高橋芳朗 BTS『Proof』とメンバーのソロ活動の展望を語る

高橋芳朗 BTSの活動休止発表とメンバーのソロ活動の展望を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2022年6月27日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でBTSのアンソロジーアルバム『Proof』からの新曲紹介なども交えつつ、今後のメンバーのソロ活動の展望を話していました。

(高橋芳朗)6月10日にリリースしたデビュー9周年記念のアンソロジーアルバム『Proof』。そこに収録されている曲を洋楽的観点から紹介しつつ、今後のメンバーのソロ活動の展望についてもお話できたらなと……。

(宇多丸)この番組でもちょいちょい、話題にしていますが。「ソロ活動に専念」というね。

(高橋芳朗)15日の放送のオープニングで宇多丸さんと日比さんが話題にしていましたけども。6月14日にBTSのデビュー9周年を祝うアニバーサリーイベントの一環としてメンバーの会食動画が公開されたんですね。

(宇多丸)飲みーティング! 公開飲みーティングっていうね、完全にやっていることがRHYMESTERと通じるっていう。でも、あの和気あいあいな感じがすごくいいですけどね。

(高橋芳朗)そこで今回の『Proof』をもってBTSの第一章が幕を下ろすことと、グループの活動と並行してメンバーのソロプロジェクトが今後本格化していくことがアナウンスされたんですけども。それがちょっと齟齬を生み「BTS活動休止」みたいにセンセーショナルに報じられて騒動になっちゃったんですけどもね。この活動休止報道は翌日に事務所とかメンバーが否定することにはなったんですけども。

(宇多丸)でも、今までの活動サイクルみたいなものがちょっと、そのままではやっていけないというような心情が語られていて。やっぱりそれはさ、ファンとしてもARMYの皆さんとしても、そうじゃなくてもたとえば僕の音楽のキャリアの中でもペース的にこのままだと壊れてしまうっていう瞬間って、一般論としてもありえて。そこで無理やり回さない方がいいっていうことは本当に僕も思うから。ベテランとしては。

(高橋芳朗)やっぱり個々の活動がグループの活動になっていくっていうことはありますよね。

(宇多丸)で、然るべきタイミングでむしろ、そこで一旦立ち止まれるっていうのはすごく健全なことだし。あの雰囲気の中でメンバー同士はすごくコンセンサスを取った状態で話しているっていうのは僕は少なくともグループとしてはすごく、なんていうか無理にやるよりは全然いいんじゃないかなと勝手には思いましたが。実際にね、いろんな事情はあるだろうから簡単には言えないけども。そういう風には思いました。もっと悪い状態で終わってしまうグループなんて、いくらでも音楽史上いっぱいいるわけで。そういう前例もBTS、ある種歴史から学んでいるっていうのもあるのかしら、とかね。

(高橋芳朗)ああいうちょっとデリケートな話をああいう率直な言葉で聞くことができたのは結果的にはよかったかなって。

(宇多丸)そうそう。全てが蚊帳の外というかさ、向こう側で行われて。すごく形式的な記者会見とかばっかりあって……とか。そういうの、あるじゃない?

(高橋芳朗)記者会見とか、プレスリリース1枚で終わっちゃったりとかね。だからBTSらしい伝え方だなと思いましたけどね。

(宇多丸)たしかに。プラス、いろいろとソロ活動の動きとか、もう早くもいろんなのが?

(高橋芳朗)そうですね。出てきていますね。

(宇多丸)そんな中でアンソロジーアルバム……要するに既発曲も新曲もあって、みたいな。BTSの過去も振り返りながら、今後につないでいくみたいな、そんなアルバムなのかな?

(高橋芳朗)そうですね。この騒動で『Proof』の存在がかすんでしまうようなことになったら不本意なので。ここでちゃんと取り上げておきたいなと思いました。

(中略)

(宇多丸)本日、まず前半は6月10日(金)にリリースされたBTSの歴史を含むアンソロジーアルバム『Proof』、特に新曲について解説していただきます。ちなみに一部ARMYの間でもやっぱり芳朗さんの解説、楽しみにしていただいてるようですよ?

(高橋芳朗)ああ、本当ですか? ありがとうございます。光栄です。

(宇多丸)おっ、顔がほころびました(笑)。

(熊崎風斗)僕の周りのARMY勢はですね、「アイドル側面のBTSから入っていて。曲がもちろんいいということはわかるんだけれども、具体的にどういう側面があってこの曲になったのか? とか、そのバックボーンの部分を芳朗さんがご説明してくださると非常にわかりやすい。神だ」と言っていて。

(高橋芳朗)先日、NHK FMの『今日は一日“BTS”三昧』にも出させていただきました。他局ですいません(笑)。

高橋芳朗 BTS楽曲の洋楽的魅力を語る
高橋芳朗さんが2022年5月1日放送のNHK FM『今日は一日“BTS”三昧』に出演。BTS楽曲の洋楽的視点から見た魅力について武内陶子さんと話していました。

(宇多丸)いやいや、でも信頼を得てるっていうことなんで。非常に楽しみにしている方も多いので。よろしくお願いします。

(高橋芳朗)アトロクのおかげです(笑)。

(宇多丸)何をおっしゃいますやら。もうフックアップに次ぐフックアップというね……まあいいや(笑)。BTS、よろしく!

(高橋芳朗)はい。まずアルバム『Proof』についてお話をする前に、まずBTSは5月31日にジョー・バイデン大統領に招待されてホワイトハウスを表敬訪問した件について簡単に触れておきたいと思います。これはですね、アメリカでは5月がアジア系アメリカ人のルーツを学ぶ、アジアン・アメリカン・パシフィック・アイランダー月間であることにちなんで実現したもので。BTSがホワイトハウスを訪れて、アメリカで急増するアジア系に対するヘイトクライムについてバイデン大統領と意見交換したんですね。

ホワイトハウス表敬訪問の意義

(高橋芳朗)で、BTSが招待された背景としては、単に彼らがアジアを代表する人気アーティストとしてここ数年、アメリカでの支持を拡大してきたからというのはもちろんなんですけど。でもそれだけじゃなくて、去年3月にBTSがグループの公式Twitterを通じてストップ・アジアンヘイト・ムーブメントの支援とヘイトクライムの根絶の声明を発表したことに基づいてるんだと思います。だからBTSのメッセージの強さとか波及力が買われたと考えていいのかなと思うんですけど。

で、その会談の内容っていうのは基本的には非公開だったんですね。でも一部は明らかにされていて。そのやりとりの中でバイデン大統領が非常に重要な発言をしていたんですよ。バイデン大統領はBTSにこんなことを語りかけてたんですね。「1950年代、1960年代の公民権運動の時代も、有名なアーティストが人々を動かす助けになりました。それと同じように今回のBTSの活動によって、きっと大きな変化が生まれると思ってます」と言ったんですね。

だから60年前の公民権運動の時は、たとえばボブ・ディランとかサム・クックがプロテストソングを歌って運動を大きく後押ししたわけですけど。この歴史にBTSを並べたそのバイデン大統領の彼らに対する認識というか、評価はもっと注目されてもいいんじゃないかなっていう風に思いますけどね。結構、アメリカのポップミュージック史における大きな事件なのかな?っていう感じがしました。

(宇多丸)アメリカ大統領ね、そうだよね。公民権運動の時、歴史的に位置づけられたものと……だから音楽アーティストとしての重要性っていう意味においてっていうことだもんね。

(高橋芳朗)そうですね。でも、こういうことを大統領がさらっと言えてしまうあたりですね、アメリカ社会におけるそのポップカルチャーとかポップミュージックへの信頼みたいなものをちょっと垣間見るような思いもしましたね。

(宇多丸)それはバイデンさんのちゃんとした部分というかね。

(高橋芳朗)じゃあ、さっそくアルバム『Proof』について話を移したいと思います。『Proof』はですね、デジタルでは全35曲。フィジカルではCD3枚組で全48曲を収めた、BTSの9年の歴史を集大成するアンソロジーアルバムで。一連のヒットシングルはもちろんなんですけど、ソロ曲だったり、ユニット曲だったり、未発表音源なども含まれてます。で、先週の全米アルバムチャートでは初登場1位を記録して、BTSにとって6枚目の全米No.1アルバムになりました。

で、さっき宇多丸さんも言ってましたけど、新曲も収録されてて。新曲は3曲入ってます。『Yet To Come (The Most Beautiful Moment)』とあとは『Run BTS』。『For Youth』のこの3曲なんですけど。今日はここから『Yet To Come』と、『Yet To Come』。この2曲を紹介したいと思います。まずはアルバムからのシングルに選ばれた『Yet To Come』から行ってみたいと思うんですけど。この曲、今週の全米シングルチャートで初登場13位にランクインしています。

で、『Yet To Come』の歌詞は英語と韓国語のミックスなんですね。そこからわかると思うんですけど、『Dynamite』とか『Butter』みたいなチャートの上位ランクインを視野に入れた曲だったり、グラミー賞を取りに行くような曲とはちょっと狙いが違うんですね。まず何よりもこの曲はARMY、BTSのファンに届ける事を念頭に置いて作られた曲と考えていいと思います。内容的には「ここでBTSの第一章は幕を閉じるけれども、僕たちにとっての最良の瞬間はまだ先にあるんだよ」っていう、そういう内容なんですね。

で、この曲のプロデュースはBTSが所属するビッグヒットの専属プロデューサーのピドッグ(Pdogg)っていう人が手がけてるんですけど。注目をしてほしいのはですね、ソングライターの1人として名前を連ねているマックスことマックス・シュナイダーっていう人なんですね。この人は2015年にデビューしたニューヨークに拠点を置くシンガーソングライターなんですけども。このマックスはですね、BTSのラップ担当のシュガと以前から交流があるんですよ。ちょっとBGM、かけていただいてもいいですかね? マックスが韓国を訪れた時に、元々彼の曲が好きだったメンバーのシュガとジョングクがマックスのコンサートに足を運んだことから交流が生まれたらしいんですね。

それがきっかけになってシュガは2020年にAgust Dの名義でミックステープを制作するにあたって、マックスをゲストに呼んで。それで今、BGMで流れている『Burn It』っていう曲のレコーディングするんですね。

(高橋芳朗)で、これで2人はすっかり意気投合したみたいで。その直後に今度はマックスの『Blueberry Eyes』っていうシングルにシュガがゲスト参加するんですね。この『Blueberry Eyes』って僕、2020年9月の『アフター6ジャンクション』でおすすめ新譜として紹介してるんですけれども。ちょっと今、改めてまた聞いてもらえますかね? マックスで『 Blueberry Eyes feat. SUGA』です。

(高橋芳朗)はい。マックスで『Blueberry Eyes』。この『Blueberry Eyes』を聞けば一発でわかると思うんですけど、マックスは素晴らしいメロディーメーカーなんですよ。で、シュガだったりジョングクが彼の曲を好きなのも納得で。このマックスの書くこういう甘くてきれいなメロディーってBTSとめちゃくちゃ相性がいいと思うんですね。で、実際にそういう確信があったから今回の『Yet To Come』っていうめちゃくちゃ重要なシングルで彼を起用することになったんだと思うんですけど。

(宇多丸)このボサノバと四つ打ちを組み合わせた感じとかね、音も斬新だし。

(高橋芳朗)ねえ。すごいかっこいい曲ですよね。で、リーダーのRMが例の会食動画を出した時に「BTSを長く続けていくため。BTSの活動をより充実させていくためにインプットとしてのソロ活動が必要なんだ」みたいな話をしていましたけれども。もうこの『Yet To Come』がすでにソロ活動がBTSの音楽をより豊かにするということの証明になってると思うんですね。

やっぱりシュガとマックスの交流が今回のBTSの『Yet To Come』に繋がったようなところが確実にあると思っています。だから『Yet To Come』って「最良の瞬間はまだこれからなんだ」っていう歌詞だけじゃなくて、楽曲の成り立ち自体も今後のBTSの希望になってるんですよね。だから個々のメンバーがソロ活動で得た収穫は必ずグループに良い形でフィードバックされることになるっていう、その証になってるような曲なんじゃないかなと思ってます。では、聞いてください。BTSで『Yet To Come (The Most Beautiful Moment)』です。

BTS『Yet To Come (The Most Beautiful Moment)』

(高橋芳朗)BTS『Yet To Come (The Most Beautiful Moment)』を聞いていただいております。

(宇多丸)めちゃくちゃいいですね。

(高橋芳朗)いいですよね。で、『Proof』のリリースを記念したオンライン配信ライブの『Yet To Come』のパフォーマンスの時にはですね、ブルーノ・マーズとのシルクソニックでおなじみのアンダーソン・パークと共演が実現して。彼がドラムを叩いたんですね。で、これがね、もう元曲のメロディーの良さを生かしながらもちょっとファンクなエッセンスが入った、素晴らしいアレンジで。これ、BTSのYouTubeの公式チャンネルでチェックできるので、ぜひ興味のある方は見ていただきたいなと思います。

(宇多丸)なんだよー、アンダーソン・パークかよー(笑)。もう、いいんだよ。そりゃいいんだよ、本当にもう……と、怒気を含むという(笑)。

(高橋芳朗)アンダーソン・パークはね、K-POPを題材にしたコメディ映画で監督デビューすることが決まっているんですよ。『K-Pops!』っていう。

(宇多丸)ああ、そうなんだ!

(高橋芳朗)彼はね、お母さんが韓国系なんですよ。それで息子がARMY、BTSの大ファンっていう。だからそういうこともあって、アンダーソン・パークはとにかく演奏中、嬉しそうで。彼、BTSとの共演の直後に自分のオンラインストアでも記念Tシャツを販売してるんですよ。ニコニコのアンダーソン・パークの顔に「I’m with BTS Drummer」っていうプリントがされた完全なアホTシャツなんですけども(笑)。「BTSのドラマーと一緒だよ」っていう。これ、もう速攻でソールドアウトしちゃってましたけどね(笑)。ブツは確認できるのでぜひ皆さん、アンダーソン・パークのオンラインストアでチェックしてみてください(笑)。

(高橋芳朗)では次はですね、『Proof』に収録の新曲から『For Youth』という曲を紹介したいと思います。これもARMYへの感謝をつづった曲で。内容としては「もし君に出会えていなかったら、僕はどんな姿だっただろう? 僕はずっとここで君を待っているよ」っていう歌詞なんですけど。この曲のプロデューサーはBTSがこれまでに組んだ中でもトップクラスの旬なヒットメーカーと言っていいと思います。プロデュースを手掛けているのはロジェ・チャハイド(Roget Chahayed)とイマド・ロイヤル(Imad Royal)。この2人のコンビなんですね。で、特に注目してほしいのはロジェ・チャハイドの方で。

彼はロサンゼルス出身のプロデューサーで、今年のグラミー賞で最優秀プロデューサー賞にノミネートされてるんですけど。彼がプロデューサーを務めた主なヒット曲を挙げていくと、今年の4月にハリー・スタイルズの『As It Was』を引きずり下ろして1位になったジャック・ハーロウの『First Class』という曲です。

(高橋芳朗)この曲だったり、あとは今年のグラミー賞で最優秀レコード賞にノミネートされたドージャ・キャットの『Kiss Me More』とか。あと少し前の曲だと、あのビートチェンジのトレンドを作ったトラヴィス・スコットの2018年のヒット曲『SICKO MODE』。あれもロジェ・チャハイドの制作なんですね。他にもドレイクとかアンダーソン・パーク、ナズとか。あと同じアジアの88risingの楽曲も手がけたりする、間違いなく現行最高のヒットメーカーなんですけど。

このロジェ・チャハイドとBTS、どこで接点が生まれたか?っていうと、実はさっき聞いてもらったマックスの『Blueberry Eyes』のプロデューサーがこのロジェ・チャハイドとイマド・ロイヤルのコンビなんですよ。だからここでもシュガのソロ活動が非常に大きな意味を持つことになっているってことですね。だからこの曲はまたそのソロ活動がグループに多くのものをもたらすことになる証になってると言えるんじゃないかなと思っています。じゃあ、聞いてください。BTSで『For Youth』です。

BTS『For Youth』

(高橋芳朗)はい。BTSで『For Youth』、聞いていただいております。

(宇多丸)これも韓国語詞なわけですね。

(高橋芳朗)そうですね。英語と韓国語のミックスになっています。

(宇多丸)だからやっぱりさっき、おっしゃったような、最大公約数モードというよりもやっぱり……。

(高橋芳朗)やっぱりARMYにまず届けたいっていう、そういう歌ですね。で、この流れでちょっと今後のソロ活動の展望についてもお話したいと思うんですけど。最初に話したみたいにBTSメンバーのソロ展開、もう既に始まっていて。

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