星野源『マシーン日記』と『佐久間宣行 リスナー大感謝祭2021』を語る

星野源『マシーン日記』と『佐久間宣行 リスナー大感謝祭2021』を語る 星野源のオールナイトニッポン

星野源さんが2021年11月16日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で高校生の時に見て衝撃を受けた松尾スズキさんの舞台『マシーン日記』についてトーク。さらに『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』の配信イベント『リスナー大感謝祭2021』についても話していました。

(星野源)この間、とても久しぶりに……久しぶりの感覚になった出来事がありまして。ちょっと昔の話になりますけど。たこ八郎さんってご存知ですか? コメディアンで。もう亡くなられているんですけれども、元々プロボクサーで、ノーガード戦法っていう、もう好きに殴らせて。で、全部受け止めて、殴らせて、相手が疲れたところを殴って倒すという、そういうとても危険なんですけど。そういう戦法を取られていて、強かったプロボクサーの方。その方が後ほど、プロボクサーの後にはコメディアンになられて。俳優としてもいろんな作品に出られてるんですけども。

その方は、海水浴場で亡くなってしまったんですね。で、それは僕、ちっちゃい頃にたとえばいろんな番組とか、たとえばニュースっていうか、「あの人は今」的なこととか。「懐かしの映像大公開」とか、そういうスペシャル番組がよく、ちっちゃい頃にやっていたんで。そういうコメディアンの方が活躍されている映像とか、いろいろ見て知ってたんですね。

で、小さい頃から僕はコミュニケーションがちょっと苦手で。自分の思いをあんまりちゃんと人に言うことができなかったんですよ。それで演劇と中学1年生の時に出会って。あと音楽に中学1年生の時に出会って。演劇では、自分の思っていないこと。自分が感じた感情をそのままの言葉じゃなくて、セリフを読んでるだけなんだけど、人前ですごく大きい声を初めて出して。それがめちゃめちゃ気持ちよくて。で、それが人前で素直にものを言えない。自分の思いを表現できないっていうことのリハビリになっていったんですよね。

自分が思っていないことをまず、セリフで言って。で、そこに感情をくっつけていって。それが私生活でも自分の感情で自分が思うことを言えるようにちょっとずつなっていくという。で、音楽に関しては単純に音楽が好きで。音楽を表現する楽しさと、あと自分が言葉にできない思いを歌詞にする楽しさみたいな、そういうのをどんどんどんどん自分で学んでいって。楽しんでいって、高校を卒業する頃には「もうこれ以外のことはできないだろうな」ということで、1人暮らしをして演劇と音楽をやり続けて今、ここにいるという感じなんですけども。

僕、高校生の時に、大人計画と出会いまして。僕は今、大人計画事務所というところにいるんですけれども。先日、放送されたあの林先生の『初耳学』でも自分のボスみたいな。自分にとってのボス……音楽のボス、音楽のお父さんは本日のゲストの細野さんで。演劇、お芝居のボスは松尾スズキさんということで。そこで、『初耳学』の中でもお話が出ていたと思うんですけど。僕が一番最初に松尾さんの演劇を見たのは高校2年生だと思うんですけど。

『マシーン日記』っていうタイトルのプロデュース公演だったんですよね。だから、大人計画公演じゃなかったんだけど、松尾さんが作・演出をされてて。で、その後に何度も再演されてるんですけど、僕が見たのは初演で。その初演は……再演は阿部サダヲさんとかで。主演はどれも片桐はいりさんなんですけど。初演は片桐はいりさんと有薗芳記さんが出演されていて、僕はそれを見たんです。で、それまで割と小劇場というものよりも、どちらかと言うと商業演劇のたくさんお客さんが入る舞台は見に行ってたけど。小劇場で、本当に少ないキャパシティーのところで、座敷に座って見るような演劇っていうのはあんまりっていうか、ほとんど見たことがなくて。初めてぐらいの感覚で。

そこで、その『マシーン日記』を見たんですけど。まあ、すごい内容なんですよ。で、ルサンチマンを抱えている主人公が本当にいろんな悪いことをするんですよ。で、ちょっと放送では言えないような大変なことになるんですね。で、すごい大変なことになるんですけど、その大変なことになっているんだけど、ギャグがたくさんあって。もうずっと爆笑しているような舞台だったんですよ。でも、その真剣に物語を捉えると、本当に深刻なんだけど。もうとにかく面白くて、ゲラゲラゲラゲラ笑って。

で、その舞台で本当に一番最後のシーンで、まあいろんな人が死んじゃうんですよ。その中で、もう主人公が「うわーっ!」ってなってるところで暗転していくんですね。もうすごい狂騒的な状態っていうか。もうそれでガーン!って暗くなって、ものすごい絶望的な気持ちで。そんなのを見るのは初めてだから。それまではすごく、なんかほんわかした舞台とか、ハッピーエンドの舞台とかばっかり見てたから。「こんな終わり方、あるの?」って頭を抱えながら。高校2年生でもう多感だから。「怖え! でも、面白い!」みたいな。

で、そこで、これはね、再演以降はないので。たぶん言ってももう大丈夫だと……ネタバレにはならないんですけども。僕が見たその初演の時は、最後のシーンが終わって暗転していった時に割とト書きっていうか。まあ「次の日」とか、そういう感じ。スライドで文字で出る演出の舞台だったんですよ。なので、今だとたとえば映像とかで。幕間映像で次の展開までの映像を使ったりとか、そういうのがあるんですけど。その時はスライドで文字がバンって出るだけで。

で、本当にいろいろあって、もうすごいひどい状況で終わって。もう舞台も血だらけみたいな状態の時に、スライドがポンって出たんですよ。で、それは「人は、どこから来てどこへ行くのか」って文字で。「はっ!」ってなって。それで、その後にね、もうひとつ。一番最後にで出るんですよ。それが「たこちゃんは海に帰ったのさ あき竹城」って出たんですよ。

「たこちゃんは海に帰ったのさ あき竹城」

(星野源)で、それが……なんていうか、それはたこ八郎さんが「たこ」っていう名前で活動されていて。「たこ八郎」って。それで、海水浴で亡くなってしまったから、たこさんとすごく仲がよかったあき竹城さんが「海に帰ったんだ」っていうすごく素敵な話としてコメントされてたっていうのがあって。でも、それを「人はどこから来てどこへ行くのか たこちゃんは海に帰ったのさ」っていうのがめちゃくちゃ面白かったんですよ。で、それがもう「この2時間ぐらいの舞台は本当に何にも意味がないよ」って言われてる感じがしたんですよ。

「本当にそんな状況も全部嘘だし。全部物語だし。1行前のセリフでものすごく真面目な気持ちになったでしょう? あなたたち」って。でも、「たこちゃんは海に帰ったのさ」っていう言葉をやることによって全てが無になるっていうか。「ああ、つらい。ああ、悲しい」とか、真面目になりそうな気持ちを全部バーン!ってブチ壊して。残ったのは面白さだけだったんですよ。「面白かった」っていう。で、僕はそれがあまりにもカルチャーショックすぎて、しばらく立てなくて。ずっともう、お客さんがゾロゾロと帰っていく中でもボケーッとしちゃって。

それで、「大人計画に入りたい」って思うようになったんですよ。で、なんていうんですかね? その時までに抱えていた自分の「なんでこんなに嫌な気持ちにならなきゃいけないんだろう?」とか、変な憤りとか。「生きづらいなあ」とか。なんか、そういうものには全部意味がなくて。「面白いのはただ、面白いよね」って言われてる感じがして。「面白いことは、できるよ」って言われてる感じがしたんですよ。こんな状況でも。こんな、もう目の前で本当に陰惨な状況があるのに、ゲラゲラ笑ってたし。それに救われた自分がいたんですよね。

自分の中に本当に「真面目に生きなきゃ」とか、「みんなに合わせなきゃ」とか思ってる中で、本当にマグマのようにドス黒い自分みたいなのがいて。それに罪悪感も感じていたし。「こんな思いを抱えていていいんだろうか?」みたいな。でも、それが「抱えててもいいけど、面白く出しなよ」って言われてる感じがしたんですよ。「俺は面白く出してるよ?」っていう感じがして。それが「かっけー!」ってなったんですよね。それで憧れるようになって。

で、そんな思いを僕は高校生の時にして。なんかそれにすごく似てる感覚だなって最近、思ったことがあるんですよ。それが、先日行われたあの佐久間宣行さんの配信イベントをね、見たんですよ。で、プロデューサーのヒカルちゃんが「よかったら見てください」って言って、またURLを送ってくれて。僕はもうそもそも、楽しみにしてたんで。で、リアルタイムでは見れなかったんですよ。制作してて。で、終わった後に……制作が深夜3時半とか4時ぐらいまであって。5時ぐらいから見始めた。朝の(笑)。で、2時間ぐらいあったのかな?

それで、見終わった後に「いや、これ、やばい!」と思って。「すごいものを見た!」と思ったんですよ。なんでかっていうと……まあ、見てくださいね。皆さん。「今から見る。ネタバレっていうか、ヒントもいらないよ」っていう方はぜひ、耳を塞いでいただければと思うんですけど。まあ本当に大雑把に。前半がもうほぼ、佐久間さんの1人しゃべり。で、後半がゲストの方も来られて……っていう。

で、僕が配信イベントやったじゃないですか。その時に佐久間さんにゲストに来ていただいて。佐久間さんがもう後半、ずっと口々に言ってたのが「クレイジーだ。この星野源のオールナイトニッポンの配信イベントはクレイジーだ。配信イベントってこんなことまでやらなきゃいけないの? こんなに作り込んで、面白くしなきゃいけないのか? 大変だ! みんなクレイジーだ。星野源はクレイジーだ」ってすごい言っていて。俺は今、佐久間さんにそっくりそのまま返したい。本当に素晴らしくクレイジーだった。

本当に素晴らしくクレイジーだった

(星野源)で、たぶんあんなに自分にフリートークを課して。最初のほぼ1時間、1人でやり切るって、たぶん芸人さんでもいないし。まあ1人きりで最初から最後までやる人はいるかもしれないけど。たとえば、もうちょっと早めにゲストがいたりとか、違う催しがあったりとか。ほぼ、たぶん自分があったフリートークだったり、経験の話とかで割と1時間ぐらい話してて。で、しかも芸人さんじゃないから。やっぱり。あとはリスナーからのメッセージだったりとか、ネタだったりとかクイズコーナーとか。あとはゲストの話とか。で、最後はご自身のすごくプライベートなお話を最後にして見事にスパンって落として終わったんですよ。

で、逆だったんですよね。すごく感じた感情が真逆だったの。「人生の全てには意味があって」っていう。だから、その佐久間さんの人生のいろんな地点がわかる構成になってたんですよ。「この時期にこんなことがあって、若い時にはこんなことがあった。そして今、こんなことがあった。すごく昔にこんなことがあって、それが今につながっている」って。

だから、生きている全てには意味があって、それを面白くしようと努力している1人の男の姿があったんですよ。それにしびれて、寝れなくなっちゃって。俺(笑)。もう、かっこいいし、面白いし。いやー、だから本当に素晴らしかったのでぜひ、まだ見てない人は見ていただきたい。「全てに意味はある」って言ったけど、内容に関してはほぼ覚えてないぐらいくだらなかったんですよ。アハハハハハハハハッ!

もう、めちゃめちゃくだらないだけど。で、爆笑をずっとするんだけど。やっぱりなんかそれの端々をね、佐久間さんの人生で繋いでるんで。なんかね、本当に……最終的には佐久間さんがね、笑福亭鶴瓶さんに見えたの。あの『A-Studio』の最後にうまいこと言ってスッと去る、あのドヤ顔をして去る、あの鶴瓶さんの一連の……「かっこいいな! この!」みたいな感じに見えて。あとはその、実際に有観客でやったじゃない? 有観客でやりつつ、でも配信の人も楽しめるような。配信の人だけが見れるアフタトークもあったりとかして。

もう各方面、完璧みたいな。本当にすごいいろいろ考えられている配信イベントだったのはぜひ、見ていただきたいと思っております。

『佐久間宣行のオールナイトニッポン0 リスナー大感謝祭2021 ~freedom fanfare~』

<書き起こしおわり>

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