町山智浩 ポール・ニューマン『暴力脱獄』を語る

町山智浩 ポール・ニューマン『暴力脱獄』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年10月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でポール・ニューマン主演の映画『暴力脱獄』について話していました。

(町山智浩)で、もう1本の方がもっと衝撃だった映画で。『暴力脱獄』という映画なんですが。

(赤江珠緒)タイトルがまた、すごいですね。

(町山智浩)すごいタイトルですよね。全然暴力、関係ない映画なんですけど。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)これはね、『暴力教室』という映画が当たったんで、『暴力』ってつけただけで。全然内容は関係ないんですね。これ、日本語タイトルをつけたのは水野晴郎さんじゃないか?って僕、怪しんでるんですけども。まあいいや。ひどいタイトルなんですが。原題は『Cool Hand Luke』っていうんですよ。これは「Cool Hand」っていうのは「かっこいい手」っていう意味なんですけど。

原題『Cool Hand Luke』

(町山智浩)この「手」っていうのはポーカーをする時の手なんですね。役のことです。「どんな手なんだ?」って言うじゃないですか。「ストレートフラッシュ」とか。その手なんですね。これ、刑務所の中で主人公のルークはポーカーをやるんですけれども。その時に、すごい賭け金をガンガン上げていくんですよ。ベットを。で、自信たっぷりにニコニコしてるんで、みんな降りちゃうんですけど。手を見るとブタなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、全然大したことないのに?

(町山智浩)そうなんです。それで「お前、ブタじゃないか!」って言われると、このルークは「何も持ってないってことが最強の手なんだ。何にも持ってないことが一番強いんだ」って言うんです。これ、すごく深い話なんですよ。で、舞台はフロリダの刑務所なんですね。フロリダという半島はね、実は刑務所に入っている囚人たちによって強制労働で開拓されたところなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)僕、この間フロリダに行ったんですけど。ひどい話なんですよね。で、これ、原作者が本当にそこで開拓やらされた経験がもとになってるんですけども。そこで強制労働をさせられてる中に新しい囚人としてルークというポール・ニューマン扮する男が入ってくるんですけども。もうみんな、強制労働をさせられてボロボロで、笑顔も何もない暗い感じになってるんですね。囚人たちは。そこでですね、看守たちが徹底的に囚人たちを押さえつけるんですよ。「お前らには自由なんか何もないんだ。ここにはルールだけある!」みたいなことを言って。

そうすると、そこに新しく入ってきたポール・ニューマン、ルークは全く看守の言うことを聞かないんですよ。ルールを破りまくるんです。脱走しまくるんです。何度でも。で、彼は不良少年なんですけれども。ところが、この刑務所ってのは刑務所の看守だけじゃなくて、刑務所の囚人の中にもルールがあって、権力があるんですね。これ、よく言われますけど。牢名主というのがいて。

(赤江珠緒)日本で言うところの牢名主ね。

(町山智浩)そう。看守がいないところでも、囚人の中で威張って。ルールを押し付けてくる権力が存在するわけですよ。で、看守と囚人の権力の両方からルークがにらまれるわけですよ。

(赤江珠緒)そうか。そうなりますね。

(町山智浩)逆らってばっかりだから。でもなんでこんなにこのルークををみんながいじめるかっていうと、ルークはいつもニコニコしてるからなんですよ。怖がらないんです。「言うことを聞け!」みたいなことを言われても、ニヤニヤしてるんです。薄笑いしてるんですよ。楽しそうな感じですね。薄笑いっていうよりは。子供のような笑顔なんですよ。このポール・ニューマンは。赤ちゃんみたいな笑顔をしてるんで、それが売りだったんですけど。

要するに純粋無垢な笑顔をしてるんですよ。ニコニコして。だから、押さえつける側は悔しくてしょうがないんですよ。いくらやっても、怖がらないから。で、徹底的にいじめられて、虐待されていくんですよ。特にその牢名主のドラッグラインという、これは名優ジョージ・ケネディが扮するんですけども。

この大男がもうめちゃくちゃにいじめるんですね。殴って蹴って。ところが、いくら殴ってもルークは立ち上がってくるんです。ボロボロになって。このへんは梶原一騎先生の『あしたのジョー』がすごい影響を受けてます。『あしたのジョー』の少年院編はかなりこの映画と似てるとこがあって。公開と同時ぐらいに掲載されたんですが。謎なんですけども、すごく似てるんですよ。これはマンモス西とジョーの関係なんですね。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、あまりにもニコニコしてるから、「もう負けたよ」って感じで、このジョージ・ケネディは逆にルークのことを好きになっちゃうんですよ。しかも、ルークは中でいろんな楽しいことをして。脱走して看守たちを鼻をあかすんで、段々人気者になっちゃうんですね。囚人たちの。そうすると、もう看守は本当に許せないわけですよ。で、この話は一体何なんだ?ってことなんですよ。この『暴力脱獄』は。一体何についての映画なのか? これは「人生っていうのは刑務所なんだ」っていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

人生は刑務所

(町山智浩)「人間は生まれついて完全自由じゃなくて。生まれや身分、経済的な状況があって。いろんなルールに縛られている。学校でも職場でも。これは刑務所と同じじゃないか。しかも、どんなに成功して金持ちになったとしても、最後は死が待っている。じゃあ人間は全て、死刑囚と同じじゃないか」っていう話なんですよ。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)で、「どうしてもそこから逃げられないんだとしたら、どうしたらいいのか? それは決してそういったルールに縛られず、自由に楽しく生きるしかないじゃないか」って話なんですよ。

(赤江珠緒)すごい哲学的な……。

(町山智浩)この映画、哲学なんです。だから刑務所の映画かと思って見てると、そうじゃないっていうことが途中でわかってくるんですけども。これは刑務所映画の最高傑作と言われている『ショーシャンクの空に』はこの『暴力脱獄』にものすごく影響を受けて作られていて。そっくりのシーンもあります。あっちが「最高傑作」と言われてますけど、こっちの方が史上最高です。

(赤江珠緒)そうか。これは見よう。『暴力脱獄』。はい。

(町山智浩)これはね、彼らは強制労働で道を作らされてるんですね。その道の果てに何があるかっていうと、教会があるんですよ。教会っていうのは、神の家なんで天国。あの世を意味するんですね。人生っていうのは道を切り開いて、死ぬまでのものなんだっていうことを意味してるんですよ。で、その中で、苦難があっても、どんなことあっても笑おうぜ。笑わなくなったら、負けなんだっていう話なんですよ。この映画はそういう意味で本当にすごい映画なんで。『暴力脱獄』は。

(赤江珠緒)すごいですね。へー! 『暴力脱獄』ではたしかにちょっと、そこにたどり着くとは……っていう(笑)。

(町山智浩)ちょっとあれなんですけど。まるで聖書を読んだような哲学がある映画なんで、ぜひご覧いただきたいと思います。

(赤江珠緒)ポール・ニューマン特集は10月21日からシネリーブル池袋、新宿ピカデリー他全国順次公開となっております。いや、もう俄然見たくなりましたね。

(町山智浩)もうぜひご覧ください。

<書き起こしおわり>

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町山智浩さんが2022年10月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でポール・ニューマン主演の映画『ハスラー』について話していました。
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