町山智浩と藤谷文子『ホワイト・ヘルメット』とシリア難民問題を語る

町山智浩と藤谷文子『ホワイト・ヘルメット』とシリア難民問題を語る 町山智浩のアメリカのいまを知るTV

町山智浩さんと藤谷文子さんがBS朝日『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の中で、アカデミー短編ドキュメンタリー賞を受賞した『ホワイト・ヘルメット』についてトーク。シリア難民問題とドナルド・トランプ政権について話していました。

(ナレーション)シリア情勢と難民問題。今年1月、トランプ政権が出した大統領令。「シリア難民の受け入れ無期限停止。2017年の難民受け入れを5万人に削減」は後に撤回されたとはいえ、世界に衝撃を与えました。そんな中、先日ドイツのメルケル首相と会談したトランプ大統領。難民問題に積極的に取り組むメルケル首相に対し、あくまでも自国民優先を主張。メルケル首相の発言を無視する形となりました。

(町山智浩)ドキュメンタリー部門で長編賞と短編賞があるんですけど、短編部門だと5本のうち3本がシリア難民についての映画なんですよ。ちょうどドナルド・トランプ大統領がシリア難民の完全受け入れ拒否というのをした後だったんでね。アカデミー賞は。その後、それも撤回しましたけども。短編部門で賞をとったのは『ホワイト・ヘルメット』っていう映画なんですけども。これ、Netflixで見れますよね。

(藤谷文子)見ました。本当に私、なんか脳みそがキツすぎて。もう、「逃げたい!」ってなりました。

(町山智浩)ああー。

(ナレーション)アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞授賞『ホワイト・ヘルメット』。内戦が続くシリアで民間人が結成した救助部隊ホワイト・ヘルメット。隊員自らが撮影した映像には、シリア北部アレッポでの命がけの日常が捉えられています。

ロシアが大爆撃を続けるシリアの都市 アレッポ

(町山智浩)アレッポっていう非常に歴史的に有名な街で……観光都市だったところが反シリア政府の拠点だという風にみなされて、ロシアが大爆撃を続けているわけですけど。その爆弾が落とされる真下で撮っているんですね。

(藤谷文子)撮っているんですよ。本当、カメラマンが命からがら逃げている映像がいっぱい……。

(町山智浩)そう。あれ、爆発に巻き込まれているんですよ。カメラマンが。

(藤谷文子)「えっ、何人いたんだろう?」みたいな。「生きてるのかな、この人?」みたいな場面がいっぱいあって。

(町山智浩)カメラマンもあれ、ミサイルとか食らってるんじゃないかな?って思うんですけど。

(藤谷文子)っていうような映像でしたよね。本当に。

(町山智浩)上を見るとロシアのジェット戦闘機がヒューッ!ってもう本当に爆弾を落としているのがすぐ上にカメラを振るだけで映るっていうね。ただ、女の子が助かったりね。

(藤谷文子)もう、心を揺さぶられるとはあのことですよね。その瞬間の、なんとも言えない感覚。子供が瓦礫の中から出てくる瞬間とか。

(町山智浩)ねえ。「いるぞ!」っていうんですよね。でも、生きているかどうかわからない。赤ちゃんの場合ね。

(藤谷文子)あの子、生後1週間。

(町山智浩)1週間ね。で、出てきたら泣くんだよね。「生きてる!」って言って。

(藤谷文子)もう全員がグワーッ!って泣いちゃうんですよね。で、「奇跡の子」って呼ばれるようになって。

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(町山智浩)ねえ。で、そのシリアの人たちが家がなくなっちゃうから。もうしょうがないから。住めないわけですよ。爆弾をバンバン落とされていて。で、ヨーロッパ全体に広がっていっているわけですけど。長編ドキュメンタリー賞の候補になった映画で『海は燃えている』っていう映画は、その難民たちがすごい船にびっしり詰め込まれて漂着するイタリアの小島の話なんですよ。

『海は燃えている』

(ナレーション)舞台はイタリア最南端の小さな島。ここはアフリカや中東から命がけで地中海を渡りヨーロッパを目指す多くの難民、移民の玄関口。年間5万人を超える難民と、5500人の島の人々の暮らしを追ったドキュメンタリー。

(町山智浩)で、すごく不思議なのはそこで暮らしている男の子をずっと追いかけているんですけど。その男の子と難民たちが全く接触しないんですよ。

(藤谷文子)えっ?

(町山智浩)その男の子が普通に遊んだり、美味しいごはんを食べたりね。すごくごはんが美味しそうなの、それ。

(藤谷文子)美味しそう。場所的に(笑)。

(町山智浩)ウニ獲りのおじさんとかも出てきて、食卓で「今日はウニスパだよ!」ってウニスパ食べたりして。「おいしー!」とかって食べていると、画面がパッと切り替わると難民たち、ボートに乗せられた人たちが水も食料もなくて。「10人死んでます」って、死体をズルズルズルっと引きずり出すんですよ。するとまた、画面が切り替わると、男の子がおじさんと一緒に美味しいごはんを食べているんですよ。でも、それは実は隣り合わせっていうか、その男の子が住んでいるすぐそばにその難民が漂着する場所があって。実はほとんど、歩いて行ける距離で起こっているんだってことがわかってくるんですよ。

(藤谷文子)うん。

(町山智浩)で、これ、監督が(ジャンフランコ・)ロージっていう監督なんですけども。言っているのは、「この男の子は難民以外の我々全てを象徴しているんだ」と。もうどんどん死んでいっているのに、美味しいごはんを食べて、テレビを見て、何事もなかったかのように暮らしている。で、テレビでニュースで「難民が○人死にました」っていうのはやっているんですよ。で、お母さんがそれを見ながら「かわいそうね」って言うだけなんですよ。

(藤谷文子)うん。

(町山智浩)これ、すごい面白いというか、その男の子がだんだんおかしくなっていって。片目が見えなくなっちゃうんですよ。

(藤谷文子)ほう。

(町山智浩)で、医者に行くと「全く目に異常がないよ」って言うんですよ。これはね、監督がインタビューで言っていて。それは「難民が実際に死んでいて、ニュースでやっているということを心で、それを見ないように心の目をふさいでいるだろう。そうすると、それはストレスになってくる」と。

(藤谷文子)自分のすごい身近で起こっているということはわかっているわけでしょうから。うーん。

(町山智浩)で、「やっぱり人間、罪悪感っていうのはあるんで。それでどんどん心の中にそういうものが溜まっていって、見ているものを拒否するという心理的な状況になったんだろう」という風に監督は言っているんですよね。それって、だからシリアの難民を受け入れないでOKって言っているんですけども、アメリカが難民を受け入れない国になったら結構ヤバいですよ。

(藤谷文子)だって、さっき言っていた自由の女神じゃないですけど、アメリカ自体がそういう心を持ってできあがった国じゃないですか。「受け入れる」っていう。

(町山智浩)そうなんですよ。アメリカは1回ね、受け入れなくて大失敗したことがあるんですよ。『さすらいの航海』っていう映画があるんですけども。それはドイツとかヨーロッパでユダヤ人虐殺が始まった時。ナチスが支配して。で、ユダヤ人の金持ちたちが自分たちでお金を出し合って、客船に乗ってアメリカに逃げようとしたことがあったんですよ。で、キューバのところまで来たんですけど。その頃、キューバは完全にアメリカの傀儡政権下だったんですけども。それを受け入れると、ナチスと全面戦争に突入しちゃうからということで、受け入れ拒否をしたんですね。アメリカは。

(藤谷文子)うん。

(町山智浩)で、結局ドイツまで帰ったんです。そのユダヤ人たちを満載した船は。で、彼らはみんな、ホロコーストでやられちゃったんですよ。で、それがすごいアメリカの反省になっていて。あの時、受け入れていたらその何千人の人が救えたかもしれない。だから、二度とそういうことはしないと思っていたんですけど……やっているんですよ、いま(笑)。それこそ、『ズートピア』みたいな国でアメリカがい続けると、結局トランプみたいな政権は続かなくなるし。

(藤谷文子)そうですね。

(町山智浩)だからやっぱり、ハリウッドとトランプ大統領の戦いっていうのはその背景にある、このへん(中西部)の白人労働者の人たちと、このへん(海岸部)の移民とかによって成り立っている州との対立がアカデミー賞にすごく象徴的に出ていると思うんですよね。だって「『ズートピア』みたいな国がアメリカなんだ」っていうことを言っても、「俺たち、違うから」っていう人たちだから。「白人しかいねーし?」みたいな。

(藤谷文子)「会ったことないよ!」ぐらいのね。

(町山智浩)「黒人とか、見たことないし」みたいな。

(藤谷文子)「アジア人も見たことない」って。

(町山智浩)っていう人たちのところだったんですけどね。でも、そういうところが自分たちの州を救うには、難民とか移民の受け入れが不可欠になってくるんですよね。

(藤谷文子)そうか。これからどうなっていくんでしょうね、アメリカ。

<書き起こしおわり>

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