町山智浩 台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』を語る

町山智浩 クインシー・ジョーンズと楳図かずおを追悼する こねくと

町山智浩さんが2025年10月28日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で台湾映画『ひとつの机、ふたつの制服』について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日は台湾と韓国の女子高校生同士のですね、友情を描いた映画をご紹介します。で、1本目はですね、『ひとつの机、ふたつの制服』という映画です。

(町山智浩)これね、この『ひとつの机、ふたつの制服』の主題歌として使われている曲で『告五人』という、Accusefiveというバンドの曲なんですけど。彼ら、なんか日本でライブやるみたいですね。ボーカルグループなんですけど、こういうなんというかちょっとね、青春って感じの歌ですよ。すごい世界的に人気あるんですけど。

この映画のタイトル「ひとつの机」というのはね、高校で女子校なんですけど。昼間の全日制と夜。夜間部があるじゃないですか。その2つのクラスで机を共有しているわけですよね。で、その共有している2人の女子高生が主人公なんですよ。で、主人公になるのは夜間部の方の子なんですけど。シャオアイちゃんという、これは愛称なんですけど。「アイちゃん」と言われている女の子で。この子は名門の女子高校を受けるんですが、落っこちちゃうんですね。ところがそのギリギリで落っこっちちゃった子たちは、夜間部に入るんですって。

これ、ちょっと最初は夜間部っていうのは昼間、働いている子とか。あと、まあ学校に行き直そうとする人たちが行くところなんですけど。この名門高校においてはちょっと点数が足りなくて入らなかった子たちが入る、なんていうか二軍みたいなものになってるんですね。で、まあ、落ちたことですごく主人公のヒロインのシャオアイはショックを受けていて。

ただ、そこでその同じ机を共有する子に手紙を送ることができるんですね。それは単に手紙を机の中に入れておくだけですけど。文通するわけですよ。それがなんか、伝統的な風習のようなものになっていて。「机友」というシステムみたいなものがあって。そこでその昼間の方の学校の女の子のミンミンちゃんと実際に会って友達になっていくって話なんですね。

なんていうか、俺が話すような話じゃねえなと思いますけども。孫みたいなもんですからね(笑)。まあ、こうキラキラした友情が始まるわけですよ。そこから。僕がね、なんかいいなと思ったのは2人でライブハウスにライブを見に行くんですね。すると、高校生は入れないんですよ。俺は入ってたけど、台湾とかは厳しくて入れてもらえなくて。「学生証を見せろ」見せるみたいな話になって。で、しょうがないからそのライブハウスのドアの前でしゃがんで、漏れ出てくる音を聞くっていうシーンがあって。それは僕もやりましたよ。チケットが取れなかった時にね。それはちょっと甘酸っぱいシーンだったりするんですけども。

で。そのうちに仲良くなってこのシャオアイちゃんはミンミンちゃんから「昼間の学校の生徒のふりをして来なよ」って言われて、昼間に学校に行ったりするようになって。昼間の生徒たちと一緒に仲良くなって、彼らの中に入っていくんですね。これね、すごくあからさまに、かなり非常に一種、差別的なところがあって。制服は一緒なんですけど、「2つの制服」っていうタイトルになっているのは昼間の子は太陽を意味する黄色い糸で刺しゅうがしてあるんですよ。名前とかを。で、夜の子は月を意味する白い糸で刺しゅうがしてあるんですね。制服に。で、「太陽と月」っていう風になっていて。

で、このシャオアイちゃんもすごく月のようにですね、非常におとなしい子で。眼鏡かけた眼鏡っ子なんですけど。なんというか、引っ込み思案なんですよ。ところが、そのミンミンちゃん、昼間の方の子はちょっと背が高くてですね、スタイルも良くて。ショートカットでボーイッシュでね、美人でね。で、まあ非常に社交的で太陽のような感じなんですよ。だから太陽と月のなんていうか、友情関係みたいな話になっていくんですけど。

ところが、やっぱりちゃんと男の子が出てきますよ。それで2人とも、その男の子を好きになっちゃうんですよ。っていう話で、なんでこんな甘酸っぱいものを俺が見なきゃならないと思ったんですけども。これがね、非常にリアルな話になってくるんですよ。途中から。というのは、やっぱり勉強ができるミンミンちゃんとか、その彼女の周りにいる人たちっていうのは普通に勉強ができるんですよ。無理をしてないんですよ。

勉強しなくても、できちゃうんですよ。ところが、シャオアイちゃんはそれに巻き込まれているからどんどん成績が落ちていくんです。どうしてそれが起こるかというと、これは世界的な問題になっているんですけど。勉強ができる、できないって実は「勉強ができる、できない」じゃないんですね。これは家庭の問題なんですよ。家庭に余裕がある家の子は、勉強ができるんですよ。

学力と格差の問題

(町山智浩)このシャオアイちゃんの家はお父さんがちっちゃい頃に亡くなって。母子家庭で。それでお母さんは小学校の先生をやりながら、小学校向けの学習塾をやっていて。で、貧乏なんですけど、どのくらい貧乏かというと……この貧乏のシーンもすごく面白いんですけど。フライドチキンを食べた後、その骨を取っておて、それでダシを取ってスープにして翌日、親が出してくるんですよ。これ、爆笑しましたけど。そのぐらいケチな家なんですね。

まあ、そういう状況だと、やっぱり勉強をするのは結構大変なんですね。ところがお金持ちの家はちっちゃい頃から塾に行ってね。で、親もね、すごく子どもに手間をかけるし。これはすごく大きくて、日本でも大きな問題になってますよね。勉強とか偏差値の格差っていうのは実はその親の収入の格差と非常に結びついているという。その辺はね、昔あったフランス映画で『アデル』っていう映画があったんですよ。『アデル、ブルーは熱い色』っていう。あれがね、フランス映画なんですけど。あれも女の子同士の友情っていうか、愛情を描いているんですけど。実は格差の話でしたよね。あれは。

好きになった友達の家に行ってご飯をごちそうになると牡蠣とかが出てくるんですけど、食べたことがないんですよね。ヒロインの子はね。で、まあ実はそういうことがあって今現在、どんどん格差社会が世界的に広がっていてね。日本もアメリカも韓国も台湾も、みんなそうですよね。フランスもね。で、そういった現実みたいなものに直面していくという話でしでしたね。この『ひとつの机、ふたつの制服』という映画は。で、その辺が切ないんですけど。ただ、この映画の中で出てくる受験っていうのは1発受験で、大学受験になっていくんですが。これはもう、台湾はなくなったらしいんですよ。

この映画の頃、これね、1990年代が舞台で、99年ぐらいが舞台なんですけど。やっぱりあまりにも受験戦争がひどいっていうんで、かなり改善があって。台湾って今、ものすごく改善してるじゃないですか。社会を。で、そうじゃなくて人はそれぞれ高校の頃からやりたいことをやられるようにってことで、受験体制がかなり改善されて。これほどひどくはないみたいなんですけどね。

もう高校の時の大学受験で人生が決まってしまう。将来の収入が決まってしまうとか、そういうことはなくなってきてるみたいですけどね。だからこれは非常にリアルな映画として非常に僕はいろいろ参考になりましたけど。はい。

『ひとつの机、ふたつの制服』予告

アメリカ流れ者『君と私』

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