町山智浩 アカデミー賞『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の快挙を語る

町山智浩 アカデミー賞で『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の快挙を語る たまむすび

(町山智浩)で、ちょっと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の話に戻るんですけど。これ、本当にご覧なっていただかないと説明がしにくいんですが。これがアカデミー賞を取ったってことのとんでもない画期性というのはね、これはバカ映画なんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよね。

(山里亮太)そうそう。それ、聞くんですよ。

(町山智浩)これは延々とバカをやり続けるんですよ。それはバカをやらないと、要するにいくつものマルチバースというのがあって。人間には人生でいくつか分岐点があったわけですけど。誰もが人生の中で、分岐点ってありますよね。で、それぞれの可能性が別々の宇宙として同時に存在するっていうのがマルチバースなんですね。で、この主人公のミシェル・ヨーさんは中国から来た移民で、コインランドリーの経営者で、あんまりちょっと商売がうまくなくて、夫婦仲も良くなくて。で、娘と対立しちゃってるという状況を抱えてるんですけども。

その中で、宇宙を滅ぼそうとする敵と戦うことになるんですが。それで、たとえばカンフーの技術は持っていないわけですよ。普通のお母さんですからね。その時に、別の世界でカンフー女優になってる別の人生を選んだ自分にリンクして、そこから自分のカンフー能力を取り入れて戦うという、そんな戦い方をするんですけどね。で、そういうことをするために、別の宇宙に飛ぶためには自分の限界を超える決断をしなきゃならなくて。それは、バカげたことをしないとダメなんですよ。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)だから、自然にバカ映画になってるんですよ。普通の枠の中で生きてちゃダメなんですよ。

(赤江珠緒)そういうことか。枠を破っていくという。

(町山智浩)そう。バカなことをするんですよ。それがものすごくバカバカしいというか、気持ちが悪いことを結構するんで。たとえばその、これは税務署を舞台にして戦うんですけど。税務署のオフィスの机の下にいると、その机に座ってた人が噛んでいたチューインガムを机の裏側に貼り付けてるんですね。で、それを取って食べるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)こんなの、「うえっ!」って思うじゃないですか。そういうバカなことをすると、別の宇宙の自分にジャンプできるんですよ。マルチバースに。

(赤江珠緒)ああ、今までにしてないようなことをすると?

(町山智浩)「そんなの、絶対にしねえだろ?」っていうね。

(赤江珠緒)不思議ですよね。本当にアカデミー賞を……よく、こんなにこの映画が。町山さんの説明を聞いていても、ピンとこないところがありますもんね。

(町山智浩)だから見てほしいですよ、本当に早く!(笑)。

バカ映画がアカデミー賞を席巻

(赤江珠緒)これ、見ないとね。だって、今までのアカデミー賞の映画というと、やっぱりヒューマン大作的なね。感動作とかね、そういうイメージがありますから。聞けば聞くほどに……。

(町山智浩)ねえ。これ、襲ってくる敵もそのマルチバースの力を手に入れるんですけども。そのために敵がやるのは、お尻の穴にいろんなものを突っ込むんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。そうですよね……。

(山里亮太)そんな……(笑)。

(赤江珠緒)これ、本当にそんなにアカデミー賞を取ったのか。この作品が……。

(町山智浩)ねえ。こんなバカな映画で。しかも敵がヌンチャクみたいにして子犬を振り回してきたりね。もう、デタラメですから。

(赤江珠緒)でもある意味、その90何年続いたアカデミー賞の歴史の壁をぶち破った映画なんですもんね? これがね。

(町山智浩)そうなんですよ。これだけバカバカしいギャグ、ギャグ、ギャグでやってきて。でも最後はもうみんな、号泣するんですよ。これはやっぱりね、家族の話なんですけれども。これね、今回のアカデミー賞にノミネートされた作品の全部に共通するところで。たとえば『ピノキオ』っていう映画が長編アニメーション賞を取ったんですけど。その話は元のピノキオと違っていて。ピノキオを作ったおじいさんが、そのピノキオが自分の思ったような子にならなくて、すごく嘆くんですよ。

(赤江珠緒)ゼペットじいさんが?

(町山智浩)ゼペットじいさんが。で、もうひとつ『私ときどきレッサーパンダ』っていう映画もアニメーション賞にノミネーションされていたんですけども。あれも中国系のお母さんが娘が真面目に勉強して優等生になるかと思ったら、アイドルに狂っちゃって。それでお母さんががっかりするっていう話なんですよ。つまり、子供が親の思ったようになってくれなくて。それでがっかりする親たちの話ばっかりなんですよ。今回のアカデミー賞って。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』も全くそういう話で。そこがきっかけで娘と対立していくことが宇宙戦争に繋がっていくんですけれども。で、もうひとつは、そういう風にしてしまった子供との和解の映画も今回は多くて。『ザ・ホエール』っていう映画はブレンダン・フレイザーがアカデミー主演男優賞を取りましたけど。

自分がかつて捨ててしまった娘と寄りを戻そうとする、そんな父親の話だし。主演女優でもうひとつ、上がっていた『To Leslie トゥ・レスリー』という映画はアルコール中毒で家庭を破壊してしまった母親が息子と寄りを戻そうとする話なんですよ。だから今回ね、アカデミー賞はテーマがみんな同じなんですよ。

親と子の関係をテーマにした作品ばかり

(赤江珠緒)でも、不思議なんですよね。町山さんが、今年に限らず、「今年はすごい社会の格差を描く映画がもう世界各地で生まれてる」とかいう話もあったり。なんか、そんなブームを仕掛けてるわけじゃないのに、同じようなテーマの映画が生まれてきますよね?

(町山智浩)世界中で一斉にね、同じようなテーマの映画が作られるんですね。で、毎回そのトレンドが違うんですけれど。逆にその今、みんなが求めているものを掴んだ映画が、やっぱり人々の心を掴むんだなっていうことが、よくわかりますね。だからそれはもう、人種とか民族を超えたものなのでね。中国系だろうとなんだろうと、関係ないということなんですね。

(赤江珠緒)普遍的ですね。

(町山智浩)だからもうとにかくね、娘がいるお母さんだったら絶対この映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』という映画は見なきゃダメですよ!

(赤江珠緒)見なきゃダメ。本当に見よう。見ますよ。

(町山智浩)その母親の過ちとかね、それを取り戻す方法とかが本当にね、素晴らしく描かれてますんで。本当にぜひ、ご覧ください。

(赤江珠緒)ねえ。親はね、「元気でいてくれたらいい」とか生まれた時は言いながらね。だんだんだんだん、いろいろと期待したり。「こうなってほしい」とか、欲も出てきますしね。

(町山智浩)そうなんですよ。この映画はね、本当の敵っていうのは最後に出現するんですけども。それは、あっと驚く存在ですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)それもぜひ、注意してご覧ください。

(赤江珠緒)アカデミー賞、今回は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がいろんな賞を、7部門受賞ということになりました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

町山智浩『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を語る
町山智浩さんが2022年4月26日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でミシェル・ヨー主演の映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』について話していました。
町山智浩『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』アカデミー賞席巻の予感を語る
町山智浩さんが2023年3月7日放送のTBSラジオ『たまむすび』で授賞式を直前に控えたアカデミー賞についてトーク。映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が主要な賞を総なめにしそうな状況を紹介していました。
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