町山智浩『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を語る

町山智浩『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を語る こねくと

町山智浩さんが2026年3月17日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で『プロジェクト・ヘイル・メアリー』について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日、ご紹介する映画は人類の希望にあふれた映画です。今週20日、金曜日から公開される『プロジェクト・ヘイル・メアリー』という映画をご紹介します。

(町山智浩)これ、ビートルズの名曲の『Two Of Us』っていう楽しいほのぼのした曲なんですけど。これは恋愛というか、友情についての歌なんですね。これがもう本当にね、いい感じで使われてる映画がこの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』なんですけど。

この「ヘイル・メアリー」っていうのは聖母マリア様のことですね。で、ヘイル・メアリーっていうのはね、たとえばなんだろうな? サッカーで一か八か、そこでキックするしかないっていう状況があるとするじゃないですか。ちゃんと狙えないけども、ここで「入れ!」っていう感じでやる時に「ヘイル・メアリー!」って言うんですよ。これ、「神様!」って言ってるだけで。だから一か八かとか、神頼みとかですね、よくわかんないけどやってみろとかね、非常に投げやりな言葉です。

一か八かの神頼み計画

(町山智浩)いや、だから『プロジェクト・ヘイル・メアリー』って大変なんです。「一か八か計画」なんですよ。それ、計画じゃないじゃん? 矛盾してるだろ、それ?っていう。「神頼み計画」っていうタイトルの映画なんですね。これはSFでですね、太陽がどんどん熱を失っていく世界なんですね。どうも太陽が何かにエネルギーを取られている。で、調べてみたら、太陽に近い惑星で金星があるんですけど、金星に吸い取られているようだと。で、そこに探査艇を送ってみたら、金星に太陽の光を食べる生き物がいたんですよ。

それはね、微生物で。アメーバみたいなやつなんですけど。それがもう、太陽からどんどんどんどん光を吸い取っているんですよ。で、これにアストロファージっていう名前をつけるんですね。これ、「アストロ」っていうのはギリシャ語で「星」なんですけど、「ファージ」っていうのは「食べる」っていう意味だそうです。だから「星を食うもの」っていう名前がつくんですね。

で、このアストロファージを何とかしないと、地球は凍りついてしまうということで、そのアストロファージみたいなエネルギーを食べる生物の研究をしてる分子生物学者を探すんですよ。で、そういう論文を書いたんだけれども、異端として学会を追われてしまって、中学校で先生をやっているアメリカ人を見つけ出して。で、「地球を救う計画に参加しろ」っていう風に言われるんですね。その彼が『バービー』でケンを演じたライアン・ゴスリングです。

40過ぎてケンをやっていてね。本当にアホか?って言われてましたけど。あれでアカデミー助演男優賞候補になってましたからね。で、彼は「学会とか、ふざけんじゃねえ」と思って子供たちを楽しく教えてるんですけど。「地球が滅びるかもしれないんだから、来い」って言われて。全世界が協力してやっている地球を救う計画に呼ばれるわけですよ。で、どうするか?ってことになってくるんですけど……調べてみたら、実はそのアストロファージっていうのはこの地球の太陽だけじゃなくて、近くの星全部。つまり、恒星ですね。太陽みたいに燃えてる星ね。全部、そのエネルギーが取られてることわかるんですよ。近所が。

「これはバイキンであって、感染性があるんだ」っていうことがわかるんですね。で、これをどうするのか? 地球から12光年……だから地球から光の速さで飛んで12年かかる星が一つだけ、明るいんですよ。それはくじら座にあるタウセティっていう名前の星なんですけれども。そこだけ明るいから、もしかしたらこのアストロファージを何とかしてるかも……っていう話なんですよ。これ、何にもわからないけど、とりあえず行ってみろ。行けばなんとかなるかもよってことでロケットを出すっていう話なんですよ。

これ、どうなるか全くわからないけど、でも他に何にも方法がないから行ってこいっていうね。でね、これは何人かでロケットに乗っていくことになるんですけども……これはもう、冒頭で起こることなんで言っちゃっていいと思うんですけど。このライアン・ゴスリング以外、事故で全員、死んじゃうんですよ。一番冒頭、彼がそのロケットで目覚めて「自分はどうしてここにいるんだろう?」ってことで他の乗組員を探すと、もうそこでみんなが死んでいるところから始まるんですよ。いきなり。自分しかいないっていう。

これね、でももう究極じゃないですか。しかも彼らはその12光年離れた星に飛んでいくのに12年、かかるんですね。どうしてかというと、その光をエネルギーとして飛んでいくからなんですよ。アストロファージ自体を燃料として使ってるんですよ。アストロファージは光を吸い込むから、刺激をすると光を発射するんですよ。だから、そのアストロファージをたくさん集めて、それから光を発射させて、ロケットを加速していって光の速さで飛んでいくんで12光年離れたところに12年ぐらいで着くんですよ。ただ、どうやって帰ってくるかは、わからないんです。

それで、何かがあった場合に地球に通信用の小型ロケットで「こういう解決策があった」ってことを送ることはできるんですよ。ただ、帰り方がないと。だからこれ、地獄への片道切符なんですよ。で、帰りの方法はなかったら毒があるからそれで……っていうね。でもね、これは究極じゃないですか。だって自殺ミッションですよ、これ。特攻隊ですよ、これ。でもこれね、コメディなんですよ。本当に……こんな究極のね、もう地獄のような状況でね、コメディなんですよ、これ。

地獄のような状況なのに、コメディ

(町山智浩)これね、原作者がいましてですね。アンディ・ウィアーっていう人が原作者なんですけど。この人は何でもコメディにしちゃうんですよ。この人、最初の作品が大ヒットしたのが『火星の人』という小説だったんですね。これ、『オデッセイ』っていうタイトルで映画化されましたけど。マット・デイモン主演で。これも本当に地獄のような状況なんですよ。火星に探検隊で行った乗組員がうっかり、1人ぼっちで火星に置いてきぼりになっちゃった話なんです。

気がついたら1人ぼっちなんですよ。で、もう絶体絶命、どうやって生き残るか?って話なんですけど、このアンディ・ウィアーっていう人はそれを絶望的に書かないんですよ。すごく前向きに楽しく書くんです。だから主人公はマット・デイモンで科学者だから、冷静にどうやって生きていこう? まず酸素が必要だ。食べ物が必要だ。どうやって作ろうね? で、じゃがいもを自分で栽培したりして、酸素を作って、生き残るんですけど。しかも、それも絶望的に書かないで、その残されていた70年代ディスコソングを聴きながら生き延びるんですよ。楽しく踊りながら。

地獄のサバイバルなんだけれども、コメディタッチにするんですよ。で、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』もそういう感じなんです。非常に笑いを忘れない、のんきな……さっきから流れてる音楽が映画で使われてる音楽なんですけど、陽気でしょう? めちゃくちゃ、なんかのんきな音楽でしょう? 全体の雰囲気はそういう感じです。

これ、ストーリーだけ聞くとめちゃくちゃ深刻じゃんって思うじゃないですか。だって地球人類、全部死ぬかもしれないし、自分も死ぬかもしれないんですよ。でもね、非常に楽しい、ご家族で楽しめる映画になってるんですよ。でね、まあコメディといっても宇宙に1人でコメディになるのか?って問題があるじゃないですか。すでに宇宙で1人、取り残されるっていうのはその前の『火星の人(オデッセイ)』でやっちゃってるんですよ、この人。でも今回は相棒がいるんですよ。

目的地のそのタウセティに着いたら、そこに別の星から来た異星人・エイリアンの宇宙船がいるんです。やっぱり近くの星から来ていて。もうアストロファージにやられてるから、そのアストロファージが増えないタウセティに来ていたという、やっぱり「行ってこい」ってやられちゃった人ですね。昔、テレビでアシスタントディレクターとかがそういうこと、やられてましたけどね。「行ってこい!」っていうね。昔の『電波少年』みたいなもんですよ。

で、お互いに……まあ相手の方も1人しか生き残ってないんですよ。で、なんにもわからない。しかもそのエイリアンはカニみたいな形をしてるんですよ。これ、映画のポスターに彼の姿が写ってるでしょう? この写真にあるのが……これがエイリアンなんですよ。これ、5本足なんですよ。足が5本指みたいになってるんです。で、まずどうやって会話するか?ってところから始まるわけですよ。でもね、これはね、すごく簡単に会話できるんですね。まあ、それは見てのお楽しみって感じですけど。これは今、スマホがあれば結構宇宙人が来ても大丈夫だなと思いましたよ。これを見て。

だから、辞書を作っちゃうんです。会話して、お互いに。ここはもう、ぜひお楽しみにって感じなんですけど。前半はどんどん希望が失われていくんですよ。だって、乗組員もみんな、死んじゃっているし。もう見ると「えっ、ここで死ぬの?」って感じで死にますからね。すごいことになってますけど。で、主人公もただの学校の先生だから、宇宙飛行士じゃないから、行きたくなかったんですよ。

これ、マジで嫌だと思うんですけどそれを行かせる人がいまして。その対策委員会のチームリーダーの人がですね、ザンドラ・ヒュラーっていうドイツの女優さんで。この人、『落下の解剖学』の奥さん役の人ですね。あと『関心領域』のアウシュビッツの所長の奥さんをやってた人。厳しい感じの人ですよ。アウシュビッツの所長の奥さんですからね。それが「あんたね、人類の希望がかかってんのよ」って言ってこの嫌がっているライアン・ゴスリング、中学教師をね、ギリギリ締めつけていくっていう話ですね。

ただね、すごくコメディだから、いろんなパロディとかがあって。たとえば、これはあのポスターにも書いてある通り。このエイリアンの相棒の名前はロッキーっていうんですよ。もちろんあのロッキーなんで、ちゃんと「エイドリアーン!」っていうギャグとかもあるし。そういう、いろんなパロディを入れていて。で、このザンドラ・ヒュラーさんが出てきて。ライアン・ゴスリングが「行きたくねえな。こんなの、参加したくねえな」とかグズッてるところで、みんなでカラオケパーティーをやるんですけど。そこで彼女がカラオケでね、歌を突然歌い出すわけですよ。それがすごい歌で、これがめちゃくちゃうまいんです、この人。ザンドラ・ヒュラーさん、めちゃくちゃうまいんです。それが今、かかってる曲ですけどね。これをね、歌うんですけど。

これ、実はギャグなんですよ。このシーン。っていうのは、このザンドラ・ヒュラーさんって人がまず世界的に評価されたのは……この歌ね、「泣いてる場合じゃないよ」っていう歌なんですよ。「大変なあ歴史の転換点なんだから、気合を入れてけ」っていう歌詞なんですけど。で、実はこのザンドラ・ヒュラーさんっていう人は世界的に評価されたのが『ありがとう、トニ・エルドマン』っていう2016年の映画だったんですよ。これ、結構日本でもお客さん入ったと思うんですけど。これね、サラリーマンをやりながら嫌な仕事をやっているその彼女が、トニ・エルドマンと名乗る自分の父親からですね、ある曲を歌えってカラオケで言われて。その歌を歌うことによって解放されるっていうシーンがあって。最初、「歌なんか歌うわないわよ。カラオケなんか、やんないわよ」とか断ってんですけど、歌わされるとめっちゃくちゃノリノリで歌って、めちゃくちゃうまいってシーンがあって。ホイットニー・ヒューストンを歌うんですけど。それのパロディなんですよ、これは。

「あっ、この人が出てきたら……あっ、またカラオケ歌っている。めっちゃうめえ!」っていう、そういうギャグなんで。だからほら、「俺は歌わないよ」とかさ、一番なかなか歌わないやつが一番、ノリノリってやつですよ。カラオケで。あるあるなんですけど。そういうギャグがずっと続いて、その大変な人類……人類っていうか、宇宙の危機ですよ。それをみんなで協力して解決していくって話なんですよ。宇宙人も含めてね。

で、これ中国人も出てくるし、ロシア人もドイツ人も、その世界中の……もちろん主人公はアメリカ人だし。みんなで協力して。宇宙の人も協力して、その問題と戦うって話なんですけど。彼らはその究極のアストロファージとは戦うけど、互いには戦わないです。でもこれ、今のこの世界の状況から見ると、フィクションにしか見えないんですよね。

ちょっと何年か、何十年か前だったら全人類が協力して問題を解決するっていうのは非常にリアリティがあったんですが、今は本当に夢みたいになっちゃってますね。でもやっぱりね、これが正しいことなんで。もうぜひね、本当にお子さんとか、ぜひ連れていって見せてあげたい映画ですよ、これ。ロッキーくん、かわいいし。でも彼、これでいてちゃんと彼女もいるんですよ。彼か、彼女かわかんないですけど。

それでロッキーくん、結構きれい好きなんですよ。だからライアン・ゴスリングの宇宙船に入ってきてね、「散らかりすぎだよ!」って怒ってましたけど。きれい好きの宇宙人ですね。そのへんもめちゃくちゃね、あるあるっていうかね。なんか本当に近所の話みたいなのを宇宙の彼方でやってます。ぜひご覧ください。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』予告

アメリカ流れ者 2026年3月16日

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