渡辺志保 Kanye West『jeen-yuhs』最終章を語る

渡辺志保 Netflix『jeen-yuhs』カニエ・ウェストドキュメンタリーを語る INSIDE OUT

渡辺志保さんが2022年3月8日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中でNetflixで配信がスタートしたカニエ・ウェストのドキュメンタリーシリーズ『jeen-yuhs』第3話についてDJ YANATAKEさんと話していました。

(渡辺志保)今日はこの後、Shurkn Papさんをゲストにお迎えするんですけども。Twitterで「Watacker」さん。「今日の放送のために昨日、カニちゃんドキュメンタリーを一気見しました。さあ、解説カモン!」ということで。ありがとうございます(笑)。

(DJ YANATAKE)はい。ヤナタケです。一応ね、1話、2話と結構話していて。みやーんさんに書き起こしをしていただいているので。

(渡辺志保)いつもいつもありがとうございますっていう感じです。で、そうなのよ。ご期待通りというか、カニエのNetflixで見ることができるドキュメンタリー三部作、トリロジーと言われております『jeen-yuhs』が先週水曜日公開の第3章「Awakening(目覚め)」をもって完結したんですよね。で、もうなんかね、なにから話していいやらっていう感じもするんですけども。

先週の放送でも「絶対に泣いちゃうよね」みたいなことを話していて。実際、泣きポイントもたしかにあった。あったが、やっぱり私としては最後、困惑で終わったっていう感じはありましたし。たぶん撮っていらっしゃったクーディさんとチケさん。このお二人でディレクションしていらっしゃいましたけども。

たぶんクーディさんとチケさんも迷って、落とし所を迷われたんじゃないかなって感じながら見ましたね。で、第3章が公開されてしばらく経った後に私がフォローしている元々はXXLとかにいた女性のヒップホップジャーナリストの方と、あとはRap Geniusの創設者の方かな? 裏方の方が主催していたTwitter上のスペース……音声で皆さんが参加できるやつ。

スペースで結構長く、何時間にも渡って「カニエのドキュメンタリー、どうだった?」みたいな部屋ができていて。で、ちょっと聞いていたんですけども、結構皆さんも困惑というか。結論はないけども、ひとつの着地点としては「やっぱり昔のカニエを恋しく思った。昔のカニエに会いたくなりました」みたいな感想で落とし所を見つけていらっしゃる方も実際に何人かいて。それもわかるっていうか、「だよね」って思いました。

で、先週、先々週と話してきたことですけども。第1章、第2章はデビューまでのカニエ。そしてラッパーとしてソロデビューをして、スポットライトがパンと当たって前途洋々みたいなカニエを主に映し出していて。あとはお母さんのドンダさんとの距離感とか、ドンダさんのありがたいお言葉。そんなことも映し出している。で、カニエがソロデビューを勝ち取るためにいかに苦労をしてディールを勝ち取ったのかとか、ジェイ・Zと当時、どんな風にレコーディングに挑んで、どんなアドバイスをもらっていたとか。見ているオーディエンスが勇気をもらえるような、すごく前向きになれるような方向づけだったと思うんですけども。

でも、ご存知の通り第3章に関してはそこからちょっと、言い方はあれだけども、転落してしまうカニエ。困惑しちゃうカニエ。そして周りも困惑をしている様子。あとはドンダさんの死……自分のお母様が亡くなったことなんかにもフォーカスを当てていて。その後に大統領選に出馬して、その発言でマスコミやアメリカ国民を惑わせるとか、そういったところにフォーカスをしていて。あと、成功してからカニエとクーディさんは距離が空いてしまうっていうところも結構生々しく描いていて。ひとつ、象徴的な出来事としてはグラミー賞のアフターパーティーで出向いたら「えっ、お前、誰だっけ?」って。で、さんざん名前を間違えられて。「いや、俺はクーディだから」「チケ?」「いや、チケじゃなくてクーディだから!」ってカニエに自分で言わなきゃいけないちょっと切ないクーディさんのシーンなんかもありましたし。

そういうのを見ると「ああ、こういうの、わかるな」みたいな感じもしたしね。なんか、本当に私も見ていて困惑しました。で、クーディさんの印象的な一言があって。そこから数年後なんだけど、地元のシカゴでコモンがフェスを主催するっていう『AAHH! Fest』っていうのがあって。そこにカニエがスペシャルゲストとしてサプライズで登場するからっていうので。クーディさんに「その様子を撮っていてほしい」っていう風にコモンから直々に電話がかかってきたんですよね。2014年のフェスで。その時に、クーディさんは「ちょっと不安だった」っていう風に吐露されていて。

「I knew Kanye, but I had never met Yeezy.」

(渡辺志保)なぜなら「I knew Kanye, but I had never met Yeezy.」っていう風におっしゃっていて。「僕はカニエのことは知っているけども、(ブレイクして神になった)Yeezyについては全く会ったことがなかったから不安だった」っておっしゃっていて。長年の付き合いで、これだけ近い場所でずっとカメラを回していたクーディさんでさえ、やっぱりその2014年前後のカニエについてはそんな風に感じていたんだなっていう風に思いましたし。

なんか私とか、離れているただのリスナーとしてはちょっとおもしろがりながら、多少カニエの問題発言とかも見たり、聞いたり。そして純粋にファンとして作品を聞いていたわけですけども。本当に近いところにいて、近年のカニエについていけなくなっちゃったっていう、そのめちゃめちゃ生々しさというのをそこで私はすごく感じてしまいましたね。で、Complexのレビューの原稿に書いてあったんだけども。その記事の最初のパラグラフの方で「この作品はFame(名声)は人間にとって健康的であるかどうかを問うている」みたいなことを書いていて。「まさに」っていう風に思ってしまいましたね。なんか、まあカニエは自分でラッパーとしてソロデビューして。そこからすごく順調なキャリアを歩んできて。

すごい有名で美人な、きれいな奥さん。キム・カーダシアンと結婚して、4人の子供をもうけて。そこから、自分がずっとなりたかったファッションの……「ベストドレッサーになりたいんだ」みたいなことを言っていたけども。そういったものも全て、有言実行して。もうほしいものは全て手に入れたように見えるけども、その成功というか名声にカニエ自身も準備ができていたのかな?っていうことも感じましたし。彼が精神的に脆くなっていく、弱くなっていく様子もやっぱりクーディさんのカメラを通してドキュメントとして残っているわけで。なんかすごく私も「つらい……」みたいな気持ちになりながら、後半は見ていましたね。

(DJ YANATAKE)なるほど。

(渡辺志保)それと対比して、第3章ではクーディさんの生活も描かれているんですね。で、クーディさんはクーディさんでカニエと距離を置いて、そこからご自身にも娘さんが生まれて。いわゆる、地に足のついた生活というのをずっとクーディさんは並行して送ってらして。それと、本当に毎日がカオスみたいなカニエの様子を対比していたりとか。あとは、ガリバー旅行記ですかね? 巨人がメタファーというかモチーフとして出てくるわけですが。

これは第1章で触れていたカニエの母、ドンダさんの「あなたは巨人になってはダメ。巨人は大きすぎて鏡で自分の姿が見えなくなってしまうから」っていう言葉。それをずっと軸にして。第3章でもそのドンダさんの言葉を彷彿とさせるような、そういったガリバー旅行記のアニメのシークエンスなんかが挿入されていて。どんどんどんどんカニエが巨人になって、自分で自分のことが見えなくなっていく様子っていうのもそういったところに反映されていて。そこも見ていて、ぶっちゃけつらいなって思うところでもありましたね。

(DJ YANATAKE)まあ、現在進行形のアーティストでもあるから、きれいなオチみたいなのはなかなかね、こういうのを描くのは難しいだろうなって。今、志保が言っていたこととかもよくわかりましたよ。でも、本当に普段見れない姿がすごく見れて。そういった意味で本当に貴重な作品でしたよね。

(渡辺志保)そうそう。だから東京にいらしているところもドキュメンタリーで撮られていて。村上隆さんのところに行って。

(DJ YANATAKE)Kids See Ghostsでね、そのジャケットの依頼かなんかで。キッド・カディと2人で……今はちょっと喧嘩していますけども。キッド・カディと村上隆さんのアトリエに行っているシーンも映っていたり。あと、チラッとなんですけども、オオスミタケシが手掛けたPHENOMENONっていうブランドがありますけども。最近、ちょっと復活して出したりしていますけども。PHENOMENONの洋服をカニエが着ているシーンも一瞬、映っていたりしていて。

(渡辺志保)美しいね、美しい!

(DJ YANATAKE)僕、話したことがあるかもしれないけど、1回だけカニエ・ウェスト、一瞬会ったことがあって。それはSWAGGERとPHENOMENONの事務所が恵比寿にあった時にその事務所に来ていたんだよね。で、俺はなんのタイミングだかわからないけど、たまたま行っていたのかな? で、そのエレベーターを待っていたら、エレベーターからカニエが降りてきたの。

(渡辺志保)えっ、すごっ!

(DJ YANATAKE)で、「おお、カニエだ!」ってなって。そしたら、握手してくれたの。で、そのままサーッて行っちゃったんだけど。本当、その一瞬だけ。だからあのSWAGGERのオフィスに来ていたことがあったんだよね。

(渡辺志保)へー、恵比寿にカニエさんがね。

(DJ YANATAKE)だから本当にそういう自分が興味を持ったり……そのドキュメントでも描かれていましたけども。アパレルがやりたくていろいろと勉強していたんですよね。だからそういうタイミングで、本当に日本とかさ、中国とかにも行っていたけどもさ。そういうところに自ら、足を運んでいろいろと経験していた人なんだなっていうのも見れて。すごいなって思いましたよね。

自ら、足を運んで勉強をする人

(渡辺志保)本当よね。「最高の工場を探しているんだ」っておっしゃりながら中国に行っていたりとか。あと、本当につい最近までカメラを回していた様子も見て取れた。というのは、去年の『DONDA』のリスニングパーティー。アトランタのあのメルセデス・ベンツ・スタジアムでの様子なんかも収められていたし。たぶんクーディさんとチケさんたちもどこでどうやって終わらせようか? どこでどうやって公開しようか?っていうのはずっとずっと思っていたんだろうなっていう風にも感じましたね。

(DJ YANATAKE)本当だよね。

(渡辺志保)(ツイートを読む)「ドキュメンタリー、なんか悲しい感じになっちゃいました」とか「カニエさん、Yeさんが心配なままで見終わりました」とか、結構皆さん、同じようなことを考えているのかなって。Twitterで今、皆さんが感想をつぶやいてくださってますけども。

(DJ YANATAKE)でも本当にヒップホップが好きで、カニエの曲に興味がある人は絶対に見た方がいい作品だと思いましたね。Netflixに入ってなくても、これのためだけに入る価値は全然ありますね。

(渡辺志保)そうかも、そうかも。それで、やっぱり第1章が公開された時は本当にいろんなラッパーの方も「これ、めっちゃインスパイリングだ!」とか「感激した!」みたいなことをつぶやいていたから、私も今後、なにかくじけそうになったりとか、「今、やる気ねえな」っていう時にこの『jeen-yuhs』の第1章は見返すと思う。そう感じましたね。で、自分にガソリンを注入するみたいな。という感じで見終わりました。

(DJ YANATAKE)全てのラッパーが見た方がいいと思うし。あと、クーディさんとかのインスタを見ると、これは映画館でもやっていたんだね。アメリカのね。

(渡辺志保)ああ、そうですね。劇場で。

(DJ YANATAKE)これ、たぶんスパイク・リーが見に来た感じなのかな? 一緒に映っていたりとか。こういうのもなんか、だからクーディさん的にはまた1個、夢が叶ったみたいな瞬間なんじゃないかなって。

(渡辺志保)そうですね。サンダンスでも公開されてっていうことですから。今後、なにか大きな賞とかも取られるかもしれないですね。

(DJ YANATAKE)またね、今本当にヒップホップのドキュメンタリーブームみたいな感じで。今日もマーダー・インクのドキュメンタリーがBETでやるとか、メアリー・J・ブライジが……もうアマゾンプライムで出ているけども。『Real Love』だけに特化したドキュメンタリーを作るとか。とりあえずドキュメンタリーブームですね。

(渡辺志保)ありがたい限りですね。

(DJ YANATAKE)日本でももっとそういう動きがあってもいいなとも思いつつ。

(渡辺志保)そしてカニエさんのドキュメンタリー三部作については、池城美菜子さんがuDiscoverというサイトでめちゃめちゃ、もう本当に天才!っていうレビューを書いていらっしゃいますので。私のボヤボヤした感想よりは池城さんのちゃんとした原稿で皆さん、深く触れていただく方がいいかなっていう風にも思いました。

uDiscover・池城美菜子『jeen-yuhs カニエ・ウェスト3部作』レビュー

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<書き起こしおわり>

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