがとうございました。今日、ご紹介していただく映画はどんな作品でしょうか?

(町山智浩)はい。今日もね、自分に全然似つかわしくない映画ですね。17歳の女子高生の青春映画ですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)はい。もううちの娘が既に24ですからね。もう孫レベルになってきましたよね(笑)。

(でか美ちゃん)まあ、孫まではいかないけども、娘より下の子が主人公の?

(町山智浩)ねえ。全然似つかわしくないんですが。タイトルはですね、『マイスモールランド』というタイトルの映画で。公開は去年の5月で、日本映画です。で、現在ですね、YouTubeとかAmazon Prime VideoとかU-NEXTとかで有料配信中で。400円ぐらいでね、すぐ見れるんで。スマホとかでパパッと見れるんで、ぜひ見ていただきたい映画なんですけど。これ、舞台は埼玉県の川口市。

(石山蓮華)おお。私の地元が西浦和っていうところだったんで、結構近いですね。

(でか美ちゃん)ああ、本当だ。

(町山智浩)川口はね、昔はキューポラのある街と言われたところなんですけれども。そこに住んでいる女子高生の「さっちゃん」って言われてる女の子が主人公で。彼女は勉強ができてですね、もうなんていうか、優等生なんですよね。友達にも人気があって。スポーツもできて。バドミントン部かな? ただ、お金があんまりないので、コンビニで働いて、大学に行く学費を稼いでるんですけど。そこでコンビニで一緒に働いてる男の子とも仲良くなって、ラブラブになっていって……という。そのへんはいい感じなんですけども。

(でか美ちゃん)たしかに。青春ですね。

(町山智浩)ただ、このさっちゃんはですね、クルド難民なんですよ。

(石山蓮華)クルドっていう、どこにある国なんですか?

(町山智浩)これ、この映画の中でも何度も聞かれるんですね。「クルドって、どこの国?」とかね。あと「ワールドカップに出てる?」とか聞かれるんですけども、答えられないんですよ。このさっちゃんは。クルドっていう国は、ないからです。

(でか美ちゃん)そうなんですよね。

(町山智浩)はい。元々はあったんですけど。クルドっていう国は歴史上、何回もあったんですけれども。現在は、他の国に引き裂かれてしまって。シリアとイラクとをトルコとイランに引き裂かれて、バラバラになってるんですね。

(でか美ちゃん)「国を持たない最大の民族」と呼ばれてるらしいですね。クルド人自体が。

(町山智浩)もう何百万人もいるんですけれども。かつて、ユダヤがね、イスラエルという国ができるまでは、紀元1世紀にユダヤという国がローマ帝国に滅ぼされちゃって。で、世界中に散らばったんですけど。それと同じ状態になってるんですね。クルドの人たちは。だ、クルドって言ってもなんていうか、言いにくいので彼女は周りには「私はドイツ系」って言ってるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、まあパッと言って伝わるだろうっていうのを、泣く泣く選択してるんですかね?

(町山智浩)はっきり言うと、日本人の差別意識があるからですよ。いわゆるヨーロッパ系の人に対する気持ちと、中東とかアジア系の人たちに対する気持ちの中で、日本人の中ではすごく差があるからですね。ちなみに、イランとかあのへんの地域ですね。クルドとか。あのへんの人たちは、いわゆるコーカソイド。白人なんですよ。実際は。でも、そう思ってない人、多いですよね?

(でか美ちゃん)たしかに。なんか、そういうイメージをなぜか持ちがちですよね。日本人は。

(町山智浩)アラブ系とか思っている人が多いですよね。実は全然違うんですけど。イランとか、あのへんっていうのは、いわゆる白人なんですよ。ただ、そういう偏見もあるので、彼女は「ドイツ人だ」って言ってるんですけども。で、お父さんがいるんですが、お母さんは一番下の弟……今、小学生なんですけども。その弟を産んだ後に亡くなってしまって。お父さんが彼女、さっちゃんとその中学生の妹と小学生の弟の3人を連れて、日本に来たんですね。それは彼がトルコのクルド人で。トルコのクルド人はすごく弾圧されてるんですよ。

(石山蓮華)そうなんですね……。

(町山智浩)まあ、爆撃を受けたりもしてますし。で、国によって結構違って。イラクの方はアメリカが主導している国なんで、クルド人の自治区あるんですけども。でもトルコの方はないんですね。で、彼は反政府運動をした……要するにクルド人の独立運動したっていうことで、政府からは反体制として弾圧されてるんで、日本に難民として来たんですけれども。で、仕事をしないとならないから、解体業をして働いてるんですね。お父さんはね。ところがですね、突然、難民申請をはねられてしまうんですよ。

(石山蓮華)ええっ? ある日突然ですか?

(町山智浩)そうなんです。というのは、難民の申請をしてるんですけれども、日本ではまだ、クルド人の難民というのは受け入れられてないんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ? なんで?

(町山智浩)この映画が公開された後に、やっと1人だけ難民認定されたんですが。難民認定はこの映画の作られた段階でゼロなんですよ。日本では。

(石山蓮華)だってクルド人の方って、推定人口3000万人いらっしゃって。で、難民として逃れている方がたくさんいるのに……。

(町山智浩)日本でも、何千人かいるんですね。

(石山蓮華)何千分の、1?

(町山智浩)なんですよ。でも、これはクルド人だけに限らず、難民全て、日本ではそういう状態なんですよ。日本で難民申請をして認定される率っていうのは……アメリカだとね、20%ちょっとなんですよ。難民申請して、認定される率はね。で、カナダとかだと60%ぐらい認定をされます。では、日本は何%でしょうか?

(石山蓮華)これ、実は私、知ってるんですよ。

(でか美ちゃん)どれぐらいだろう?

(石山蓮華)驚きますよ。本当に。

日本の難民申請認定率

(でか美ちゃん)でも、だいぶ少ないっていうニュースとか、いろいろ発信されてる方のを見たことあるんで。本当、数%とかですか?

(町山智浩)いや、もっと少ないです。

(でか美ちゃん)ええっ?

(石山蓮華)1%を切ってるんですよ……。

(町山智浩)1%を切ってるんですよ。0.5前後なんですよ。

(石山蓮華)0.3%っていうデータもあったりしますよね。

(町山智浩)だから、どの国から来た難民だとしても、難民申請して認定される率はほとんどゼロに近いんですよ。日本は。

(でか美ちゃん)本当にその『マイスモールランド』は結構リアルな状況っていうことですよね?

(町山智浩)はい。これは原作もあるんですけども。実際にクルド系の難民の人たちのいろんな例を取材して、集めて作られた話ですね。実際にあった話が全部、それぞれのエピソードの元になっているそうです。

(でか美ちゃん)そうか。しっかり取材されて。

(町山智浩)はい。で、難民申請が通らないとどうなるか?っていうと、在留許可が消えちゃうんですよ。そうすると、在留資格がなくなって、ビザが消えるんですよ。

(でか美ちゃん)じゃあ、生活していけないですよね?

(町山智浩)生活もしていけないですね。不法移民という形になるんで。まず労働ができないんですよ。で、不法移民だったらどうするのか?っていうと、本当は日本政府は全部、元いた国籍の国に送り返したいんですね。

(石山蓮華)でも、送り返されちゃったら、ねえ。

(でか美ちゃん)確実にまた、迫害を受けることになりますよね?

(町山智浩)向こうで逮捕されます。弾圧をされるから、その人たちは国から出てきたんであって。ただ、日本も全部、自動的に送り返すってことはできないので。強制的に強制送還をするのは。だって、犯罪を犯してないわけですから。彼らは。何も刑法犯罪を犯してないので。で、仮に放免されるっていう形……「仮放免」という形になるんですよ。つまり、不法で……まあ「不法」というのもおかしいんですけども。在留資格はないんだけれども、とりあえず見逃してやるよ、みたいな立場になるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、なんか狭間みたいなところに置かれちゃうってことですか?

(町山智浩)そうなんです。法的に非常に中途半端な形になって。ただ、働くことができないし。もちろん健康保険とかもないんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ?

(石山蓮華)社会保障がなくて、働けなくて、どうやって生きていけばいいんですかね?

(町山智浩)そう。だからやっぱり働かざるを得ないんで、お父さんが働くと……捕まっちゃうんですよ。「不法に働いた」っていうことで。

(でか美ちゃん)えっ、それってじゃあ、「狭間に置いてあげるよ」って言うテイは取っているけども、もう帰るしか……送還されるしかないっていう感じになっちゃいますよね?

(町山智浩)そうですね。

(でか美ちゃん)そうですよね。順序立てて考えていくと。

(町山智浩)で、捕まっちゃうでしょう? 捕まると今度は入管っていう、入国管理局の収容所に入れられるんですね。これもすごく不思議で。これって、法的にどういう組織なの?っていうことですよ。刑務所みたいなんですよ。

(でか美ちゃん)なにもしてないのに?

(町山智浩)そう。なにもしてないんですよ。刑法犯罪を犯してないんですよ。でも、刑務所みたいなところに入れられちゃうんですよ。

(石山蓮華)でね、その中でもいろいろな……ウィシュマさんの事件とかね、本当に痛ましいことが起こったりしてるっていうことを考えると、ちょっと立ち止まっていろいろ考えたい話だなってすごく思いますね。

(でか美ちゃん)うん、うん。

(町山智浩)そうなんですよ。入管のその収容所の中で、何人もの方が亡くなっているんですね。それも、たとえば病死だったり、治療を受けなかったりというだけじゃなくて、自殺も多いんですよ。ひどいところなんで。で、一番の問題は、なぜそういう自殺をするようなことになっているか?っていうと、その期限が決められてないんですよ。収容期限が設定されてないんですよ。だから、永遠に出られないかもしれないんですよ。

(でか美ちゃん)それはだって、本当に一縷の望みをかけて、迫害を逃れて違う国に来たのに、こっちでもこうか……ってなると、それは絶望してしまうというか。

(町山智浩)そうなんですよ。

(石山蓮華)逃げ場がない……。

(町山智浩)そう。だから結局、そういう絶望的な状況に置くことで「国籍国に帰る」っていう決断をさせるための場所なんですよ。それが目的で……。

(でか美ちゃん)でもそれってすごい、都合がいいですよね? 都合よくないですか?

(町山智浩)これ、一種の拷問なんですね。

(でか美ちゃん)手をくださずして……じゃないですけど。

(石山蓮華)なんか罪なく……その自分の国でね、いろいろな事情があって。で、生きている人も、日本で暮らしている人と同じように生きている人だっていうことは前提として……なんでかな?って思っちゃうところ、私は結構ありますね。

(町山智浩)ですよね。ただ、ここで一番問題なのはこれ、主人公の17歳の女子高生のさっちゃんの目から見たドラマなんですよ。その、収容所に入るお父さんではなくて。

(でか美ちゃん)そうか。ある日突然、お父さんが……っていうことですよね?

(町山智浩)そうなんですよ。それで17歳の高校生の女の子と、中学生の妹と、小学生の弟3人だけで生活していかなきゃなんなくなるんですよ。彼ら、収入がないんですよ。

(でか美ちゃん)だって、バイトしかしてないわけですよね? 自分の学費のためにやっていたっていう。

(町山智浩)そのバイトも、できなくなるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうか。

(石山蓮華)えっ、そのお父さんが難民申請が不認定になると?

バイトすらできなくなる

(町山智浩)いや、彼女も在留資格を失っちゃうんですよ。子供の頃に来てるんで。で、このさっちゃんっていう子は日本語が完全にしゃべれて。日本的価値観の中でしか生きてきていなくて。この弟も妹もですね、アイドルみたいに踊ったりしてるんですけど。日本しか、知らないんですよ。

(でか美ちゃん)そうか。日本で育ってるんですもんね。

(町山智浩)それを、全く彼女たちにとって未知の国であるトルコに送り返そうとしてるわけですよ。日本政府は。

(でか美ちゃん)うわあ。それは、だって……。

(石山蓮華)あまりにも……なお話ですけども。

(町山智浩)ところが彼女たち、こういった人たちを守る法律っていうものはないから今、すごく問題になっていて。今、入管法、入国管理法を改定するということで、その法案が先週、日本の衆議院議会を通ったんですね。で、それは自民党が提出をして、自民党と維新と国民民主党が賛成をしてですね、通っちゃったんですけれども。それは「改定」って言いながらも、内容がほとんど変わってなくて。

一番問題になっているのはまず、裁判を経ないで人を拘禁するってこと自体がこれ、憲法違反なんですよね。実際は。で、これに関して「裁判を受けられる権利を加えてくれ」って言ってるのが立憲民主と共産党なんですけれども。それが今回の改定には、含まれてないんですよ。

(石山蓮華)そうなんですね。普通、人の身体を拘束するんだったら、警察官とか検察官とか裁判官とか刑務官とか、たくさん役割の方がいて決められることを、入管っていう行政職員の人の権限……全部をそこに集められるってことなんですよね?

(町山智浩)入管が全部、決めちゃうんですよ。で、その期限なしの勾留っていうこと自体がやっぱりこれも憲法違反なんですけど。

(でか美ちゃん)そうですよね。基準もなにもわからないのに……っていうことですよね?

(町山智浩)そうそう。なにもわからない。いつ、出られるのかもわかんないし、罪状も存在しないんですよ。

(でか美ちゃん)だし、なんでそうなってるかもわからないような状態で、その行政職員がそう判断したら、そうするしかないっていう状況があるってことですよね?

(町山智浩)そうなっちゃうんですよ。だからこの改定に反対してる人たちは、とにかく裁判だけでも受けさせてくれという風に言ってるんですよね。あと、その期限なしっていうのもあり得ないだろうと。で、日本の法律ってすごく難しくて、日本国憲法の31条に「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」っていう風に書かれているんですね。「法律の定める手続き」っていうことが書いてあるので。これが「入管法」によって認められてしまうんですよ。

(石山蓮華)ああー、それは大きいですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれはなんというか、憲法の隙間を縫うような法律になっているんですね。入管法というものが。これがね、凶悪だなという。あとえば、日本国憲法32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」っていう風になっていて。これは「日本国民」ではなくて「何人も」なんですよ。

(でか美ちゃん)そうですね。「国民は」じゃないですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれ、実は憲法32条違反になっているんですよね。なのでこれを通してしまっているというのは非常に大きな問題で。それで国連とかは「この日本の入管法は完全に人権侵害である」という風に言って抗議をしてるんですけれども。

(でか美ちゃん)そうか。国連からも言われているんですね。

(町山智浩)言われています。これは。ただ、この『マイスモールランド』っていう映画はそういった問題をね、この主人公のさっちゃんの目から見てるから、声高に何が問題なのかっていうことは言わないんですよ。

(でか美ちゃん)なるほど。あくまでさっちゃん視点の話で。

(石山蓮華)そのさっちゃんの日常にこういう、日本の入管法によってどういうことが1人の高校生の身に起きるかっていう話なんですね?

(町山智浩)まさにその通りですね。だから「こういう問題があって、こうなって、大変なんだ!」みたいなね。「日本国政府は……」みたいなことは決して言わない映画で。ただ、この現在の入管法の状況。入管法が改定されたとしても同じであるっていう。で、その日本で育って、日本しか知らない1人の女の子の人生が破壊されてしまうんだ。これを許していいのか?っていうことは、見た人が自分が考えるんですね。

(でか美ちゃん)なるほど。そのきっかけになるものというか。

(町山智浩)で、やっぱり正式に働けないでしょう? でも、自分の弟・妹を食わせなきゃなんないわけじゃないですか。

(でか美ちゃん)そうか。きょうだいだけが残っちゃってるんですもんね。

(石山蓮華)高校生が中学2年生の妹と小学2年生の弟を食べさせて……だって、家賃だってかかるわけだし。

(でか美ちゃん)無理、無理。できないよ。

(町山智浩)家賃も払えなくて、追い出されちゃうんですね。ただ、このさっちゃんはものすごい美少女なんですよ。すると、怖い人たちがいますよね。悪い大人たちがいますよね。で、お金に困っているわけですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうか。「お金が必要なんだろう?」と。うわっ、ちょっとこれは……。

(町山智浩)それで、どんどん追い詰められていくって話なんですけどもね。

(でか美ちゃん)なんか、目をそらしては絶対にいけないんですけど。なかなかこう、見るのに……「見るぞ」とちゃんと決めてから見た方がいい、ヘビーな作品かもしれないですね。もちろん、見ますけども。

(町山智浩)ただ、この映画の非常に優れたところっていうのは、これは監督は川和田恵真さんという人で。この人はイギリスと日本のミックスの女性なんですけども。もう本当にこの彼女の視点からだけで描くという。彼女からカメラが離れないんです。基本的に。だから、本当になんというか、頭で考えるんじゃなくて、1人1人の人なんだっていう。ここで「入管法」っていう風に言うと、「なんかよくわかんないけど、悪い外国人を追い出してくれるんじゃねえの?」とか言ってる人がいっぱいいて。

(でか美ちゃん)なんか「不法移民」っていうイメージを持ってる方がなぜか、多いですもんね。

(町山智浩)そうそうそうそう。「犯罪者なんじゃねえの?」とか言ってるど。この映画の彼女を見てほしいですよ。このさっちゃん、どこが犯罪者なの? どこが不法移民なの?っていうことをちゃんと、わからせてくれる映画なんですね。で、すごくね、彼女の恋とかがね、俺が言うのもあれですが。みずみずしく、キラキラと輝くように描かれているので。でも、そういったものを奪うということが果たして許されるのか?っていう。

(でか美ちゃん)そうですよね。普通に学校に行って、普通に恋をして、バイトして。兄弟がいて、普通に暮らしてたはずの1人の子が……っていうことですもんね。

(石山蓮華)そのお話の世界観。恋、バイト、学校とかっていう、そこだけ見るとハロプロのね、曲の世界観みたいな。すごく身近な話だけど。

(でか美ちゃん)それが一気に壊されるというか、奪い取られるっていうのはやっぱり、なんだろう? 「他人だから別に」っていう風には、私は思えないですね。

(町山智浩)そうですね。でも普通、「他人だ」と思っちゃうんですよ。みんなね。でも映画って、その人に入ることができるんですよ。

(でか美ちゃん)たしかに。作品を通して。

(町山智浩)ねえ。こんなオヤジでも、17歳の女子高生の気持ちになれるわけですよ。それが映画の力なんで、ぜひ見ていただきたいのと、これからですね、この入管法の改定は衆院の本会議を経て、来週あたりでたぶん参議院で可決される可能性が非常に高いんですね。で、それに対してできることは、ネットを調べると出てくるんですけども。基本的には、それに賛成しようとしている与党とか維新の政治家の人たちの事務所に直接、連絡するのが一番いいと思うんですよ。「これはおかしいだろう?」と。

(石山蓮華)そうですね。本当にちょっと、入管法改正案とか、入管法について調べてみると、日本国内にも細々と……「細々と」って言っていいのかわからないけど、その活動をしてる人がいて。たとえば、7日とかもそのデモがあったりとか。

(でか美ちゃん)わかりやすくまとめてくださってる方とかもいますしね。

(町山智浩)選挙権を持たない人たちをスケープゴートにするという、非常によくないことをしていますからね。要するに、彼らは投票権を持ってないんだから、いくらいじめたって関係ねえだろうっていう人たちがいっぱいいるので。そういうことじゃないんだ。そういうことを許すような国は、平気で国籍を持ってる人も今後……要するに「お前、税金を払ってないだろう?」とか、いろんなことでいじめるような国になっちゃうんで。ここで押さえておいた方がいいと思いますよ。

(石山蓮華)そうですね。本当にいろいろな意見があるかもしれませんが。まずはちょっと、この『マイスモールランド』を見て、自分ごととして一度、考えてみて。

(でか美ちゃん)で、1歩踏み込んで調べてみたりとか。それを経て、自分が何を思って、どう発信するのかとか。大事ですね。

(町山智浩)はい。

(石山蓮華)ありがとうございました。

映画『マイスモールランド』予告編

<書き起こしおわり>

石山蓮華とでか美ちゃん『マイスモールランド』を語る
石山蓮華さんとでか美ちゃんさんが2023年5月8日放送のTBSラジオ『こねくと』で前週、町山智浩さんが紹介した映画『マイスモールランド』を見た感想を町山さんと話していました。
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