渡辺志保さんが2023年3月28日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session』の中でPinkPantheress, Ice Spice『Boy’s a liar Pt. 2』を紹介していました。
(荻上チキ)渡辺志保さんにはいつも、最新ヒップホップソングを紹介していただいてますけれども。今日はどんな曲を選んでくださるんですか?
(渡辺志保)今日はですね、Z世代(Gen Z)のパーフェクトコラボ曲とも評されている、イギリスの注目アーティスト、ピンクパンサレスと、ニューヨーク出身の新星ラッパー、アイス・スパイスのコラボ曲を紹介したいと思います。
(荻上チキ)まず、ピンクパンサレス。どういったアーティストなんでしょうか?
(渡辺志保)彼女はロンドンを拠点に活動している2001年生まれのアーティストなんですけれども。学生時代からSoundCloudという音楽を発表するサイトがあるんですが。そこでオンラインで自分のオリジナルの曲を投稿し始めて。一昨年、2021年にTikTokで発表した『Pain』という曲がバイラルヒット。そしてシングル化されまして、その後にUKシングルチャートにランクイン。Spotifyでは2億回以上のストリーミング再生回数を記録。
(渡辺志保)そして、同じく2021年にデビューミックステープ……まあお披露目EPみたいな感じなんですけれども。『To Hell With It』という作品をリリースして。それで私は彼女のことを知ったんですけれども。ピンクパンサレスはジャンルとしてはニュー・ノスタルジックというものを標榜していて。ちょっとチャレンジングというか、なかなか面白い音で歌ったりラップしたりというロンドン出身のアーティストですね。
(荻上チキ)はい。ピンクパンサレス……ピンクパンサーと関係があるんですか?
(渡辺志保)パンサレスなので、たぶんそのピンクパンサーをもじってってことだと思うんですけれども。ちょっと、なんていうかツイステッドなMCネームを名乗っているんですね。
(荻上チキ)言葉遊びというか、ひねった形になっているんですね。で、そのパーフェクトコラボをピンクパンサレスともう一方、アイス・スパイスが展開しているという。このアイス・スパイスはどういったアーティストですか?
(渡辺志保)アイス・スパイス、彼女も2000年、ニューヨーク、ブロンクス出身のラッパーで。ニッキー・ミナージュとかカーディ・Bとか、ニューヨーク出身の女性ラッパーの先輩たちがたくさんいるんですけれども。そうした先輩たちに影響を受けて、2021年からラッパーとして活動を開始していて。
で、本当につい最近デビューしたという感じの2人なんですが、このアイス・スパイスに至っては昨年、2022年に『Munch』というシングルが大ヒットしまして。そこから一気にSNS世代、ソーシャルメディア上で人気を博して。今、世界で一番売れてるラッパー、ドレイクも彼女に注目を寄せていて。2023年、最も注目されているラッパーの1人という感じです。
(荻上チキ)なるほど。先ほど、バイラルヒット……要は口コミでめちゃくちゃヒットするっていうお二人の活動履歴を紹介していただきましたけど。アメリカなど英語圏で今、バイラルヒットとなると、YouTube動画とかTwitterとか。あとInstagramとか、TikTok、このあたりが多いんですか?
(渡辺志保)そうですね。で、特にやはり欧米のティーンエイジャーもしくは、それよりも年上の方たちもそうですけど。TikTokでの拡散力というか、爆発力っていうのがすごくて。で、今から紹介する『Boy’s a liar Pt. 2』という曲なんですけれども。この曲を用いたSNS動画が今、100万本以上あるという。で、この楽曲自体も先月、今年の2月に正式発表されたばっかりの楽曲ですので、1ヶ月少々でこれだけの……100万人以上の人がこの曲を使って動画を撮ってみようということになってるわけですよね。
で、先ほど申し上げた通り、ピンクパンサレスはUK、イギリスのアーティスト。そしてこのアイス・スパイスはニューヨークのブロンクス出身のアーティストということで。結構、この英米、UKとUSの若い女性アーティストがコラボ曲を出すって珍しいんですよね。
(南部広美)珍しいですよね。聞いたことない。
(渡辺志保)なかなかちょっと、アメリカはアメリカ。イギリスはイギリスでやりますんで……みたいな感じなので。かつ、結構このイケイケな女の子アーティスト2人がいち早くタッグを組んでコラボ曲を出す。そしてそれがこれだけ爆発的ヒットになるっていうのは私個人としても、めちゃくちゃ勇気づけられるというか、面白いなと思っておりますし。今、実際にアメリカのビルボードチャートも最高位が3位かな? 総合チャートで3位まで上昇しておりまして。はい本当に名実ともにZ世代最高のコラボ曲みたいな感じになってます。
(南部広美)環境が全然ね。
(荻上チキ)違うでしょうね。
(南部広美)でも、すごいこと。喜ばしいこと。
(荻上チキ)ねえ。では、早速聞いてみましょうか。
(渡辺志保)ちょっとすごくテンポが速い曲で、ジャージークラブというジャンルを下敷きにした曲に仕上がっているんですか。ぜひ聞いてほしいと思います。ピンクパンサレス&アイス・スパイスで『Boy’s a liar Pt. 2』。
PinkPantheress, Ice Spice『Boy’s a liar Pt. 2』
(南部広美)本日のゲスト、渡辺志保さんのセレクション。ピンクパンサレス&アイス・スパイス『Boy’s a liar Pt. 2』をお送りしました。
(荻上チキ)はい。短い曲ですけども、すごい聞きやすくて。
(南部広美)なんか、音の快楽。気持ちいいね!
(荻上チキ)これで若い世代がTikTokなどで動画を作ると。
(南部広美)テンポがたまらん!
(渡辺志保)そう。テンポがたまらんで。プロデューサーに関わってるのは結構、日本でも根強いファンが多くて。フジロックとかにも来日経験があるMura Masaというアーティストと、あとはピンクパンサレスご自身もプロデュースに関わっていて。で、この「ドン、ドン、ドンッドンドンッ!」みたいなテンポが速い感じなんですけども。それが今のトレンドなんですよ。ジャージークラブっていう。
(荻上チキ)ここで歌われている歌詞内容についてはいかがですか?
(渡辺志保)これはもう、タイトルが示す通り、「あの男の子、私のことを『いい』って言ってたけど、実はそんな本気じゃないでしょう? 嘘つきでしょう?」みたいな感じの、そういう……ちょっとこういう言い方は死語だと思いますけど。乙女心といいますか。ちょっと女の子が抱える葛藤を歌った感じの内容ですね。まあ、ちょっとそれよりはどぎつい内容のことも歌ってはいるんですが、概ねそういう感じの楽曲になってます。
(荻上チキ)そうした楽曲が今、動画上で共有されて。どんどん広がっていくということですけれども。特にどんな点が支持されてるとお感じですか?
(渡辺志保)そうですね。楽曲自体がやっぱり非常にキャッチーなところが挙げられますし。で、ピンクパンサレスもアイス・スパイスも、私の世代もあんまりなじみがないっていう感じのアーティストにはなるんですけれども。やっぱり、それぞれ、それまでたとえばSoundCloudだったり、自分のTikTokであったりとか。やっぱりそこの、ソーシャルメディア上でのファンベースが既にあったんですよね。
で、特にアイス・スパイスも、昨年ソーシャルメディアを基盤にブレークしたアーティストっていう。もうTikTokによるTikTokのためのアーティストみたいな側面もあるんですよね。ラッパーとしてもちろん人気っていうのはあるんですけれども。なので、そこが、受けるポイントみたいなものが何重にも重なって、これだけのヒットに繋がったのかなという風に感じています。
(南部広美)あと、志保さんがさっき言っていたニュー・ノスタルジックって、すごいぴったりくるジャンルの標榜というか。私世代にもキュンと来るものがあって。
(渡辺志保)そうそう。ピンクパンサレスも、先ほどあのタイトルを申し上げた『To Hell With It』というミックステープの中でも、結構たとえば昔、UKを中心に流行った2ステップとか。ドラムン・ベースとか。なんかあの頃のイギリスのサウンドみたいな。で、結構アメリカの女性ラッパーって、アイス・スパイスもそうなんですけど。すごいどぎついビートでラップしてなんぼみたいなトレンドもあるんですが。
このUKのピンクパンサレスはちょっとそこを真逆というか。すごく独自性の強い自分のサウンドっていうのをすごく作り上げていて。それが彼女がすごく今、若者に支持される理由のひとつかなという風にも感じています。
(南部広美)いい言葉。ニュー・ノスタルジックって。
(荻上チキ)TikTokを禁止とかされたら、どうなるのか?っていう。そんなことも考えちゃいますね。時事問題として。
(渡辺志保)そうなんですよね。ここ最近、去年、一昨年ぐらいからですかね? 2020年ぐらいから、女性ラッパー同士のコラボ曲ってすごくたくさん増えていて。カーディ・Bとメーガン・ザ・スタリオンによる『WAP』っていう大ヒット曲があったりもするんですけれども。
女性ラッパーコラボ曲の最高到達地点を塗り替える
(渡辺志保)この2人の、今回の『Boy’s a liar Pt. 2』はその女性ラッパーコラボ曲の最高到達地点を塗り替えたような、そんな感じが私にはしていて。また新しい扉というか、新しい風を吹かせている、そんな曲かなという風に感じています。
<書き起こしおわり>