町山智浩さんが2008年3月にTBSラジオ『ストリーム』で映画『スター・ウォーズ』のレイア姫役で有名な女優のキャリー・フィッシャーについてトーク。彼女の知られざる波乱万丈な半生について話していました。
(町山智浩)今日はですね、『スター・ウォーズ』の話をいきなりするんですけども。うちの近くに『スター・ウォーズ』のレイア姫が来ましてライブをやったんですね。それを見た話をちょっとしたいと思います。
(小西克哉)はいはい。
(町山智浩)『スター・ウォーズ』のレイア姫っていうと、キャリー・フィッシャーっていう女優さんなんですけども。この人がモノローグのステージをやったんですね。
(小西克哉)モノローグ……独演会っていうことですか?
(町山智浩)これはアメリカで伝統的で日本にはあまりないんですけど、自分の人生をステージの上で振り返るんですよ。そういうショービジネスがあるんですよ。伝統的に。
(小西克哉)それで生計を立てている人もいるんでしょ?
(町山智浩)いっぱいいます。プロのモノローグの人とかもいるんです。それをキャリー・フィッシャーがやっていまして、それを見に行って面白かったんですけども、その話をしたいんですが。彼女、今年で51才なのかな?
(小西克哉)ああ、レイア姫、もう51才。
(町山智浩)この人、レイア姫をやった時は10代だったんですね。
(小西克哉)ティーンエイジャーですか。
(町山智浩)でもね、当時からおばさんみたいな顔をしていた人なんです(笑)。だからあんまり変わらないんでね。「歳とったな」とかは思わないんですけど。
(小西克哉)たしかに、なんか目がぱっちりでどうこうっていう少女の感じじゃないよね。
キャリー・フィッシャーの独演会
(町山智浩)そうなんですよ。ちょっとオバンくさい感じなんですけども。それで、いきなり出てきて「私はアル中で精神病です」ってステージの上で言うんですよ。
(小西克哉)その独演会で。
(町山智浩)そうなんですよ。レイア姫が。で、どうしてそうなったか?っていう話をずっとするんですけども、それが結構すごい話で。まず、このキャリー・フィッシャーっていう人はお母さんとお父さんがものすごく有名な人なんですね。お父さんは昔、『Oh! My PaPa』っていうヒット曲があったんですけど……
(小西克哉)「オー、マイパパ♪」とかいうんでしょ?
(町山智浩)そうそうそう。あれを歌っていたエディ・フィッシャーっていう歌手で。まあ、当時の男のアイドル歌手ですね。
(町山智浩)で、お母さんの方はデビー・レイノルズっていう、ミュージカルの『雨に唄えば』のヒロインですよ。
(小西克哉)はー、そりゃすごいな。
(町山智浩)その2人の間に生まれて。ただ、すごい芸能一家だなと思うんですけど、キャリー・フィッシャーは「全然覚えていない」って言うんですよね。2才の時に父親のエディ・フィッシャーはエリザベス・テイラーと駆け落ちして、家を出ていったんでお父さんのことはよくわからないと。
(小西克哉)エリザベス・テイラーと駆け落ちしたんだ。
(町山智浩)これは大スキャンダルになったんですよ。
(小西克哉)バート・レイノルズの間になんかどっかで入っているわけだね?
(町山智浩)デビー・レイノルズは奥さんで、バート・レイノルズは名前は同じですが無関係なんですが。
(小西克哉)ああ、リチャード・バートンだ。失礼(笑)。
(町山智浩)そう。エリザベス・テイラーはその後にリチャード・バートンの方に走って、エディ・フィッシャーはまた捨てられちゃうんですけどね。エディー・フィッシャーはその後、たしかサンドラ・ディーかなんかと結婚していたんですが。たしか。あ、サンドラ・ディーじゃない。もう1人のアイドル歌手でしたけども。そういうアイドル歌手食いの男だったんですね。お父さんは。
(小西克哉)アイドル歌手食い(笑)。
(町山智浩)で、お母さんの方はそれで捨てられちゃって。ただまあね、「世界一の美女と言われたエリザベス・テイラーに旦那を取られたから、あまり恥ずかしくない」っていう話もおかしかったですけどね(笑)。
(小西克哉)ああ、女性として微妙な心理ですよね。
(町山智浩)すごく微妙な。というか、えばっていいのか何なのか?っていう感じですけども。その後にエリザベス・テイラーと仲良くなったんですよ。この親は。「ひどい男に騙されたね、お互い」っていう話でね。
(小西克哉)ああー。
(町山智浩)で、このお母さんのデビー・レイノルズはその後、億万長者と結婚しまして。おじいさんだったんでもう逃げないだろう、みたいな感じだったんですけど、その億万長者の……靴を作っているメーカーの人だったんですけども、事業に失敗してものすごい負債を抱えて。とうとう、キャリー・フィッシャー自身は16才だったんですけど、「うちはお金がないから、あんたも働きなさい」っつって、ナイトクラブのドサ回りに連れて行かれたらしいんですよ。
(小西克哉)キャリー・フィッシャーがね。
(町山智浩)キャリー・フィッシャーが。だから、「ハリウッドの大スターの子供」って言われているけども、実際は全然金がなくて。ドサ回りさせられて学校をやめさせられたって言ってましたよ。
(小西克哉)そら辛いですね。
レイア姫のオーディション
(町山智浩)だから「ゲゲッ!」みたいな感じなんですけども。で、『スター・ウォーズ』のオーディションを受けたと。その話も結構面白かったですね。「私、絶対に負けると思った。オーディションに受かるとは絶対に思わなかった」って。というのは、オーディションで絶対に受かると思われていたレイア姫役の人はですね、ジョディ・フォスターだったらしいんですよ。
(小西克哉)ひえーっ!
(町山智浩)で、ジョディ・フォスターはきれいでしょ? 昔は、すごく。
(小西克哉)いや、いまでも俺、きれいだと思うんだけど。
(町山智浩)いまでもきれいですけどね。僕と同い年ですけど。ジョディ・フォスターは。この人、子供の頃からすごくエロチックなんですよね。
(小西克哉)だって『タクシードライバー』の時からもうエロチックだったもんね。
(町山智浩)まあ、本当はレズですけどね(笑)。すごいとんでもないやつですね。ものすごくエロいくせにレズっていうね。
(小西克哉)男にとってはけしからんよね(笑)。
(町山智浩)けしからんものがありますけど(笑)。ただ実はジョージ・ルーカス監督はレイア姫をジョディ・フォスターにしようとちょっと思っていたみたいなんですよ。ただね、奥さんがすごく嫉妬深くて。すごくきれいな女の子にすると、ジョディ・フォスターはちょっとロリが入っているんで、なんかするんじゃないか? と。
(小西克哉)「危ないぞ!」と(笑)。
(町山智浩)「それで、ちょっと落ちるのにしたということで、私が選ばれたのよ!」ってキャリー・フィッシャーは言ってました。
(松本ともこ)本当かな?(笑)。
(小西克哉)それは彼女がそう思っているんでしょう。キャリー・フィッシャーが。
(町山智浩)でもね、やっぱりね、それでも結構撮影中は……実はキャリー・フィッシャー、すごいおっぱいが大きいんですよ。すごくおっぱいが大きいので、レイア姫の格好ってなんか変な白い布を体に巻き付けているでしょう?
(小西克哉)そうそうそう。
(町山智浩)天女の羽衣みたいなのを。だからあれ、おっぱいが丸見えになっちゃうんですよね。揺れたりとか、動きとか全部見えて。で、「これじゃあおっぱいが刺激的すぎて困る」みたいな話でジョージ・ルーカスが異常に意識し始めて。「じゃあ私、ブラジャーしましょうか」ってしたらしいんですけど、「おかしい。ブラジャーをすると全然宇宙の感じに見えないよ」と。ブラジャーって要するに現代的じゃないですか。
(小西克哉)ああ、ブラジャーのラインが透けて見えるの?
(町山智浩)そうそう。ブラジャーのラインがどうしても見えちゃうんで。なんか、浮世の感じがしちゃってはるか彼方の銀河系に見えないと。
(小西克哉)ああ、ブラジャーラインを消すためにはノーブラでないとダメだと。
(町山智浩)そう。でもノーブラだとおっぱいが揺れて困ると。それでルーカスがめちゃめちゃ悩んで、「ガムテープでくっつけろ!」ってガムテープでグルグル巻きにしたって言ってましたよ。
(小西克哉)(笑)。ガムテープで!?
(松本ともこ)痛そう!(笑)。
(町山智浩)そう。だからキャリー・フィッシャー、すごい怒っていて。「いまでも『スター・ウォーズ』のことを思い出すと、生乳をガムテープでグルグル巻きにしたあの痛みを思い出す」って言ってましたね。
(小西克哉)なんかレースクイーンみたいだね(笑)。
(町山智浩)そう(笑)。大変な目にあったって言ってましたよ。
(小西克哉)さすが、おっぱいネタは細かいですね、町山さん!
(町山智浩)いや、俺が言ったんじゃなくて、本人が言ってたんですよ(笑)。それで、まあお団子ヘアーのレイア姫で一世を風靡しましたけど。でも、あの後仕事が全くなかったんですって。
(小西克哉)どうしてですか?
(町山智浩)『スター・ウォーズ』のレイア姫っていうことだけで、どんな映画に出ても色がついちゃうから。
(小西克哉)ああ、もうレイア姫の匂いが消えないんだ。
(町山智浩)そうなんですよ。だからオーディションとかも全然受からなくて。もう仕事がなくて。その一発でもう芸能人生が台無しって言ってましたね。
(小西克哉)へー!
(町山智浩)もう『スター・ウォーズ』で終わっちゃったと。で、その後、グレまして。『ブルース・ブラザーズ』のジョン・ベルーシたちと付き合ってコカインとかを覚えて。まあ、すごく悪くなったんですけども。
(小西克哉)ポール・サイモンと結婚したのってその前ですか?
(町山智浩)その後ですね。で、ポール・サイモンと結婚しまして。26ぐらいでですね。で、ポール・サイモンの歌にいっぱいキャリー・フィッシャーのことって出てくるんですよ。
(小西克哉)あ、なんかそれ、聞いたことあるわ。
(町山智浩)でも、ロクな歌詞じゃないんですよ。「彼女といるとケンカばっかり」とかそんな歌詞ばっかりでね。「彼女は俺をすごく疲れさせる」とかそんな歌詞ばっかりで。3曲か4曲、自分の奥さんについてポール・サイモンは歌っているんですけど、全然褒めていないんですけどね。
(小西克哉)ああ、そうなんだ。何の歌だっけな?
(町山智浩)大変だったみたいですね。精神的に強い者同士で、言い争いで。
(小西克哉)もうすぐに離婚したんですよね?
離婚後、酒とドラッグに溺れた体験を手記に
(町山智浩)1年ぐらいで離婚しちゃうんですけど。で、それからますます酒とコカインと薬に溺れていって、30才ぐらいで死にかけるんですけど。その後、その体験をそのまま書いた手記が映画化されたんですよ。これはメリル・ストリープ主演で映画化されましたね。
(小西克哉)なんていう映画なんですか?
(町山智浩)これは『Postcards from the Edge』っていうタイトルで。映画の日本タイトルが『ハリウッドにくちづけ』っていうよくわからないタイトルになっていますね(笑)。
(小西克哉)邦題が『ハリウッドにくちづけ』。直訳すれば、「崖っぷちからのハガキ」?
(町山智浩)「崖っぷちからの手紙」。要するにコカイン中毒とかで死にそうになった状態から書いた手記なんで、「崖っぷちからの手紙」なんですけど。で、それがキャリー・フィッシャーの役をメリル・ストリープが演じて。で、お母さんの役をシャーリー・マクレーンが演じた映画なんですけども。
(小西克哉)「崖っぷち」と言えばシャーリー・マクレーンだね(笑)。
(町山智浩)シャーリー・マクレーンが出てくるんですけどね(笑)。まあ、キツいおばさんっていうことなんでしょうけどね。で、それがアメリカでは当たったんですよね。その本がベストセラーになって。で、なんかハリウッドの方が「あなたは才能があるから」って、シナリオドクターっていう仕事をやることになったんですね。その後に。シナリオドクターっていうのは実際にあるシナリオを読んで、「ここがよくない」とか「このセリフはこう直した方がいい」っていう。
(小西克哉)赤を入れるの? シナリオに。
(町山智浩)そう。シナリオを直す係の人がいるんですよ。クレジットはされないんですよ。そういった仕事って。で、一発だけで著作権は持てないんですけども、すごい仕事の量があるんですよ。
(小西克哉)儲かるんですか?
(町山智浩)儲かるんですよ、すごく。その代わり、名前が出ない。
(松本ともこ)縁の下の力持ちなんだね。知らなかった。
(町山智浩)そうなんですよ。裏方仕事でね。それをキャリー・フィッシャーはずっとやって、一時はアカデミー賞の授賞式とか、全部この人が脚本を書いていたんですよね。
(松本ともこ)名前が出ないから、わからないんだ。
(町山智浩)名前が出ないんですよ。全然、この人の仕事は。で、成功してとうとう2人目の旦那を見つけてですね。それも大金持ちのハリウッドの芸能エージェントで。それで子供も生まれて。娘も生まれて。もう「幸せ」って思っていたら、ある日突然夫がですね、「実は俺、君以外に好きな人がいるんだ」って言って。それで「またフラれるのね」って思って。それで「どこの女?」って聞いたら、「いや、男なんだよ」って言われて(笑)。大変だったというね。「実は俺、ゲイなんだ」「なんで言わなかったの!?」って言ったらね、「言いそびれちゃって……」って(笑)。
(松本ともこ)「言いそびれちゃって」(笑)。
(町山智浩)「言えよ!」って怒ってましたけどね(笑)。
(小西克哉)「I’m not Gay」って言わなかったんだね。その人はね。
(町山智浩)「ゲイかどうかって聞かれなかったから言わなかった」みたいなね。
(小西克哉)そりゃ聞かないよね(笑)。
(町山智浩)ねえ。そうなんですよ。それで、男の人と同居をするので離婚して。それでまた捨てられたんでキャリー・フィッシャー、今度はいわゆる「Bipolar Disorder」っていうんですけど。まあ、躁うつ病ですね。
(小西克哉)そうか。両極端になるっていうことですね。
(町山智浩)そうなんですよ。で、せっかくハリウッドの脚本ドクターとして稼いでいたのに躁うつ病になって、ドロドロになっていってしまったんですけど。そこでお母さんのデビー・レイノルズが三番目の夫が破産して一文無しになって、キャリー・フィッシャーの家に転がり込んで来てですね……
(小西克哉)あららららら……
(町山智浩)大変なことになっているところで、今度は父親のエディ・フィッシャーが今度自分の女性遍歴を書いた本を出して。その女性遍歴が全部、ベッドのことしか書いていないんですよ。
(小西克哉)うわっ……
(町山智浩)で、自分のお母さんのことから、エリザベス・テイラーから、その後に付き合った女の夜の具合をダーッて書いてあるんですよ。非常に下品な、ものすごく分厚い本を出したんですね。
(小西克哉)えっ、なんて本ですか?
(町山智浩)タイトル、いまちょっと思い出せないんですけど。
(小西克哉)ああ、それを知りたかったな。
(町山智浩)読んで下さい。小西さん、大喜びですけども(笑)。で、その本を出されて大恥でね。もうすごく恥ずかしくて、本当に頭に来て。父親と縁を切るとか言っていたんですけどね。で、それをやっているうちにハリウッドの中で……彼女はですね、政治的な付き合いがあって、共和党とか民主党の委員と……
(小西克哉)党の大物?
(町山智浩)党の大物と付き合っていたんですけども。で、その1人が彼女のベッドで死体で発見されたりしてですね、また警察の厄介になったりして。
(小西克哉)それは偶然、そうなっちゃったんですか?
(町山智浩)それはね、警察が調べたら、「2人は恋人同士なのか?」って言われたら、やっぱりその男はゲイで。ただ横に寝ていたら、コカインの過剰摂取で死んだんですけど。
(小西克哉)ありゃりゃりゃりゃ……
(町山智浩)で、もう大変なことになって。「私、頭が自分で耐えきれないから……」って精神病院に行ったら、「あなたの人生はめちゃくちゃすぎて、あまり他に症例がないから治療のしようがない」って言われちゃったんですよ(笑)。
(小西克哉)カウンセラーもさじを投げたっていうことですね?
(町山智浩)そうなんですよ。めちゃくちゃすぎると。まして、「『スター・ウォーズ』でレイア姫とかになっている人、いないし……」とか言われちゃうんですよ(笑)。
(小西克哉)この人の人生、じゃあ救いがないんですか、これは?
(町山智浩)と、思うんですけど、これを全部コメディーとして言って、客は爆笑しているんですよ。で、「私は自分の人生でみんなを笑わせて、コメディアンになるんだから。私の人生って結構楽しいわよね?」とか言ってましたね。まあ、「楽しいと思わなければやってられないわ!」とか言ってね。まさか『スター・ウォーズ』でこんなことになっているとは、誰も知らないですよね。
(小西克哉)『スター・ウォーズ』のそれ以外の人は結構ハッピーなんですか?
(町山智浩)いや、マーク・ハミルとかは交通事故で顔をケガしてから、その後やっぱり仕事がなくて。いまもB級映画とかの脇役で暮らしているんですよね。主人公のルーク・スカイウォーカーですけどね。それ以外の人も、ハリソン・フォード以外はみんな結構その後鳴かず飛ばずなんですよ。
(小西克哉)ああ、そうですか。
(町山智浩)だから「『スター・ウォーズ』の呪い」とか言われてるんですけどね。
(小西克哉)ああ、そう言われているんだ。はい。どうもありがとうございました。
(町山智浩)はいはい。
<書き起こしおわり>