吉田豪 兼近大樹『むき出し』・加賀翔『おおあんごう』を語る

吉田豪 兼近大樹『むき出し』・加賀翔『おおあんごう』を語る アフター6ジャンクション

吉田豪さんが2021年12月6日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で兼近大樹『むき出し』と加賀翔『おおあんごう』を2021年ベストタレント本として紹介していました。

(宇多丸)続きまして第7世代の本が……ということで。では、行ってみましょう。

(吉田豪)兼近大樹著『むき出し』。

(宇多丸)はい。兼近さん。EXIT。

(熊崎風斗)はい。では私から、こちらも簡単にご紹介させていただきます。文藝春秋から10月に発売されましたこの本、ご存知人気のお笑い第7世代、EXITのかねちーこと兼近大樹さんが書いた初の小説となっています。若い人気芸人・石山の元本を週刊文春が突撃するところから始まりまして、複雑な家庭環境で育ち、人を殴り、殴られる生活を送りながら、やがて売春防止法違反で捕まるというストーリーで「どこか著者を彷彿とさせる」と話題を呼んでいる1冊です。

(宇多丸)はい。兼近さん、小説を書いちゃった。すごいな。

(吉田豪)表紙とかにはもうEXIT感、そういう要素を完全に消していて。

(宇多丸)顔写真すら載ってないですもんね。

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(吉田豪)EXITの「イ」の字もない感じなんですけど。中を読むとまあ、完全に本人の自伝……名前こそ変えているけどもっていう。ただ「文春に直撃される」っていう部分は完全に文春イキで書いていて。これ、文藝春秋から出ているんですよ(笑)。面白いですよ。だから語りづらい部分を小説形式で相当踏み込んで書くっていうのが最近、ちょっとまた流行りつつあるんですよ。かが屋の加賀さんが出している『おおあんごう』という本もやっぱりそういう感じで。ここはお父さんが捕まっているんですけど、そのへんの話をまあかなりちゃんと書いてる。

(宇多丸)フィクションという形を取れば……。

(吉田豪)主人公の名前が変わっていれば、だいたい書けるみたいな感じなんですね。

語りづらい部分を小説形式で踏み込んで書く

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(宇多丸)やっぱりこれはいわゆる、タレントさんが書く小説としてはよくある形ではあるんですか?

(吉田豪)よくある……僕が結構読んでいる本の中ではあるけれども。最近、久しぶりにこういうのがとんとんと出たなっていう感じですね。

(宇多丸)しかも第7世代ってなんかすごく、ほら。洗練されて……みたいなイメージだけど。やっぱり大変なんだな。

(吉田豪)やっぱり家庭環境は本当にもうどうにもならないなっていうのを痛感させられるという。どっちもそういう本なんですよ。もう環境がひどすぎたら、そこから這い上がるのは本当に困難で。だからまあ、兼近さんの本なんかは本当に貧困と暴力がすさまじい家で育って。で、それが常識として植え付けられちゃうと、まあ集団生活で浮くわけですよ。当然。それで周りには悪い人間ぐらいしか集まってこなくて。そういう人たちに仕事とか紹介されてやっていると、どんどん酷い仕事になっていって、捕まるまでに至るっていう。

(宇多丸)っていう、今でもやっぱりそういう感じなんだっていうのがわかるみたいな。

(吉田豪)よくわかりますよ。だからあんまり詳しくは報道されてないんですけども。まあ文春には出てましたけど。なぜ、そういうことに手を染めたのか? そしてねもう1個ね、事件にほぼなってたけども……みたいな件があるんですけど。そのへんの裏話とかも相当ちゃんと書いていていて。なかなかだからね、通常の取材だとここをそんなに掘り下げるわけにもいかない部分っていうのを自分の手できっちり書いた感じですね。

(宇多丸)お二人とも、でもそれを作品という形で、まあ言っちゃえば吐き出すというか。なんかそれが売れっ子にしてね、それを吐き出す必要があったんだなっていう感じが……。

(吉田豪)兼近さんもこの本で書いてるけど、文春に直撃された時に「ようやく見つけてくれた」みたいな感じで。ずっとこれが、下手に売れちゃって下手な叩かれ方をしたら困るけれども。「まだ気づかれないのか」みたいな感じで、「やっと語るタイミングが……」みたいな。だから会社からは止められていたみたいなのもあって。だから、ヒントは出したんですよ。EXIT……この本の中だと「entrance」っていうグループ名になってるんですけど。やっぱりそのグループ名の時点でどこかこのね、出口を求めてる感じがあるんですけど。前に組んでたグループなんて「ぷりずん。」ですからね。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。なるほど。いや、そうか。日本のお笑いってだから、アメリカで言うヒップホップシーンじゃないけど。近いものがあるって思ってたけど。やっぱりそういう面ですね。なんかね。

(吉田豪)音楽やるか、サッカーやるかしか逃げる道はないみたいなね、当時のイギリスみたいな。やっぱり芸人さんには最近、こういうヤバい家庭環境に育った人たちが、逃げ道として芸人になるみたいなものが増えている気がしますね。

(宇多丸)まあサクセスとしてはね、バーン!って見えてるわけだからね。でも、それをなんかすごく、ちゃんと小説という形で出せるっていうのかな? 皆さん。それに感心しちゃうな。加賀さんといい。

ヤバい家庭環境に育った人たちの逃げ道が「お笑い芸人」

(吉田豪)でも加賀さんの本なんて本当に、バイオレンスの匂いもない、すごい表紙ですよね。

(宇多丸)でも加賀さん自身、そんなさね。

(吉田豪)繊細そうな。メンタルやられて休んだりとか。

(宇多丸)そんな感じ、したけども。そうなんだ。

(吉田豪)インタビューとかでも出てくるお父さんの話がやっぱりヤバかったんですよ。基本、やっぱりお酒でおかしくなっていて、暴力ですね。それで常識を植え付けられちゃったから、やっぱり加賀さんも大変だったらしいんですよ。基本、その粗暴な振る舞いしか知らないから、そのノリで生きてきて、小学校で浮き上がって……みたいな。

(宇多丸)そうか。なんかちょっと、あれですね。でもその第7世代のポップなイメージとは裏腹に、こういうのがあるんだという。ということで、一応2冊目、3冊目としてお勧めいただいたのは兼近大樹さんの『むき出し』とかが屋の加賀翔さん『おおあんごう』でした。

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(吉田豪)ただ、本当に「タレント本」っていう枠がなかったら、今年のベストはやっぱり萩尾望都さんの『一度きりの大泉の話』に尽きると思うんですけども。

(宇多丸)もうね、吉田さんはずっとその話をされていましたけども。

(吉田豪)周辺を調べ……。

(宇多丸)そして、あれですもんね。当事者のお一方が亡くなられたという。

(吉田豪)鍵を握っていた方がお亡くなりになっていたことが判明っていう。それもこの本が出た直後に近いぐらいのタイミングで……というね。

(宇多丸)なんもいえねえ……っていう感じだけども。

(吉田豪)何も言えないですけども。でも本当にやっぱりね、当事者が生きているうちになるべく話を聞かなければっていう義務感はより、決心に近い感じで。

(宇多丸)そうか。プロインタビュアーとしてはちょっと、やりべき仕事がまた、という感じですかね。ということで吉田さん、ありがとうございます。

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<書き起こしおわり>

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