渡辺志保 ビヨンセ『Lemonade』徹底解説

渡辺志保 ビヨンセ 『Lemonade』を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でビヨンセの最新アルバム『Lemonade』について徹底解説。実際にアトランタで見たビヨンセのライブの話なども交えつつ、ビヨンセが伝えようとしているメッセージについて話していました。

(渡辺志保)去る4月23日に発表されたビヨンセ(Beyonce)の新しいアルバム『Lemonade』。みなさん、もうすでに聞いてらっしゃいますでしょうか? この『INSIDE OUT』でもですね、たびたびいろんな曲をかけたりとか、このタイトルはこういう意味なんですよっていう話をしてきましたけど。アルバムの発売形態……だんだん今年、ますます過激化するアルバム発売形態ですけども。たとえばリアーナ(Rihanna)なんかは、「レコード会社のミス」とかって言われてますけども、自分の最新アルバム『Anti』をTIDAL上で無料ダウンロード方式でリリースしたりとか。

渡辺志保 Rhianna『Work feat.Drake』を語る
渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でリアーナの最新アルバム『Anti』とファーストシングル『Work feat.Drake』について話していました。 (渡辺志保)ここでオープニング曲を紹介したいんですが。こちらももう...

カニエ・ウェスト(Kanye West)は最新作『The Life of Pablo』を自分のアパレル・ブランドのコレクションの場。しかもその場所がマジソン・スクエア・ガーデンを貸しきって、そこで自分のアルバムの音源を最初にお披露目する、なんて。どんどんどんどんスケールがデカくなっちゃって、我々はどうすりゃいいの?っていう。カニエの時にも言ったけどさ、「聞けないじゃん! 聞かせてよ!」っていう感じがするんですけども。

渡辺志保 カニエ・ウェスト『The Life of Pablo』徹底解説
渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でカニエ・ウェストの最新アルバム『The Life of Pablo』を徹底解説。このアルバムに至るまでの背景やテーマについて、ゴシップ情報なども交えつつ紹介していました。 (渡辺志...

このビヨンセの『Lemonade』なんですが、さすがビヨンセ様っていう感じがするんですけども。どういった方法で最初に一発ぶっ放したか?っていいますと、アメリカ国内でも1、2を争うトップケーブルテレビ局のHBO。『セックス・アンド・ザ・シティ』とか『ザ・ソプラノズ』とか、最近だと『ゲーム・オブ・スローンズ』とか、そういった超一流テレビドラマをバッコンバッコン排出している名門ケーブルテレビ局HBOの夜のいい枠を1時間買い取って、そこで自分のアルバムを流すという、もう、なんじゃこりゃー!?っていうね、感じですよね。

で、テレビ局を使って流すということなので、もちろんビジュアルもついてくるわけですよ。で、自分の全曲分のミュージックビデオの代わりにもなりうる、『Lemonade』というタイトルの60分のショートフィルムをこしらえて、それをケーブルテレビでバッコーン! と流して、その後、つつがなくTIDALだけでストリーミング公開をしたという。すっごいね。で、カニエの時は、「僕のアルバムはTIDALだけでしか聞けません!」とか言っても、結局世界中の何割かしか聞けないっていう、いいんだか悪いんだか?って、悪いんだけど。そういう流れだったんですけど。

ビヨンセさんはね、さすが人格者でございますので。その数日後にアップルミュージック、iTunes上でも買えるようになって、無事、我々日本でもゲトれるようになりました。しかも、アルバムの音源と映像とセットで購入することができまして、「人格者やなあ」という感じがするんですけども。でね、このアルバムなんですけども、テレビ放送されてすぐにアメリカの視聴者の方は「なんじゃ、こりゃー!」っていうような感じだったと思うんですけども。ひとつ、最初のうちに彼女が問題提起をしていて。それはどんな問題提起かって言うと、「浮気してるの?」っていう……

(DJ YANATAKE)(笑)

(渡辺志保)たまんないよね! で、しかもビヨンセの旦那さんっていうとね、もちろん誰もが知っているジェイ・Z(Jay-Z)だから、もうその瞬間全国民がさ、「おい、ジェイ・Z! お前、浮気してんのかよ!?」っていう。もう、たまんない!っていう感じなんですけど。ビヨンセね、浮気疑惑ソングはこれまでにも実は何曲かありまして。デスティニーズ・チャイルド(Destiny’s Child)時代にもう、実は浮気疑惑ソングがあったんですね。それはロドニー・ジャーキンス(Rodney Jerkins)がプロデュースしている『Say My Name』という曲なんですけども。

これはシチュエーション的には、彼氏にビヨンセが電話をかけている。ちょっと聞いてもらいましょうかね。ここで。デスティニーズ・チャイルドで『Say My Name』。

Destiny’s Child『Say My Name』

はい。いま聞いていただいているのがセカンド・アルバム『The Writing’s on the Wall』の頃の、まだ10代の頃のビヨンセでございますけども。『Say My Name』。シチュエーションとしては、ビヨンセが彼氏に電話してる。なんだけど、いつもの彼とちょっと違ってテンションが低い。なにを聞いても、「んー、あー、いいんじゃね?」とか。生返事ばっかり。「もしかして、隣に女がいるんじゃないの?」っていうね。で、「もしもあんた、本気で私と付き合っているなら、私の名前を『ビヨンセ』っていま、電話口で言ってよ!」っていう。「隣に女がいないっていう証明になるから、私の名前を言ってください」という意味の『Say My Name』なんですね。

っていう、私はこの『Lemonade』の最初のね、「Are you cheating on me?(あんた、浮気してるの?)」っていうのを聞いた時に、サッとこの『Say My Name』が浮かんだわけなんですけども。なので、このアルバムのひとつの軸になっているのは、ひたすらビヨンセが浮気を責めるっていうとんでもない柱がドドーンと立っているんですけども。ただ、これは音源だけじゃなく、ぜひCDを買う際やダウンロードする際は映像も一緒に見ていただきたいんだけど。ビヨンセのモノローグと映像、その後に曲が流れるというのが60分ずっとね、続くわけなんだけど。

だから各曲に入る前に、かならずその曲をモチーフにした映像とか、ビヨンセのモノローグが流れるんですね。ちなみに1曲目『Pray You Catch Me』という曲で始まるんだけど。そん時は、ビヨンセがまだしおらしいというか、「あなたのことを考えるとすごい不安になっちゃうし、安心できないし。他の外の女の人に目が向いているのかもしれないけど、私の話も聞いてほしいし、私の存在も認めてほしい」っていう。なんか夫婦関係の主体性がまだ旦那さんの方にあるわけなんですよ。で、しおらしい感じで始まるんですけど……

なんだけど、アルバムが進むにつれ、だんだんビヨンセの感情のボルテージもどんどんどんどん上がってくるんですね。で、映像の方も2曲目の『Hold Up』という曲に入る前に、ビヨンセがザッパーンと水の中に落ちて。さらに、水の洪水とともに黄色いドレスをまとってドアをバタンと開ける。いわゆる「生まれ変わったビヨンセ」みたいな。いままでお家で「あなたが浮気してるのかな? どうなのかな? 今日も、今日も、今日も、朝まで帰ってこない! なんなら、昼まで帰ってこないじゃねえか!」っていうビヨンセがお家で待っているんだけど、1曲目が終わると同時にザッパーン! と前に出て、「こんな家で待っているだけの女じゃねえんだよ!」っていうのが2曲目からの流れなんですよ。

で、2曲目の『Hold Up』という曲ですけども。ここでも、だんだんだんだんヒートアップしていって。ビデオの中でも、バットを片手にバッコンバッコン車の窓を割っていくシーンが。で、消火栓なんかもバッコーン!って割って、水がブシューッと吹き出すというようなところなんですけども。

ここでもね、リリック。「あなた以上の男なんていないのに、なんでそんなに私のことを大事にしてくれないわけ? あんた、私と出会ってなかったら、まだまだストリートレベルの男だったでしょ?」というリリックで、もう痛快。「わかる!」とかって言うと……ちょっとよろしくないですけども。で、最後にヒップホップファンなら「おっ!」って思うラインが来るんですけど。なんと、ソウルジャ・ボーイ・テレム(Soulja Boy Tell’em)くんがかつて放った『Turn My Swag On』。「Hopped up out the bed, turn my swag on♪」っていうチューンがあるんですけど。

それをなんとビヨンセが歌ってるのよね。節を変えずに。で、リリックの内容はどんなかって言うと、「ベッドから飛び降りて、今日も朝、鏡をのぞきこんで。自分を『スワッグモード』に切り替える」っていうね。もう、スワッグモードに切り替えたビヨンセが3曲目からバーン! と来るんだけど。「スワッグ(Swag)」と言えば、彼女の旦那さんのジェイ・Zがとにかく使っていた言葉なんですよ。で、ヒップホップシーンでは、スワッグという言葉はジェイ・Zが発明したんじゃないかっていうぐらい、もうスワッグ=ジェイ・Zなわけね。で、2008年には『Swagger Like Us』というようなヒットチューンを作ったりもジェイ・Zはしていましたけども。

だからもう、いままでジェイ・Zのお家芸だったスワッグ芸をここでビヨンセが乗っ取る! テイク・オーバーしちゃう! みたいな感じでどんどんどんどんストーリーが始まっていくんですけど。ここでじゃあちょっと、『Hold Up』を聞いていただきましょうかね。プロデュースド by ディプロ(Diplo)。ビヨンセで『Hold Up』、聞いてください。

Beyonce『Hold Up』

はい。というわけでいま聞いていただいておりますのはビヨンセの最新アルバム『Lemonade』から『Hold Up』。いまね、「Jealous or crazy? Jealous or crazy?」って。「嫉妬でおかしくなりそう!」っていうラインがあるんだけど。私、実は彼女の『Formation Tour』っていう『Lemonade』の曲を中心にやるライブをこの間、アトランタまではるばる見に行ってまいりまして。そこでも、女の子が「Jealous or crazy? Jealous or crazy?」ってみんな合唱するっていう。「お前のせいで嫉妬で頭がおかしくなりそうだよ!」っていうのを何万人もの女の子が合唱するっていう。もう最高かよ!っていう感じがしたんですけども。

だんだんまあ、ビヨンセもバットで車をかち割るぐらいですから、だんだんギアが上がってくる。で、この後の『Don’t Hurt Yourself』という曲ですね。これはザ・ホワイト・ストライプス(The White Stripes)のジャック・ホワイト(Jack White)を召喚してですね、かなりロックテイストに攻める曲なんですけども。レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)をサンプリング元で使ってますけども。ちなみに、このミュージックビデオ、映像の中で着ているのはカニエ・ウェストのYeezy。Yeezy Seasonを着てビヨンセが踊っているという。キム・カーダシアン(Kim Kardashian)もそれをInstagramにのせて、「ビヨンセがYeezyを着てる!」みたいな。

Sipping' on some Lemonade this morning…. ?????? ???? #BeyInYeezy #WCW

Kim Kardashian Westさん(@kimkardashian)が投稿した写真 –

もう超脳天気な。キムはいいな! みたいな感じのポストをしてましたけども。ここもね、すいませんね。さっきから過激な歌詞ばっかりを拾い上げているような感じなんですけども。最初のライン、ちょっとこれを朗読させていただいてもいいですか?

「Who the fuck do you think I is?(私を誰だと思ってんの?)」
「You ain’t married to no average bitch boy(あなた、そこらへんのビッチと結婚したわけじゃないんだからね)」
「You can watch my fat ass twist boy(私の自慢の大きなお尻がツイストするのを見てなさいよ)」
で、なぜ、お尻がツイストをするかというと、次です。
「As I bounce to the next dick boy(隣のディックに乗り換えるから)」っていう。

もう、テメーが朝まで帰ってこねえんだったら、こっちはこっちで用意してんだよ!っていうね。あ、ビヨンセ、そうなんだ! そっち、来る? みたいな感じがしましたけども。実際のところはね。でも、ビヨンセぐらいの存在でしたら、隣のディックオファーがすごいことになっていると思うんですけどね。そのへん、ちょっといつかビヨンセさんに会ったら……

(DJ YANATAKE)「隣のディックオファー」(笑)。

(渡辺志保)ビヨンセさんに会うことがあれば、「あの時、実際にどうだったの?」っていうのは聞いてみようかな、なんて思うんですけども。まあ、これはどうなんですかね? 一般的な女性もこういう風に、みなさんビヨンセじゃなくても思うものなんでしょうか? ちょっと今度、Twitterでアンケートでも取ってみようかと思うんですけども。結構この最初の4ラインは私はググッと来まして。どんどんどんどんビヨンセがヒートアップしていくわけですけども。

この歌詞の最後の方でも、「これが最後通告だよ」って。「If you try this shit again You gon lose your wife(また二度とこんなことをしてみな。あんた、自分の奥さん失うよ。もう離婚届だよ)」っていう感じになりまして。ここまで来ると、だんだん、最初は「お家であなたのことを心配してるんだけどな……今日も帰ってこないな、どこにおるんやろか?」っていうような、ちょっとしおらしいビヨンセはもういなくなっているんですよ。どんどんどんどん、ビヨンセ自身もトランスフォームしていっているわけなんですけども。

で、その次ですね。『Sorry』という曲がございまして。これがいちばんいま、ネットでバズッている曲なんじゃないかと思うんですけども。『Sorry』っていうタイトルだけ聞くとね、「あなた、ごめんなさいね」っていう、ちょっとしおらしさがあるような謝っている曲に聞こえるかもしれないんだけど、これはその反対で。「私、ちっとも悪く思ってないから。そのことなら謝るわ。私、悪くないからね」っていう。「I ain’t sorry.(I am not sorry.)」という曲なんですよね。

ここにもちょいちょい、ジェイ・Zを思い出させるようなラインなんかも入っていて。「友達とデュセ(D’usse)のカップを飲む」っていうリリックがあるんだけど。デュセっていうのは高級コニャックの銘柄なんですね。で、ジェイ・Zもそのコニャックのデュセとパートナー契約を結んでいて。やたら一時期、ジェイ・Zのリリックの中にデュセが出てきたこともありますね。『Drunk in Love』の歌詞の中にも出てきたかな?っていうような、「ジェイ・Zのことかな?」ってわかるような固有名詞を出したりもしているんですけども。

これはフックの部分が「Middle fingers up, put them hands high Wave it in his face, tell him, boy, bye(中指を立てて、それをあんたの彼の前に突き出しな。そんでもって、さよならの手を振るサインをしなさいよ)」という曲なんですけども。これもね、ライブで数万人の女の子が一斉に中指を立てて、「お前なんかと別れてやる!」っていうのを合唱していて。もう本当、素晴らしいエネルギーでした。もう、いまの電力不足の問題なんか解決するんじゃないかって思うぐらいのエネルギーだったんですけども。

これで私がリリックを見ながら「おっ!」って思ったのは、いままでの曲の中だと、自分のパートナーのことを「You」って呼んでいるんですね。曲の中に出てくる登場人物がビヨンセの「I」と、配偶者・パートナーの「You」の2人しかいないんだけど、この曲の中ではパートナーのことを「He」って呼んでいるんですね。人称名詞が変わっている。三人称になっているっていう。なので、同じスクリプトの中にビヨンセもいるし、他の誰かもいて旦那さんもいるっていう、その距離感が違うわけですよ。

いままでは「I」と「You」しかいなかったんだけど、今度は「Him」とか「His」の呼び方・呼称に変わってますので。そこでまた、実際に旦那さんと距離が離れていますよっていうのが、そういうところからも読み取れるのかなという風に思いまして。で、なにがバズッているかっていうと、これ、最後の歌詞のラインなんですけども。「He better call Becky with the good hair」。というわけで、「あいつ、グッドヘアーのベッキーでも呼べば?」っていうので最後、終わっているんですけども。

「グッドヘアー」ってそもそも何なのか? 何がグッドで何がバッドなのか?っていう話なんですけど。この場合は、まずグッドヘアーの前にバッドヘアーの話をすると、バッドヘアーは黒人特有のチリチリのアフロヘアーのことを「バッドヘアー(Bad Hair)」って言うんですよ。なぜバッドか?っていうと、お手入れも大変だし。雨が降ろうものなら、せっかくセットした髪もまたクルクルッと戻っちゃうし。あと、黒人の女の子にとって、髪の毛って本当に本当に大事なもので。自分の髪の毛をうまくセットして、その上にさらにウィッグをかぶせたりとか。すごい時間をかけてエクステンションをつけたりとか。あとはビヨンセのジャケットもそうですけど、細かいブレイズにしてみたりとか、コーンロウを編んでみたりとか。とにかく、髪の毛ってすっごい大事なわけね。

なんだけど、お手入れが大変だから、自分たちのヘアーのことを「バッドヘアー」って言う。これは我々東洋人とか西洋人。生まれつきストレートヘアーである我々は絶対に決して言ってはいけない表現なんですけど。なので、ビヨンセが自分をちょっと自虐気味に、アフリカン・アメリカンの女性を代表して、「私たち、バッドヘアーだけど、あんたが浮気してるグッドヘアーの白人のベッキーでも呼びなさいよ」っていうようなラインがございまして。

で、このね、『He better call Becky』っていう、ベッキーっていう固有名詞、人の名前が出てるじゃん? なので、ネットでは一斉に、この『Lemonade』が発表された直後から、「ベッキーは誰だ?」っていうね。すごかったですよね。リタ・オラ(Rita Ora)とか、イギー・アゼリア(Iggy Azalea)とかまでも槍玉に上げられて。あんまり関係なさそうだけど、「こいつが実はベッキーなんじゃないか?」とかって。で、いちばんすぐに名前が挙がったのが、レイチェル(Rachel Roy)さんっていう、デイモン・ダッシュ(Damon Dash)の元奥さんかな?

で、彼女はもともとジェイ・Zのお洋服のブランドのロカウェア(ROCAWEAR)っていうのがありましたけど。そのデザイナーとしても働いていて。で、実際に、なんかそういう関係が業界内で噂されていたらしいのね。で、ちょっと前にビヨンセの妹のソランジュ(Solange)がホテルのエレベーターの中でジェイ・Zをボコボコにして、それが防犯カメラに映っている映像が事件になったりもしましたけど。

その時もまさにソランジュが「テメー、レイチェルと浮気してんじゃねーよ!」みたいなことで詰めたっていう、ある業界人の方からの情報もございまして。なので一気に、「ベッキーはレイチェルじゃないのか?」っていうので矛先が向かいまして。レイチェルちゃん、Instagramに鍵をかけたりとか実際にしたんですけども。いまもね、実際にベッキーは誰だかわかっていないと。ちなみに、ビヨンセのモノローグの中でも、「私は浮気相手の皮を剥いでそれを服にする。頭蓋骨で○○を作る」みたいなことを言っていて。

で、ついこの間、ニューヨークで行われた高級ファッションブランドのお披露目会みたいなののメット・ガーラ(Met Gala 2016)で、よりによってビヨンセがラバースーツみたいな素材の、ピチピチの、ラテックスっていうんでしたっけ? の、ちょっとヌーディーカラーのドレスをパーッと着ていて。それもネット上で一斉に、「ビヨンセがベッキーの皮を剥いで着てきた!」みたいなことがニュースになっていて。「ああ、皮を剥いで着たんだな、本当に」みたいなこともあったんですけども。

この『Sorry』は本当に2016年のビヨンセのガールズアンセムっていう感じがしますので。これ、結構DJの方もね、かけやすいんじゃないかなと思うので。ここでじゃあ、どんな感じで皮を剥いだのか、聞いてみたいと思います。ビヨンセで『Sorry』。

Beyonce『Sorry』

はい。いま聞いていただいておりますのがビヨンセの最新アルバム『Lemonade』から、超ガールズアンセム、『Sorry』でございます。この後ね、最後にベッキーさんに関するラインがあるんだけれどさ。私、これTwitterでも『Lemonade』を聞いた時にすぐつぶやいちゃったんだけど。いま日本でもさ、サラサラヘアーのベッキーと言えば、もう日本ではあの人しかいないだろ?っていう感じがしますのでね。○○の極みのボーカリストの方の元奥様に捧げたいなという風にね……「サラサラヘアーのベッキーでも呼べば!(ガチャン!)」って電話を切る、みたいな感じで日本でも十分にウケる要素があるんじゃないかなんてね。こんなことを言ったら本当に、どこか出禁になっちゃいそうな感じがしますけども。

まあ、そんな感じでビヨンセもすごく調子よく。これ、シチュエーションとしては女友達とクラブに行くぞ!っていうシチュエーションですね。そこでクラブでみんな女同士で乾杯して、「I ain’t thinking ‘bout you(もうあなたのことなんて、これっぽっちも考えてないから)」って。で、時計を見て、「そろそろ旦那がお家に帰る頃かな? 書き置きなら玄関に置いてきましたから。私、帰りませんから!」っていう感じなんですけど。ジェイ・Zとビヨンセのお家の玄関なんてさ、たぶんうちのキッチンとダイニングルームを全部合わせたぐらい……もっと広いかな? どんだけ広い玄関なんだろう。そこに書き置き残してもさ、ジェイ・Z見つけられるのかな? とかって。勝手にね、人の家の玄関、見たこともないですけど。

まあ、そんな感じでどんどんどんどんビヨンセがヒートアップしていくわけなんですね。旦那の嫉妬というただ一点のみにおいて、どんどんどんどんヒートアップしていく。で、この後、アルバムの中では『6 Inch』という曲に変わりまして。これはザ・ウィークエンド(The Weeknd)がフックを歌ったりしてるんですけども。ここは、いままで「I ain’t thinking ‘bout you」みたいな、「I(私)」。自分のことを歌ってたビヨンセも、なんとここで「I」が「She」になるんですね。ビヨンセ本人が、自分のことを「She」という風に、ちょっと遠くから見たような感じで歌っている。

で、ウィークエンドに関しても「She, She, She」っていう風にこう、「あの子は本当に完璧な女で、周りをキルしまくって……」みたいなことを言っているんだけど。ここで、また人称名詞に伴うトランスフォームみたいな。ちょっと距離感の違いみたいなところが感じられるのかな、という風に思ったんですけど。ちなみに、タイトルの『6 Inch』っていうのは長さの単位で「インチ」って言いますけど。アメリカだとね。1インチは2.54センチなんだそうなんですね。だから6インチっていうのは15センチちょいぐらいの長さのこと。

で、なにが6インチかっていうと、ヒールの高さが6インチなんですよ。だから、15センチぐらいのヒール。超高いよね。でも、ルブタンのいちばん有名なやつとかも、あれはやっぱりみんな15センチのやつを履いてるんですかねっていうような感じがするんですけども。まあ、6インチのヒールで決めて、彼女が今日もクラブにやってくる。しかも彼女は1分たりとも、1ドルたりとも無駄にせず、とにかく1日中、1週間中、ずっと稼ぎまくるのよ!っていう。女が稼ぐことにすごい執着しているのよね、ビヨンセって。

で、この曲は特に顕著なんですけど。もともと彼女がお金を稼ぐことに関してすごくこだわっている曲は、これもデスティニーズ・チャイルド時代にさかのぼるんですけども。『Independent Woman』という曲がありまして。これは映画『チャーリーズ・エンジェル』の主題歌でもありまして。

これですね。懐かしい! 懐かしいよ!っていう感じがしておりまして。これも、うら若きビヨンセが自分が住んでいる家も、自分が運転している車も、なんなら自分が着ている服も全部自分で買ってっから!っていう。で、電話するのはちょっと私が寂しくなった時だけだから、あんたからは連絡してこなくていいわよっていう風に男性に言っている曲なんだよね。で、フォーメーション・ツアー。今回のツアーでも、この曲をちょっと使ってパフォーマンスすることもあって。

やっぱりこの『Independent Woman』精神っていうのはビヨンセの中に、いまでも受け継がれているものなんだなという風に感じましたので。まあこれ、PVも『チャーリーズ・エンジェル』の映像なんかをフィーチャーして、すごく見応えがありますので。ぜひぜひ見ていただきたいなと思うんですけども。まあ、そんな感じで『6 Inch』、展開していくんですが。本当にこれは女の子でハスリンというか、普通に働いている子はもう全員聞いてほしいし。「昼も夜も、月曜から金曜まで働いて、さらに金曜から日曜まで働いてんだよ、こっちはよ!(She pushing herself day and night She grinds from Monday to Friday Works from Friday to Sunday)」っていうリリックがありまして。

私はあんまり家事をマメにする方ではないんですけども。まあ、普段の普通のご夫婦の家庭なんかでは、どうしても家事の比重が奥様に重くなるようなこともあるのかなとも思うし。あと、育児に専念してらっしゃる奥様は、もう育児なんて1週間、お休みなんてありませんから。そりゃあ「月曜から金曜まで働いて、さらに金曜から日曜まで働くんだよ、こっちはよ!」っていうような感じで。あとね、このリリックの中に「彼女はすごくリッチ。どんだけリッチかって言うと、東京からわざわざウィスキーの山崎を輸入して飲むぐらいリッチなんだ(She stack her money, money everywhere she goes She got that Sake, her Yamazaki straight from Tokyo)」っていうリリックがありまして。

いまいち、アメリカで山崎を飲むといくらぐらいするのか、私もよくわかんないけど。まあ、山崎を飲みに行ったよね。日本のバーで、アトランタに行く前にね。「10年のやつ、ロックでください」みたいなね(笑)。そんな感じでございました。『6 Inch』、まあそういったゴシップ的な要素を除いてもね、ザ・ウィークエンドが参加しているというところでかなり、言うまでもなく素晴らしい曲に仕上がっておりますので。ぜひぜひ『6 Inch』も聞いてほしいし。

で、ここからちょっと、この『6 Inch』、ビヨンセが自分のことを「She」って呼んでいるぐらいだからちょっと様子が違ってくるんですけども。最後に、ちょっと弱々しい声で「Come back」というのを連呼しているんですね。ちょっと弱った声で「帰ってきて、帰ってきて」っていう風に言ってるんだよね。自分から家を出ておいて、「書き置きなら残してきました」とか言ってるくせに、ビヨンセは旦那さんに帰ってきてほしがっているんですよ。で、それから次の曲にまたつながるんだけど。

次の曲がね、『Daddy Lessons』という曲でございまして。ビヨンセのお父さんに関しては、これもファンの人はみんな知っているんだけど。ビヨンセのお父さんはマシュー・ノウルズ(Matthew Knowles)という方なんですが。彼こそがビヨンセをスターダムに乗せた張本人といいますかね。最初にビヨンセがメンバーであったデスティニーズ・チャイルドを結成した中心人物こそがビヨンセのパパだったんですね。なので、最初からビヨンセはもちろんデスティニーズ・チャイルドのリードボーカルだし、これは諸説言われているんだけど、マシューパパの方針で、ビヨンセよりも肌の明るい子はデスティニーズ・チャイルドには入れませんっていう。で、ビヨンセよりも肌の黒い子ばっかりをデスチャに集めていたっていうような、そんな話もあるぐらいちょっと行きすぎたマネージャーパパさんっていうか。

で、長年ずっとマシューがビヨンセ、ひいてはデスチャのマネージャーをやっていたんだけど、数年前にビヨンセが独立して、自分のマネージメント会社を立ち上げたんですね。なので、「父ちゃん、もう私のマネージャーにならなくていいからさ」って。それが引き金になったのかどうなのか、長年連れ添ってきたビヨンセのママとこのマシューパパは離婚したという経緯もあるんですけども。この父親の姿っていうのはアルバムの中で冒頭からずっと言われていることでありまして。

最初のモノローグでも、「あなたは私のお父さんに似ている。マジシャンみたい。まるで同じ時間に2つの場所にいるみたいなんだよね」っていう。たぶんそれはさ、嘘をついているからなんだよね。ジェイ・Zが。本当は……わからないよ。キャバクラで女の子と遊んでいるのか、わかんないよ。クラブでターナップしてるかわからないけど。「いやいや。まだ仕事してたし……」みたいな。「仕事じゃねえだろ!」みたいなね、感じがしますけども。まあ、そういう風に嘘をつきながら、「まるで同じ時間に2つの場所にいるみたい。しかも、朝まで帰ってこない。それって、うちのお父さんそっくり」っていう。

だから、どちらかと言うと自分のお父さんをネガティブなロールモデルとして歌っているのがこの曲なんですよね。で、実際にマシューパパがこの『Lemonade』を発表された後にインタビューに答えていて。「最初にテレビの前で聞いた時、戸惑った」って言っていて。そりゃあ戸惑うわなっていう感じがしますけど。でもこの間ね、ライブ会場にマシューパパもいて。ジェイ・Zと一緒に並んでビヨンセのライブを見ている写真が上がっていたりしていて。お互い、どんな気持ちでビヨンセのライブを見ているのかしら? なんて思いましたけども。

そうなんですよ。マシューパパっていうのは結構ビヨンセのキャリアにとって良くも悪くもすごく大きい存在であったと。で、これも映像がかなり意味深なんだけど。マシューパパがビヨンセの子供のブルーちゃんと遊ぶシーンなんかもフィーチャーされているんだけど。たぶんニューオリンズだろうなっていうところでの、お葬式のシーンが挟み込まれているんだよね。だから、お父さんのことを歌いながら、葬式のシーンを差し込むっていうことは結構強烈なメッセージなんじゃないのかと思っていまして。

で、ニューオリンズとかのお葬式って、日本だとね、みなさんすごい厳かな感じで進行しますけど。向こうは逆で、ブラスバンドとかを引き連れて、結構派手に故人を送り出すというようなセレモニーにもなっていまして。そこにね、お葬式に対して、死者の旅立ちっていう意味ですごいポジティブな意味を与えているのかもしれないけど。ちょっと心がザワザワッとしたような感じがしました。で、ちなみにこの『Daddy Lessons』の最後には、「Good job Bey(Beyちゃん、よくがんばったね)」っていうセリフが入っているんだけど。そのセリフが娘のブルーちゃんの声なんですね。なので、いままでサウンド的にも映像的にもあんまり家族の……あ、これですね。『Daddy Lessons』。

曲調もちょっとブルーグラス調っていうか。ニューオリンズのブルースを思わせるような感じの曲調になっていますけども。これね、このダディーの背景を知らない人はさ、たぶんこのアルバムを聞いて、なんでいきなりこんなカントリー調の曲が入ってるんだろうな?って思われるかもしれないですけど、実はそういう背景があったということですね。で、最後に娘の声で〆るっていうことなんだけど、ここでちょっと改めて家族っていうものをビヨンセが匂わせるんですよね。家族の愛情とか、家族の絆っていうものをアルバムの中で初めて匂わせるのがこの『Daddy Lessons』っていう曲なんですけども。

その後はですね、もう転がるように真実の愛にビヨンセが気づいていくというようなシナリオでして。『Love Drought』っていう曲もあるんですけど。それも、「私たちの間の愛情はすでに乾いてしまったけど、これから2人でがんばって、もう1回満たそうよ。もう1回、満ち足りた愛情をカムバックさせましょうよ」っていう歌だったりしますし。で、『Sandcastles』という曲ではね、「2人の間にいろいろ約束事があったけど、そんなのはひとつも意味なかったね。私たちが築き上げてきたものって、まるで砂のお城のようにあっけないもので、もう崩れちゃった。けれども、前に進まなきゃ」っていうようなね、流れにアルバム全体がなっていくんだけど。

この「前に進め」っていうメッセージもビヨンセはなぜか自分で歌わないんですよね。じゃあ誰が「前に進め、前に進みなさいよ」って言っているのかと言うと、なんとジェイムス・ブレイク(James Blake)がね、「前に進め」って言っているわけで。いちばんアルバムの中で短い曲『Forward』っていう曲が入っているんだけど。ちょっとここで聞いてもらいましょう。いままで聞いていただいた『Sorry』とか『Hold Up』とかとは全く異なるような曲調で、ジェイムス・ブレイクだけが歌っている曲になります。では、聞いてください。ビヨンセ feat. ジェイムス・ブレイクで『Forward』。

Beyonce『Forward』

はい。いま聞いていただきましたのはビヨンセの最新アルバム『Lemonade』からジェイムス・ブレイクをフィーチャーした『Forward』ということで。ちょっといままで聞いていただいた曲とは曲調が違う感じだったんじゃないかなと思うんですけども。「Forward(前に進みなさいよ)」っていう風にジェイムス・ブレイクがビヨンセに語りかける曲になっているんですけども。ちょっと、いままでは「ジェイ・Z、お前ちゃんとビヨンセに謝った方がいいぜ」みたいなテンションで、「浮気男、死ね死ね!」みたいなテンションで私もしゃべってきたんですけど。

『Formation』が最初に2月に発表された時に私もちょっとブログを書きまして。『Formation』は女性にとってもすごいアンセム。強い女性を体現したような曲でもあるし、合わせて、アフリカン・アメリカンの人にとってもまたアンセムになるような曲なんですよということをブログにも書かせていただいたんですけども。

実はこんな「浮気男死ね死ね!」みたいに言っている『Lemonade』も実はそうで。特に女性、かつアフリカン・アメリカンであること。イコール、黒人女性のみなさんにとってはかなりモチベーションが上がるような、前向きになれるような内容になっているんですよね。で、ちょっと話が戻ってしまうんですけども。最初の方に話した『Don’t Hurt Yourself』。ジャック・ホワイトを招いて「隣のディックに乗り換えるから、あんた、私のお尻が動くのを見ておきなさいよ!」と言っていた『Don’t Hurt Yourself』でも、実は映像を見ると、途中でマルコム・X(Malcolm X)のスピーチを引用しているんですよ。

で、そんなスピーチかと言いますと、彼がLAPDが暴動があったようなことがありまして。それに応えて1960年代に行ったスピーチなんですけど。「アメリカで最も軽視されている人種、それは黒人女性。黒人女性はもう人権すらも守られていないし、とても恵まれていない状況にいる」っていう内容のスピーチをしていまして。それを『Don’t Hurt Yourself』のミュージックビデオの中に差し込んでいるんですね。

で、前回の『INSIDE OUT』でもお話しましたけど、この『Lemonade』というタイトル自体どこから来たのか?っていう話なんですけども。これはですね、ジェイ・Zのおばあちゃんのハッティー(Hattie)おばあちゃんっていうおばあちゃんがおりまして。彼女の90才の誕生日の時にしゃべったスピーチがそのまま、このアルバムのテーマにもなっているんですけども。ちょっと紹介しますと、「私の人生、90年生きてきて、いい時も悪い時もあった。でも私は常に、自分の内面の強さを信じて、くじけずにここまで来ました。人生でレモンを与えられても、レモネードを作ることでその場を切り抜けてきたんです」っていうスピーチを行いまして。

で、アメリカの言い回しのひとつに、「レモンを与えられてもレモネードを作って切り抜けろ(When life gives you lemons, make lemonade.)」っていう言葉がありまして。酸っぱいレモンでも自分の工夫ひとつで甘いレモネードになります。辛い状況でも、自分の工夫ひとつで状況をよくしていくことができますよというメッセージが込められているのが『Lemonade』というタイトルなんですよね。で、いままでずっと私もビヨンセと旦那さんの浮気がああだこうだみたいに言ってきましたけど、なんかビヨンセはこの『Lemonade』全体を通じて、自分のそういうパーソナルな、ミクロな問題を、いろんな比喩とか、マルコム・Xの引用もそうですけど、そういったいろんなレイヤーを使って、どんどんどんどんマクロな問題提起につなげているんですよ。

なので、いちばんフォーカスされてセンセーショナルに騒ぎたてられるのは、「ビヨンセがジェイ・Zに離婚届を突きつけた!」みたいなことで報道されることが多いんですけども。どんどんどんどん掘り下げていくと、それがひいては黒人女性の問題だったりとか、いまのアフリカン・アメリカンの方々が抱える社会的な問題にもリンクしていくっていうのがこの『Lemonade』なんですね。

で、こういう自分のパーソナルな問題をよりマクロな視点の方に広げていくっていうのは、去年ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が『To Pimp A Butterfly』でも、自分の男女関係の問題から、コンプトンのいまの状況から、『Alright』っていう曲もありましたけど、いまのアメリカ社会が抱える状況みたいなところにどんどんどんどんトレースしていって、1枚のアルバムを作り上げたっていう構成にもちょっと似ているなと思っていて。

AKLO アルバム解説 Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』
ラッパーのAKLOさんがblock.fm『Inside Out』でケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の話題のアルバム『To Pimp A Butterfly』を解説。歌詞の内容や、その背景を話していました。 (AKLO)は...

なので、いまの時代におけるリリシズムとかさ、アーティスト性の優劣って、もしかしてそういうところにあるのかな? とぼんやり考えたんですけども。で、いま聞いていただいた『Forward』なんですが、実はですね、この『Forward』のPVの中には、あのBlack Lives Matterという運動が昨年、昨々年、アメリカの方で盛り上がりましたけども。その運動の引き金となったマイケル・ブラウンやトレイボン・マーティン、そしてエリック・ガーナーという白人だったりヒスパニックの警察やその地域の見回りの人たちに図らずしも撃たれて命を落としてしまった若き黒人男性たちがいますけども。そのお母さんたちがビデオに出ているんですよね。

で、お母さんたちがちゃんとね、近所のおばちゃんみたいな感じじゃなくて、ちゃんときれいにお召し物を着て、お化粧もして。すごく堂々としたような形で息子さんのそれぞれのお写真を掲げて、『Forward』のビデオの中で出ていると。で、ちなみにファーガソンで命を落とした故マイケル・ブラウンさんの母親がこの間、ラジオに出ておりまして。その時の気持ちを語ってくれたんだけど。「私もすごいビヨンセには感謝しています。彼女が大胆にこんな風に問題に向かって立ち向かってくれたこと。そして彼女の繊細さにすごく感謝しているし、本当に最初にオファーを受けた時は泣いちゃいました。(I cried)」っていう風にインタビューでも語っておりまして。

ちなみにそのインタビューで、ビヨンセに初めて会った時のエピソードを話してくださっていたんですけども。ビヨンセがボルティモアで行われた、なんとプリンス(Prince)のコンサートにマイケル・ブラウンのお母さんを招待したらしいんですね。で、「その場で初めてビヨンセさんに会いました。全然セレブ気取りじゃなくて、Down to earth(地に足の着いた)、すごい立派な女性でした」っていうようなことをマイケル・ブラウンのお母さんがラジオで言っていたんですけど。

で、ビヨンセって『Formation』の時にもブログで書いたんだけど、結構自分はフェミニストであるしフェミニズムを大事にしているっていうことを前から自分の歌だったりとかインタビューでも公言しているような人だったんだけど。本当にね、さっきのマルコム・Xのスピーチの引用じゃないけど、このアルバム、映像も通して、リリックも通して、モノローグも通して、結構「月」とか「血」とか、あとなにより「水」。水がね、すっごい重要なメタファーとして、ところどころに現れるんですよ。

で、ツアーを私、見に行った時も最後、ケンドリック・ラマーとやっている『Freedom』をパフォームする時も、ステージの中央に浅い水槽を置いて、ビヨンセとダンサーさんが水の中でパフォーマンスをするんですね。水を蹴り上げながらパフォーマンスする。で、水って結構映画なんかでも女性のメタファーとして使われることが多いみたいで。なんか全体を通して、そういうメタファーも使いながら、女性性とかフェミニズムっていうのを強くビヨンセさんが押し出しているのかな? なんていう風にも思いましたし。

あとは、「自分の子孫を残していくのは女である。命の根源である」みたいなところも、すごくモノローグを通じて語られているところでもありますし。ちょっと余談になるんですけど、ビヨンセってこのアルバムをHBOというケーブルテレビで最初に発表したと言いましたけども。数年前にビヨンセは『Life is But A Dream』っていうドキュメンタリーショートフィルムみたいなものを、同じくHBOで独占放送していて。

そこで……あんまりビヨンセって、毎週毎週自分の家族の恥部まで晒しているキム・カーダシアンとは違って、インスタにUPする写真とかも、コメントが、自分のキャプションがなかったりとか。あんまり自分から多く私生活を語らない。どこかのカニエ・ウェストとは違うような感じの、徹底したプライベートは秘密にしていますよっていうアーティストなんですけども。そんな彼女が初めて大胆に自分のパーソナルな部分もさらけ出したというのが、そのHBOのドキュメンタリー番組だったのね。

で、そこでやっぱり私も女性として「うわーっ! 本当、彼女ってすごいわ」って思ったのが、実は彼女、いまブルー・アイビーちゃんっていう娘さんがいますけど。ブルー・アイビーちゃんを出産する前に一度、流産を経験しているんですね。でも、その様子も自分でちゃんとカメラに自撮りで撮っていて。「今日、実は赤ちゃんの心臓の音が聞こえなくなってしまって、いま、お医者さんから帰ってきたところです」っていうのをビヨンセが言っているんだけど。で、そのビヨンセ。お医者さんから帰ってきてまず最初に何をしたか?っていうと、レコーディングブースに入ったんですよ。

で、「人生でいちばん悲しい歌を、いまレコーディングしました」って言って。その自分の……なかなかね、女性にとってやっぱりそういうのっていちばん苦しいことだと思うんですけど。その苦しみさえも作品に昇華する彼女の強さっていうか、徹底したアーティスト魂っていうか、クリエイティビティーみたいなのはすごいなと思ったし。そうね。このアルバムを聞いて、やたらとお母さんに対してとか、おばあちゃんに対して、なんなら自分の娘に対してっていうメッセージが込められているんだけど。やっぱりそういう経験も経たからこそ、女性が次の世代に命をつないでいくっていうことを人一倍、ビヨンセって意識してるのかな? なんていうのも思った次第でございます。

で、そんなこんなで「前に進め」っていう風にジェイムス・ブレイクに言われて『Lemonade』がどんどんどんどん進行していくんですけど。前に進んでどうなったか?っていうと、自由を勝ち取るためにビヨンセが、「走るぞ!」みたいな感じで女性たちを鼓舞して、映像の中では『Freedom』の演奏が始まるわけなんですけども。まあ、いままで言ってきたように、各曲の前には彼女のモノローグが挟まれるんですけど、そのモノローグにはですね、サブタイトルがついていて。「疑惑」とか「拒絶」とかなんだけど、『Freedom』の前のモノローグのテーマは「希望」何ですよね。

だからやっぱり最初は不倫がどうのとかって、ああだこうだ言っていたけど、最後はもう希望と愛に帰結するっていう、すごくいい終わり方をするアルバムですね。で、『Freedom』では「勝者は自分が自分であることをやめない。だから私は走り続ける(Hey! I’ma keep running Cause a winner don’t quit on themselves)」っていうようなことを言っていますけど。これもね、新しくアメリカのお札にフィーチャーされるハリエット・タブマン(Harriet Tubman)のこととかを思い出すんですけども。またそのお話とかをしちゃうと長くなるので、ハリエット・タブマン、みなさんぜひぜひ検索して調べていただきたいと思います。

で、これはあのケンドリック・ラマーをフィーチャーしておりまして。ケンドリックもね、「刑務所のドアを開けて人々を開放せよ(Like yeah, open correctional gates in higher desert)」っていうようなことをラップで歌っておりまして。で、私、アトランタでね、人権問題のミュージアムなんかも行ってきたんだけど。いまのデモなんかもそうだと思いますけど、結構無実の人たちがね、騒ぎ立てたというだけで刑務所に入れられてしまうというようなこともありまして。本当に、刑務所に入っているのは本当の極悪人だけじゃないんだぞっていうのを、もしかしてケンドリックも言いたいのかな? なんて思いまして。はい。前置きが非常に長くなってしまいましたけど。ここで、ではその彼女の新たな希望へのステートメントと言えます『Freedom』を聞いていただきたいと思います。

Beyonce『Freedom』

はい。いま聞いていただいておりますのはビヨンセの『Lemonade』から『Freedom feat. ケンドリック・ラマー』。まあ、そんな感じですごくドラマチックに進んでいくビヨンセの『Lemonade』なんですけども。まあ、いろいろあって、最後は希望を求めて、自由を求めて女は走り続けるんです!っていうのがひとつ、ビヨンセのメッセージでございまして。じゃあ、ジェイ・Zへの浮気疑惑はどうなったんや?っていうところ、みなさん思われるかもしれませんけれども。最後の曲から2番目の『All Night』っていう曲が入っているんだけど。『All Night』で『Lemonade』ストーリーは1個、終わるんですよ。

で、ミュージックビデオとか映像の方を見ていると、『All Night』の映像の最後でビヨンセがプライベートな家族の映像をビデオで映し出しているんだけど。最後、ビヨンセが自分の手でレンズを覆って、何も見えなくなったところで終わるんですね。で、その後に『Lemonade』っていうタイトルがバーン!って出てきて、その後に『Formation』に流れるんですけど。まあ、その流れを見るに、ひとつこの『All Night』という曲で『Lemonade』物語がね、1回完結するというような感じでしょうか。

で、まあ最後にプライベートな自分の、ブルーちゃんとジェイ・Zが出てくる家族の映像を、自分の手でカメラをおさえて終わらせるっていうのは、これまたひとつのビヨンセのメッセージの伝え方なんじゃないのか?って書いているメディアもありまして。まあ、たしかに自分のプライベートなところは、自分で……「いつ終わるかという幕引きなんかも、全部自分がわかっているんで」みたいな、そういう意思もあるのかな?って思ったんですけども。

まあ、この『All Night』が本当にもう、この『Lemonade』の中で唯一多幸感にあふれる曲。で、ネタ元がズルいのが、アウトキャスト(Outkast)の、曲名が長いから言わないけど(※『SpottieOttieDopaliscious』)。すっごい、あれがフックで流れると本当に涙がパーッと出てくるような感じがするんですけども。

まあ、リリックの内容もね、「壊れてしまったあなたの羽根を私のものと交換してあげるし、私はあなたの傷跡も見てきたし、あなたが犯した罪さえ愛してきたから。もう1回、時間をあげるから、頭を冷やして自分の本当の愛情を私に証明して見せてよ」っていうのが『All Night』っていう曲ですね。で、「一晩中、あの頃愛しあったことをいまでも私は覚えているので、もう1回また一晩中、愛しあいましょう」ということで。で、この時に、やっと『Lemonade』の映像の中でも、やさしそうな、幸せそうなジェイ・Zのプライベート映像とか。こう、2人が薬指にローマ数字の「IV」っていうタトゥーを入れているんだけど。

この夫婦にとって、「4」っていうのはすごい特別な数字で。ビヨンセの誕生日も9月4日とかだし、2人のたしか結婚記念日も4にまつわるんですよね。で、ジェイ・Zの誕生日は12月4日。『Black Album』の曲のタイトル(『December 4th』)にもなっていますよね。なので、ビヨンセにとっては「4」っていうのはすごい特別な数字なんですよ。で、ローマ数字の「4」ってアルファベットの「I」と「V」をくっつけて「IV」なんですよね。

だから自分の娘の名前もブルー・アイビー(Blue Ivy)ちゃんっていうんだけど。自分の娘の名前にも、その特別な数字の「IV」を入れているんだけど。そんな2人がローマ数字の「IV」を薬指に入れているんですけど。そのタトゥーを掘っているシーンとか。あと、ビヨンセがベイビーバンプっていう、赤ちゃんが中にいてふくらんだお腹を見せてニコッとしているようなシーンとか。あとは自分のお母さんの再婚した時の結婚式と自分の結婚式の映像をリンクさせているとか。「もう、幸せ! よかった、幸せになってよかった!」というような感じの終わり方なんですけども。

なので、本当にこの『Lemonade』で何が言いたかったかといいますと、さっきから言ってるけど、人生辛いことがあっても、それを自分の力で幸せに変えていく。ビヨンセ、ひいては世界中の女にとって、人生における辛さって、パートナーの裏切りなんですよね。なので、そこを乗り越えて、自分の幸せを勝ち取ろうよ! というようなね、女性に対するメッセージを投げかけているんじゃないかと私は思っているわけでございますね。で、最後にモノローグで「苦悩は私の処方箋」という風に言っているので。辛いことがあるからこそ、幸せがあるんだよっていうのが、ひとつのビヨンセの『Lemonade』を通じて発信されているメッセージなのではないでしょうかということで。ここでラブラブ幸せチューンの『All Night』をお届けしたいと思います。

Beyonce『All Night』

はい。いまお聞きいただいているのはビヨンセの最新アルバム『Lemonade』から『All Night』です。さっき、長くて省略したアウトキャストのネタ曲は『SpottieOttieDopaliscious』ですね。あれが流れるとすごい幸せな気分になるのは何ででしょうか。さすが、アトランタマジックっていうような感じがしますけども。まあ、そんなこんなで約60分、いままでしゃべり続けてきたビヨンセの『Lemonade』特集ですけども、どうでしたでしょうか?

まあまたね、こんな私の駄解説を聞いて、またビヨンセの『Lemonade』の理解が深まった、愛情が深まったなんてことがあればいいなと思っていますし、実は、国内盤が出ますということで。これ、ソニーの方に確認したら、「まだ日付とかは言わないでください」って言われたんですけど、出ることだけは決まっているということで。とりあえず、出ることだけ決まっているんで、みなさん、その暁にはね、私もこんだけしゃべらせていただきましたから。いつ出ますよというのをみなさまに告知したいと思いますので。

まあきっと対訳とか、解説とか、きっときっと付くと思いますので。またそれをお読みになって、造詣を深めるのもよし、というような感じでございます。ちょっともっと、私がアトランタで経験したストリップクラブのバカ話とかもしたかったんですけども。また、それは別の機会に……ということで。でも、まだまだ私も『Lemonade』に関しては語り足りないので、暇な人は今度、『Lemonade』座談会でもやりましょう、みたいな。ねえ。「またあいつ、朝まで帰ってこないわ!」みたいなね、パートナーをお持ちの女子の皆さん。まあ、男子のみなさんでもいいです。『Lemonade』座談会に参加希望の方は、メンションを飛ばしてください。よろしくお願いします(笑)。

<書き起こしおわり>

INSIDE OUT
miyearnzzlaboをフォローする
miyearnZZ Labo
タイトルとURLをコピーしました