星野源と荻上チキ ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオン』を語る

星野源と荻上チキ ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオン』を語る 星野源のオールナイトニッポン

荻上チキさんが2021年9月21日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』に出演。星野源さんと『100分de名著』のピエール・ブルデュー『ディスタンクシオン』回を見て、感じたことを話していました。

(星野源)最近も……先週もちょっとお話ししましたけれども。いろんなお話をさせていただいたり、お勧めの本とかを教えてもらったり。で、僕はラジオで聞いて、「ああ、すごく面白そうだな」と思った本を読んで、感想を送ったりとか。そういうやりとりをさせてもらってますね。

(荻上チキ)そうですね。あと、テレビを間接的に一緒に見てますよね。

(星野源)ああ、たしかに。

(荻上チキ)リアタイで。NHKで放送していた『100分de名著』。

(星野源)はい。これですね。『ディスタンクシオン』。

(荻上チキ)そうそう。ピエール・ブルデューという社会学者の方がお書きになった『ディスタンクシオン』という本を岸政彦さんという社会学者の方が解説をするという回があって。「これは絶対に面白いぞ!」と思って星野さんに「この回、絶対に面白いと思いから見た方がいいですよ」っていう風に言って。で、リアルタイムで見ながら、終わった後に感想会をするっていう。

(星野源)そうですね。教えてもらって「じゃあ、見ます!」って言ってつけて、見て。「こういうところが響きました」とか「ちょっと反省しました」とか「なるほどと思った」っていうところと、でもその後にちょうど、その『100分de名著』の『ディスタンクシオン』回のその後に直で『SHIROBAKO』っていう僕が大好きなアニメが放送されたんで、30分返信がないっていう。その、とりあえず『SHIROBAKO』をすごい堪能して。「すいません。『SHIROBAKO』を見ていました」って言って。それで『ディスタンクシオン』の回の感想を言ったりとか。

(荻上チキ)そう。すごい星野さん、真面目だなと思って。「『ディスタンクシオン』を読んだ時、すごく反省しました」みたいな格好で、長くやり取りをしたんですよね。で、『ディスタンクシオン』という作品はピエール・ブルデューという方が要はそれぞれの趣味というものはそれぞれの社会階層によって相当に決められるものだ。たとえばクルーザーを乗りこなすなんていうのやっぱりお金持ちの人がやる趣味だし、一方でたとえば酒場に行ってビールを飲むとかだと労働者階級がやる趣味だったり。

その「自分で選び取った」と思っている趣味も実は社会階層によって相当決められてるよ。そうしたようなものがある中で、人は自分が選び取った趣味を「他の趣味よりもいい趣味なんだ。あの趣味はダメなんだ」という風に、その趣味をめぐる闘争する。そういったようなことが人間のいろんな生活とかを規定してくんだっていうようなことを解説しているんですけども。そしたら星野さんが「自分がいろんな趣味をいい・悪いって思ってたこととか、歌詞の中でいろいろと描いてたのがもしかしたら誰かを傷つけたかもしれない」というようなことを話されていて。「ああ、すごい真摯だな」と思いましたね。

(星野源)ありがとうございます(笑)。僕がその時に思ったのは、ラジオで前にしゃべったことがあると思うんですけど。言い方で何かを「好き」って言う時に、たとえば、違うバンドでAというバンドの曲とBというバンドの曲があったとして、それらはなんとなくジャンルが一緒で。それでAのバンドの方が売れている。そんな中で「好き」って言う時に「AよりもBが好きだ」っていう言い方……「私はAよりもBの方が好きです」っていう言い方が僕は好きじゃないっていう話を僕はしたんですね。

そこで「Aよりも」っていう風に言う必要はないじゃないか。「Bが好きだ」と言うだけでいい。あと、いろんな、たとえば好きなミュージシャンであっても初期のこの曲が好きな場合。「最新曲よりも初期の曲の方が好きだ」とか、そんな風に言わなくていいんじゃないか? それは、攻撃になるんじゃないか? たとえば違うバンドに対する攻撃にもなるし。でも、攻撃しなくていいじゃないか。好きな気持ちだけでいいじゃないか。で、その攻撃になった時に、それは「好きだ」という気持ちを伝えたいのではなくて、自分の表現というか、「自分を見て」ということになってしまうんじゃないかと。

(荻上チキ)「私の見る目はたしかでしょう?」みたいな。

(星野源)そうそうそう。そういう風にラジオで僕は言っていたんですけども。

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(星野源)でも、そもそも「好きだ」っていうものを伝えること自体が戦いの一種であるというか。なんていうんだろう?

(荻上チキ)まあ、一種の闘争ですよね。誰かと比べたり、比較をしたり。

(星野源)比較をすることになってしまう。そもそも、好きなことを言うだけでそうなってしまうっていうところで「ああ、なるほどな」って思って。自分はそもそも、なにか違う風に解釈をしていたなっていうところを反省して。でもなんか、なるべく戦いたくないっていうか。そういう無駄な闘争はしたくないので。でも、好きなことを「好きだ」っていう伝えるのはやっていこうっていうところで自分の中では解決したんですけど。

(荻上チキ)若い頃はそういったね、闘争とかが、それこそ演劇をやってる仲間とか、文学を読んでる仲間とかで、いざ飲み会とかに行くともう戦いが始まるじゃないですか。「お前、好きな映画一番は何だ?」みたいな。「一番か……」っていう。それはもう、戦いなわけですよね。本当に好きな映画を言おうものなら「あれかよ? わかってないな」って言われるから。じゃあ、そいつをギャフンと言わせるような映画を言おうっていう時に「○○監督の初期の……」みたいな(笑)。

(星野源)アハハハハハハハハッ! 知らない人もいるだろうけど……みたいな。

(荻上チキ)そうそう。でもそれは結構、やっぱり飲み会の帰りにもうヘトヘトになって。戦いに疲れてボロボロになるパターンですよね。

(星野源)そうですよね。で、そういうのが好きじゃないから、好きなものだけを言おうよっていう、なんかそういう気持ちではいたんですけど。でも、そもそもそこにも闘争があるんだなっていうのを気付かせてもらえたという。あれですよね。今回、その『みらいめがね』っていうチキさんのエッセイ集があって。ヨシタケシンスケさんとの共著っていうことでいいんですか?

(荻上チキ)共著ですね。

(星野源)ヨシタケさんがイラストを書かれいて。で、チキさんのエッセイがあって。それの2巻が出るっていうのでいい機会だったので「ぜひ来ていただけけませんか?」ということなんですけども。これ、1巻の方でも今みたいなその飲み会の闘争の話とかも書かれていたりして。

(荻上チキ)そうですね。やっぱり何かを上げる時に、何かを下げる必要はないっていう話とか。何かを嫌いになる時には作法があるよっていう話とかを書きましたね。

(星野源)ちょっとじゃあ、このCMの後にエッセイ集の話を聞きたいと思います。

<書き起こしおわり>

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