みなもと太郎と宇多丸 『風雲児たち』を語る

みなもと太郎 さいとう・たかをの偉大な功績を語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

漫画家みなもと太郎先生がTBSラジオ『タマフル』に出演。漫画家さいとう・たかを先生を特集する前に、宇多丸さんとともにみなもと先生のこれまでのキャリアや、代表作『風雲児たち』などについて語り合っていました。

(宇多丸)ただ、さいとう・たかを先生はもちろんレジェンド。伝説的存在ですよ。いまだに生きるリビング・レジェンドですけど。そんなことを言ったらですね、あなたもレジェンドではないですか? という漫画家のみなもと太郎先生。

(みなもと太郎)歳だけ食らってますね(笑)。

(宇多丸)なにを言ってるんですが。これ、本当にね、リスナーからの声で。「さいとう・たかを by みなもと太郎」って言ったら、「おいおい! そっちが特集の対象だろ!」っていうね、ごもっともな突っ込みが入ったぐらいなんですけども。

(みなもと太郎)ありがとうございます。自分のことを褒められると、「ありがとうございます」としか言いようがないよ(笑)。

(宇多丸)わかります、わかります。褒められると、どう言っていいかわからないですよね。

(みなもと太郎)わからないですよね。「ここがよかったです」「ああ、そうですか。そこまで見ていただいてありがとうございます」。これしかないのよ(笑)。

(宇多丸)いや、お声がいただけるだけで結構でございます。まずはこの時間は、ぜひみなもと太郎先生をご紹介させていただきたいと思います。プロフィールをざっくりとご紹介させていただきます。1947年生まれ。現在69才。京都府京都市出身、漫画家・漫画研究家。ここですね。漫画家であり、漫画研究家。1967年に『別冊りぼん夏の号』でデビュー。代表作は……

(みなもと太郎)その『夏の号』がね、最近やっと発見したんだけど。夏に載ったから、ずっといままでネットでもそう言ってきたんだけど……『秋の号』だった。

(宇多丸)『別冊りぼん夏の号』ではなく?

(みなもと太郎)ではなく、『秋の号』だった。それがもう、つい最近わかっちゃって。あら、いままで俺はずっと『夏の号』でデビューと言っていたのは間違いだったというのを。すいません。今、訂正します。

(宇多丸)いや、でもこれ、すごいことですね。記憶違いのまま、ずっと歴史が……まさにこれは『風雲児たち』ですね。後からわかる新事実で、どんどんどんどん。

(みなもと太郎)それはいくらでも訂正するという(笑)。

(宇多丸)素晴らしい。歴史が今、書き変わりました。『別冊りぼん秋の号』でデビューされました。1967年。そして代表作は1970年『週刊マガジン』連載のギャグ漫画『ホモホモ7』。もうね、『ホモホモ7』、みなさんご存知だと思いますけど。

『ホモホモ7』

(みなもと太郎)当時はタイトルからね、もうこれは問題になって。大変だった(笑)。

(宇多丸)ああ、問題になったんですか。当時から、やっぱり。

(みなもと太郎)あの、スポンサーがつかなかったね。どこも(笑)。

(宇多丸)でも、内容がそもそもね、これご存知ない方になかなか口で説明するのも難しいですけど。

(みなもと太郎)難しいけど、別にホモの話を書いていたわけではなくて。男ばっかりがいるからということで。

(宇多丸)ホモっぽさは非常に劇画において重要な要素であるというお話はね、されていますけども。

(みなもと太郎)ホモソーシャルというのは、それは大事なことですからね。

(宇多丸)男同士が、女の色恋よりも。要は、「星よ!(ガシッ!)」っていう。

(みなもと太郎)俺らの世代だったら、もう(『昭和残侠伝』の)高倉健と池部良ね。

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(宇多丸)その組み合わせなんですか?(笑)。そこにやっぱりBL的なあれを感じていたという? 「BL」っていうか、すいませんね。そのものズバリを言ってしまいました。

(みなもと太郎)『昭和残侠伝』、知らない?

(宇多丸)『昭和残侠伝』、わかります。そこに、今でいうそういう関係性を感じていたと。

(みなもと太郎)肩を並べて死地に向かうというやつですわね。

(宇多丸)本来なら、敵対していたような2人がこう……っていうあたりですよね。なんの話ですか? あ、『ホモホモ7』ですよ。『ホモホモ7』は、言っちゃえばポストモダン漫画。

(みなもと太郎)とにかく今は当たり前になったけど、劇画タッチがいきなりギャグタッチに変わるとか、キャラクターの顔が突然変わるというのは、たしかに『ホモホモ』が最初です。これはもう、漫画の歴史の上のことなので、申し訳ないが言わせてもらうけど、『ホモホモ7』以前にそれをはっきり打ち出したものはなかった。

(宇多丸)これはもう本当に事実ですからね。その後、たとえば『がきデカ』であるとか、『マカロニほうれん荘』であるとかっていうのが出ましたけどっていうことですね。

(みなもと太郎)そうです。いや、もちろん山上(たつひこ)さんも、俺に「『ホモホモ7』を見たから、これからはシリアスものは書かないでギャグを目指します」と言われて。それから2年たって、『喜劇新思想大系』かな。その明くる年ぐらいから、『がきデカ』が大ヒットするんですよ。

(宇多丸)みなもと先生ご自身が、漫画の歴史を。今ある漫画の形の礎を作った、もうレジェンド中のレジェンドと言わねばならると。

(みなもと太郎)それだけは、一応……やっちゃいましたね。

(宇多丸)(笑)

(みなもと太郎)これ、20、21、22ぐらいまでなんですよ。そういうことができるのは。なんだってそうなんだけど。

(宇多丸)それは、革命っていうか、革新的な表現ができることっていうか。

(みなもと太郎)そうです。だから、博士なんかが年寄りの顔して写真に残るから。みんな、歳とってから大発明をするかのように思われるけども。アインシュタインだって、21か2ですよ。

(宇多丸)ああ、本当のひらめきみたいなものがあるのは。

(みなもと太郎)そうそうそう。それはもう、脳みそだって全く筋肉と同じで。40、50でボクサーができないように、脳みそだって新しいことはできなくなりますよ。

(宇多丸)そのかわり……

(みなもと太郎)そう。それまでにどれだけ勉強したかですね。10代、20代、30代までにどれだけ勉強したかで、その後、それを応用できるかできないかになってくるわけで。それはもう、どの漫画家もそうです。

(宇多丸)表現はだいたいそうかもしれないですよね。僕もよく考えたら、21、2から先、新しいことをひとつも思いついてない! 技術的にいろいろやっているだけかもしれないです。あと、今ちょっと……

(みなもと太郎)それは当たり前のことなんで。そういうもんだと思ってください。

(宇多丸)あと、今すごく僕、僭越ながら褒められると「あっ、うっ、ううー」ってなって。「『ホモホモ7』は、まあ歴史的にそう言わないと、まあそれは……」って。僕が「日本語ラップ界で――ささやかな世界なんですけど――ライムスターというグループで成し遂げたことを歴史で言わないと……嘘になる」みたいな、こういう言い方にやっぱり通じるものがあって。私、ちょっと僭越ながら、おおっ、やはりこのあたりという感じがいたしました。

(みなもと太郎)そうそう。そうです。

(宇多丸)で、まさにお若い時に書かれた『ホモホモ7』でギャグ漫画を革新しつつ、先ほどおっしゃった通り、ある意味勉強の成果というか、技術力の成果としてなんでしょうかね? 1979年から連載が始まった歴史長編漫画『風雲児たち』。これがまだまだ続いているということですからね。

(みなもと太郎)まあ、よくしつこくやるよね(笑)。

『風雲児たち』

(宇多丸)なにしろこれ、『風雲児たち』。先ほどのメールにも20代女性が「大ファンです。生涯ベスト漫画『風雲児たち』」って。

(みなもと太郎)生まれた時にはもう連載途中だったんだ。

(宇多丸)もう始まっているわけですよ。こんな漫画もないですよね! もちろん『ゴルゴ13』だって続いてますけど。ただ話がずっと。当然、歴史のことですから。

(みなもと太郎)ええ。エピソードごとに切れているわけではないので。だからそういう意味ではね、『こち亀』だの『ゴルゴ』でも、時代が変わって都合が悪くなったのは抜けるでしょ? 『ブラック・ジャック』でもいくつもいくつも、今はお蔵(入り)にしなくちゃならない漫画、いっぱいあるんだけど。『風雲児たち』はそれがきかないのよ。

(宇多丸)ずっと歴史ですから。一続きですから。

(みなもと太郎)「ここんところ、ちょっと抜いておこう」っていう、それができないから、これはヤバいなと思って。

(宇多丸)いや、それでたぶん普通の歴史漫画は、特に漫画という形である程度、情報を作者側で取捨選択してですね。要は、「この話はちょっと都合が悪いから飛ばしておこう」みたいなことを普通はするから、ある意味読みやすくなっていたりすると思うんですけど。みなもと先生の『風雲児たち』はなにしろ、飛ばさなさですよね。1人の人間も飛ばさないじゃないですか(笑)。

(みなもと太郎)いや、これでも飛ばしてるのよ。これでも飛ばしてるの。だけど、ここのところは抑えておかないと、絶対に後々わからなくなるっていうのと、あと歴史が今まで誰もここのところに触れてないけれども、ここに触れないと絶対にわからないよなっていうようなのを発見すると、これはもう書かなきゃ。ねえ。書きたくなるし。

(宇多丸)そこがでもやっぱり素晴らしいですよね。改めて説明しておくと、明治維新を描こうとされて。でも、まさに今の発想で。「これを描くには、これを描かないといけない。この人を描かないと行けない……」っていううちに、最初に関ヶ原の戦いまで遡ってスタートいたしましたと(笑)。

(みなもと太郎)のっけが、それがもう失敗の始まり。

(宇多丸)いやいやいや(笑)。まあでも、大きな計画のもとにずっと進んでいるわけですよね。だいぶ幕末ね、本当に近づいてますもんね。

(みなもと太郎)いまやっとね、毎月書いていて、「ああ、幕末書いてるな」っていう気になったけど。でも本当に幕末はね、いま文久二年にやっと入ったんだけど。これ、あと3、4年の話なのよね。幕末っ釣ったらね。

(宇多丸)そこから先は短い。

(みなもと太郎)そうそうそう! あっという間にピーヒャラトットットになっちゃうのよ。それまでの3、4年しかない。3、4年のために関ヶ原から、俺自身37年書き続けてきたのかよ!って。自分でね、嫌になってきた(笑)。

(宇多丸)いやいやいや! まず、この作家的スタミナというか、そこが素晴らしいと思いますし。あと、やっぱり歴史の教科書というか。歴史の教え方として僕、理想的だと思うんですよね。

(みなもと太郎)うん。そう言ってくれる人はたくさんいる。

(宇多丸)でも、実際にそういうことだと思いますね。あと、やっぱり初めて知る……だから歴史の大雑把なものとか、いままでのいわゆる物語的なヒーローだと、この人はもう脇役扱いだとか。チョロっと名前が出るだけですよ、みたいな人が、「えっ、この人、こんなに重要だったの!?」みたいなのがわかって。そうするとやっぱりすごいジーンと来ますよね。

(みなもと太郎)だからね、これさえ読んでおけば、他の歴史小説でそこらへんのわからなく書いてあるやつも全部理解できるから。歴史小説だの歴史漫画だの、読みやすくなるよ。これを読んでおくと。

(宇多丸)あと、人物の人物像みたいなのが本当に活き活き描かれていますし。あと、僕が以前から思っていた、特に日本史と世界史っていうのを完全に分けるのも……

(みなもと太郎)無理でしょう。絶対に、いくら鎖国していようが、関連します。

(宇多丸)当然、関連しますもんね。なので、いわゆるざっくりと「黒船」なんて言われますけど、その前後の(黒船で)来た連中の向こう側の事情であり、歴史であり、ドラマみたいなものも……

(みなもと太郎)それがね、わかっていないとね、全然ドラマとしての盛り上がりがないんで。いきなり殴りこみかけられたような黒船騒動ばっかりで来ていたでしょ? それがどうしてもね、納得できない。俺自身が納得できなかったことを、俺が納得できるように書いているのがこの作品のスタンスなので。そういう意味では、読者を置いてけぼりにしている部分かな? という……

(宇多丸)いやいや、置いてけぼりじゃないですよ。むしろ、合間合間に大事な知識を十分に詰め込んだところで、「はい、戻ります!」みたいなのが素晴らしいと思います。あと、諸説もちゃんとね。「一般的にはこういうことになっておりますが……」とかね。

(みなもと太郎)そこらへんは、書いている。「何通りかある中で、この話を俺は選びたい」という書き方を割りかししているよね。

(宇多丸)すごいそこもちゃんとわかるように書いてらっしゃる。この、ちゃんとギャグ要素というか、「一般的にこう思われていますよ」の話をするために6ページとか使って書いた挙句、「……というのはガセでして」みたいな。ガクーッみたいなのが楽しいですよね。

(みなもと太郎)まあギャグではね、ずいぶん読者を置いてけぼりにするよね(笑)。

(宇多丸)いや、でも常にこっちもある意味油断ができないぞ! と(笑)。気をつけながら読むぞ、カックン来るかもしれないぞ!っていうのも、これもいい緊張感になるというのも、これは素晴らしい『風雲児たち』。現在、幕末編がちょうど27巻が出たばかりということでございます。その前のワイド版ということで。

(みなもと太郎)出たから呼んでくれたのかと思ったぐらい、タイミングがぴったり合っちゃってね。驚いた。いま発売になりましたんで、書店に走ってください。

(宇多丸)ぜひぜひ。とかね、Kindleとか、そういうのでも読めたりしますからね、ということですね。みなさん、みなもと太郎先生の略歴、79年から連載が始まった歴史長編漫画『風雲児たち』。ここで止まってしまいましたが、それ以外にも様々な功績というか、ございます。2004年に歴史漫画の新境地開拓と漫画文化の貢献により、手塚治虫文化賞・特別賞を受賞。現役の人気漫画家でありながら、日本屈指の漫画研究者でもあると。ここですね。日本漫画評論の権威。

(みなもと太郎)まあまあ、とにかく漫画についてはグジャグジャグジャグジャ言いたい方だから、言い続けます。

(宇多丸)さらにですね、かつては文化庁メディア芸術祭マンガ部門の審査員を務めていた他、現在は手塚治虫文化賞マンガ大賞の審査員も務めてらっしゃる。

(みなもと太郎)文化庁の方も、いまも芸術大賞というのの推薦委員は続けています。

(宇多丸)なるほど。まず、今日のさいとう・たかをさん特集。本編の特集に行く前に、そもそもその制作者でありながら、漫画研究であるとか、あるいは後進の開拓というか、フックアップみたいなことも含めて、そういう活動も両輪でやられる感じっていうのはなぜなんですか?

(みなもと太郎)だからそれは、他の人がやらないのが不思議なぐらいで。好きなことだから。とにかく、物心がついてから、今みたいに漫画の洪水の時代じゃなかったけれども、とにかく目につく漫画は必死で見ていたわけで。だからもう、自分の血肉になっちゃっているわけで。それを語るのは、当たり前だろうなと思っていたんだけれども。

(宇多丸)みなもと先生的には、ごく自然に。好きだから書くし、好きだから語る。

(みなもと太郎)語るんだという。で、また自分自身がこういうものを書いている原点に、どういうものがあったかということはお伝えしたい。

(宇多丸)あと、やはりあれですよね。もう本当にずーっと漫画の歴史そのものを通史的にご覧になってるから。

(みなもと太郎)リアルタイムで見ているのでね。まあ、トキワ荘世代のあれには間に合っていないけれども、その次の世代だから。そっから後のことは……だから、漫画が劇的に変化していくわけですよ。「えっ、こんな漫画、これまでなかった!」みたいなものがいくつも、見てこれたし。

(宇多丸)いちばん激変期でね。そういう意味じゃあ、本当に。

(みなもと太郎)そうです。そうです。「これまでこんなものは許されなかったはずだ!」みたいなものを、子供の頃からずーっと見てきたから。そういう進化の過程を共に見てこれたというのは、自分にとっていい時代だったかなと思っている。

(宇多丸)もうすでにめちゃくちゃ面白くなっておりますが。

(みなもと太郎)そうなの?

(宇多丸)最高ですよ! この後、本編は11時20分ごろから続き、『さいとう・たかを論』ということでおうかがいしていきたいと思います。みなもと先生、ぜひ後ほど、よろしくお願いいたします!

(みなもと太郎)はい。ありがとうございます。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/37462

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