高橋芳朗さんが2022年5月1日放送のNHK FM『今日は一日“BTS”三昧』に出演。BTS楽曲の洋楽的視点から見た魅力について武内陶子さんと話していました。
【#BTS三昧】
音楽ジャーナリスト#高橋芳朗 さんにお話を
うかがってきました?テーマは
「2020年代以降
グローバルに活躍し挑戦し続ける7人」#A_DAY_FULL_OF_BTS #BTS #zanmai https://t.co/imTEEKztWo pic.twitter.com/0bdC8Y9U1z— 今日は一日○○三昧 (@nhk_zanmai) May 1, 2022
(武内陶子)今日も「ヨシかいせついん」として、高橋さん。よろしくお願いします(笑)。
(高橋芳朗)そうですね。パペットはいないんですが(笑)。
(武内陶子)今日、お目にかかったらリュックサックにはBTSのかわいいキャラクターたちがついているし。そしてなんとTwitterのバナーっていうんですか? あそこもBTSのキャラクターですよね?
(高橋芳朗)そうですね。ちょっと娘とポップアップに行った時の写真を親バカ的な感覚で、はい。アップしてしまいました(笑)。
(武内陶子)高橋さん、びっくりするんですけど。いつ頃、BTSがお好きになったんですか?
(高橋芳朗)もう完全に落ちたのは『Dynamite』ですね。
(武内陶子)沼落ちしたのは。
(高橋芳朗)僕、音楽ジャーナリストとしての専門分野は欧米のポップミュージックなんですね。そういう中で、『FAKE LOVE』だったり『Boy With Luv』が全米チャートのトップテン入りしたりすることによって、その「洋楽の中のBTS」っていう視点が生まれたんですよ。これがすごい大きくて。それで初めての全編英語詞の『Dynamite』の登場と大ヒットが決定打になったっていう感じですかね。
(武内陶子)今日、すっごく楽しみなんですけど。つまり私たち、もう「推ししか見てない」みたいな状況なんですけれども。
(高橋芳朗)視野が狭くなっているという(笑)。
(武内陶子)そうなんですよ。そしてでも、なんか街中でアメリカのポップミュージックがかかってたりすると、「あれ、これ、BTS?」って思うことが結構あってですね。「なんでかな?」ってずっと思ってて。でもそれは解明できてなくて。今日は芳朗さんにもいろいろ教えていただきたいなと思ってます。
(高橋芳朗)お力になれれば幸いでございます。
(武内陶子)やっぱり2020年の『Dynamite』ですかね? これはもう世界的ヒットになって。高橋さんすら沼に落としたという……。
(高橋芳朗)じゃあ、ちょっと『Dynamite』から早速解説させていただいてもいいですかね? 個人的に「『Dynamite』はたぶん戦略的に1位を取りに行った曲なんじゃないかな」っていう風に考えてるんですよ。
(武内陶子)「絶対にアメリカで1位を取るんだ」って。まあ、初めての英語曲ですしね。
(高橋芳朗)そう。それに向けてBTSが初めて取り組んだ試みが二つあって。まず今、武内さんがおっしゃったようにひとつは「英語の歌詞」ですよね。で、もうひとつが「本格的なディスコサウンドの導入」ですね。BTS、それまでにはここまでストレートなディスコミュージックはやってなかったので。
(武内陶子)ヒップホップっていうイメージですよね。
(高橋芳朗)そうですね。しかもかなりハードな。で、欧米のポップミュージックってここ10年ぐらい……今も緩やかに続いてるんですけど。ずっとディスコミュージックが流行してるんですね。
(武内陶子)ええっ? 80年代だけじゃないんですか?
(高橋芳朗)そうなんですよ。で、その象徴的なヒット曲が2013年に全米1位になったフランスのダフト・パンクによる『Get Lucky』という曲です。
(高橋芳朗)これ、お聞きになったこともあると思います。
(武内陶子)ああ、知ってます!
(高橋芳朗)グラミー賞でも最優秀レコード賞を受賞している作品で。あと、他の曲では2016年のジャスティン・ティンバーレイクの『CAN’T STOP THE FEELING!』。これもディスコブームを象徴するヒット曲ですね。ちょっと聞いてもらえますか。
(高橋芳朗)これもね、全米チャートで1位のヒット曲で。
(武内陶子)あれ? これ、BTSじゃなかったですかね?(笑)。
(高橋芳朗)これね、ちょっとミュージックビデオが『Dynamite』に似ているようなところがあるんですよね。
(武内陶子)見てびっくりしました。
(高橋芳朗)で、この後もたとえばブルーノ・マーズとか、あとザ・ウィークエンドとか、ドージャ・キャットみたいなアーティストがディスコサウンドを取り入れて全米で1位を取ってるんですよ。だから『Dynamite』はこうした流れを汲んで作られた曲と考えていいと思うんですよね。
(武内陶子)そうか。「なんかとっても懐かしい感じの曲で来たな」って日本にいる私たちは思ったんですけども。
(高橋芳朗)だから要は一般に広くアピールする曲として割と手堅いアプローチを取ってきたというところですよね。
(武内陶子)でもこれが主流だったんですね。アメリカで。
(高橋芳朗)そうなんですよ。
(武内陶子)それはびっくり。全然知りませんでした。
ナイル・ロジャース的なギターのカッティング
(高橋芳朗)そこで『Dynamite』がどんなディスコサウンドを打ち出してきたかというと、主に1970年代から1980年代にかけて活躍した伝説のディスコバンド・シックのスタイルなんですね。で、『Dynamite』で印象的なちょっと小気味良いギターのカッティング。あれはシックのギタリスト、ナイル・ロジャースのトレードマークなんですよ。ちょっと実際に聞き比べてみましょうか。まずは『Dynamite』のインストゥルメンタルバージョン、1分過ぎぐらいのところから。
(高橋芳朗)この曲が進行していくにつれて、このギターのカッティングが前に出てくるんですよ。
(武内陶子)おお、なるほど!
(高橋芳朗)これ、ボーカルが入ってるとちょっと聞き取りづらいところもあるかもしれないですけども。これが『Dynamite』の軽快なノリを生み出す大きな原動力になってるんですね。
(武内陶子)ええっ、このリズム? ギターのカッティング!
(高橋芳朗)そうですね。続いてシックの代表曲。1979年にヒットした『Good Times』を冒頭から聞いてみましょうか。
(高橋芳朗)これですね。で、このギターを弾いてるナイル・ロジャースさんはディスコギターのパイオニア的な存在なんですよ。で、実はそのディスコブームの象徴的な曲として最初に触れたダフト・パンクの『Get Lucky』のギターもこのナイル・ロジャースが弾いているんですね。だから本当、『Dynamite』は普遍的なディスコミュージックの良さを体現している曲と言っていいんじゃないかなと思いますね。
(武内陶子)戦略的だったってことなんですね! これがみんな、ワールドワイドにこの曲のビートが体に刻まれているっていう?
(高橋芳朗)そうですね。もうDNAレベルで……。
(武内陶子)DNAですね(笑)。
(高橋芳朗)じゃあ、この流れで『Butter』も行ってみましょうか、『Butter』もやっぱりこういうディスコリバイバルというか、ディスコブームの流れを汲んだ曲で。『Dynamite』よりも若干ファンキーなんですよね。で、この曲のキモは何といってもちょっとヘビーな、重厚なベースラインですよね。ベース。リリース直前のティーザーでもモノトーンの映像でメンバーが首振ってるだけのものがありましたけども。あれもやっぱりベースラインがクローズアップされてたじゃないですか。
(武内陶子)気がつきませんでした(笑)。
(高橋芳朗)だから「ここを聞いてくれ」っていうことだと思うんですよ。
(武内陶子)なるほど! へー、そうですって。アーミーの皆さん! 気がついてました? 私、全然気がつかなかった。
(高橋芳朗)じゃあ、ベースラインがよく聞き取れるように『Butter』インストゥルメンタルバージョンで聞いてみましょうか。
『Butter』のベースライン
(高橋芳朗)ここですね。
(武内陶子)ここだけ聞くって新鮮!
(高橋芳朗)で、ディスコミュージックに精通してる人であれば、この『Butter』のベースラインを聞くとある特定のディスコソングを思い浮かべるはずなんですよ。
(武内陶子)この曲を?
(高橋芳朗)はい。それがさっき聞いてもらった同じシックの『Good Times』なんです。じゃあ、『Good Times』のベースラインが聞き取りやすい3分過ぎぐらいのところから……。
(高橋芳朗)これですね。
(武内陶子)同じだ! 同じですね。
(高橋芳朗)はい。ほぼ同じと言ってもいいかなと。まあ、確実に影響は受けてますよね? で、このシックの『Good Times』のベースラインはもうポップミュージック史上最も有名なベースラインのひとつと言ってもいいぐらいなんですよ。本当にたくさんの曲に影響を与えていて。
(武内陶子)みんな、世界中のアーティストたちがこのシックのこのベースラインに影響を受けて曲を?
(高橋芳朗)曲を作ったり。たとえばヒップホップのアーティストだったらサンプリングしてトラックを作ったりしてるんですけど。一番有名なのだと映画『ボヘミアン・ラプソディ』でもおなじみクイーンの代表曲『Another One Bites the Dust』ですね。
(武内陶子)ええっ? あの曲ですか?
(高橋芳朗)じゃあ、ちょっと聞いてみましょうか。
(武内陶子)あ、本当だ! あれっ?
(高橋芳朗)もしかしたらシックの『Good Times』よりもこっちの『Another One Bites the Dust』のベースラインの方が『Butter』のベースラインに近いかもしれないですね。
(武内陶子)はー! 歌詞が乗っかっててもやっぱり聞こえる人にはこれが聞こえてるんですね(笑)。でも、今日知れて嬉しい!
(高橋芳朗)『Butter』はそのディスコミュージックのある種のスタンダードなフォーマットを取り入れているということですね。
(武内陶子)なんですかね? だって彼ら、BTSは楽器を弾くわけでもなくて。ダンス……ダンスですかね? なんだろう? すごくなんか懐かしくて新鮮でキュートでポップで……っていう。
(高橋芳朗)だから『Dynamite』にしても『Butter』にしても、オーソドックスなディスコミュージックの良さをしっかりと現代のサウンドに昇華していて。それがその幅広い世代に長く支持された要因になってると言えるかなっていう気がしますね。
(武内陶子)オーソドックスっていうのは現代のヒットにもすごく繋がってくるところなんですね。下手すると、ちょっと古いものになるのかもしれないけど。
(高橋芳朗)そのさじ加減はまた難しいところだと思うんですけど。
(武内陶子)なるほどね。うわー、ちょっとびっくりしました。全然聞いてませんでした、そこ。
(高橋芳朗)そうですか。結構共通項を聞き取っていただけたんじゃないかなと。
(武内陶子)本当に。いや、これからベースラインとか、さかのぼっていろんなあの曲をもう1回聞いてみたいなっていう気になりました。
BTSの英語歌詞
(高橋芳朗)で、歌詞についてもちょっと触れておきたいんですけども。『Dynamite』に関して言うと比喩で引用してる固有名詞とか形容詞が現行のアメリカのポップスの基準に照らし合わせると結構ベタなんですよ。わかりやすいところだと、たとえば「let’s rock and roll」とか「King Kong, kick the drum Rolling on like a Rolling Stone」とか「Jump up to the top, LeBron」とか。「レブロン・ジェームズのように高くジャンプする」みたいな。
(武内陶子)そうそう。だから私たち、意味がわかんなかったんですよね。それはでも、アメリカの人にはベタにわかるということですよね?
(高橋芳朗)そうですね。かなりベタな引用だと思います。あと、あれですね。古き良きアメリカをポップに描いたそのオールディーズ風のミュージックビデオと合わせて、韓国人から見たその「憧れのアメリカ像」として、現地のアメリカの人たちにとって新鮮に映ったところあるんじゃないかなって気がするんですよね。きっと本国のアーティストでは見られないアプローチだと思うんですよ。歌詞にしても、あのミュージックビデオにしても。だから韓国人のBTSが初めて英語詞の曲で歌う世界観として非常にしっくりくるんじゃないかなと思います。
(武内陶子)そこも世界を巻き込んでいく、アメリカを巻き込んでいくのにすごくポイントだったという?
(高橋芳朗)そうですね。キャッチーだったというのはあると思いますね。で、『Butter』の歌詞はもう一歩踏み込んで。BTSのメンバーが影響を受けた、たとえばマイケル・ジャクソンだったり、R&Bシンガーのアッシャーの曲名とかを随所に引用してるわけですね。アッシャーに至っては「Remind Me」とか「You Got It Bad」とかの彼のヒット曲だけじゃなくて、アッシャー自身の名前まで出てきたりとか。
(武内陶子)BTSのメンバーたち、アッシャーに憧れてるんですよね。
(高橋芳朗)そうですね。だから自分たちのルーツに対するリスペクトの表明として、結構好感を持って受け入れられたところがあるんじゃないかなって気がしますね。
(武内陶子)いや、すごいですねBTS。ウリバンタン。
(高橋芳朗)惚れ直した?(笑)。
(武内陶子)惚れ直します。本当に。そしてこれから、まだまだ海外でポップスターとして……どうですか?
(高橋芳朗)そうですね。今後、BTSが海外へ攻め込んでいくにあたって期待したいところはコールドプレイと共演した『My Universe』があったじゃないですか。
(武内陶子)はい。イギリスのロックバンドの。
(高橋芳朗)もうモンスターバンドですね。で、その『My Universe』のプロデューサーがマックス・マーティンというもう現行ポップミュージックの最高のプロデューサーと言っていい人なんですけど。
(武内陶子)もう世界的な大物っていうことですか?
(高橋芳朗)たとえばテイラー・スウィフトの『We Are Never Ever Getting Back Together』とか『Shake It Off』は彼が手がけたヒット曲なんですね。
(武内陶子)えっ、大変じゃないですか!
(高橋芳朗)大変です。
(武内陶子)その方が……。
(高橋芳朗)『My Universe』を手がけてます。共同でですけど。
(武内陶子)それはもう、大きな足がかりに?
(高橋芳朗)そうなんですよ。こうした大物プロデューサーと接点が生まれたことが今後のBTSの作品に反映されるようになってきたら、ちょっと面白いことになるなっていう気はありますね。
(武内陶子)なんか私たち、表面しかよくわかってないんですけど。実はそういう裏のところがものすごく大切なんですね。
(高橋芳朗)他にも、いろんなセレモニー出たりとかしてアメリカで活動を行っている中で、いろいろ築かれたコネクションがきっとたくさんあると思うんですよ。
(武内陶子)国連でスピーチしたり、パフォーマンスをしたり。
(高橋芳朗)僕らが知らないところできっといろんなミュージシャンといろいろ……もしかしたら連絡先交換したり。「一緒に今度、やろうぜ」みたいなコミュニケーションが生まれている可能性が大いにあるんで。それがどういう形で生かされてくるか?っていう。楽しみですね。ブルーノ・マーズとかと何かやってくんないかな、とか思いますね。
(武内陶子)うわっ、本当にやってほしいです!
(高橋芳朗)ひとつの曲として、パッケージとして形になってきたらワクワクしますよね。あとこれ、直接的に音楽とは関係ない部分なんですけど。今後のBTSのアメリカの活動においてはですね、引き続きRMのスポークスマンとしての役割が重要になってくるんじゃないかなっていう気がします。僕がナムさん推しだからというわけじゃないですけども。
(武内陶子)実はナムさん推しという(笑)。
(高橋芳朗)やっぱりインタビューとかトークショーなんかでのその彼のスマートな対応力ですか。高いコミュニケーション能力が現地でのBTSのイメージアップに果たした貢献って、計り知れないものがあると思うんです。これ、話し始めちゃうともう『三昧』は終わっちゃうんで。だから、BTSがアメリカのショウビズ界で存在感を増していくにつれて、RMの頼もしさも比例するように際立っていくんじゃないかなと。じゃあ、聞いてみましょうかね。コールドプレイとBTSでまいりますです。はい。
Coldplay X BTS『My Universe』
<書き起こしおわり>