星野源 VHSやラジオのノイズの魅力を語る

星野源 VHSやラジオのノイズの魅力を語る 星野源のオールナイトニッポン

星野源さんが2022年11月22日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でVHSビデオに録画されたものやラジオなどのノイズの魅力について話していました。

(星野源)なんか、寒くなってまいりましたね。本当に。もう本当に今年が終わるぞという、そういう感じがひしひしとさらに強くなってきて。正式にというか……もうやだー。本当に早い。早いよう! 人生が……やりたいことがいっぱいあるのにさ、やれないまま過ぎていくストレスってなんか、ありますよね。そんな中ですね、今日、朝ご飯を作ってて。ふと、頭の中で鳴ったメロディーがあったんですよ。

で、すごい好きな曲なんですよ。すごい好きな曲なんだけど、でもよく考えたら俺、この曲のタイトルを知らないなと思って。タイトル、ちゃんと調べたことない。かつ、たぶん音源だけで最初から最後までちゃんと聞いたことないなって思ったんですよ。で、この番組でもよく、言うじゃない? 有名すぎて、ちゃんと音源で最初から最後まで聞いたことがない曲って、あるよねみたいな。あまりに有名で、テレビでもラジオとかでも何回も流れるし。

だから、聞いたことは絶対あるんだけど。で、割と歌えたりとかもするんだけど、音源でわざわざ聞いたことがないみたいな。それが本当、ふとした時に頭の中で鳴ってて、自分も歌ってるみたいな。「あれ、この曲、なんだっけ?」みたいになって調べたんです。で、その曲名もわからないし。歌詞も英語の曲なんで、一部分しかわかんないわけ。本当、1単語しかわからなくて。「これ、たぶん○年代ぐらいの曲だよな」みたいなことしかわからなくて。「これはもうやっぱりネットで調べるしかないぞ」と思って。その歌詞だけ入れて。○年代で、曲調はこれで、みたいな。検索のワードに入れたら、一発で出てきて。「すごいね! あ、これこれ!」って思って。

でもね、それがね、日本語タイトルっていうか。日本のタイトルと原曲のタイトルが違ったんですよ。で、またこれ、どっちがどっちだか、よくわかんないってなっちゃって。で、日本のタイトルでカタカナで出てきたから、「たぶんこれだ!」ってなって。で、その前にApple Musicで英語で検索したら、全然違う曲が出てきちゃっていて。「あれ、違うな?」と思って、YouTubeで検索しても違う曲しか出てこない。で、よく調べたら、その邦題が英語というか、カタカナ英語なんだけど。それは原題の英語のタイトルとは違うみたいな。「ややこしい!」ってなって。

で、もう1回、調べたら原題が出てきた。「ああ、これか!」みたいな。で、その日本で売る時にタイトルをわかりやすくしたのかな、みたいな感じだったんです。結局、たどり着けて。で、最初にたどり着いたのがYouTubeだったんですよ。YouTubeで、それがアップされてたのがミュージックビデオだったんだけど。そのミュージックビデオがね、なんか古くて。おそらく、公式じゃないんだけど。たぶん海外の誰かがVHSテープとかベータとかで録っていて。それを上げてるやつだったの。

で、「ああ、これだ、これだ」とか思って見たのよ。そしたらもう本当にいい曲すぎて、涙が出ちゃったの。「すげえいい曲だ!」と思って。初めて、意識してちゃんと最初から最後まで聞いて。「なんて最高なんだ!」と思って。それを何回も聞いたわけ。それで今、YouTubeってさ、以前はね、違法アップロードとか、いろいろあったじゃないですか。だけど今は、自動的にその曲を感知して、権利者の元にお金が行くような仕組みになっているんです。他の誰かが上げていても。

で、その権利者とかレコード会社とかは基本的にはもうYouTubeと繋がってるから。「この曲をYouTubeで上げたくない。別にそれでお金、ほしくないし。他の人に勝手に上げてほしくない」っていう人はその申請をレコード会社ごと、しているから。もう載ってる時点で、それはもう違法ではないっていうか。権利者がそれを認めているみたいなことなんですよ。

いわゆる、その会社として大きくないとか、正式なレコード会社を持たないインディーズの方とか、そういう人はちょっとまたグレーな感じだとは思うんだけど。でも、特に海外の曲とか有名な曲とかは、そういうの見ても……というか、むしろもっと見た方がいいみたいな。だからそれは気にせず見ていて。で、「これ、自分のApple Musicで保存しよう。Apple Musicの中の正式な音源をちゃんと聞こう」と思って、それを聞いたんですよ。

そしたら、そのYouTubeで見たVHSを通した音の感動がなかったんですよ。で、「あれ?」ってなって。すごいきれいな音だし、すごいいいんだけど、あのVHSを通したあの悪い音がもう曲にマッチしすぎていて。その時の感動とはまたちょっと違う、「ああ、ちゃんと楽曲が聞けるね」っていうな感じだったんですよ。なんか改めて、前からそうは思っているんですけど。「いい音=きれいな音」ではないっていうのをすごく改めて思ったんですよね。

「いい音=きれいな音」ではない

(星野源)で、なんか自分が音楽を作る時も、どうしてもきれいな音にしなきゃとか、ノイズを少なくしなきゃとかって思うんだけども。逆にノイズが合う曲なんだったら、あった方がいいし。それはもっと感覚で決めるべきだなと改めて思いましたね。で、YouTubeを見た段階で「これはもう絶対に今日のラジオの1曲目だ! みんなと共有したい。この曲の良さを」って思っていたんだけども。それをちゃんときれいな音源を聞いた時に「あれ? これは俺が言いたい意図が伝わらないかも?」って思ったんだけど。「でも、ちょっと待ってよ? ラジオだぞ?」ってなって。(アナログ磁気テープの)VHSを通すお供いいんだけど、AMラジオの音はね、またね、超いいんですよ。

で、これはもしかしたら……AMじゃなくて、FMでもいいんだけど。「この曲はラジオを通した時に一番力を発揮する曲なんじゃないかな?」って思ったんですよ。でもRadikoって割とね、音源に近いというか。比較的きれいではある。でも、ラジオコンプ、ラジオリミッターはかかってるはずなんで。音源を直で聞くよりかは、僕の意図通りにたぶんあなたの耳のもとに届くわけですよ。あと、たぶん一番いいのは車に乗って聞いている方だと思うんですよね。車のラジオって、いわゆる電波を受信してさ、聞くわけじゃない?

で、AMラジオの音ってさ、なんていうか、本当に独特じゃない? で、言葉を選ばずに言うと、本当に音質が悪かったりするじゃない? 場所によっては。だから、車に乗って、しかも夜景とかを見ながらこの曲を聞くのがおそらく一番いい音っていうか……俺が考えるね。他のいわゆる、もちろん作者の方とか、プレイヤーの方とかは全然、もちろん違うと思うよ。

だけど、俺が勝手に考えるね。そう。だからそれをですね、皆さん。あなたの使っている、このラジオを聞いているデバイスだったりとか、機器とか。イヤホンでもいいし、スピーカーでもいいんだけど。たぶんそれぞれ、全部違う音がすると思うんですよ。でもそれぞれたぶんね。俺が言いたい意図はたぶん伝わると思うっていうぐらい、いい曲になってるはず。なので、この曲をまずちょっとみんなに聞いてほしいし、一番最初にかけたいと思います。それでは、行きましょう。1曲目。クリストファー・クロスで『Arthur’s Theme(Best That You Can Do)』。

Christopher Cross『Arthur’s Theme』

(星野源)最高だぜ! いい曲だなー。お送りしたのはクリストファー・クロスで『Arthur’s Theme(Best That You Can Do)』。日本題は『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』とかいう感じだと思いますね。福岡県の方。「僕はラジオを実機で聞いているんですが、源さんの言ってる意味がわかりました。ちょうどいいノイズ具合と曲がマッチして、80年代のラジオをタイムスリップして聞いたような感覚になりました」。そうそう。80’sね。この曲も80’sだと思うんだけど。

足立区の方。「僕の使っているDAWのプラグインRC22はVHS風の音質に変えられるものがありました。現在でもそういう需要があるんでしょうね」。本当、そうなんだよね。あれだよ。映像とかもさ、スマホの映像もガンガンきれいになってるけど。みんなさ、VHSのアプリとかを通すだけじゃない? エフェクトとか。面白いよね。頑張って画質を悪くしてるっていうかさ。だからあの頃の人たちはもっときれいなのにしたいから超頑張ってたわけじゃない? だから本当に不思議だよね。音もそうだし、やっぱり自分も作ってても、やっぱり「音を悪くしないと」っていうのがすごいあるというか。

きれいだと伝わらない質感みたいのがやっぱりあって。そうそう。このプラグインもね、全然使ってます。いや、わかるわかる。だからね、本当に、音は面白いですよね。なんかAMラジオとFMラジオの音の違いもそうだし。あ、そうそう。石田ゆり子さんのラジオにね、お邪魔した時もやっぱりFMとAMのさ、コンプのかかり方が全然違うじゃないですか。

やっぱりあのコンプのかかり方とか、しゃべる時の、なんていうの? 耳ざわり? わかんないけど。なんか全然違うんだよね。AMとFMって。で、雰囲気もさ、違くてさ。だからたぶん声量とか、違うんですよ。FMの人って、すごい声がちっちゃくてもめちゃめちゃデカく、コンプで上がってきたりするから。声が小さい人でも、なんかいい感じにね聞こえたりとか。だからボソボソしゃべる番組もさ、結構あったりするじゃない? 番組によっては。

でもAMは割とはっきりしゃべる人が多かったりとか。で、AMはモノラル放送だから。音楽はそんなにかけないとかね。なんかいろいろあるけど。面白いよね。だから、ぜひ皆さんの音楽も聞く際に、いろんなあれで聞いてみてください。スマホでもいいし、それこそYouTube越しでもいいし、テレビ越しでもいいけど。それもまた感じ方がね、変わると思います。で、僕の曲もたぶんね、いろいろあるんですよ。

そうそう。あとスマホのスピーカーが一番いいとかもあるしね。僕もミックスする時はスマホのスピーカーでちゃんと流して。それでいい感じに聞こえるかっていうのをちゃんと、ミックスの時にやりますね。

(中略)

(星野源)メールが来ました。「昔、ユニコーンのアルバムで野外レコーディングしたものがありました。焚き火の音や、鳥の鳴き声とかが入っていて、すごくよかったです。きれいな音よりいいと思いました。『ヒゲとボイン』のアルバムです」。はいはい。『風』ですよね。『風』と『風 II』だったと思う。曲名。あれ、いいよね。

そうそう。今、もうあのスタジオ、ないんですよ。あれ、スタジオの外でね、たしか録っているはずで。僕は前、なんかの……SAKEROCKかな? そこのスタジオで録ったりした記憶がありますね。懐かしい。外が割と庭みたいになっていて、泊まれるんですよ。ちょっと遠いんですけど。そうそう。だから泊まり込みでレコーディングするような場所ですね。あれ、いい音だよね。わかるわー。

続いて。「オープニングの話を聞いていて、今住んでる部屋の契約を不動産屋でしていた時に、不動産屋に置いてあったFMラジオから源さんの『ギャグ』がかすかに聞こえてきたことを思い出しました。いつもと違う環境・音質で聞いたからか、記憶に強烈に残ってる気がします」。ああ、わかるわかる! 店内BGMのスピーカーとかね、独特な音がするよね。

それでね、でももう1個、言いたいのは「悪い音だからいい」ってことともまた違うんですよ。で、これはまだ聞いてないんだけれども。クリストファー・クロスのきれいな方の音は、僕の作業場で、いいスピーカーで、でっかい音量で聞いたらめちゃくちゃいいんだと思うんだよね。またイヤホンとかで聞くと「VHSを通した音がよかったな」みたいになるんだけど。

またね、ちゃんといい音で、ちゃんとしたスピーカーで聞くってなると「なるほどね!」ってなることがいっぱいあるんで。それもね、まあ結構限られるかもしれないけど。だから皆さん、ステレオに凝るみたいなのはすごいわかるんですよね。あのね、曲の表情がもう全く変わって聞こえる曲とかがありまして。「こういうことか!」みたいな。だからね、本当に奥深いなと思います。

オーディオの奥深さ

(星野源)きれいな音で聞いた方が、ものすごい表現力があるスピーカーで聞いた方が、ノイズがちゃんと聞こえていいとか、あるんですよ。そう。かすかなノイズが聞こえるとか。アナログノイズの細かなギザギザとか聞こえていいみたいなものもね、あるんですよね。そうやってみんな、沼にはまっていくんですよ。オーディオ沼に。面白いですね。だからちょっとゴールっていうか、これが正解というのがないのが僕はいいと思います。

<書き起こしおわり>

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