町山智浩さんが2021年1月26日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でスペイン映画『プラットフォーム』を紹介していました。
川本朗のココがエーガね!「movie@theater 映画の力を信じて!」
▶︎『プラットフォーム』観ました。なんといっても設定が摩訶不思議!そうわからくていいんです!人間社会の構造を階層で表現し、厳しい社会を生き抜くためには食べることが重要!そんなことを映像化してエーガね!#プラットフォーム pic.twitter.com/87mSOxE0wF— C2[シーツー]シネマ情報局 (@CINEMACONNECTIO) January 21, 2021
(町山智浩)今日は今週末の1月29日から公開の映画で。『プラットフォーム』というタイトルのホラー映画を紹介します。
(赤江珠緒)ホラー映画?
(町山智浩)ホラー映画なんです。これね、『プラットフォーム』っていうのは「台」のことなんですけども。これ、主人公がある日、目覚めると四角い部屋にいるんですね。コンクリートの何もない……トイレと水飲み場しかない部屋にいて。で、部屋の真ん中には四角い穴が開いているんですけれども。それで、その穴から下を見るとずっと下に同じような階、部屋がずっと下まで続いているんですね。で、上を見上げるとまたずっと上の方にも続いていて。で、その部屋には「48」って書いてあるんですよ。どうやら48階らしいんですよ。
で、そうすると上からプラットフォーム(台)がゆっくりと降りてくるんですね。エレベーターみたいなもんです。反重力エレベーターみたいなものが降りてきて。そのエレベーターの上にごちそうがいっぱい載ってるんですね。すごいでかいテーブルにごちそうがいっぱい載っていて。ただね、食べ散らかしてあって残飯みたいになっているんですよ。で、「これは一体、何なんだ?」って一緒に部屋にいたおじいさんに聞くと、「これはこの上に47個、部屋がある。その上の階の人たちが上からずんずん食べていって、その残りがこれなんだ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)へー。不思議な世界。
(町山智浩)そう。みんなが少しずつ食べていったから残飯になっているんですね。で、「これを食べないとまた翌日まで食べ物がないから食べろ」って言われるんですね。それで数分……まあ10分ぐらい経つとそのテーブルがまた下に降りていって、どんどんどんどん下に降りていく。その食料、ごちそうを乗せたまま降りていって、食料を供給しているという施設なんですね。それが。
(赤江珠緒)部屋には主人公とおじいさんしかいないんですか?
(町山智浩)その部屋にはいないんですけど、各階に2人ずついるんですよ。それであとで分かるんですけど、全部で200階あるんです。それで下の方……一番下が200階で、一番上が1階なんですね。だから逆になっているんですよ。階数が。で、各部屋に2人ずついて、1日に1回、テーブルに載った食料が降りてくるという。それが『プラットフォーム』という映画の不思議な世界なんですね。で、これね、主人公は自分の意志で入ったことが途中から分かります。
で、これ、彼は学校の卒業資格が取りたくて。卒業資格を取るためにここに入ったんですね。で、そのおじいさんはちょっとうっかり人を過失で殺してしまってそこに入ってるんですよ。で、その施設そのものは「垂直自己管理センター」という政府組織で。そこに入って、そういう苦行みたいなものを乗り越えて、いつかそこから出られるというところらしいんですね。一種のまあ、刑務所みたいなものらしいんですよ。でも、目的とかそれは最初はまだわからないんですよ。
なんでこういうことをやっているのか。これはなんなのか、わからないんですけども。これ、上の方から食べ物、ごちそうが降りていって下の方にいくということは、下の方ではどんどん食べ物はなくなっちゃうっていうことじゃないですか。だから「これ、下の方はご飯が食べれるの?」って聞くわけですよ。その主人公の男、ゴレンっていうんですけども。
そうすると、そのおじいさんが「私はかつて、下の方にいた。食べ物なんか全然なかったよ。みんな食べ尽くされた後の空の皿だけが降りてきたんだ」って言うんですね。で、なぜおじいさんが下の方にいたかというと、30日ごとにその部屋に眠りガスが流れてきて。で、その人たちが寝てる間に、別の階に運ばれるっていうシステムなんですね。
で、ある日は48階だけれども、ある日は上の方で、食べ物はいっぱい食べれるし。目覚めると今度は下の方の階で食べ物が全然ないとか、そういう風になって。30日ごとに部屋が入れ替わるという。
(赤江珠緒)どこに行くかは自分で選べるんじゃなくて、勝手に?
(町山智浩)どこに行くかは選べないんです。寝ている間に勝手に決められるんですよ。で、主人公は眠りガスが来て、寝て、目が覚めたら171階にいるんですよ。
(赤江珠緒)ああー。かなり下の方になっちゃいましたね。
(町山智浩)そしたらやっぱりそのプラットフォームが降りてくるんですね。そうすると、空の皿しかないんですよ。で、どうするんだ? 30日間、生きられるのか?っていうと……その部屋には各自、ひとつだけ大事なものを持って入ることができるんですね。で、その主人公はあの『ドン・キホーテ』っていう小説を持って入ったんですけど。相手のおじいさんは……相手のおじいさんも一緒に171階に行くんですけども。相手のおじいさんが持ってきていたのは、肉切り包丁だったんですよね。
(赤江珠緒)えっ?
(町山智浩)食べ物はないんですよ。肉切り包丁はあるんです。
(赤江珠緒)怖い怖い。なんか、怖い……。
(町山智浩)30日間、食べ物はないんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(山里亮太)そうなると、ホラーだし……あれなのかな?って思っちゃう。
(町山智浩)お互いを食べるしかないんですよ。という話がこの『プラットフォーム』なんですけど。なんだか全然わからないんですよね。
(赤江珠緒)たしかに。それで方や、なんで『ドン・キホーテ』の本を持ってるんだ?っていうね。
(町山智浩)そうなんですよ。なんでだ?っていうことなんですけども。そしてなんのための施設なのか。で、ここでこの施設の管理官みたいな女性も途中で出てくるんですね。で、彼女はこう言うんですよ。「実は上から送られてくる食糧っていうのは400人分あるんです」って言うんです。「ここには400人いるから、1人が1人分の必要な量だけ食べれば全員に行き渡るようになってるんですよ」って言うんですね。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)「でも、そんなことないじゃないですか。下の方のやつは全然食えないよ!」って言うと、「それは上の方の人たちが食べ過ぎてるからよ」って言われるんですね。
(赤江珠緒)あらら……そういうことか。うん。
(町山智浩)これ、何のことを言っていると思います?
(赤江珠緒)これ、なんかさっきの町山さんの話に通じるものを感じますよ。
(山里亮太)ねえ。富裕層だけが富を独占して……みたいな。
「世の中」の縮図
(町山智浩)そうなんですよ! これ、「世の中」ですよ。この世の中なんですよ。上の方の人が好きなだけ食べて。だから下に届かないんですよ。で、下の方の人たちは互いを殺し合うしかないんですよ。
(赤江珠緒)そういうことか……。
町山智浩 バイデン政権の2000ドル現金給付案を語る https://t.co/pHbYoNJy9k
(町山智浩)実はこの所得税率が上がる4000万円以上の年収の人たちってアメリカ全体の人口の1.8パーセントしかいないんですね。でも、この人たちがアメリカ全体の富の25パーセントを独占しているんですよ。— みやーんZZ (@miyearnzz) January 26, 2021
(町山智浩)という話らしいんですよね。それでさっきね、税金の話を言ったんですけども。今、今その富裕層の所得税率が37パーセントって聞いても、ピンとこないでしょう? 「えっ? 4割も取られるの? かわいそうだね」みたいに思います?
(赤江珠緒)うーん……そうですね。
(町山智浩)日本も日本も45パーセントですよね。富裕層の所得税率。でも昔……僕が子供の頃って何パーセントだったと思います? 僕が子供の頃っていうのは1962年から1970年にかけての日本の富裕層の最高税率って何パーセントだったと思います?
(山里亮太)あの頃はそういう人がたくさんいっぱいいたから、税をあげなくてよかったんじゃないの?
(赤江珠緒)どうだろう? 日本? 日本は……いや、もっとむしろ取っていたんじゃない?
(町山智浩)金持ちへの税率。何パーセント?
(山里亮太)20!
(赤江珠緒)70!
(町山智浩)はい。70です! 日本では1950年から1970年にかけての20年間ぐらい、富裕層への税率は70パーセントでした。だから「一億総中流」になったんですよ。
(赤江珠緒)そうですよね。だから日本ではなかなか金持ちにはなれないと言われていた。
(町山智浩)なれなかったんです。そのかわり、中流がすごくいっぱいいて。みんなが幸せになれたんですよ。で、アメリカもっとすごくて。その頃は75パーセントです。
(赤江珠緒)75パーセント!
(町山智浩)だから金持ちはそんなにいなかったんですよ。だからフォードとか、ものすごい大富豪たちは収入があっても税金で取られちゃうから。それだったら、従業員に給料をいっぱい払おう。寄付をしよう。それでいろんな学校とか、いろんな人々の施設を作るっていうことにお金を使ったんですね。その頃のアメリカの大富豪は……日本もそうですけれども。町に金を落とし、働いている従業員たちがお金をいっぱい配ったんです。だって、自分の収入にしても税金でたくさん取られちゃうから。
(赤江珠緒)どうせ取られるなら、自分がわかっているところにちゃんと落とそうとかね。
(町山智浩)そう。自分がその方がお金をコントロールできるから。だから、給料をたくさん払った方がいいんですよ。そしたら、自分自身も会社もよくなるし。ところが、80年代に入ってから日本もアメリカも急激に金持ちの税率を下げていきます。それで日本なんかでは2000年代にとうとう、その70パーセントの半分の30パーセント台まで税率が落ちたんですよね。金持ちに対する税率が。それで、どういう社会になったか?っていうのはご存知の通りで。極端な金持ちと貧乏人たち……要するに今の日本って7人に1人が貧困層ですよね。そういう世の中になったんですよ。
日本の貧困率は16.0%。100÷16≒7 でだいたい7人に1人が貧困となる計算。(2010年の数字です)https://t.co/aVBvOuSPSY pic.twitter.com/tdyorSIT3b
— みやーんZZ (@miyearnzz) January 26, 2021
(赤江珠緒)そうね。格差が広がってね。
(町山智浩)そう。それはよく「格差社会、格差社会」ってみんなが言いますけども。でも、それは金持ちへの税率と法人税を上げればいいだけなんですよ。もうそれで一発で終わるんですよ。それで、先ほどアメリカの富の集中について言いましたけども、2本の日本の上位2パーセントの富裕層が日本全体の富の20パーセントを独占しています。アメリカと同じなんです。富の集中は。これはやっぱり税率を上げるしかないんですよ。
(赤江珠緒)そうですね……。
(町山智浩)だからこの『プラットフォーム』という映画の中で食物がいっぱい載ってるテーブルっていうのは食べ物というか、富そのものを象徴していますよね。で、30日ごとに場所が変わるんですけれども、実際の人生っていうのはそうじゃないですよね。生まれた時に場所が決まっちゃっていますよね。どの階なのか。で、高い方の階に生まれた人はいつも豊かで。だから実はこの『プラットフォーム』よりもっと酷い世界なんですよ。今現在は。だって30日ごとの入れ替えがないんだもん。
(山里亮太)なるほど……。
(町山智浩)というようなことをいろいろと考えます。で、この映画はもっといろいろと考えさせて、最後の方とかは本当に「じゃあ、これは一体何を言ってるんだろう?」っていう問いかけをして終わります。それはもちろん、この社会。この世の中についての映画だから、答えはないんですよ。どうしたらいいかって。で、この主人公は一体どうすればいいかということを考えます。このひどい状況どうしたらいいか? だから『ドン・キホーテ』なんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)『ドン・キホーテ』はムダだと分かっていながら金持ちに挑む、バカと言われた正義の味方の話なんですよ。
(赤江珠緒)風車に突っ込んでいく。
(町山智浩)風車に突っ込んでいくんですよ。ムダだと思いながらも、主人公は戦い始めます。という話がこの『プラットフォーム』で。ただ、今言ったことよりももっと、いろんなことが出てきて。「これはどういう意味だろう?」っていうことがいっぱいありますんで。その問いかけをぜひ、楽しんでいただきたいと思います。
(赤江珠緒)日本では今週末、1月29日から全国公開というスペイン映画『プラットフォーム』を今日はご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どもでした。
『プラットフォーム』予告編
<書き起こしおわり>