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町山智浩 ウクライナ・ゼレンスキー大統領主演ドラマ『国民の僕』を語る

町山智浩 ウクライナ・ゼレンスキー大統領主演ドラマ『国民の僕』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年4月12日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でウクライナのゼレンスキー大統領が主演したドラマ『国民の僕』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日、ご紹介するのはTVドラマなんですが。日本でもネットで見れるんですが、ちょっと日本語字幕はまだついてないんですが。今、大変なことになっているウクライナの大統領、ゼレンスキー大統領主演のコメディドラマ『国民の僕(しもべ)』についてお話します。これは2015年から2019年までウクライナで放送されていたTVコメディで51話が今、全世界で無料で見れる状態になってます。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)YouTubeにもNetflixにも上がってます。で、英語版、スペイン語版、フランス語版と各国版が結構あるんですが、日本語版はまだないんですね。日本語字幕がまだついてないんですが。つければいいと思うんですけども。ただ、YouTubeではその英語版の字幕を日本語に翻訳する機能がついてるんで、それで見ればなんとか見れるんで頑張って見てもらおうということですけれども。

で、これがとにかくすごいのは『国民の僕』というこのドラマ、ゼレンスキーさんは元々はコメディアンだったんですけれども。彼が自分で企画した自分が主演のテレビ番組なんですが。その中で彼はウクライナの大統領になるんですね。

(赤江珠緒)ああ、企画もこの方だったんですか?

(町山智浩)そうです。彼が作ったドラマです。はい。それで非常に人気になって、番組放送中に大統領選に立候補して、当選して大統領になったんです。

(山里亮太)ああ、これがきっかけだったんだ。

(赤江珠緒)こんなことってあります?っていうようなね。本当にそれ自体が漫画みたいなことですよね。

(町山智浩)そう。すごいことなので。じゃあ、どんなドラマだったのかというのをちゃんと見てみましたのでその話をしますけど。元々ね、このゼレンスキーさんっていう人はコメディアンで、しかも下ネタ系の人だったわけですよ。

(山里亮太)ああ、動画で上がってるをの見たな。

(町山智浩)そうそう。あそこでね、ピアノを弾いたりね。そういう下ネタでずっとやってきた人なんですけども。この人が自分で企画・製作・脚本で主演をして。1話30分から40分ぐらいのコメディなんですけども。この中では彼はヴァシリーという名前の高校の歴史の先生を演じています。で、歴史を教えてるんですけども、学校で他の先生と話しているうちに興奮してきて。「今のウクライナはダメだ!」って叫び始めるんですね。このヴァシリーさんがね。それで政治家が……ウクライナにいる「オリガルヒ」と言われている経済貴族がいるんですけども。「政治家たちはみんな汚職して、オリガルヒの言いなりになっている!」って言い始めるんですよ。

で、このオリガルヒっていうのはロシアにもいるんですけど。その大金持ちの、財閥の経営者ですね。で、あらゆるものを……石油とかそういったものから、とにかく何でもかんでも金持ちたちが特権階級として仕切っていて。ロシアやウクライナでは貴族のように暮らしてるんですよ。で、政治を裏で操っていて。もちろんプーチンとかとも癒着してるわけですね。で、この人たちは実はロシアとかウクライナのあらゆる悪いことの黒幕なんだと。戦争も含めてですよ。

で、それを非常に激しく汚い言葉でこのゼレンスキー演じる学校の先生が批判してると、それを生徒がスマホで撮っちゃって。YouTubeに上げちゃうんですよ。そしたらもうウクライナで大変な評判になって。みんな「これはその通りだ!」みたいなことで、ものすごい大ヒットして。で、今度は生徒がおもしろいからっていうことで、クラウドファンディングで選挙資金を集めて。このゼレンスキー演じる高校の先生を大統領選に立候補させちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それで選挙をしてみたら、なんと得票率68%というとんでもない数字で当選しちゃうんですね。という話なんですけども、これがすごいのまず、前にお話したウクライナでロシア寄りの大統領が国民の怒りでデモを起こされて。で、そのデモを武力で制圧して人を殺して。それでさらに反発を受けてウクライナにはいられなくなってロシアへ逃げ出したという事件がありましたよね。マイダン革命というやつですけども。

町山智浩『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』を語る
町山智浩さんが2022年3月8日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でロシアのウクライナに対する侵攻についてトーク。ウクライナによる徹底抗戦の姿勢を理解するための映画『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』を紹介していました。

(町山智浩)それが2014年のことなんですが。その直後にこのドラマが放送されてるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

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マイダン革命直後にドラマが放送される

(町山智浩)それもすごいことなんですね。ってのは、その時に大統領をやっていた人っていうのはその前のロシア寄りの大統領が出ていった後なんで。その閣僚っていうか、下の人がやってたんで状況は実はあんまり変わってないわけですよ。だから根本的に、本当に変わらなきゃなんなかったんですよ。「ウクライナはヨーロッパに入りたい」っていう国民の願望を本当に叶える人が必要だったんですね。その時にこのドラマをぶつけてきたんですよ。ドラマというか、お笑いというかね。で、ウクライナはとにかくロシアから脱して。「大ロシア」って言われているロシアの支配から脱して、ヨーロッパの方に入りたいと。それをはっきりと実現できるような大統領としてこのドラマの中でゼレンスキー演じるヴァシリーさんは当選するんですけど。

で、はじめて大統領官邸に出勤するとですね、まず腕時計がズラッと並んでるんですよ。それでオメガ、ロレックス、パテック・フィリップとか。「どれでもどうぞ」とか首相に言われるんですね。その首相がお目付け役になって、大統領としての仕事を教えるんですね。新米の大統領にね。「次はこのスーツです。何でもあります。どんなブランドでもあります。靴はこれです」って。「今度はグルーミングして髪の毛も整えましょう」「マッサージもします」ってなって。マッサージの人たち、タイから来た女性でタイ式マッサージなんですけども。まあ、とにかく何でもしてくれるわけですよ。至れり尽くせりで。

それで「これはなんかおかしいな?」ってゼレンスキー演じるヴァシリーさんは思うわけですよ。「これはおかしい。自分は子供の頃から、ものすごく節約節約って言われてきた。自分はあんまりいい家の子じゃなかったんだ。だからこういう贅沢はなんかおかしい。これ、税金でやってるんでしょう? これは私はやめようと思う。豪華な大統領官邸とかもいらない。自宅から通いますよ」って言うんです。

この人ね、離婚して両親の家に住んでるんですよ。先生なんでね、あんまり給料がよくないんでね。それで「僕は高級車に乗って議会とかにも行かないです。僕はこれから自転車で行きます」って言って自転車で出勤するんですよ。で、国民のすごい支持を得ていくんですけども、その一方でね、お父さんとお母さんの方は息子が大統領になったということで、近所の人がいっぱい来るんです。で、やっぱりお店の人とか、インテリアデザイナーとか、大工さんとか、いっぱい来るわけですよね。で、「本当に贔屓にしてください、大統領のご両親!」とか言ってきて。

彼らが「タダでこのお家をきれいにしましょう!」とか言って改装をしてくれたり。お酒屋さんはお酒を持ってくるし。もう超豪華で贅沢な暮らしをしてるんですよ。両親の方は。で、ゼレンスキー演じるヴァシリーさんは大統領として「私は本当に質素に生きてきたんで、贅沢をやめたいと思います」って言ってんだけど両親はもう本当に浮かれちゃって。ものすごい贅沢になってるところとか、おかしいんですけど(笑)。あとね、大統領として最初の記者会見をするんですよ。そうすると、記者の質問が最初から決まってるんですよ。誰が質問するかも決まっていて、それに対する答えは官僚が書いているんですよ。

まあ、どこか極東にもそういう国がありますけどね。官僚が書いたのを読むだけで。だけれども、ちゃんと漢字が読めないという総理大臣とか、いましたが。それに対してゼレンスキー演じるヴァシリーさんは「これはおかしいだろう?」って言うんですよ。「こんなの、おかしいだろう? こんなの、記者会見でもなんでもないだろう?」っていう。そういう風におかしいことがどんどん出てきて。ウクライナの大統領がずっと今までやってきたことが本当におかしなことばかりだっていうことを彼はわかってくるわけですよ。

(赤江珠緒)ああ、慣例になっていたことがね。

(町山智浩)そうそう。それで今度は議会で最初の演説をしなきゃいけないっていうことになるわけですけど。そこで型通りの演説をやろうとするんですが……そうすると、その彼の目の前にアメリカのリンカーン大統領が現れるんですよ。これね、このゼレンスキー演じるヴァシリーさんは高校の歴史の先生だから。それで歴史上の人物が次々と出てくるんですよ。彼の妄想の中で。それでリンカーンは「そういう人から借りた言葉じゃなくて、自分の言葉で演説しなきゃダメなんだ。そもそも君は一体何なんだ? 君は『国民の僕』だろう?」っていう話をするわけですよ。

(赤江珠緒)ああ、ここでタイトルが出てくるんだ。

民主主義とは?

(町山智浩)そうなんですよ。「民主主義って一体何なんだよ?」っていう。それでパッと目覚めて。それで議会で「私は今、この演説の原稿を読もうと思って来ましたけども、やめました。あなたたち、議員の人たちに言いたい。あなたたち、なんでそんなにいい給料をもらって、いい生活をしてるんですか? 企業やオリガルヒという金持ちのために政治をして。おかしいでしょう? 我々は実は国民の僕なんですよ。我々のご主人様は国民なんです。人民なんです。それを思い出してください。民主主義っていうのはデモクラシーと言いますけど、デモクラシーというのはどういう意味だかわかってますか? 『民衆の支配』という意味なんですよ。我々が支配をするんじゃないんです。我々は『政治をする』という仕事を国民から預かってるだけですよ」っていう演説をするんですよ。

(赤江珠緒)まさにそうだ。

(町山智浩)そうなんです。当たり前のことなんですけども。「それを思い出してください!」っていうことで、すごい人気を彼が集めてくっていう話なんですね。ただ、これはコメディですから。さっき言ったみたいな妄想をいろいろと見るわけですよ。で、彼は離婚してね、ずっと女の人と縁がない状態なんですね。それで、彼はそんなに現在の国際政治とかには詳しくないから、ものすごく詳しい政策のアドバイザーの女性が来るんですけど。その彼女は非常にセクシーなんですよ。

で、彼女からいろんなオリエンテーションを受けるんですね。「今現在のウクライナの置かれてる状況は……ロシアが迫ってます。この黒海にあるクリミア。ここがロシアの欲しいところです。この海峡。狭い海峡から、全ての軍艦とか貨物船というのが出入りをしているんです。この狭いところ。ここに経済も軍事も全て、この海峡にかかってるんです」っていう風にその女性が説明するわけですよ。

でも彼はもう彼女の顔を見てポワーッとなっちゃっていて。デレデレのデレンスキーになってるから。彼女がね、「この海峡を貨物船とかが出たり入ったりするんです」とか言うと「出たり……入ったり……?」ってなっちゃうんですよ。デレンスキーが(笑)。「出たり、入ったり、するの!?」みたいになっちゃうんですけども(笑)。そういう、まあ下ネタの人なんで。ゼレンスキーさんは元々ね。

で、そういうしょうもない下ネタとかもどんどん入ってくるんですけど。それで、これね、こういうことをしてどんどん改革していくでしょう? で、金遣いの荒い閣僚とかをバンバン入れ替えたりするわけですよ。全部洗って、ムダなお金の支出とかを全部きれいにしたりとかして、大改革をやっていくんですね。彼は。ただ、その彼を手伝っている首相っていうのが、なんというか今までの既得権を守ろうとしてる首相なので、ちょっと難しいことになっていったりするわけですね。さらには、オリガルヒがいるわけですよ。オリガルヒはもう既得権者のトップにいるわけ。「だからこんな奴に改革なんでやらしたら、ウクライナを取られちゃうよ」っていうことで足を引っ張り合ったりしてね。敵がいるわけですけども。

その中で……要するに周りは敵だらけなわけですよ。そうすると、もう議会でも全然みんな、大統領に向かって反抗してくるわけですね。ギャーギャーギャーギャーうるさいわけですよね。そうすとね、だんだん妄想が出てくるわけです。またね。で、その妄想の中ではもうマシンガンでその議員たちを皆殺しにしたり。あとは「こいつら、何なんだ! 俺の足を引っ張ろうとしているのか!」ってなるとその前にね、イワン雷帝が現れるんですよ。

(赤江珠緒)ロシアの。

(町山智浩)ロシアの。イワン雷帝って要するにロシアを大きなロシアにした歴史上の人ではあるんですけども。ロシアって昔はそんなに大きい国じゃなかったんですよ。それが周りの国を占領していって、巨大化していくきっかけになったのがこのイワン雷帝。雷の皇帝と言われてる人なんですけども。その人が出てきて「なあ、お前。見てると全然苦労してるみたいじゃないか。敵対勢力に。そういう場合には、みんな殺しちゃうといいよ」とか言うんですよね。そうすると、ここでハッと気がついて。それって「ツァーリズム」って言われている、ロシアが昔からやってる非常に独裁的な政治のやり方なんですね。伝統的な。

それに対してこのゼレンスキー演じるヴァシリーさんは「それじゃダメなんだ。そういうことをやっているからロシアはダメなんだよ」って言って。その妄想を払いのけて、その議会で騒いでる議員たちを黙らせるために何て言うか? 「プーチン政権が崩壊したぞ!」って言うんですよ。そうするとみんな「ええっ?」って急に静かになっちゃうんですよ。黙って。で、「なーんちゃって!」って言って話を始めたりね。そういうね、おかしな話なんですけどね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただ、このドラマを放送してる最中に本当に彼は大統領選挙に立候補して。しかも国民の僕党とっていう、その番組タイトルの政党から立候補をして。番組はそれで、彼が当選したから途中で終わってるんですよ。「番組の続きは現実でどうぞ」っていうやつですね。

(山里亮太)はー!

「ドラマの続きは現実で」

(町山智浩)そしたら、ドラマでも予想もつかないようなことになっちゃったんですよね。ロシアが侵攻してきて。で、今日・明日にでもロシアはウクライナ東部に大攻勢をかけて大変なことになるだろうと言われてますけどもね。毒ガスさえ使うんじゃないかと言われてますけれども。で、これをずっと国民はテレビで見ていて、現実に移行してこんな状態になっちゃったわけだから、すごいことになっていると思いますが。ただね、いろんな予言をするような内容もあって。たとえば、電話が彼のところにかかってくるんですね。それでゼレンスキーが出て。「もしもし?」って言うと「私はEU(ヨーロッパ共同体)のメルケルです」っていう。

ドイツのメルケル首相から電話がかかってきて。「あなたをEUに引き受けます」って言われるんですよ。それで「やったー!」ってゼレンスキーは喜ぶんですね。「これはウクライナ国民の夢でした!」って言うんですけど。「えっ? ウクライナ? あっ、間違えた。モンテネグロにかけたつもりでした。ごめんね」って電話を切られたりするんですよ。結構キツいギャグで。今でも要するにウクライナをEUに入れるとロシアと敵対することになるからどうするか?っていうことで、EUはなかなかウクライナのことを入れようとしてないんですね。そういうところもよくできていて。

あとね、ウクライナ人はお酒を飲んでばっかりいるから、全ての税金を安くする代わりに酒税だけを上げるんですよ。すると、すごい反対運動が起こって民衆がデモをかけて。「大統領を辞めろ!」って来るんですけども。で、それを排除するために首相が「ウクライナの首都、キーフに隕石が落ちるぞ!」っていう嘘のニュースを流して。で、みんなバーッと避難をするんですよ。で、そこに人が行くとなぜかゼレンスキーがいるんですよ。で、「なぜ、あなたは隕石落ちてくるっていう嘘ニュースを流したのに、避難をしないんですか?」って言うと「私は国民を捨てて逃げられません」って言うんですよ。これが現実になったですね。

(赤江珠緒)本当ですね……。

(町山智浩)という、本当にどこまでが現実でどこまでがドラマかわからないっていうね。しかも彼が立候補した時にドラマの中では得票率68%で当選するんですけど。実際には72%っていうドラマ以上の得票率だったんですよ。彼は。というね、まあすごいドラマが『国民の僕』なんで。ぜひ日本語字幕を誰かつけてくれると……頑張ってくれるといいなと思いますけどもね。ただ、テレビのお笑い番組から最初の人気を掴んだっていうと、なんか大阪みたいな話なんですよね。

(赤江珠緒)ありましたね(笑)。

(町山智浩)ただ、「身を切る改革」とか言いながら自分に対して領収書を切ったりとかはしないんでね。というところで、『国民の僕』でした。

(赤江珠緒)本当にどこからが現実かっていう、その境界線がとんでもないことになっていますね。ロシアもここまでゼレンスキー大統領が抵抗するとは思ってなかったんでしょうかね。当初はね。

(町山智浩)まあ、甘く見ていたんでしょうね。

(赤江珠緒)結局、キーウも攻めきれない状況になっていますもんね。いやー、なんとか収まらないか……町山さんがおっしゃるように、その変な兵器を使うなんてことだけはやめてほしいですね。うん。

(町山智浩)まあ、ロシアの戦勝記念日が5月にあるんで。それまでに何らかの勝利を収めたいということで、焦ってると思いますよ。

(赤江珠緒)今日は『国民の僕』を紹介してもらいました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

YouTube『国民の僕』

<書き起こしおわり>

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