宇多丸 スカーレット・ヨハンソンのディズニー提訴を語る

宇多丸 スカーレット・ヨハンソンのディズニー提訴を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2021年7月30日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でスカーレット・ヨハンソンさんが『ブラック・ウィドウ』の劇場公開と同時に配信を行ったことに対してディズニーを提訴した件について話していました。

(宇多丸)ちょっとそれとは別にカルチャーニュースでこんなのを。メールです。「スカーレット・ヨハンソンさんが映画『ブラック・ウィドウ』を勝手に劇場とディズニープラスの同時配信にしたことで巨額の損失を被ったとしてディズニーを提訴しました。スカーレット・ヨハンソンさんは出演料が興行収入に比例する形で契約を結んでいたのですが……」と。たしかね、エグゼクティブプロデューサーかなんか、そういうところにもクレジット、入ってましたよね。

「……配信との同じ公開によって他のマーベル作品と比べても興行収入は全然振るわない状況になっているそうです。スカーレット・ヨハンソンさん側は『コロナを隠れみのにしてディズニープラスの会員数を増やすこと。株価を上げることだけを目的にしている』と主張されています。日本でもディズニーと大手シネコンとの大喧嘩により、『ブラック・ウィドウ』が全然劇場にかからないという状況が生まれましたし、配信事業自体が大手キャリアさんとの変な契約に縛られていたり」。これ、あれですね。ディズニープラスがドコモを通していて。あれでやってるからこの仕様なのかな、なんていう話を私、しましたけどね。

「……『ソウルフル・ワールド』や『ムーラン』等の対応もひっくるめて、ディズニーは配信事業に対してずっと印象の悪い状況が続いており、NetflixやAmazonなんかは配信とうまく付き合っているのに、ディズニーだけはとことんダメダメな方向に住んでる気がします」ということで。そうなんですよ。『ブラック・ウィドウ』、先々週になりますけども、ムービーウォッチメンでやったばかりですけども。はい。

宇多丸、『ブラック・ウィドウ』を語る!【映画評書き起こし 2021.7.16放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。オンエア音声はこちら↓ 宇多丸:宇多丸:さあここからは、私、宇多丸...

(宇多丸)そうなんですよね。まあ、理屈としては先ほど言ったように興行収入に応じて出演料が支払われるということだったのに、ディズニープラスの配信と公開を同時にやられてしまったから興行収入の方がふるわないことになっていて。「これはおかしいんじゃないか?」っていうことですね。

(山本匠晃)こういうケースもあるんだな。

(宇多丸)で、ディズニー側はこれに真っ向から反論。「スカーレット・ヨハンソンとの契約は完全に守られている。全然あなたは損をしてないはずですよ」みたいなことをディズニー側は言っているということのようですね。

(山本匠晃)ただ、配信を迂闊にしなければもっと映画の興行収入が入って?

(宇多丸)「迂闊に」というか、ディズニー側の方の計画だから。だし、あとは公開が1年ぐらい延びちゃってね。予告編を繰り返し繰り返し、劇場でやった後、ようやくっていう感じで公開するのは不利ではありますよね。今度やる『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』とかもそうだけど。映画館に行ったら久々に10月公開だっていうことでバーン!ってやっていましたけども。やっぱり、もう見た気になっちゃう感みたいなのは否めないじゃないですか。時間が経てば経つほど。

やっぱりその、別に内容が古びているわけじゃなくても、実際には2019年に公開されるとか、実際には2020年に公開される予定だったものを2021とか2020に見ると、それはなんかテンションが若干下がる面もたしかに間違いなくあるだろうし。だから、たとえばあれですよね。『ワイルド・スピード』シリーズの最新作とか、アメリカでも今、劇場公開されてますけど。やっぱり同時配信みたいなことはやめたんですよね。それに対してドム、ヴィン・ディーゼルが「ユニバーサル、劇場公開をすることを大事にしてくれてありがとう」みたいに言っていて。

(宇多丸)だからやっぱり作った側、演者側としては……特に『ブラック・ウィドウ』っていう作品は僕、映画評でも言っていましたけども。MCUの今、テレビシリーズも始まっているけども。それとは裏表の関係で。あれはすごく映画っぽい映画だったから。やっぱこれを大半の人がテレビの画面で見る前提で公開っていうのはとても不本意だったと思うんですね。作った人としては。みたいなことがあるんじゃないかなって。「どうお考え」っていうこともないと思いますけども。山本さん?

(山本匠晃)これ、提訴をしてどうなるのかな?っていうのは……。

(宇多丸)だから損害分を賠償しろっていうのとか、そういうことなのかも。わかんないですけどね。でも、とにかくあとは「こういう形の公開には大変不満だという人がいる」っていうかさ。そういうこともあるんじゃないですか? やっぱりそれはね。やっぱり、その『ソウルフル・ワールド』とかさ、『あの夏のルカ』とか。シレッと……やっぱり配信だとなんか、流れていっちゃう感みたいなのがありますよね。それはね。

(山本匠晃)まあ、映画館で見るのも結局な、一番いいからなー。

劇場で見る前提で作られている作品

(宇多丸)もちろん作品によるんだけど。だからやっぱり配信で見るのに……やっぱり、作品ってそのメディアに合わせて作ってると思うし。それぞれ、その画面のサイズ感であるとか、人物の置き方とか。それひとつ取っても、やっぱりそこを考えないで作ってる人って1人もいないと思うから。特にトップのいい作品になればなるほどね。「どっちにかけてもいいですよ」なんて作り方してる人は1人もいないと思うから。だから……というのがあると思います。

特に『ブラック・ウィドウ』は本当にそうだと思う。だってスマホ画面とかでも見うるものとして見られるわけじゃない、それは。あれでその最後の空中アクション……確実にいるわけだから。それは一定量は。「見ちゃダメ」とは言われてないわけだしね。だからそれは見る人のことは責められないわけですけどね。まあ、そんな感じでございます。そんな中で一方、マーベルのディズニープラスでやるドラマ新シリーズの方も発表になりまして。『ホークアイ』が発表されたと。

(山本匠晃)11月24個より配信。なるほど。

(宇多丸)まあ、だからゴタゴタしている中だけどね。しかもまあ、『ブラック・ウィドウ』を見た人ならわかるけど。『ホークアイ』に繋がってくるという流れもあったので。なんだけどね。なんか、こう……ってなってきますね。そしてディズニープラスはいつになったらあの仕様をもうちょっと改めてくれるのかな? 今、他の配信サービスに比べると音質、画質など、一段落ちる仕様なんですよね。それで、追加料金なんていうのもあるのに、なんでなんだろう?って。一説にはドコモを通しているから、みたいなことも……真相は知りませんよ? なんだけど、なんかね。

まあ、もちろん毎月お金を払って見ていますよ。見ざるをえないもんね。入らざるをえない。それはだってさ、ある種のエンタメの総本山になっちゃっているからさ。ディズニーが。『スター・ウォーズ』もある。MCUもある。ディズニーもピクサーもある。もう全部がディズニーみたいになっちゃっているから。それで20世紀FOXの買収したから。もうそっちのコンテンツも全部ディズニーのものじゃないですか。

(山本匠晃)強いな。

(宇多丸)強いし、だからその、なんというか寡占企業として……こっちはもはや選べないんだから。それがいいのか?っていう問題もあるけど。それでいいのか問題っていうのはあるけど、こっちは選べないんだからひとつ、お願いしますよ。だから文句ぐらい言わせてくださいよ、ちょっとっていう感じがあったりしますよね。

(山本匠晃)『ホークアイ』かー。

(宇多丸)どうですか? でも、山本さんはムービーウォッチメンをやるにあたって、すごくいつもね、こまめに映画館に行っていただいていてっていうのもありますもんね。

(山本匠晃)そうですね。だから、まあ配信に関して言うと年末にランキングをやるじゃないですか。ムービーウォッチメン、宇多丸さんが評した映画の。あのまとめで配信とか、助かりますけどね。僕、結構細かく見るんで。配信でもう1回、見直したりする時にやっぱりまた映画館とは違ったよさというか。「ああ、ここはどうなっているんだろうな?」っていう風になると、気になるところで止めたりとか。じっくり見たりっていうのもありますし。

(宇多丸)もちろんね。でも僕、どうしてもさ、配信とか……もちろん、たとえばドラマシリーズでは配信の話とかするけども。映画に関してはこれね、やっぱり家にあれだけBlu-ray、DVDを持ってる人に言われたくないと思うんだけども。家で見ても全然頭に入ってこないんだよね。なんか。基本的には。初見はなんかダメ。だからなんか……俺だけですかね? やっぱり全然集中できないっていうか。なんかものすごい印象がぼんやりしちゃって。だからやっぱりたしかめる用っていうか。それが大きいかな?

(山本匠晃)宇多丸さん、映画館でものすごい集中力なんですね。映画館でご覧になって。それでそこも、そこも、そこも覚えていらっしゃるんだっていう。

(宇多丸)覚えてない、覚えてない。だから2度、3度と見るんですよ。だから、最初の初見とかだと……初見は本当に普通に、もうストーリーとかを追って。「ああ、そうなんだ」って。要するに最初は普通に「ええっ? えっ、おおっ! ああっ!」みたいに。「へー。ほーっ!」って。初見の感想。ムービーウォッチメン、私はこう感じました。「へー!」って。初見はそれよ。だから精一杯……特に今回の『竜とそばかすの姫』とか情報量がめちゃくちゃ多いから。2度見て俺、1回目は全然わかってなかったじゃん、みたいなところあったから。

「お前、初回はものすごい大きなものを逃してたぞ?」みたいなところがあったぐらいだから。それはそうだし、どんな人もそうだと思うけど。最初はそのストーリーを追うっていうかね。もちろん、映画っていうのはジェットコースターみたいなもんなので。最初は連れていかれるまま、みたいな。でも、2度目以降は「ここで曲がる」ぐらいはわかってるから。「ああ、このカーブ、よくできてますな」とか。だんだんとそういうことを考える余裕が出てくるみたいなさ。

僕もだから1回じゃ……だから、そのプロの、いわゆる本当にプロパーでやってる映画評論家の方とかはもちろんその記憶力というかさ。映像喚起力がすごいんでしょう。だから1回とかであれをするんだけども。僕は要するにそういう意味ではそのへんの人だから。映画ファンとして見に行ってるから。最初は「へえ、ほう、へえ!」って。

(山本匠晃)渋みがある(笑)。

(宇多丸)あんまり面白がってないっていう(笑)。「へえ、ほう、へー。はー。あらま! あらららら……へえ。あら、終わった」みたいな。

(山本匠晃)そうか。だから2回目、3回目と……。

どんな映画も2回目、3回目の方が面白くなる

(宇多丸)でも、僕は持論として言っているのは、これはどんな映画も……どんな映画もです。僕、持論としては2回目、3回目以降の方が面白くなるという。1回目は「へえ。ほう……」って。だからある意味言っちゃえば、「ストーリーがこうだった」みたいなことぐらいしかさ、覚えてなかったりするじゃん。「こうなって、こうなって、こうなりました」しか覚えてない。

で、2回目、3回目になると「なぜ、そう感じたのか?」みたいなのがわかってくるから。やっぱり本当に作品と向かい合えるのは2回目、3回目以降っていうところがあって。だし、よくその「面白くもない映画を2回も3回も……」って言うけども。やっぱり2回目、3回目は「なんで面白くなかったのか?」っていうのがわかるから。1回目はただ面白くないだけですよ。「ほう。はー。へー」って……。

(山本匠晃)それ、面白くない方の反応だったんだ(笑)。

(宇多丸)いやいや、違う。両方あるんだけどね。「ほう……そんなもんですかねー? そんなものなんですかねえ……」なんて思っているんだけども。2回目以降は「ああ、こういうこところがこうだから……」とか。ありますよね。あとはそれこそ、いろんな人の意見を聞いたりすると「ああ、言われてみればまあ、そうだよね」って。1回目は単に「ああ。パチパチパチ」みたいだったのが、「ああ、言われてみればたしかに。ここが変だわ」とか「ここが足りてないんだ。たしかにな」とか。そういうのもわかったりするからね。

もちろん、好きな映画。大好きな作品だったら言うに及ばずですよね。2回目、3回目と。たとえば「泣いた」みたいのって俺、むしろ2回目、3回目以降の方がそこに行くことが多いよね。要するに、より深く理解が深まった方が「なぜ、こういう表現になってるか?」ってわかって見るとより、「だからこんな表情をしているんだ」とか「だからここでこの音が鳴るんだ」とか。「だからここで……」っていう方が、より味わえてるから。だから「ワーッ」ってなるっていうね。

だから僕、『竜とそばかすの姫』はもう完全に断言しますけど。2回目以降の方が倍増した。その良さは。良さが倍増。で、「あれ?」って思ったところは、もうわかってるから。「ここは『あれ?』って思う。もう『あれ?』って思うところだから」って。1回目も「あれ?」って思ったところだし。

で、よく言うじゃない? 僕の映画評。「なんか切れ味が良くない時がある」って。それは当たり前で。ダメなところの指摘は簡単なんですよ。それは。誰にでも見えるよ。なんでダメなのかは。「しょっぱいな! これ、塩入れすぎだよ!」とかはわかるわけですよ。でも、「なんでうまいのか?」の分析とか、ましてやそれを言語化する。要するに、その表現が上手く出来ていれば出来ているほど、それを言葉というところに置き換えてそれを再現するのはより難しくなってくるわけよ。

ダメなところの指摘は簡単

(宇多丸)それはだってさ、映像と音と演技と何とか、いろいろがうまく行ってるからっていうね(笑)。「いろいろとうまく行っているから!」としか言いようがないわけで。そうなの。だから、良さの説明は言語化しづらい。悪さの説明は言語化しやすいっていうのはこれ、当たり前のことなんですよ。というか、これは映画に限らないです。失敗の分析はできる。成功の分析はできないっていう。少なくとも、その分析はしきれない。成功の分析はいくらしても、あと付けなんですよ。「こうだからよかった」なんて言うけど、同じことをやって失敗することもありうるんだから。

で、それはなんでかっていうと、僕は実際にいろんな表現物を自分でやってて。もちろんアナウンサーさんもそうだろうけど。要は「ここの微調整が最後、うまく行った」みたいな。「ここを1秒、切ったからだ」とか。「ここを無音にしたからだ」とか。そういうことだったりするわけ。だから……なんですよね。だからやっぱり優れた人ほど、そういう面はあったりする。要するに優れている面っていうのは言語化しづらい。とかね。

細田守さんとかの場合はやっぱり、ご自分脚本の時は特に奇妙なバランスの脚本の時も多々ありますから。でも、2度目は「もう、ここは奇妙!」って(笑)。「ここは1回目も感じたし。なぜかはもう考えてるから、もうここはびっくりしない!」って(笑)。で、逆にそのいいところは「ああ、ここの描写があるからここが効いてるんだよ! ほら、これうまい。すげえな、やっぱな……」みたいなのがわかってきたりするんですよね。

(山本匠晃)ああ、たしかに。食べるシーンとかもそうだな。たしかに。何回か見て。

(宇多丸)でも2回、3回と見ることでよりダメに気づくみたいなのもありますよね。「あれ? バイクがボーン!って飛び出して落っこちたのに、音がしてねえな?」みたいな。「だからダメなんだな!」って(笑)。あと、たとえばその好きな作品でも、いっぱい見るから気づく弱点みたいなのもありますよね。

たとえばその森田芳光作品なら……僕、今全作品の本を作っているから言いますけども。『ときめきに死す』っていう大好きな作品。もう『ときめきに死す』は生涯ベスト級ですよ。生涯ベストにいつも入れているけども。その僕に言わせても、クライマックスのエキストラの処理は完全に失敗してるんですよ。どう見ても失敗。っていうか、監督本人も認めている。もう大失敗している。で、編集の間違いもしている。

(山本匠晃)ああ、編集上でも?

(宇多丸)編集上のおかしいところもあるわけです。しかも、すごい大事なところで。だからそれは見ていると誰もが気づくノイズっていうか欠点なんだけども。やっぱり見ているうちに、他の人が気づかないような欠点にももちろん、気づいてくるのよね。「ここ、編集間違ってますね?」みたいな。あるんだけど、僕はもう『ときめきに死す』がすごい好きだから。本当すごい好きになると……「でもこれはね、たしかにここでその今までの鉄壁の演出がここで初めて破綻するんだけど。主人公がこう大事に大事に守ってきたその世界が崩壊する展開なんで。

大事に大事に思ってた世界が外部の他者がいっぱいいる世界と触れることで崩壊してしまうって話なんだからこれはある意味、ここで演出が破綻するのも間違ってはいない!」みたいな(笑)。でも、実際にそうなの。実際、そんなに損なっていないのはそこなんですよ。要するに「今まですごくきれいに整っていたのに。嫌だな、嫌だな」って感じがクライマックスに増してくるんだけど。それは全然物語のエモーションと一致してるから。

だから僕はその初見時とかにそこまで考えてなかったけど、すっと入ってきたっていうか。「いいな」と思えたのはそういうことだったりするということをやっぱり、すごい好きで何度も……(オープニングトーク区切りのBGMが鳴り始める)。ちょっと、なんとか言ってから鳴らしてよ! 急に鳴らすとびっくりするよ! サブから「そろそろ行きます」とかなんとか……なんなんだよ?

(山本匠晃)さて、メニュー紹介です(笑)。

<書き起こしおわり>

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