吉田豪 アントニオ猪木を追悼する

吉田豪 アントニオ猪木を追悼する アフター6ジャンクション

(吉田豪)そうなんですよ(笑)。で、星座といえば僕、猪木さんを何度か取材したりはしてきていて。僕が元々、編集プロダクションの時に国会議員時代の猪木さんを議員会館で取材したことがあるんですよ。まだ僕が23、4ぐらいかな? すごかったんですよ。『SPA!』の私的なニュースベストテンをいろんな有名人に聞くみたいな企画で。僕がアントニオ猪木担当で猪木さんに会いに行って。で、ちょうどそのスキャンダルの時期だったから、編集サイドとしてはそういう話が聞きたいわけですよ。

でも全然、私的なニュースだっていうのにそういう話をしてくれないんですよ。「ソマリアの飢饉が……」とか、そういう話をずっとしてて。「猪木さん、たとえばスキャンダルの話とかは……?」って聞くと「じゃあ10位ぐらいに入れといてくれ。俺の事件」みたいな感じで。世界的な話と、自分のそういうスキャンダルと、あとスピリチュアルな話とかが全部同列になる、すごいどうかしたベストテンになっていて。面白かったんですよ。

(宇多丸)でも、いいな。第10位、俺の事件って(笑)。

(吉田豪)で、そういうような話をしながら、インタビュー中にずっとなんか金属音がするんですよ。「ジャッ、ジャッ、ジャッ……」っていう。「なんだ、この音?」と思って。話を聞きながら……でも目を離しちゃいけないと思ってたんだけど。猪木さん、意外とうつろな目をして遠くを見てるから、「これは目をそらしても大丈夫だな」って思って。その音がする方を見たら、そういう世界の飢饉の話とかをしながら猪木さん、ずっと社会の窓、チャックを上下させてるんですよ。

(宇多丸)ええーっ? なんだ? 貧乏ゆすり的なこと?

(吉田豪)「なに、これ?」って思うじゃないですか。「社会を気にしながら社会の窓を気にする」って言ってたんですけど。で、後々秘書に聞いたらその日、チャックの調子が悪かったっていうだけの話らしいんですけど(笑)。

(宇多丸)ああ、じゃあ気になってたんだね。

(吉田豪)ずっと気になっていたみたいなんですよね。「猪木って何なんだろう?」ってそのぐらいからより思うようになって。

(宇多丸)やっぱりちょっと変よね? それは。

(吉田豪)変ですよ。それで結果、僕はそのインタビューと、あとは猪木さんのスキャンダルの時期に出された『紙のプロレス』が作った名著『猪木とは何か?』っていうのがあるんですけど。そのスキャンダルの会見とかを全部、文字起こししたすごい歴史的な資料の本なんですけども。それの書評が評価されたことがきっかけで僕は『紙のプロレス』という雑誌に引き抜かれることになるから、僕は仕事の転機も猪木さんなんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。へー!

(吉田豪)そう。猪木さんに人生を左右されていて。で、紙プロに入社直後、猪木さんが北朝鮮の興行をやったんですけど。それに合わせて社員旅行が北朝鮮になったんですけど。それは僕はサボったんですよ。で、その後、その新間さんに襲われたりとか、猪木さんが選挙に出馬すると、渋谷駅前の猪木さんの演説にビンタのサクラとして動員されたりとか。

(宇多丸)ええっ? じゃあ闘魂注入というか、ああいうのをされてたんですか?

猪木の選挙の演説のビンタのサクラとして動員される

(吉田豪)されてますよ。しかもそれ、ビデオに残ってます。YouTubeでも見れます。要は猪木さんが演説した後に、猪木さんの選挙の応援するような人たちがまずビンタされて。それで「出てこーい!」って叫ぶと、一般人もどんどんわらわらと集まってくるっていう流れなんですけど。みんな、勇気なくて行けないじゃないですか。だから最初にわらわら行くサクラとして呼ばれたんですよ。

(宇多丸)なるほど。どんぐらいの威力か、わからないしね。あれ、威力はどうなんですか? 実際のところ。

(吉田豪)とんでもなかったですよ。

(宇多丸)アハハハハハハハハッ! 手加減してよ(笑)。

(吉田豪)ほぼ掌底ですね(笑)。吹っ飛ぶぐらいに……それ、ビデオに残っているんですけど。僕、正直思いっきり食らって。「絶対にこいつにだけは1票入れない」っていう顔している映像がありますよ(笑)。「ふざけんな、この野郎」って(笑)。

(宇多丸)フハハハハハハハハッ! 睨み返して(笑)。

(宇多丸)じゃあ結構、縁が深いですね。

(吉田豪)縁深いですよ。で、貴重な、誰も知らないような試合とかを見に行ったりしてるし。98年7月に木更津の海岸で行われた、謎のビッグイベント『狂人乱舞・神威』っていうのがあったんですよ。これ、仕掛けた人が後に格闘技戦争が起きて大変なことになったうちの、ちょっとやばそうな1人が仕掛けていたイベントらしいんですけど。

(宇多丸)まずね、『狂人乱舞』って……その時点で(笑)。

(吉田豪)で、なにかと思ったら狂人が乱舞するっていうのはこれ、猪木さんが乱舞していたっていうだけなんですけども(笑)。

(宇多丸)フハハハハハハハハッ!

(吉田豪)これ、横浜銀蝿とかブラザー・コーンのライブがメインだったんですけど。で、猪木さんがちょうどUFOっていう格闘技団体を作った頃だったんで。「人を怪我させないグローブを作りました」って言って。で、配下の外人選手の試合とかやったりした後に、猪木さんがちょっとスパーリングでやるみたいになって。ちょっとやっていた後に、「素人の挑戦を受ける」みたいなことを言い出して。

(宇多丸)「私は誰の挑戦でも……」って、素人を?

(吉田豪)そうなんですよ。もう引退後ですよ? で、何人か普通にさばいたんですけど。ちょっと腕に覚えがあるやつがやってきて。で、猪木さんがちょっとカチンと来て。明らかにスイッチが入って。その人を怪我させないグローブでボコボコにして、素人が耳から血を流していて(笑)。

(宇多丸)怪我してるじゃんっていう(笑)。

(吉田豪)そうなんですよ(笑)。

(宇多丸)だからもう、そこでやっちゃうのが猪木さんっていう。

(吉田豪)そうなですよ。で、もっと言うと奇跡的なシーン……この奇跡を共有できるのはこういう場所しかないんですけど。車いすバスケの大会とかもその中でやっていて。猪木さんがフラッと視察みたいな感じで、そこにも乱入していって。試合にも参加したんですけど。その時はちょうど横にDJがいて。ハウス・オブ・ペインの『Jump Around』を流した時に猪木がジャンプしてたっていうね。そんなどうでもいい話も……(笑)。

(宇多丸)フハハハハハハハハッ! 「Jump Around♪」って? 「Jump up, jump up, and get down♪ Jump! Jump! Jump! Jump! Jump!」って猪木さんがジャンプしてんの?(笑)。

(吉田豪)「猪木が跳んだ!」って(笑)。

(宇多丸)その車いすバスケの横で? なんか……なに、これ?(笑)。

(吉田豪)フハハハハハハハハッ!

猪木『Jump Around』ジャンプ

(吉田豪)いや、本当にいろんな猪木を見てきているんですよ。猪木さんのお兄さんをインタビューしたりとか、ご家族も相当取材とかしたりして。猪木さんのお兄さんもかなりそっち側の人で。「世界の5大宗教を統一しろという啓示を受けて、そのために頑張ってます」っていう人でしたからね。

(宇多丸)ええっ? なんかやっぱりちょっと、結構スピリチュアルというか、なんというか。ちょっと、ねえ。

(吉田豪)完全にそういう側の人で。だから猪木さんの周りにそういう人たちがどんどん集まってくるんですよ。だから、最後の奥さんだった田鶴子さんって人が猪木さんの取り巻きみたいな人たちを遠ざけたってことで結構、反発されて。その奥さんが亡くなった後にいろんな人たちが和解みたいな感じでできて。「よかったね」みたいな感じになってたんですけど……遠ざける気持ちもわかるっていうか。

(宇多丸)まあ、まともな感覚で言うと。

(吉田豪)まともな感覚で言うとアウトの人たちも……当然、ちゃんとしたスポンサーもいますけど、あれな人もそこにはいろいろ含まれていたはずだったっていう。で、猪木さんは本当に「詐欺師? 面白いじゃねえか!」みたいな感覚の人だったんで。

(宇多丸)本当にだからさっきの豪さんの「面白いからまあいいか」がもう本人がそもそも、その原理で動いてるから。

(吉田豪)完全にそれだから。政治家にだけはしてはいけないということを言い続けてきたっていう。

(宇多丸)これだけは、今後も含めて声を大にして言っておきたい。「政治は面白でやってはいけない」。

(吉田豪)「プロレスではよし」っていう(笑)。そして僕、最近『週刊新潮』の書評でも書いたんですけど。でも猪木さんがそうやっていろんなこと、対世間のことをずっと考えて活動してきた人なんですよ。世間の偏見と闘うためにモハメド・アリをリングに引っ張り上げて、それで多額の借金を背負ったりとか、いろんなことをやってきたんですけど。それでも猪木さんって温泉に行くとおばあちゃんに「あら、ジャイアント馬場さん。サインください」って言われたりとか。普通では間違えられないような間違いをされ続けてきて。

ジャイアント馬場を仮想敵にして。「向こうはショーだけど、うちは本物」みたいと言い続けてきたのに、でも常に馬場さんの方が格上で、知名度も上で。新日本プロレスが圧倒的なブームで、全日本の視聴率の方が悪かった時でも馬場と間違えられ続けてきたっていう。で、馬場さんがね、20年ぐらい前に亡くなって。それから何年経っても、まだ馬場と比較され続けるみたいな。政治家になろうが、どうしようが。どんなに実績を残しても、比較対象が馬場だったんですよね。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。じゃあちょっと、一番巨大なコンプレックスとしてあったというか。

どんなに実績を残しても馬場と比較される

(吉田豪)そう。で、「馬場はライバルじゃない」って言い続けてたんですけど。「俺にとってライバルは世間だ」って言っていたんですよ。でも、その世間って「プロレス=ジャイアント馬場」だと思ってるような世間だったんですよ。だから生涯、ジャイアント馬場との戦いを続けたはずで。僕が思うに、だから晩年の猪木さんが自分の病気を隠すことなく、痩せ衰えていく姿をそのまま公開したことが賛否両論というか、いろいろ言われてましたけど。あれってたぶん、自分の病気どころか死んだことも隠し通そうとしていた馬場さんに対する返答だった気がしていて。

(宇多丸)馬場さんもすごいよね。武田信玄じゃないんだから。「死して3年、秘すべし」みたいな。

(吉田豪)弔問客を追い返したとかね。

(宇多丸)そうか。最後までそれはあったんじゃないかっていう。だからこその、猪木さんの晩年というか。なるほどな。はい。ちょっとお時間、今日は近づいてきてしまったんですけど。番組でも近々、改めてですね、アントニオ猪木さん絡みの、この番組ならではの追悼特集を予定しておりますので。それはまた番組の中で発表していきます。

<書き起こしおわり>

吉田豪 アントニオ猪木の素顔 人間・猪木寛至を語る
吉田豪さんがニッポン放送『上柳昌彦・松本秀夫 今夜もオトパラ!』の中でアントニオ猪木さんを紹介していました。アントニオ猪木さんの素顔、人間・猪木寛至について話をしています。 (上柳昌彦)で、今日はですね、あの方ですよね。スポットを当てていた...

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