(渡辺志保)あとは、そのユニークあること。それが美しいっていうことなのかなっていうのを私はこのアルバムを聞いて非常に非常に強く感じたところではあります。この「ユニーク」ってフレーズは本人がインスタグラムに載せたオープンレターの中にもたしか使われていたし。で、さっき言った『ALIEN SUPERSTAR』という曲の中でも「ユニーク、ユニーク」っていう言葉が繰り返されるんですよね。で、「特別なこと」だし、「人と違っててもいいんだよ」っていう。それを私は「ユニーク」っていう意味で捉えているんですけれども。
で、12曲目に『THIQUE』っていう曲が入ってて。よく考えたなって思ったんだけど。これもヒットボーイとかがプロデュースに関わっている曲で。それでLilJuMadeDaBeatっていう男性のプロデューサーがいるけど、彼が参加して。このLilJuMadeDaBeatって、元々メーガン・ザ・スタリオンの本当に初期の初期からずっとビートを作っていた、もう二人三脚で頑張ってきましたみたいなプロデューサーの方でして。彼がビヨンセとやっているのはちょっと胸熱だなという風に思ったんだけど。
でもこの『THIQUE』っていう曲のスペル……「Thick」で「分厚い」っていう意味で。ビヨンセはずっと、その自分のちょっとふくよかなボディーっていうのを「厚みのあるボディー」ということで。ずっとずっとそれをレプリゼントしたけどきたけど。本来はThick」ってスペリングされるところを「Thique」っていう……「Unique」と同じようなスペリングを当てはめていて。
で、すでに私がフォローしている向こうのジャーナリストの方がTwitterの名前をこの「THIQUE」って変えていて。これからこのフレーズ、流行りそうだなとも思ったし。本当にうまいこと考えたなという風にも思うし。まあ、もちろん近年のそのボディーポジティブであるとか、そのジェンダーの問題とかも「自分が自分らしくある。それでいいじゃないか」みたいな、そういう流れがあると思うんですけれども。ビヨンセの今回のアルバムからも、そういうメッセージを感じました。
『THIQUE』のスペリングに込められた意味
(渡辺志保)そして、これがその『RENAISSANCE ACT1』だから。『ACT2』『ACT3』がどうなっちゃうのか、本当に本当に気になりますね。だから『ACT2』も今回みたいなダンスミュージックを基調としたシームレスな作品になるのか。もしくは、たとえばシームレスな部分だけをフォーマットとして気づいて。じゃあ今度はゴリゴリ、ヒューストンにオマージュを捧げた内容になるのかとか。ここまで、今回のアルバムも「出し切ってるな」みたいな感じを私は少し感じたので。これが『2』『3』と続くっていうのが全然全然、想像がつかない感じもあるんですけれども。
ここで、じゃあ最後にもう1曲、このアルバムからですね、聞いていただきたいなと思います。この楽曲も『SUMMER RENAISSANCE』というね、アルバム最後の16曲目に入ってる曲なんですけれども。『SUMMER RENAISSANCE』っていう言葉自体がもちろん、この今の季節的にも、めちゃめちゃ合ってるんだけど。これは元々、ドナ・サマーの曲をね、サンプリングしております。『I Feel Love』という曲ですけども。
(渡辺志保)で、ドナ・サマーこそ、もうずっとね現役のディスコシンガーであり、レジェンドであり。そして彼女自身もそのクィアコミュニティーにおけるアイコンとして愛されてきたっていうことで。その曲をサンプリングして、こういうメッセージのアルバムを締めくくるっていうのはまたビヨンセだなという風に思いましたし。で、このアルバムは本当にこう、冒頭にパッチワークみたいって言ったけど。もう無数にいろんな声とかビートとかコーラスとかがサンプリング……たとえばティーナ・マリーの『Ooo La La La』とかも引用されていたりするわけなんですけども。
そういうのが本当に無数にあって。なんかこれもサンプリングの許諾を取るのとか、超大変だったんじゃないかって思うのと同時に、私ちょうどアルバムがリークされてすぐにケリスがブチギレてるのをSNSで見て。で、その『ENERGY』っていう曲にケリスの『Milkshake』がサンプリングされてるんですよね。これはケリス的には「別にこれ、コラボでもなんでもなくて。リスナーの人が教えてくれるまでもちろん、サンプリングされたことも知らなかったし。これはコラボとかじゃなくて、私の声が盗まれたの!」みたいなとおっしゃってて、めちゃくちゃブチギレてるんですよね。
だからこのへんのちょっとね、ケリスとビヨンセも仲良くなることは今後、あるんだろうか?っていう風にも思いを馳せながらですね、この『SUMMER RENAISSANCE』をちょっと聞いていただきたいと思います。どうぞ。
Beyoncé『SUMMER RENAISSANCE』
(渡辺志保)ビヨンセの『SUMMER RENAISSANCE』をお届けいたしました。最後、こうやって終わる感じ、アルバムとしてすごいいなという風に思いましたね。ヤナさんはいかがでしたでしょうか?
(DJ YANATAKE)いやー、すごい勉強になりました。志保さん、ありがとうございました。
(渡辺志保)いやいや、全然。本当にもうね、この2日ぐらいでかき集めたネタを話しただけっていう感じなんですけども。
(DJ YANATAKE)でもね、まだまだこれからね、アップデートして。この作品、志保さん、しゃべっていただけたらなと思ってるんですが。俺とかは最初に『BREAK MY SOUL』が出た時に、もちろん曲としてすごい好きだけど。さっき言った、そのドレイクもそうだけどさ。なんか、特に『BREAK MY SOUL』はロビン・Sの『Show Me Love』っていう、もうリアルタイムで知ってる曲で。めちゃくちゃ大ヒット曲だったんですよ。だから、その大ネタすぎるところにやや……「えっ、こんなんでいいの?」みたいなのは正直、あったんですよね。
だけど、やっぱりこの『RENAISSANCE』っていうタイトルと、さっきから志保が教えてくれた元々、そのブラックカルチャーが持ってたものを再生して、自分たちで取り戻していくんだみたいな。というようなことをわかって聞くと、全然また違って聞こえてくるし。アルバム全体を通して、やっぱり本当にね、その当時……たとえば『Show Me Love』ぐらいの頃だと俺、20歳ぐらいなんですよ。で、クラブとかもまあ、遊びには行ってるけどさ。今みたいにバンバン、クラブがいっぱいあるわけじゃないし。
その、「ここに行けばヒップホップがかかってる」とかじゃないわけよ。クラブって。もう、ヒップホップのイベントなんか本当にちょっとしかやってなかったんだから。だけど、その時のクラブシーンはやっぱり本当にね、ハウス主流と言ってもいいんじゃないかな? まあ、いろんなジャンルが正直混ぜ混ぜって感じだったんすけど。でも、だから普通にハウスとかも買ってたし、聞いてたんですよね。で、クラブでも踊ってたんですよ。
たとえば渋谷にケイブっていうクラブがあって。地下2階と地下1階にあるんですけど。地下1階の方はサブフロアみたいなのでヒップホップとか。俺らも結構、月1回ぐらいやってたりとかしたんだけど。メインは地下2階なんですよ。だけどもう本当に真っ暗なの。今のクラブとかの営業じゃ考えられないぐらい、マジで人の顔が見えないくらい、真っ暗なの。
そこに、こういうハウスのずっと繰り返されるので、それで酒も飲んでないのに、なんかずっと時間を忘れて踊ってられるみたいな。そういうのをなんか、めちゃくちゃ思い出したよね。イエローとかもそう。本当、人の顔とか見えないんだよ。
(渡辺志保)そうかそうか。本当ね。たしかにたしかに、イエローいえば……っていう感じもしますよね。
(DJ YANATAKE)でもさ、よくよく調べるとビヨンセって、たとえば『Show Me Love』の頃とかって、小学生。小6ぐらいなんですよね。
(渡辺志保)そうですね。彼女も82年とか1年とか、そのぐらいだから。
(DJ YANATAKE)だからさ、彼女もそういう歴史を改めて勉強してんのかな、なんて思いつつ。で、それでいてちょっとやっぱりなかなか、こういうLGBTQの話とか、クィア的な話しとかっていうのは軽くはできないなっていうのは思ってはいるんですけども。でも、僕も同時にそのぐらいの昔にヒップホップに触れた頃、人種差別の問題とかに触れたりとかして。なんか、それはやっぱり当事者ではないからわからないけど。でも、やっぱりそれを勉強しようと思ったのがヒップホップのおかげであったり、音楽のおかげであったわけで。今、またこのビヨンセのアルバムとか、本当にこの間の宇多田ヒカルさんの作品とかもそうですけど。そういったことをね、音楽を通して勉強をしていければいいかなって思っております。
(渡辺志保)本当にそうなんですよね。私も本当、勉強だなと思いながら……別に嫌な意味ではなくてね。学びだなと思いながら聞いてましたし。ビヨンセもそのHIVで亡くなった叔父さんがハウスミュージックが好きだったっていうのもティナ・ノウルズ。お母さんの方がおっしゃってたので。もしかしたら小学校ぐらいの時に叔父さんと一緒に『Show Me Love』を聞いていたとかね、そういう原体験があるのかもしれないですし。
私もちょうど、それこそ高橋芳朗さんにちょっと前にあった時に、そのフランキー・ナックルズとか、あとはアメリカのデトロイトで生まれたテクノとかもそうだけど。そのブラックミュージックとしてのハウスとか、アメリカのブラックミュージックとしてのテクノみたいなところをもう1回、ちょっと説明するというか、語る必要があるような気がしますね、みたいなことをちょうど今年に入ってから、話していたところだったんですよね。
(DJ YANATAKE)その切り口を教えてくれるのがすごいよな。だから『RENAISSANCE 2』とか『3』はまた違う切り口のブラックカルチャーを……もう文化を背負ってるんだよな、ビヨンセは。
文化と歴史を背負うビヨンセ
(渡辺志保)本当に。文化と歴史をね、背負われてらっしゃるからね。だから彼女が『Lemonade』で自分のことを……とにかく自分のルーツと、そこから広がってアフリカン・アメリカンの女性。アメリカで育った黒人女性としてのカルマみたいなことをすごい『Lemonade』では描いていたから。だから今回はさらにその外の世界を描いて背負ってるのかなという風にも思ってて。だからこれが3部作になるとしたら、一体どういう風に?っていうのはめっちゃ思いますね。ですので今後もね、学びを深めていきたいなという風に思ってるっているうちに、もう時間ですね(笑)。
<書き起こしおわり>