宇多丸さんが2021年8月20日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で亡くなった漫画家のみなもと太郎一さんを追悼していました。
(宇多丸)そして、もうひとつ。これがちょっと関係性としては我々、さらに近い訃報が来てしまいまして。本当に……本当に絶句してしまったニュースなんですけども。こちらもメールを山本さん、読んでいただけますか?
(山本匠晃)はい。「今朝の新聞で漫画家のみなもと太郎先生の訃報を知り、大変に驚いております。『ウィークエンド・シャッフル』時代にゲストに来られた際、お話に枝葉がついて脱線し、結局結論までたどり着けなかったのが印象に残っております。今だったら別冊のポッドキャストの方で時間を気にせず大いに語っていただくこともできたのでしょうが、それも叶わず残念です。ご冥福をお祈りします」というメールです。
(宇多丸)そうなんです。漫画家にして漫画研究者としても一流の仕事を残されているみなもと太郎さん。ここ数年、肺ガンで闘病をされていたということで。これ、僕ら知らなくてですね。で、そろそろみなもとさんに出ていただいて、前の話の続きとかいろいろとうかがいたいところだな、なんて。それこそみなもとさんの研究者としての仕事……劇画の歴史であるとかのところで皆さん、ご存知さいとう・たかをさんが果たされた役割が非常に大きいということで。
我々としてはじゃあ、また何かしらの特集をやっていこうかと……改めてでもいいんですけどもね。ありましたし。あと、もちろんずっと続いている歴史漫画『風雲児たち』。RHYMESTERの私の相方であるラッパーのMummy-Dも『風雲児たち』で改めて歴史を学んだという風に本当に言っていて。だから僕がみなもと太郎さんのことを話したら「俺はウタさんがそうやって言っているずっと前から読んでいるんだ! 大ファンなんだ!」なんて言って。そういう方、いっぱいいらっしゃると思うんですけども。
(宇多丸)本当に、そんじょそこらの歴史書なんかよりもよっぽど調べ抜いて、しかも多角的な視点から調べられていて素晴らしい作品でもあって。なにしろこれ、74歳でお若くて。なんかこれも、まいったなっていう感じなんですよね。ということで、思い出すのはやっぱりお越しいただいた時に脱線に脱線を重ねて結局結論に、予定されていたところにたどり着かないってこれ、まさに『風雲児たち』で。まさにみなもと太郎先生のイズムというか。それだけもう、ありとあらゆる情報を調べ抜いて。伝えたいこともいっぱいあるしっていう。それ自体が楽しいというか。だから「結論はまた先に、また次回に……」なんてやるのがまた楽しい感じだったんだけども。
只今「サタラボ」今回は「さいとう・たかを特集 by みなもと太郞」歴史漫画の大傑作『風雲児たち』などで知られる、漫画家・みなもと太郎先生がさいとう先生について語ってくれます!
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(宇多丸)それでみなもとさん、その放送が終わった後、当時は土曜日でしたけども。放送が終わった後もそうやってとにかく漫画の話を……若い人というか、僕も年齢はあれですけども。比較論で言えばだけど。「若い人と漫画の話をするのが楽しいから」っていうので、結構その後、一緒にお食事に行って。結構お付き合いいただいて、すごい楽しい夜を過ごしましたし。さらに勉強もさせていただいたし。そうなんですよね。だから本当に、単純にこっちとしては「そろそろ『アフター6ジャンクション』にも……」なんて感じでいたのですが、闘病をされていたのも存じ上げなくて。
お見舞いのひとつも行かずじまいで。こんなご時世なのでそれも叶わなかったのかもしれませんが。いやー……で、これもみなもと太郎さん、漫画家としてもそうですし。漫画家としても非常に特異なというか、ちょっと他に類するものがないような立ち位置、スタンスのアーティストでもありますし、そして研究者としてのお仕事も本当にすごい。画期的ないろんなお仕事もされていて。なかなかこれ、一筋縄ではいかないキャリアをお歩みなので。なにかしら、適任な方をお迎えして、これも緊急特集というか、追悼特集をこの番組のどこかで組ませていただきたいと考えている次第ですね。
いやー、でも結局、単純に無責任な1人の読者の気持ちを言うならば、やっぱり『風雲児たち』、だいぶね、大詰めに来ていましたけどもね。だいぶ大詰めまで来てましたけど、結局終わらなかったか……とかね。でも、ここから先は自分たちが勉強して埋めていくことか、とかね。なにしろ、だいぶ幕末に……だって幕末の維新を描くっていうことでずっとさかのぼって関ヶ原の前のところまで行っちゃうっていう。そこからじゃないといけないっていう。そこからずっと来て、ようやく全然ゴリゴリに……「もうちょっとじゃないですか!」みたいなところまでは来ていたんで。いやー。
(山本匠晃)いろんなこと、悔やまれる点が……。
(宇多丸)そうね。でもこればっかりはね、やいのやいの言ってもしょうがないことなんだけど……っていう感じだね。とにかく、毎回こういう訃報を、特に比較的近いところの方のを伝える時はやっぱり、早く呼んでおかなきゃダメだなって。でも、闘病されていたから……とかね。じゃあ、どこまでさかのぼればよかったんだろうとかね。思っちゃうよね。なんかね。ということで、みなもとさんはとにかく軽快かつ、ユーモラスで。話しているだけで楽しくなる語り口なんかもすごく素敵な方なんで。改めて、追悼特集の時にでもそのお話いただいている音声なんかも流したいなと。今日はちょっと、いくらなんでもしんみりしすぎるので。この後、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の映画評をやるんで。あの、とんでもない映画をやるんで(笑)。
(山本匠晃)そうなんです。とんでもなく素晴らしかった。
(宇多丸)うん。元気が出る映画ではありますけども。なのでね、ちょっと今日は音声はやめておきます。泣いちゃうから。とにかく、みなもと先生も本当にお疲れ様でしたということですね。闘病も本当にお疲れ様でしたね。改めてちょっと『風雲児たち』。いや、大変な数があるんですけども。
(山本匠晃)私も触れたこと、あります。『風雲児たち』。
(宇多丸)改めて、読み直そうかな。それこそ、あれですよ。平賀源内の知識とかも……この間ね、『大奥』の話をしていた時に「平賀源内ってさ、非業の死を遂げたこういう人ですよね」なんてパッと返せたのはやっぱり僕は『風雲児たち』の影響が大きいですよね。「解体新書はこうやって訳したんだよ」なんてことに詳しいのは『風雲児たち』のおかげですよね。
(山本匠晃)学びどころでしたね。
(宇多丸)しかもめちゃくちゃ面白いし。これ、ある意味今日の『ザ・スーサイド・スクワッド』にも通じるけども。ギャグとかはめっちゃめちゃしょうもない、話の進展を妨げるようなしょうもないギャグが山ほどあるんだけど。でも、ためにもなるし。ぶっちゃけ、ストーリーとしてもきっちりグッと来るっていうか。すごい作品だよね、これはね。ある意味、その終わらない級のものを作るっていうすごさもあるかもね。
(山本匠晃)「終わらない級のもの」。
(宇多丸)作品というのはちゃんと完結させるすごさもある。その中で完成度を上げるすごさもある。でも、終わらないほどすごいものを作るっていうすごさもあるかもね。
(山本匠晃)その偉大さが。ああ、そうか。
(宇多丸)ということかもね。で、まだ完結しきっていない地平を見て、我々は想像力も働かせるし。さっきも言ったように「あとはお前らがやれや」っていう。
(山本匠晃)そこまで導いてくれたんだから、あとは自分たちでも。
(宇多丸)ということかもしれないというような、そういう偉大さもあるかな。ということだよね。まあ、(千葉真一さんの訃報と続けて)1日に2回もこんな短い時間に言うのも嫌ですけども。みなもと先生、お疲れ様でした。そしてご冥福をお祈りしたいと思います。
(山本匠晃)お悔やみ申し上げます。
<書き起こしおわり>
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