高橋芳朗 Rina Sawayamaと『作りたい女と食べたい女』を語る

高橋芳朗 Rina Sawayamaと『作りたい女と食べたい女』を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2022年11月29日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でRina Sawayamaのセカンドアルバム『Hold The Girl』について、漫画『作りたい女と食べたい女』などと関連付けながら話していました。

(高橋芳朗)ではまず、リナ・サワヤマさん9月16日出たセカンドアルバム『Hold The Girl』の紹介から行きたいんですけど。改めて、ちょっとプロフィールを言っておきますね。リナ・サワヤマさん、ロンドンに拠点を置く日本人シンガーソングライターで、1990年生まれ、新潟県出身です。で、1994年、4歳の時に家族でロンドンに移住して、2006年頃かな? 16歳頃から楽曲を制作して、ネット上にアップしたりするような活動を始めるんですね。

で、その後にケンブリッジ大学に進学して政治学、心理学、社会学の学位を取って、その一方で2013年から本格的に音楽活動をスタートします。で、2017年のミニアルバム『RINA』で注目を集めて、イギリスの人気レーベル。先月に特集したThe 1975が所属するDirty Hitと契約するんですね。で、この同時期ぐらいには自分がパンセクシュアルであることをカミングアウトしています。

で、2019年にはTBSテレビの『情熱大陸』で取り上げられて、日本での知名度も一気にアップして。その翌年、2020年のデビューアルバム『SAWAYAMA』でブレークして、ビルボードのプライド月間特別号の表紙を飾ったり。エルトン・ジョンとの共演が実現したり。あと、イギリス版グラミー賞のブリット・アワードで最優秀新人賞にノミネートされたり。コーチェラフェスティバルに出るし。あと、来年の春公開のキアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック: チャプター4』でメインキャストに起用されていて。

(宇多丸)これ、びっくりだよね!

(宇垣美里)楽しみ!

(高橋芳朗)トレイラー、見ました?

(宇多丸)うん。結構アクション、ガッツリやってますよね?

(高橋芳朗)キアヌと戦ってましたよね。

(宇多丸)だってドニー・イェン、真田広之、リナ・サワヤマってどういう……ねえ。すごいことになっていますよね!

(宇垣美里)濃ゆいよ(笑)。

(高橋芳朗)本当にメインキャストっぽいですね。あの感じ。

(宇多丸)ねえ。こちらもすごく楽しみね。

(高橋芳朗)そうそう。だから本当にもう一切の誇張なくですね、まさに今、最もホットなアーティストの1人として海外での人気を確立しているんですね。特にLGBTコミュニティーで強く支持されてるんですけど。でね、丁寧なかなかちょっとタイミングが合わなくて。9月16日に出てから、なかなか取り上げられなかったんですけど。でもリリースからちょっと時間が空いてでも紹介したかったのは、いくつか理由があってですね。まず、このニューアルバム『Hold The Girl』がイギリスのアルバムチャートで初登場3位の快挙を達成してるんですね。これはイギリスのアルバムチャートにおける日本人アーティストとしては史上最高位ということなんですよ。ものすごいことだと思うんですけど。あと来年1月に初の単独来日公演が決まっていて。

(宇垣美里)これは何としてでも行かねば!

(高橋芳朗)行かねば!

(宇多丸)これはもう、宇垣さんがもうスマホの前に張り付いています!(笑)。

(高橋芳朗)それもあるし。あとね、今回ちょっとすごい決め手になった要素としてはですね、今日からドラマがスタートするんですけど。漫画の『作りたい女と食べたい女』。

(宇垣美里)大好き!

(高橋芳朗)宇垣さんも著書『今日もマンガを読んでいる』で取り上げていたし。アトロクでも紹介していましたよね?

(宇垣美里)はい。しました。トミヤマユキコさんに紹介していただいたりとか。あと、座談会みたいなのにも出ましたね。この本がなんでそんなに素晴らしいのか、みたいな座談会にも出ましたし。すごく好きな作品で。

(高橋芳朗)これ、超ざっくりあらすじを紹介すると、料理をたくさん作りたい小食の野本さんと、料理をたくさん食べたい同じマンションに住む春日さん。その2人の間に交流が生まれて、頻繁に食事を共にする中で、互いに惹かれ合っていくみたいなお話ですけど。この『作りたい女と食べたい女』の今月15日に発売になった最新刊の3巻。ここに「選ばれた家族」っていうタイトルのエピソードがあるんですよ。

第26話なんですけど。これは自分の家族との関係に悩んでいた「食べたい女」の春日さんが、ラジオから流れてきた曲……厳密にはラジオから流れてきた曲と、パーソナリティーらしき人物によるその曲の歌詞の解説を聞いて、自分の中のある感情に気づくっていう感動的なシーンがあるんですよ。

で、この曲ははっきりとは明かされてはいないんですけど。その解説から察するに、おそらくリナ・サワヤマさんの『Chosen Family』だと思うんですよね。宇垣さん、覚えていらっしゃいますか?

(宇垣美里)いや、大好きな曲ですよ!

(高橋芳朗)ですよね? 大好きと大好きが激突してるような感じですよね。で、この『Chosen Family』は以前に、このコーナーでも紹介しましたよね。血の繋がりや法的な関係はないけど、家族のような深い絆で支え合う人々のコミュニティーを「Chosen Family」って呼ぶんですけども。そのChosen Familyは性的マイノリティの人たちによって形成されていることが多くて。まさにそのリナさんの『Chosen Family』はLGBTQコミュニティーに捧げた曲で。カミングアウトしたことによって、実の家族だったり、友人から疎外されてしまった性的マイノリティ同士の繋がりを祝福する歌になってるんですけど。

でも、さっきも言ったように、この漫画の劇中はっきりと言及されているわけではないので、本当にリナさんの『Chosen Family』だとは断定はできないんですけども。

(宇多丸)でも、そのタイトルからして、まあまあ……。

(高橋芳朗)おそらくはそうなんじゃないかなって。で、最初に読んだ時にこのシーンにめちゃくちゃ感銘を受けてい。去年の東京オリンピックの閉会式で『Chosen Family』が使われたことに僕、非常にモヤモヤしていたこともあって。なおさらグッと来るものがあったんですよね。

「選ばれた家族」と『Chosen Family』

(高橋芳朗)で、『作りたい女と食べたい女』って、この3巻の発売に合わせて日本の同性婚法制化の実現を目指すチャリティープロジェクトを始動させてるんですね。「#物語のままで終わらせない」っていう。これ、Twitterで検索すると出てくると思うんですけども。それとちょうど明日、同性婚裁判の判決が東京地裁で言い渡されるんですよね。その行方も非常に気になるところですけど。

(高橋芳朗)その『作りたい女と食べたい女』のエピソード「選ばれた家族」を読んで、やっぱりちょっとリナさんの曲は取り上げていきたいというか。社会的メッセージソングは積極的に取り上げていきたいなと改めて強く思ったんですよ。しかも、ラジオから聞こえてくる歌詞のメッセージの解説が登場人物の心を動かすシーンだったから、余計になんか使命感みたいなものを感じてしまって。

(宇多丸)たしかに。

(高橋芳朗)で、ちょうどそんなことを考えた時に、ユニバーサルミュージックが運営してる『uDiscovermusic』っていう音楽サイトがあるんですけど。ここにね、リナ・サワヤマさんのロンドンのライブレポートがアップされたんですよ。同じぐらいのタイミングで。その第3巻の発売日と。で、その見出しが「しかるべき愛や謝罪に恵まれなかった あなたのために歌う」ってあったんですよ。これ、リナさんがステージでオーディエンスに語りかけた言葉から取ったものみたいなんですけど。個人的にはこの言葉に彼女が支持される理由が集約されてるように感じたんですね。

(宇多丸)うんうん。

https://www.udiscovermusic.jp/columns/rina-sawayama-london-live-report-2022

(高橋芳朗)今回のリナさんの新作『Hold The Girl』って、彼女の10年に及ぶカウンセリングの経験に基づいていて。子供の頃の家庭環境からトラウマになったその負の感情。いわゆるインナーチャイルドと向き合うこととか、インナーチャイルドに癒しを与えることがアルバムの大きなテーマになっているんですね。で、タイトルの『Hold The Girl』はそういう経緯から名付けられていて。「内なる過去の自分を抱きしめてあげて」みたいな意味になるんですよ。

で、それを踏まえると、彼女がステージからオーディエンスに語りかけた、その「しかるべき愛や謝罪に恵まれなかった あなたのために歌う」っていうメッセージの決意と優しさにはやっぱり、心を動かされるものがあるっていうか。さっきの『Chosen Family』も含めて、この寄り添い方がリナさんの真髄なんじゃないかなって思いますね。

(宇多丸)これはでも、本当に苦しい思いをしてきた人の言葉でもありますからね。きっとね。

(高橋芳朗)なので、ちょっとそのアルバムのタイトル曲『Hold The Girl』をまず聞いてもらいたいんですけど。サビの部分の歌詞をちょっと紹介しますね。こんな内容です。「胸の内まで手を差し出して、あなたを抱き寄せる。決してあなたを1人ぼっちにしない。昔、私が知っていた言葉を教えてほしい。そう。とっくに忘れてしまったから。私は覚えていたい。彼女は私で、私は彼女だということを。だからその女の子を抱きしめて」というサビになっております。じゃあ、聞いてくださいリナ・サワヤマで『Hold The Girl』です。

Rina Sawayama『Hold The Girl』

(高橋芳朗)はい。リナ・サワヤマのニューアルバムのタイトル曲ですね。『Hold The Girl』です。リナさん、さっきも言ったような聞き手に寄り添ったメッセージもさることながら、このアリーナ映えするサウンドも非常に大きな武器になっております。

(宇多丸)ねえ。なんかわかんないけどさ。レディー・ガガとかのラインみたいなところにも行きそうなぐらいの感じのスケール感を感じますね。

(高橋芳朗)まさにそうですね。レディー・ガガ流儀のダンスポップ、エレクトリックポップですよね。

(宇多丸)活動スタンスっていうところでもね、通じるところもあるし。

(高橋芳朗)でも、それを彼女はインディー的なポジションから歌ってるのがなんか、フレッシュなのかなっていうのもあるし。あと、ABBAみたいなユーロポップの影響も感じるし。

(宇多丸)ああ、そうかも! ユーロポップっぽいかも! 湿り気があります。

(高橋芳朗)ねえ。あと、本人がすごい大好きみたいなんだけども。J-POP風のキャッチーなメロディーもミックスされているようなところもあって。

(宇多丸)たしかに。なんか今のアメリカ純正のダンスミュージックのバキバキなケミカル感がないとか。

(高橋芳朗)完全に結構独自のスタイルかもっていう感じがするんですよね。

(宇多丸)たしかにそうかも。だからこれ、ますますリナさん、これから大きな存在になっていくかもしれないですね。

(高橋芳朗)間違いないと思うんですよね。

(宇垣美里)ついていくぜ、ずっと!(笑)。

(高橋芳朗)そんなリナさんの現時点での最高傑作のひとつと思ってるのは、今回の新作の第1弾シングルの『This Hell』っていう曲なんですよ。音楽的には今、話したような要素に加えて、彼女がパンデミック中に結構聞いてたっていうカントリーポップとハードロックのエッセンスを導入してるんですけど。このスタジアムロック的なおおらかさや解放感と、歌われているメッセージとの相性が抜群なんですよ。この曲の歌詞について、リナさんはこんな風にコメントしてるんですね。

「伝統的な宗教観という名のもとにマイノリティー、特にLGBTQコミュニティーから人権が急速に奪われています。『あなたは愛や保護に値しない』と世界に言われてしまったら、コミュニティーメンバーがお互いに愛と保護を与え合うしかありません。だからこんな地獄(This Hell)はあなたと一緒にいる方がベターなのです」っていう風に話していて。

歌詞はこんな内容なんですよ。ちょっと最初のバースを読みますね。「モーテルの向かい側の角に貼ってあったポスターを見た。それによると私は地獄行きなんだって。理由は自分らしくいようとしているから。私が何をしたのかわからないけど、みんな激怒しているみたい。神様は私たちのことを嫌っているって。そうなんだ。じゃあ、シートベルトを締めて、夜が明けたら出発しよう。こんな地獄もあなたと一緒なら悪くない。一緒に燃え上がろう。ベイビー、お互い気持ちは同じ。だって悪魔はプラダを着ているから」っていう。もう最高すぎる!

(宇垣美里)たまんねえ!

(高橋芳朗)たまらないっすよね? これは勇気づけられる人、本当にたくさんいるんじゃないかなと思うし。結構、そういうコミュニティーでアンセムとしてずっと歌い継がれていくことになるんじゃないかなと思うんですよね。はい。では、聞いてみましょうか。リナ・サワヤマで『This Hell』です。

Rina Sawayama『This Hell』

(高橋芳朗)はい。リナ・サワヤマで『This Hell』。最高!

(宇多丸)さっきの歌詞の、要するに現実のいろんな背景を踏まえた上でのさ、でもこの曲調というか。そこのかっこよさだし。今、宇垣さんも言ってたけど、今時のエンパワーメントソングのバランスっていうかさ。

(宇垣美里)そうですよね。Lizzoの時もすごく、割としんみりとした内容を歌ってるのに、曲調は明るいじゃないですか。

(高橋芳朗)アッパーですよね。

(宇垣美里)そう。だから聞けるってのもおかしいですけど。「ぶち上がってやんぜ!」みたいな気持ちになるっていうか。

(宇多丸)「いや、こっちは全然ノリノリだぜ? ダセえのはお前らなんだけど?」みたいなさ。その感じがやっぱりいいし。新時代の……。

(高橋芳朗)「地獄上等だぜ!」っていう。

(宇垣美里)そう! 「ぶっ飛ばしてやんよ!」みたいな感じが最高!

(宇多丸)いや、本当にいいですよね。

(高橋芳朗)この曲もでも、ちょっとJ-POPみがあるっていうかね。メロディー的にね。

(宇多丸)なんかやっぱりちゃんと湿り気があるっていうかね。

(高橋芳朗)これはやっぱり彼女独自のスタイルだと思うんですよね。

(宇多丸)めちゃくちゃいいと思いますよ。

(宇垣美里)上がるわー!

(高橋芳朗)上がるわー! 今年の本当、ベストシングルの1曲だなっていう感じ、しますよね。

(宇垣美里)だから本当に、教えてくださってありがとうございます! あの日から私、リナに夢中です!

(高橋芳朗)僕も宇垣さんに漫画、教わってますから(笑)。

(宇垣美里)フフフ、ありがてえ(笑)。

(宇多丸)でも、好きなものと好きなものとがね、両方入って(笑)。でも本当にマジで最高なんで。アルバムもね。

(高橋芳朗)で、今週ぐらいからもう海外の各音楽メディアが年間ベストアルバムを発表し始めてるんですよ。で、たぶんね、リナさんの『Hold The Girl』を上位に選ぶところも多いと思うんですね。もう早速ね、結構影響力のあるイギリスの老舗レコードショップ、ラフ・トレードのランキングでは第5位に選ばれていたこともあるから、結構期待できると思うんですよ。これでね、良いテンションで来年1月の来日公演を迎えられるといいなって思っております。

(宇垣美里)楽しみ!

(宇多丸)これからたぶん、もっともっとすげえデカくなっちゃう可能性あるから。このぐらいのキャパで見られる最後のチャンスの可能性、高いと思う。俺、会場を見て「あれ? 意外とそんなキャパじゃないな」って。

(宇垣美里)「東京ガーデンシアター?」っていう。

(高橋芳朗)次はちょっとね、2倍、3倍ぐらいのところに行くんじゃないかなって。

(宇垣美里)ねえ。チケット争奪戦とかになりそうなところを。

(宇多丸)っていうか、こんなラジオをやってるとね、インサイダー取引的に先に取っておいた方がよかったかもしれない(笑)。

(宇垣美里)ダメだ、ダメだ(笑)。私がチケットを取ってからにしてくれ!(笑)。

(宇多丸)でも本当にリナ・サワヤマ、今回のアルバム、本当に最高だったと思いますよ。

(高橋芳朗)ぜひ皆さん、チェックしてみてください。

(宇多丸)あと、『ジョン・ウィック』に出たらますますスターになっちゃうね。

(高橋芳朗)ガチャ、当ててくださいよ。

(宇多丸)ああ、もちろんでございます(笑)。

(宇垣美里)ジョン・ウィックが出れるのかな?っていうぐらい、他の人が濃すぎて……(笑)。

(宇多丸)だからさ、真田広之、ドニー・イェン、リナ・サワヤマがいたらもうジョン・ウィックはいらないんじゃないかな?っていうね(笑)。

(高橋芳朗)すごいよね。本当に。

(宇多丸)あっちもね、予告を見るだにめちゃくちゃ楽しみにしていますので。

<書き起こしおわり>

宇垣美里 Rina Sawayama東京公演を語る
宇垣美里さんが2023年1月24日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でリナ・サワヤマの『HOLD THE GIRL TOUR』東京公演を見に行った際の模様を話していました。

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