町山智浩さんが2020年6月26日、Periscopeライブ配信でスパイク・リーの映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』について話していました。
https://www.pscp.tv/w/ccQiBTFvTmpsRE9WZ0FBand8MURYeHlBQk5takx4TYx_5-WqwHEIfq7_v9tMjoDl0SgBByy1gB5NmGyWMAUc— 町山智浩 (@TomoMachi) June 26, 2020
(町山智浩)それで今日はですね、なんでライブ配信をしたかというと、もうひとつあって。「映画ムダ話」というのを僕はずっとやってるんですけどもね。1本200円で買えるポッドキャストみたいなもんですよ。ダウンロードし聞いてもらうんですが、1本の映画について徹底的に解説するっていうことをやってまして。それで今週末に更新されるのがスパイク・リーの新作の『ザ・ファイブ・ブラッズ』について話してるんですよ。
で、『ザ・ファイブ・ブラッズ』というのはベトナム戦争に行った兵士たち、戦友たちが45年たってベトナムに戻るという話なんですね。何をしに戻るのかというと、実はそこに金塊を埋めていた。その金塊を掘りに行くんだっていう話なんですよ。で、みんな60とか70近いお爺さんたちがベトナムの奥地に入っていくという話なんですけども。この映画がですね、スパイク・リー、ちょっとどうかしてる人なんで。もう10秒ぐらいごとにね、いろんなネタをぶち込んでるんですよ。
で、それがどんどんどんどん出てくるんで、ついていけないと思います。いろんなセリフが出てきて「ああ、それ、その映画のセリフ? それは○○で……」みたいなことをやって。たとえばだからこの人たちが昔、ノーマンという部隊の一番強くて頼りになるリーダーがいたということで。「ノーマン。あいつは本当にすごかったな!」っていうことで、その「すごかった」っていう時に「マザファッカ」って言う時があるんですね。
で、「マザファッカ」っていうのは「ひどいやつ」とか「ふざけるな」という意味で使う時があるんですけども。ものすごいすごいやつのことを「マザファッカ」って言うんですよ。これは黒人の独特の言葉遣いで「Bad」っていう言葉がありますが。それは「悪い」っていう意味じゃなくて、「すげえ」っていう意味で使っているんです。だからマイケル・ジャクソンの『Bad』っていう曲がありましたが、あれは「悪い」という意味もあるんだけども、ダブルミーニングで「すげえ」っていう意味なんですね。
だからこれ、黒人じゃない人も使いますよ。たとえば「I love you so bad.」とかっていう場合、あるじゃないですか。ビートルズの歌にもありましたね。『I Want You』っていう歌がね。そこで「I want you so bad♪」って歌っていますよね。
あれ、「Bad」っていうのは「悪い」じゃなくて「ものすごく」っていう意味なんですね。で、「マザファッカ」っていうのも「自分のお母さんをファックしちゃうやつ」っていうことで「ひどいやつ」っていう意味なんですけども。でも「あいつ、すげえ!」っていう時も「マザファッカ」っていうのを使うんですよ。
「マザファッカ」の意味
で、その『ザ・ファイブ・ブラッズ』のお爺ちゃんたちが「あのノーマンっていうのは本当にマザファッカだったな!」って1人が言うともう1人が「Shut your mouth!」って言うんですね。「黙ってろ、そんなことを言うな」って言うわけですね。で、「Motherfucker」「Shut your mouth!」っていうのは一体なにか?っていうと、これは『シャフト』という70年代の黒人アクション映画がありまして。邦題は『黒いジャガー』っていうタイトルなんですけれども。それのアイザック・ヘイズが歌った主題歌の中の歌詞なんですよ。「Shaft is a bad mother…(Shut your mouth)」っていうんですね。
で、そのやりとりを一瞬だけしたりするんですけど、別にフォローもなくスッとすり抜けていくんですよ。この『ザ・ファイブ・ブラッズ』っていうのは。それがずっと延々と続くんですよ。次から次にいろんなネタが出てるんですね。これ、ついていくのは大変なんですよ。タランティーノ的な作りなんですね。だから、何て言うか、前もムダ話で話したんですけども。
たとえば『ドゥ・ザ・ライト・シング』っていう映画。これは元ネタになってる話っていうのがあって。元ネタになってるのはなんとレイ・ブラッドベリというSF作家の作った物語なんですよ。『ドゥ・ザ・ライト・シング』の元ネタがレイ・ブラッドベリなんて誰も気が付かないですよ。レイ・ブラッドベリのその『ドゥ・ザ・ライト・シング』の元ネタというのは『10月はたそがれの国』という短編集の中に入っている短編なんですよ。
なんていうか、とんでもないことをやる人がそのスパイク・リーなんで。「ネタとしてお前、そこから引く?」みたいな。それが延々と出てくるんですよね。『ザ・ファイブ・ブラッズ』っていうのは。というね、「お前のオタクぶりにはついていけないよ!」みたいな映画なので、それを解説しました。今週末に更新されます。その僕の映画ムダ話。スパイク・リーの『ザ・ファイブ・ブラッズ』。
ネタ元をひたすら解説する「ムダ話」
町山智浩の映画ムダ話177 スパイク・リー監督『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)。 ベトナム戦争から45年、年老いた戦友たちが戦地に埋めた金塊を取りにベトナムに戻るが……。 https://t.co/9CPq7tqGzv @TomoMachi #storesjp
— みやーんZZ (@miyearnzz) June 27, 2020
で、映画を事前に見てもらっていた方がいいと思うので。Netflixで配信されてるんですけど。ただ見た人はちょっと辛くなると思うんですよ。これ、金塊を堀りにいく映画なんですけども、金を取りに行ったところでその金塊が出てきたらそれを独り占めするために殺し合いみたいななことになってくるんですね。
だから感情移入しにくいわけですよ。でもこれは原作があるんですよ。これはハンフリー・ボガート主演、ジョン・ヒューストン監督の『黄金』。または『シエラ・マドレの黄金』という映画があるんですけど。それとほとんど話が同じなんです。砂金を取りに行ったアメリカ人たちが金を独り占めしようとして殺し合いになるという話なんですね。それをそのままやってるんですよ。
だからね、昔はそういう主人公に全く感情にできない映画は結構あったんですけど、最近はそういうものがなかなかないですよね。「もうこんなやつ、許せない!」っていうのが主人公のものは。でも昔はそういうの、結構見れたんですけど、今はなかなかそういうがないので慣れてない人もいると思います。この『ザ・ファイブ・ブラッズ』は。まあそういう映画なんだと思って見ていていただきたいと思います。
そして、たぶんほとんど言ってることが何を言ってるのか、わからないと思いますので。その注釈を徹底的にやります。それがムダ話で今週末に200円で売りますけども。もう映画が全然公開されないから、こういうことをやらないと食っていけないんですけどね(笑)。
ただね、すごい隠しネタがあるんですよ。『ザ・ファイブ・ブラッズ』っていうのは。それ、ちょっと俺もね、その隠しネタに気が付いた時にはびっくりしましたからね。それは後半の方で出てきます。「そんな風に隠しても誰にも通じないよ、スパイク・リー!」と思いましたけどね。「それが通じる人って相当変な人だけだから!」と思いましたけど。まあ、そういうことをやる人なんですよね。スパイク・リーという人は。それが2つ目ですね。
町山智浩の映画ムダ話177 スパイク・リー監督『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)。 ベトナム戦争から45年、年老いた戦友たちが戦地に埋めた金塊を取りにベトナムに戻るが……。 https://t.co/9CPq7tqGzv @TomoMachi #storesjp
— みやーんZZ (@miyearnzz) June 27, 2020
<書き起こしおわり>