かせきさいだぁさんが2023年2月7日放送の『猫舌SHOWROOM 豪の部屋』で松本隆さんの弟子になったきっかけについて話していました。
(吉田豪)かせきさん、もっとアイドル仕事を頼まれてもいいのにって思うぐらいの……。
(かせきさいだぁ)そうですね。アイドル仕事はやりたいですよね。そうですね、やりたいですね。なんで本当にくれないのか?(笑)。
(吉田豪)やる気はいっぱいあるのに。
(かせきさいだぁ)でもマクロスの曲はやらしてもらったんで。『マクロスΔ』……ええと、松本先生が『マクロスF』でしたよね。で、その次がデルタで。「松本隆先生ぐらいのレベルの人に頼むにはどうしたらいいんだ?」っつってビクターの人が考えてくれて。「あっ! 弟子のかせきさんだ!」ってなって。
(吉田豪)弟子?
(かせきさいだぁ)僕、松本先生の弟子なんです。ちゃんと。
(吉田豪)ちゃんと?
(かせきさいだぁ)「家に住んで、本当に弟子になるか?」って言われて。「はい」って言って。それから「じゃあ、ちょっと待っててくれ」って言われて。それで待ってる間も松本先生と一緒に遊んでたりしたんですけど。その前から週3、週4で遊んでいて。彼女より一緒にいるっていうぐらい。
(吉田豪)そのレベルで?
(かせきさいだぁ)90年代の後半ですね。98年、99年は彼女より一緒にいるぐらい松本先生と一緒にいて。一緒にテレビを見て……なんてことをしてたんですけど。で、「もう弟子になるか? 家が一室、空いてるから」っつって。僕がいつも泊まる部屋なんですけど(笑)。
(吉田豪)普通に泊まっていたんですか?
(かせきさいだぁ)そう。普通にしょっちゅう、泊まっていたんですよ。
(吉田豪)すげえ!
(かせきさいだぁ)で、「家を全部引き上げて。あの部屋に住んで。俺が仕事に行く時はベンツ運転して……それを、やるか?」っつって。
(吉田豪)住み込みの弟子みたいな?
「住み込みの弟子、やるか?」
(かせきさいだぁ)「住み込みの弟子、やるか? 今まで、僕は弟子を取ったことがない。君は、やるか?」って言われて「やります」って言って。「じゃあ、ちょっと待っててくれ」「はい!」ってなって。それでまた一緒に遊んでたんですけど。1ヶ月経ったら「あのさ……」「はい」「最近は仕事は自分の好きなのだけ、やっていたんだけども。この1ヶ月は全部やるって言って。それで無理なのを全部君に回して。それで今後、こういう風に一緒に弟子と分業でやっていこうって思っていた」って。
(吉田豪)分業で、ちょっと監修する感じで。
(かせきさいだぁ)「無理な時は弟子のかせきがやるからっていう風にやっておこうと思って仕事を進めていたんだけども……こんなに仕事が減ってるとは思わなかった。全部、俺1人でできちゃった」って言っていて(笑)。
(吉田豪)フハハハハハハハハッ!
(かせきさいだぁ)「えっ? できちゃったんですか!?」って聞いて。「いや、今、本当に自分で歌詞を書いたりするのがブームじゃん?」「はい。作詞家に頼むっていう時代じゃないですよね」「だろう? びっくりしたわ。こんなに仕事が減っているなんて。全部できちゃったんだよ」「じゃあ、どうするんですか?」「いや、だから弟子の話はもう、なしにしよう」って。
(吉田豪)「お前に振るほどの仕事がない」っていう?
(かせきさいだぁ)そうそう。振るほど仕事がない。「あと、俺がこんなんだから、作詞家で食っていく……プロの作詞家という職業は、なくなる。だって俺がこんななんだもん」って。
(吉田豪)このトップが。
(かせきさいだぁ)そうそう。「俺がこんななんだから、この仕事はなくなる!」って言っていて。「マジっすか!」ってなって。「本当だ。もう絶対、なくなるから。だから君はもっと、自分の音楽をやるでもいいし。もっと他のことを広げていきなさい。俺からもう、あれすることはできないから。こうなったら」って言われて。それででも、絵を書き始めたんですよね。
(吉田豪)漫画を書いたり。
(かせきさいだぁ)漫画を書いたり、絵を書いたりし始めて(笑)。もう弟子は関係ないだろう?っていうあれなんですけども。
(吉田豪)でも、作詞メインは難しいのではないかっていう。
(かせきさいだぁ)もう、松本先生に言われたら……でも今でも、時々は頼まれたりしてやってましたけど。やっぱりどんどん市場はちっちゃいわ、みんなiTunesとかで買うわ。そうですよね。あれのお金がそんな大したことないっていう。でんぱ組の。
(吉田豪)ああー。これだけ愛されてる曲だけど。
(かせきさいだぁ)そうなんです。あんまり返ってこないっていう。「ああ、これはたしかに無理だな」って(笑)。
(吉田豪)まあ、ものすごい数をやらないと、たぶん成立しないっていう。
(かせきさいだぁ)そうそう。松本先生、あの頃月にいっぱいやっていて。で、売れてたからあれだけど。今はそんなに……市場もちっちゃいし。
(吉田豪)ヒットチャートに入ったところで……っていうね。
(かせきさいだぁ)そういう世界だし。
(吉田豪)カラオケでめちゃくちゃ歌われるとかであれば、何か違うかもしれないけど。サブスクでどれだけ回っても……。
(かせきさいだぁ)そうなんですよ。だからもう、早めに……諦めたわけじゃないすけど。来たらやってましたけど。でも、「これ1本でやってこう」って思わなくてよかったなとは思ってますね。
(吉田豪)松本隆先生と何やってたんですか?
(かせきさいだぁ)パソコンゲームをやったり(笑)。アニメを見たり、映画を見たり。お部屋にでっかいプロジェクターがあって。それで「DVDを買ってきた」っつって……。
(吉田豪)なんですか? 友達として一緒に過ごしていたんですか?
合間合間に作詞術をちょっと聞く
(かせきさいだぁ)そうです、そうです。でもそれで合間合間に作詞術をちょっと聞くんですよ。「あの『赤いスイートピー』って赤がないじゃないですか。あれはどういう意味で赤なんですか?」とか。
(吉田豪)よく言われてますよね。当時、赤いスイートピーは存在しなかったっていう。
(かせきさいだぁ)そう。それをたぶん誰よりも先に聞いたり。「赤、ないんだよ」って。
(吉田豪)「わかっていて、やったんだよ」っていう?
(かせきさいだぁ)「いや、知らなくてさ。もうそんなの、調べてる暇もないし。調べようもないし。インターネットもないし。だから、ノリでいつも……」って。でも、松本先生はいつも言っているのは「当時は間違いだったけど、時間が経つとそれが正しくなっちゃうんだよ。赤いスイートピーも生まれたし……」って。
(吉田豪)そこにニーズが生まれますからね。
(かせきさいだぁ)そうなんですよ。それで、作られたし。「薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて」(大滝詠一『カナリア諸島にて』)っていうのも「あんな飲み物、なかったんだよ。あれ、イメージで書いていて。そんな飲み物、ないんだよ。でも『カナリア諸島に行ってみるか』っつってだいぶ後に行ってみたら、その飲み物が出てきて。だからたぶん、みんなが『あれはないのか?』って言うから、向こうで作ったんだろうな」って。
(吉田豪)観光客が(笑)。
(かせきさいだぁ)あと「『生き急ぐ』っていう言葉もなかったんだけど、ノリで作ったらそれがもう、ある言葉になっちゃった。それまでは『死に急ぐ』しかなかったんだけど、『生き急ぐ』って書いたら、それがそのまま、もう今ではみんなが使う言葉になっちゃったんだよ。だから、トランスみたいになるじゃない?」「はい、なります」「その時に、なんだかわかんないけど書いちゃった言葉は、いつか正しくなるんだよ」って言ってましたね。
(吉田豪)明らかにその時点では間違っていたとしても。
(かせきさいだぁ)そうです。「ゆくゆくは正しいことになるよ」っていう。なんか、そういう作詞家の勘っていうわけじゃないですけど。そういう話とかいろいろ聞いたり。
(かせきさいだぁ)そういうのはいろいろ聞きましたよ。男と女のこととか。「よく松田聖子の、女の気持ちを書けますね」って聞いたり。「それは、簡単だよ」「なんですか?」「男も女も、同じじゃん」って言っていて。「なるほど!」ってなって、僕もすぐ、それから女性の歌詞が書けるようになって。
(吉田豪)そうなんですよね。それがわからない人が多いっていう。
(かせきさいだぁ)そう。「そういうのを全部、かせきくんも若い作詞をやってる子とかに。俺は君に全部教えるから、君も全部教えて」って言われたんですけど、一切聞かれないんですよ(笑)。松本先生、いろんなことを言ってらっしゃいましたけど、一切みんな聞いてくれないから。言うところがなくて。
(吉田豪)せっかくそこまで、懐に入って聞いたのに。
(かせきさいだぁ)そうそう。松本先生は本当にね、でもこういう……「俺が『こうだな』ってわかった技は全部、君に教えるから。それを全部、若い子に教えなさい」って言ってくれていて。「すごいな」と思いましたよ。
(吉田豪)それだけ仲良くなったきっかけは何だったんですか? 対談か何か?
(かせきさいだぁ)それはね、ファーストアルバムが出て、クアトロですぐライブがあったんですけど。その時に、僕と同い年ぐらいの方だったんですけど、デザイナーの方が来て。「松本隆が呼んでるんで、来てくれって言ってます」って言われて。めっちゃ焦って。
(吉田豪)怒られるのかと思いますよね(笑)。
(かせきさいだぁ)「これは怒られるぞ! ヤバい!」ってなって。
(吉田豪)「なにを勝手に引用してるんだよ?」って(笑)。
「松本隆が呼んでいる」く
(かせきさいだぁ)そう。勝手に引用しているし。「ついに怒られるな」って思って。それで川勝さんもそれを聞いて。川勝さん、もう亡くなっちゃいましたけども、川勝正幸さん。すっごい緊張して。「えっ、かせきくん。俺もついてくから」っつって。で、場所を聞いて。「六本木のなんか中華料理屋さんらしいです」って。そしたら、それを聞いたレコード会社の人が「加藤くん」って。本名、加藤なんで。「加藤くん、怒られないよ」「なんでですか?」「そこ、めっちゃ高い中華料理屋だから。怒るやつをめっちゃ高い中華料理屋には連れて行かないだろうから」って言っていて。
それを聞いて「ああ、じゃあいいか」って(笑)。僕はもう、「弟子にしてください!」っていうぐらいのつもりで行ったんですけど。でも川勝さんはずっと、なんにも食べないで。汗をこうやって、ずっと拭いて。「本当にすいません。かせきがどうも……」って。
(吉田豪)川勝さん、いっぱい怖い目にあってきている人ですからね。
(かせきさいだぁ)ああ、そうなんですね。
(吉田豪)キョンキョンのパンフがコンサートに間に合わなくて……とか。バーニング相手にそれをやっちゃダメですよっていうね(笑)。
(かせきさいだぁ)そうですよね。そういうのもあって、ちょっとあれしてくれてたんですね。でもそれで松本隆先生、その時には「僕はもう、はっぴいえんど時代の歌詞みたいなとか世界観はできないから。でも君はそれを今、やってるから。それ、好きにやっちゃっていいから」って。
(吉田豪)おお、お墨付きが。
(かせきさいだぁ)「好きにやって」って言ってくれて。それで「わかりました! あの、弟子になってもいいですか?」って、いきなりって言って。初対面で。その時に「ああ、俺は取ったことないんだよね」「ああ、そうですか。そうですよね」「でも君ならいいよ」って言われて(笑)。それから、よく遊ぶようになって。
(吉田豪)軽いもんですね。
(かせきさいだぁ)そうですね。それで電話もよくかかってきて。「今日、何してる?」「いや、なんもしてないです」って。そしたら「メシ、食いに行こうよ」「はい!」って。で、ご飯を食べに行って……みたいな。
(吉田豪)世代の違う友達ができたぐらいの感じで。
(かせきさいだぁ)そうですね。すごい仲良く遊びましたね。いろいろ教えてもらって。
(吉田豪)それは聞きたいことばっかりですもんね。
(かせきさいだぁ)そう。聞きたいことばっかりでした。「あれは……あの、『イエロー・サブマリン音頭』はあれ、全部松本先生が書いたわけじゃないんですよね?」「あれはもう結構、できてて……」とか。「あそこの歌詞は松本先生じゃないですよね?」「あそこはたしか、俺じゃないかな」みたいな。なんか、何人かで書いてたみたいで。そういうのを聞いたりとか。あと、もうあれですよね。「○○って言われてましたけど、本当ですか?」とか。そういうのとか聞いたり。