宇多丸さんが2021年9月8日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で1週間前の放送で話した関東大震災と朝鮮人虐殺に関するトークに対する、あるリスナーからのお便りを紹介していました。
(宇多丸)はい。ということで、ご紹介したかったメールというのは先週、9月1日水曜日。ちょうど世の中的には一応「防災の日」なんていう名前がついていましたけども。まあ、関東大震災があった日で。その日にデマや流言飛語、あるいは公的機関もそれに加担をするような形で当時、日本にいらっしゃった朝鮮人の方々や中国人の方々が日本人によって殺害をされたと。それは歴史の教科書などにも載っているような事実であり、今なお新たな証言などが編まれたようないろんな本も出ていて。言わば我々が当然のことながら、二度と繰り返してはならない……当たり前ですけどね。そんなことはね。
そう胸に刻んで……でも、自分自身というものにくさびを打つ意味で胸に刻むべき話ですよねっていうことを今年も話したわけです。毎年、話しているんですけども。で、それに関してメッセージをいただいていて。それをぜひ……メールをいただいたのはちょっと前だったんですけども。水曜日に話した話だったので、今日紹介しようと取っておいたので。ちょっとご紹介が遅くなってすいません。じゃあ、日比さん、お願いしていいですか?
(日比麻音子)はい。ご紹介します。ラジオネーム「薄毛のロン毛」さんからいただきました。「僕は今年の春から外国人留学生として日本の大学に通うことになった韓国人です。コロナの影響でまだ入国ができず、韓国にいます。昨日、知り合いにおすすめされて水曜日のアトロクのオープニングを聞いて、昔、おじいちゃんから聞いたひいおじいちゃんの話を思い出しました。僕のひいおじいちゃんは1923年の震災の日、ちょうど僕と同い年の18歳で東京の大学に通う朝鮮人でした。
はじめての一人暮らしで震災に遭い、パニックになっていたひいおじいちゃんのところに武器を持った自警団の人たちが来て、朝鮮人かどうかを確認されたそうです。ひいおじいちゃんは日本統治時代以前に生まれた人で、母語が日本語ではなかったので日本語がなまっており、たどたどしい日本語で答えたらすぐに殺されてしまうかもしれないという危険な状況でした。そんな状況でひいおじいちゃんが取った行動は耳の聞こえない日本人のふりをすることでした。
耳の聞こえないふりをして、とりあえず朝鮮人ではなさそうだということでひいおじいちゃんは生きのびることができ、僕が生まれることができました。当時のひいおじいちゃんと同い年で、同じく日本の大学に通っている僕がもし、同じような状況に置かれたら……と思うとぞっとします。『証拠がないから嘘だ』と言われればそれまでの話だし、タイミング的に来年まで待って送ろうかとも思ったのですが、日本が大好きだからこそ、大好きな日本の皆さんに早く、この話を伝えたかったので送りました」ということです。
韓国人留学生リスナーの曽祖父の話
(宇多丸)ねえ。いやいや、これは立派な生々しい証言ですよね。ひいおじいさんのね。しかも、薄毛のロン毛さんがまさに同じ年、同じ立場として日本に来られる中で……でさ、なんていうか、ちょっとでも彼が不安を感じるというか。かつて、そういうことがあった国で……でも、日本が大好きで来ているって言ってくれている人をですよ、そんな気持ちにさせるというか。そもそも、そのひいおじいさんがされた体験が恐ろしいことそのものだし。恥ずべきことだけど。
だから、これを聞いて「そんな日本であってほしくない」って思う気持ちは共通しているはずだと思うんですよね。それは、どんな立場であろうとも。なので、今年も結局、小池百合子都知事は犠牲者に対する追悼文を送らないということをされていましたけども。だから、そういう為政者に対しても、もう小池さんに「変われ」っていうのはムダな話かもしれないから。そういう為政者のあり方みたいなものも、それを選択しているのは我々なんでね。
(日比麻音子)そうですね。
結果的にその為政者を選択しているのは「我々」
(宇多丸)それこそ、LGBTQにまつわる自民党の話とか、いろんな話を要所要所でしていますけども。こういうこと1個1個を……そういう人たちを選んでいる、というか、結果的に選んだことになってしまっている……俺は選んでないけども。でも、そんな結果になってしまっているのも我々だということも、うん。考えながら。それが我々の社会を形成しているんだから。すいません。また重たい話をして。俺もさ、「コートを着たい」とかそういう話をしたいけどさ。でも、その前にやっぱり大事な話なんでね。メール、ありがとうございました。
(日比麻音子)本当に、メールを送っていただいてありがとうございました。
<書き起こしおわり>