町山智浩と宇多丸『劇場版 虫皇帝』を語る

町山智浩と宇多丸『劇場版 虫皇帝』を語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

町山智浩さんが2009年2月にTBSラジオ『タマフル』でしたトークの書き起こし。宇多丸さんと、新堂冬樹監督の映画『劇場版 虫皇帝』の素晴らしさについて語っていました。

(宇多丸)TBSラジオ ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル。今夜は映画野獣町山智浩の邦画ハスラー本土決戦スペシャルということで、町山智浩に日本に来ていただいて、わずかな時間を使いながら3本も映画を見て評論していただくというですね。『20世紀少年 最終章』。で、先ほどは『サマーウォーズ』をやっていただきましたが、残り1本。なんの映画を紹介するかは、実は私も知らせれておりません。残り1本はなんですか、町山さん?

(町山智浩)これがね、ものすごい傑作なんですよ。

(宇多丸)傑作。

(町山智浩)いま見てここに来たんですよ。見てからここに来ました。これがですね、これです。はい。『劇場版 虫皇帝』です。

(宇多丸)うわー!これかー!

(町山智浩)いま見てきたんですよ。

(宇多丸)まさか!?

(町山智浩)これ、すごかったです。

(宇多丸)町山さん、まさか、これか!?

(町山智浩)いや、これすっごいですよ。これ。

(宇多丸)じゃあちょっと、ぴあの、虫皇帝がどんな映画か?の紹介をしますね。これ、まずあれですもん。いきなり見出しが『昆虫軍対毒蟲軍 どちらが強いのか?虫ファン垂涎のエンターテイメントが誕生。昆虫界の異種格闘戦。昆虫軍対毒蟲軍の熱き戦いを24の対戦カードで構成し、ハイビジョンカメラで記録したドキュメント』ということで。これは・・・どういうことですか?

(町山智浩)これはでも、ストーリーもなにもないです。24回対戦が延々と続くだけです。はい。

(宇多丸)あの、要は本当の虫?

(町山智浩)本当の虫が、要するにプラスチックの透明な箱に入っていて、そこで戦わせるんですけど。それをただ撮っているだけです。シナリオもなんにもありません。

(宇多丸)それ、今日公開の映画。あ、先週公開。虫同士の戦いをただひたすら、24回撮っていると。

(町山智浩)撮っているだけ。ドラマもなにもなし。

(宇多丸)その、生き物ドキュメンタリーみたいなもんでもない?

(町山智浩)なんにもない。だから、どういう虫なのか、ぜんぜんわからない(笑)。

(宇多丸)(笑)。ええーっ!?

(町山智浩)でも、すっごいんだ、これが。もう。

(宇多丸)どういうことですか?ちょっと。

(町山智浩)これね、まずね、監督・制作をした人がですね、新堂冬樹っていう人なんですよ。

(宇多丸)はいはい。作家さん?

(町山智浩)で、この人、作家さんなんですけど、こういう人なんですよ。EXILEの1人みたいな人。

作家・新堂冬樹が監督・制作

(宇多丸)本当ですね。EXILEメンバーでもおかしくない。真っ黒けでサングラスして、髪がちょっと金髪みたいな感じで。

(町山智浩)そうそうそう。金のチェーンネックレスかなんかして。

(宇多丸)どチンピラじゃないですか!

(町山智浩)それでミラーサングラスしてさ。ねえ。どう見てもホストでしょ?

(宇多丸)でも小説家。新堂冬樹さん。

(町山智浩)そう。EXILEでしょ、これ。

(宇多丸)推理作家。あと、芸能プロダクション新堂プロ代表だって。

(町山智浩)この人、もともとヤミ金で働いていた人なんですって。

(宇多丸)あ、そんな。要するにもう、最初から強面の人ではあるんだ。

(町山智浩)ヤミ金で働いていて、ホスト経験かなんかがあるのかな?それで、ホスト小説をいっぱい書いていて。それで、いまは芸能プロをやっているって、完全にあっちの人ですよ(笑)。あっち系の人ですよ。

(宇多丸)黒い感じのね。

(町山智浩)黒い感じのね。もうね。

(宇多丸)そんな新堂さんが・・・

(町山智浩)この人が実は虫が大好きらしいんですよ。虫が。で、世界中からものすごい高い虫を、要するに1匹20万円とかするような虫を集めて。で、それを戦わせるという夢のバトルを展開したんですね。今回ね。

(宇多丸)『夢のバトルを展開したんですね』って(笑)。

(町山智浩)いや、だってこれ、すごいんですよ。

(宇多丸)これ、要はカブトムシ対クワガタみたいな、そういうことですよね?

(町山智浩)まったくそういうことです。たださ、これたとえばさ、メダマカレハカマキリっていうのはマレーシアですよ。で、これ、コスタリカンゼブラレッグタランチュラっていう毒グモはコスタリカ出身ですよ。コスタリカとマレーシアの虫、戦わないですよ。

(宇多丸)まあ本来、自然界では全く違うところにいるわけですから。

(町山智浩)そう。それを戦わせたの。これ、大変なことですよ。

(宇多丸)そりゃそうですけど。

(町山智浩)すごいですよ、これは。

(宇多丸)いや、そこになんか、科学ドキュメンタリー的な、もっともらしいなにか説明付けはないわけ?

(町山智浩)なんにもないです(笑)。要するに金があるから、金に物を言わせてバンバン世界中から高い虫を買ってきて、でもって戦わせているだけです。

(宇多丸)戦わせて。その、解説はつくんですか?

(町山智浩)解説はこの新堂さんがやっています。

(宇多丸)えっ?新堂さん自ら?

(町山智浩)新堂さん自ら。

(宇多丸)すごい芸達者っていうか。

(町山智浩)いやー、だからぜんぜん科学的な説明とか、なにもない。

(宇多丸)えっ、どういう感じの解説なんですか?

(町山智浩)『いやー、なかなかこの虫たち、すごいですね。やっぱり無表情で、なかなか落ち着いた戦いぶりですね』とか言って。『これだけ体を食いちぎられても全く表情を変えません!』とか言って。

(宇多丸)(爆笑)

(町山智浩)当たり前だよ!っていうね。

(宇多丸)あの、ウルトラファイト的なさ・・・

(町山智浩)ウルトラファイト的なものでもないですね。見た通りを言っているだけですね。

(宇多丸)割と淡々としてる?

(町山智浩)割と見た通り言っているだけです。はい(笑)。

(宇多丸)それ、面白いんですか?

(町山智浩)面白いんですよ、これが!はっきり言って、客は20世紀少年より入っていた!

(宇多丸)ああ、はいはい。虫皇帝。虫シーンが、もう。

(町山智浩)虫皇帝、入ってましたよ。もうデートムービー、バッチリですよ、これ!それでこれ、なんかね、また戦いがすごいんだ。

(宇多丸)戦い。はい。

(町山智浩)これね、虫軍団対毒蟲軍団なんですよ。で、毒蟲軍団っていうのは、サソリとかね、ムカデとかの、要するに毒を持っていて一撃必殺の。刺さったらその場で勝ちっていう。

(宇多丸)はいはい。しかも、存在として、もういきなりヒールですもんね。

虫軍団VS毒蟲軍団

(町山智浩)そうそうそう。だって、悪いやつなんて食っちゃうために敵を殺すんですから。で、しかもいきなり刺したらその場で敵は死んじゃうんですよ。で、迎え撃つ虫軍団っていうのはカブトムシたちですよ。クワガタとか。で、彼らは別に戦って相手を殺すのが仕事じゃないんですよ。

(宇多丸)(笑)。それはそうですけど。いま、『悪いやつ』って言ったでしょ?(笑)。俺も『うんうん』って聞いてたけど、悪いやつじゃないよ!っていうね。でもまあ、悪いやつ風に見えるぐらいの感じだもんね。

(町山智浩)そうそうそう。いや、だからこのカブトムシとクワガタっていうのは普段はどういう風に戦っているか?っていうと、要するにテリトリーでもって、メスとかを巡って戦っているけども、木から敵を落としたら、それで終わりなんですよ。

(宇多丸)あ、もちろんぶっ殺すわけじゃない。

(町山智浩)殺すわけじゃない。ね、これ、すごくスポーツなんですよ。寸止めみたいなもんですよ。3タップしたら終わりみたいな。

(宇多丸)要するに、カブトムシたちはそういうフェアな戦いをしている。

(町山智浩)そうそう。3カウントで終わり。フェアな戦いをしているんです。この人たちがね。カブトムシたちがね。

(宇多丸)カブトムシさんたちが。はい。

(町山智浩)でも、ところがこの敵のさ、タランチュラとかさ、ムカデとか。要するに、ヤッパ持っている。ナイフ持っているわけですよ。

(宇多丸)あ、もう武器。針が。

(町山智浩)ぶっ殺すぞ!ってなっているわけですよ。これ、すごいですよ。これ。プロスポーツの格闘家とヤクザの戦いですよ、これ。

(宇多丸)これ、実際の人間の戦いで言ってもスリリングな。

(町山智浩)スリリングでしょ?これ。

(宇多丸)しかもそれぞれ各々、得意技があるみたいな。キャラは立っているし。

(町山智浩)で、またさ、じゃあそれじゃ毒を持っている方が有利な気がするじゃないですか。

(宇多丸)そうですね。

(町山智浩)ところがカブトムシはさ、全身に鎧がついてるんですよ。

(宇多丸)はいはい(笑)。

(町山智浩)ね。これ、すごいのがさ、カブトムシとサソリの戦いで、サソリが毒針を刺そうとしても、カブトムシの背中に当たってカンカンカンカン!と跳ね返しちゃうんですよ。

(宇多丸)あっ、ほうほうほう!

(町山智浩)もう、ものすごい盛り上がりましたよ!本当に。

(宇多丸)それ、実際にハラハラしますもんね。あーっ、危ない!なんつって。

(町山智浩)危ない!でも、カブトムシの装甲は万全です!カンカンカンカン!ですよ!すごいですよ、これ。

(宇多丸)はいはいはい。新堂さんの淡々としたナレーションで。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。ねえ。これ、もう本当に誰が最強なのか?っていう世界ですよ。これ。

(宇多丸)それさ、カメラはずーっと1カメっていうか、どういう撮り方してるんですか?

(町山智浩)1カメで撮ってますよ(笑)。

(宇多丸)1カメですか(笑)。『ハイビジョン』とか言うとね、どんだけすげーのか?っていう。

(町山智浩)1カメだけど、この虫が戦う箱があるんですよ。透明なプラスチックの箱が。その下にターレットみたいなのがついていて、それを回すんですよ。

(宇多丸)はいはいはい。

(町山智浩)だから1カメでも角度は変わるんですよ。

(宇多丸)それ、1カメでこう、飽きがこないように見せているっていう。

(町山智浩)そうそうそう。

(宇多丸)あー、なんか、大丈夫かな?その映画。

(町山智浩)いや、すっごいですよ。戦いが。じゃあもう、想像してもらいたいという感じなんですけど。

(宇多丸)はい。

(町山智浩)じゃあこの、マイマイカブリ対・・・

(宇多丸)マイマイカブリ?

(町山智浩)日本のマイマイカブリ。これ、カタツムリを食べる肉食の虫ですけども。それとダイオウサソリ。これ、アフリカ中西部のサソリでね。

(宇多丸)これ、強そうっすねー!

(町山智浩)これ、25センチもあるんですよ。これ、はっきり言ってザリガニみたいな感じなの。この重量差のある戦いはひどいんですけど(笑)。

(宇多丸)っていうかさ、これ、見た目が、無理じゃないですか。これ、大きさが。

(町山智浩)体格差がありすぎるんですけど(笑)。

(宇多丸)3、4倍ぐらいないですか?もっとあるかな?

(町山智浩)で、これ、どういう戦いになると思いますか?いちばん最初の方の戦いなんで、ネタバレになんないんですけど。ネタバレっていうか、これを見る人はいるのか?っていう問題はありますけど(笑)。

(宇多丸)いや、でもこれ、ダイオウサソリがガツーン!やって、終わりじゃないですか?

(町山智浩)どういう風にやると思います?

(宇多丸)えっ、どういう風に?ハサミで、つかむ。

(町山智浩)そう。ハサミでつかむ。うん。で・・・?

(宇多丸)真っ二つとか?

(町山智浩)うん。真っ二つ。

(宇多丸)うわー・・・・ええっ、マジですか?

(町山智浩)首、ちぎっちゃうの。切っちゃうの。チョキーン!って。

(宇多丸)ええーっ!?

(町山智浩)で、体液、ブシューッ!ですよ、もう。

(宇多丸)あ、そういうゴア描写も。

(町山智浩)もう超ゴア!もうすごいもんですよ。

(宇多丸)それがもう、画面いっぱいに。ハイビジョン。

(町山智浩)大スクリーンで見たから、体液が顔にかかりそうなんだもん。顔面シャワーですよ。もう、村西とおるで。クリスタル映像で。

(宇多丸)そんなうれしそうに・・・うるさいな!古いよ!

(町山智浩)(笑)。ね。あとこれ、タランチュラ。狂える貴公子ね。

(宇多丸)狂える貴公子(笑)。

(町山智浩)マンディープラリスフタマクワガタ。マレーシア出身。対ね・・・

(宇多丸)これが狂える貴公子。

(町山智浩)狂える貴公子。タランチュラ界の暴れん坊ね。ウサンバラオレンジバブーン。

(宇多丸)バブーンだ。

(町山智浩)この人、タンザニア出身ですよ!

(宇多丸)黄色いですよ。黄色い。

(町山智浩)ねえ。タンザニアから来た風俗嬢と会ったことあったけどね。まあ、それはいいんですけど。

(宇多丸)(爆笑)

(町山智浩)それとね・・・いや、なんか口説いていたらさ、『どっから来たの?』って聞いたら『タンザニア』とか言って。どうしよう?っていうね。まあ、それはいいんですが。あの・・・このクワガタと、この巨大な毒グモとの戦いね。

(宇多丸)どっちも体調は結構デカい感じですね。

(町山智浩)デカい。これ、こんなでっかいんですよ。クワガタ。

(宇多丸)10何センチぐらいある感じ。

(町山智浩)12センチもあるんですよ。で、こっちも13センチあるんですよ。毒グモ。

(宇多丸)黄色ですごいですよね。これ。

(町山智浩)すごいでしょ?これの戦い、どうなると思います?毒グモ、こんな牙が生えていて。もう一発噛んだら即死ですけど。どうなると思います?これ。

(宇多丸)クワガタ・・・でも、クワガタもこれ、結構強そうですから。

(町山智浩)強いですよ。

(宇多丸)やっぱりクワガタがその足を抑えこむみたいな。両側からグーッといって。お腹からグーッと抑えこんで、動けなくしてからの・・・みたいな感じだと。

(町山智浩)いや、これがね、ぜんぜん違うんですよ。もういきなり、ものすごい闘志なんですよ。両選手とも。ものすごい。

(宇多丸)すっごい。最初から。

(町山智浩)もうにらみ合いせずに。バカバカバカ!っていきなりラッシュ。

(宇多丸)まずさ、昆虫って、小さいところに入れるとやっぱり争い合うもんなんですか?

(町山智浩)あのね、これね、ものすごくファイターばっかり集めたんですよ。

(宇多丸)えっ?でもなんかさ、変なクスリとか入れてないの?

(町山智浩)いや、わかんないですけど。

(宇多丸)フェロモンを。こう・・・

(町山智浩)要するに、噛み合わないとかね。一つのところに入れても虫同士が戦わないで終わっちゃうのかな?と思ったら・・・

(宇多丸)それ、あり得るんじゃないですか?

(町山智浩)そう思ったの。でも、そんなのぜんぜんなし。もういきなり、バリッバリのラッシュ。

(宇多丸)じゃあお互い、ラッシュで。貴公子と暴れん坊が。

(町山智浩)そう。でさ、噛もうとするんですよ。クモがね。クワガタを。するとやっぱり、歯がたたないんだ。

(宇多丸)やっぱり堅い。装甲が堅い。

(町山智浩)鎧が。うん。で、もういきなり、余裕でもってクワガタ、相手の体をこう、クワガタでグッと咬んで、リフトアップですよ。いきなり、リフトアップ。

(宇多丸)グーッと。

(町山智浩)グーッとリフトアップした状態で、クラッシュ!

(宇多丸)クラッシュって、ブチュ!?

(町山智浩)そう。体液、ブシャーッ!ですよ。

(宇多丸)そこまでやるんだ!?

(町山智浩)すっげー!と思って。もう、はっきり言ってゲロ出そうでしたよ!

(宇多丸)(爆笑)

(町山智浩)もう、どうしようかと思ってさ(笑)。

(宇多丸)でも、たしかにそれを大画面で見ていたら、怪獣映画ですよね。

ある意味、怪獣映画

(町山智浩)怪獣映画。怪獣映画なんですよ、これ。で、新堂さんって人さ、この人、どう見てもホストでしょ?でもって、ヤミ金やっていてさ、芸能プロでもってギャル系のアイドルばっかり抱えているんですよ。いっぱい。で、もう絶対食ってるしさ。何人か自分のプロダクションの女の子。わかんないけど。

(宇多丸)知りませんけど(笑)。そういう幻想を抱かせる。

(町山智浩)要するにさ、ドンペリとか飲みながらさ、何人もの女にさ、なんか舐めさせたりしてるわけじゃん。体を。

(宇多丸)という想像をさせられる・・・

(町山智浩)ぜったいにしてるわけですよ。でも、彼の心には虫があるんだよ!

(宇多丸)だからその、怪獣少年の心がある。

(町山智浩)虫がある。だから彼女とかがさ、こうやっててさ、『ねえ、もうベッドに行きましょうよ』って言っても、『やめてくれ。お前、これから虫の世話があんだよ。おめー』っていう。そういう男だよ!いい男でしょ?

(宇多丸)信用できる男。

(町山智浩)『おめー、ちょっと虫にちゃんと餌やっておけよ!』みたいな感じですよ、もう。

(宇多丸)それ、やらしてんのかよ!っていう(笑)。愛情ねーじゃねーか!っていう(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。『虫、やってねーのかよ!?おめー、餌やってねーのかよ!』ってDVしたりとかしてんだよ!(笑)。わかんないけど(笑)。

(宇多丸)そういう幻想もわく男。新堂冬樹。

(町山智浩)そうそうそう。もうすっごい戦い。これ。

(宇多丸)でも、いま言っていた戦いが序盤なんですよね。

(町山智浩)序盤。いまのがまだ序盤戦なんですよ!

(宇多丸)あのさ、勝ち抜きとかなんですか?それは。じゃなくて、それぞれ24・・・

(町山智浩)トーナメントじゃなくて、24回戦って、勝ち数が多い方が勝ちなんですよ。要するに毒蟲軍団と昆虫軍団とで。

(宇多丸)そりゃそうだよね。何度も戦っていたら死んじゃうよね。

(町山智浩)で、これすごいのがさ、タガメ。タガメをサソリと戦わせるんですよ。

(宇多丸)タガメがまた、だって、あ、でもハサミあるか。一応。

(町山智浩)タガメってこれ、水の中にいるんですよ。で、亀とか殺すんですよ。タガメってね。で、こいつの武器は、口のところから溶解液。要するに消化液を相手の体に注ぎ込むんですよ。

(宇多丸)おおーっ!やっべー、エイリアンじゃないですか!あ、体に入れちゃうんだ。

(町山智浩)そう。敵の体の内部を消化してから、その溶けた液をすすりこむ!っていう。

(宇多丸)そんな!?

(町山智浩)すっごい敵でしょ?タガメ。

(宇多丸)すっごいですね!っていうか、フィクションのあれを超えてますね。なんかね。

(町山智浩)超えてますでしょ?エイリアン、たぶんそういう元ネタなんだと思うんですけど。

(宇多丸)タガメが元ネタ(笑)。

(町山智浩)わかんないですけど。でも、こいつね、水の中で生きてるんですよ。だからこの、要するにリングでは不利なの。ものすごい。

(宇多丸)(笑)。すでに。

(町山智浩)ものすごい不利なの。

(宇多丸)それ、ダメじゃないですかー!

(町山智浩)で、タガメね、何回もいろんなタガメ、出てるんだけど、みんな負けちゃうんですよ。

(宇多丸)あー、タガメ。残念ながら。

(町山智浩)だから本当に、陸に上がったなんとかみたいな。陸に上がった河童みたいな。

(宇多丸)これでも、水中戦やらせてあげたいですよね。

(町山智浩)やらせてあげたいんですよ。でも、すっごく不利な状態、完全アウェーですよ。タガメにとってはね。ところがこのサソリ戦ではね、タガメが勝つんですよ!

(宇多丸)ほう!サソリ戦(笑)。

タガメWIN

(町山智浩)対サソリ戦で、要するにサソリの頭にいきなりもうマウントポジションで乗っかって。頭のところからくちばしを差し込んで、溶解液をバーッ!っとサソリの体の中に流し込んで!一気食いですよ、一気飲み!

(宇多丸)うわー・・・・

(町山智浩)敵の体の中の液を。

(宇多丸)一気飲み?えっ、ちょっと待って。一気飲みしている様が。グビグビと。

(町山智浩)そうそうそう。どアップ。

(宇多丸)えっ、じゃあそれ、吸われたサソリってどんなになっていくんですか?こう、チュー・・・みたいな感じ?

(町山智浩)チュー・・・みたいな感じですよ。

(宇多丸)えっ、本当!?

(町山智浩)わかんないけど(笑)。

(宇多丸)あ、これはあれなんだ。ブチ込み用なんだ。口は。

(町山智浩)ブチ込み用なんですよ。すごかったですよ。

(宇多丸)うーわー、すげーなー!

(町山智浩)でね、本当これもすごかったですよ。

(宇多丸)悔しいかな、本当に面白そうな感じになってきた。

(町山智浩)もうめっちゃくちゃ面白かった。でね、クワガタとサソリの戦いってさ、もう圧倒的にクワガタが強かったんですよ。他の。で、ある一試合の中で、要するにカンカンカンカン跳ね返されちゃうわけ。サソリの針がね。

(宇多丸)鎧はね、相当。

(町山智浩)うん。で、跳ね返されちゃうんだけど、途中から学ぶんですよ。鎧と鎧の間に、隙間がある!クワガタにも、弱点見たり!

(宇多丸)あの、よくありますね。鎧。あの鎧の肘のところだ!みたいなね。

(町山智浩)そう。で、もう顔のところに小さな隙間があるじゃないですか。ものを食べたりね。そこめがけて、サソリが刺す!クワガタの一瞬の隙に。

(宇多丸)一瞬、パッと開いた瞬間を狙って。

(町山智浩)そう。カツーン!って刺すんですよ。で、勝ち!っていう感じなんですよ。ものすごい戦い!もう、手に汗握りまくりですよ。

(宇多丸)それさ、あれですね。あの、戦いのカードの並べ方とか、意外と巧みですよね。

(町山智浩)巧みですよ。

(宇多丸)さっきの戦いを踏まえた上でですから。なんにも考えずに24回並べているわけじゃないんだ。

(町山智浩)なんにも考えてないとは思わない。あのね、1匹1匹がまたすごい選手で。実は、それぞれその、皇帝サソリとか出てくるんですけど。レッドクロウスコーピオンっていう。これね、実はただ1匹来てるんじゃないんですよ。20匹以上買って、戦わせてるんです。互いに、試合前に。で、トーナメントに勝ち残ったものだけが出場してるんですよ!これ。

(宇多丸)同族同士戦わせて、強いやつが来てると。はー!

(町山智浩)そうなんです。蟲毒(こどく)というやつですね。昔、中国で作られた、毒蟲をたくさん集めて、一箇所に入れておいて。で、全員が殺しあった中で、最後まで1匹残っていたものが、より強い、最強の虫であると。それを食べたりすると偉くなれるとか言われていたんですけど。

(宇多丸)これ、新堂さん踏まえているかもしれないですね。

(町山智浩)だって民明書房の本に書いてありますから。

(宇多丸)ああ、そうっすか。はい。

(町山智浩)蟲毒なんですよ。これは。たぶんこれ、なぜこのトーナメントを新堂さんがやっているか?っていうと、たぶんこれで勝ち残った虫を食べようと思っているんだと思う。

(宇多丸)そして帝王になる。

(町山智浩)そして最強の新宿の帝王になろうと思ってるんだと。歌舞伎町の帝王になろうと思ってんじゃないかと思うんですよ。

(宇多丸)それ・・・そんな恐ろしい男なんですか!?

(町山智浩)そうですよ。『これが最強の虫だ!これが世界最強の虫だ!俺は、これを食う!』ってやつですよ。

(宇多丸)食って、もうブワーッ!って。悪の力を手にして。

(町山智浩)そう。魔王みたいな感じですよ。もう。

(宇多丸)で、もうこのへん、メキメキメキーッ!みたいな。

(町山智浩)そう。ビキビキビキーッ!みたいなね。体が変わって。俺もいま、こういうの着てますけどね。はい(笑)。

(宇多丸)ムキムキに見せるTシャツを(笑)。

(町山智浩)でね、すごいのは俺ね、これバカにしてたんですけど、最後、感動してもう泣きました。これ。

(宇多丸)泣き!?えっ、虫同士の熱き戦いで?

(町山智浩)これ、もう見た人たち、みんな泣いていて。大変でしたよ。

(宇多丸)ちょっ、嘘でしょ?それ。

(町山智浩)もうみんな、ボロッボロ泣いていて。

(宇多丸)そんなわけないでしょう!?えっ、それクライマックスが泣けるんですか?

(町山智浩)クライマックスが泣けるんですよ。クライマックスね、さっき言ったサソリの中のいちばん巨大な、25センチあるサソリと、日本代表のカブトムシくんが戦うんですよ。

(宇多丸)これ、やっぱちゃんと新堂さんわかってますね。みんなが燃えるカードをやっぱり最終的に持ってきているってことですよね。

巨大サソリVSカブトムシ

(町山智浩)だからもう、体重差がものすごいあるわけですよ。で、このデカいサソリっていうのはカマキリと戦った時なんて、カマキリの頭を真っ二つにしちゃうんですよ。縦に。真っ二つってことはないけど、頭を潰しちゃうんですよ。ハサミで。

(宇多丸)グシャッと。

(町山智浩)ね。それと戦ったら、やっぱりさ、狙いすまして頭を断ち切る方向に向かうんですね。そのサソリがね。で、カブトムシの頭って、角の下にちいさい頭がついているじゃないですか。いきなりそこにハサミをバコッ!ですよ。

(宇多丸)あ、はい。最初からもう、弱点だ!っていうところを。

(町山智浩)で、角と一緒に顔の左半分、とれちゃうんですよ。バコッ!って。

(宇多丸)うっ、はい・・・

(町山智浩)で、そのまますかさずさ、脚をチョキチョキ切っちゃうんですよ。カブトムシの脚を。

(宇多丸)もう、うわー・・・っていうか、ヤバいっすね。

(町山智浩)すごいでしょ?ところが、カブトムシは戦い続けるんです!

(宇多丸)(笑)

(町山智浩)一歩も引かないんです!頭半分しか残っていない、腕、脚もない。それでも俺は戦いをやめない!

(宇多丸)満身創痍の。

(町山智浩)もうはっきり言ってさ、20世紀少年なんかもう、ケッ!って思ったけど。これ、もう感動したもん。これ。もう日本人が忘れた大和魂がカブトムシの中に残っているんだよ!あんた!

(宇多丸)虫の戦いでそこまで、できちゃうんだもんね。

(町山智浩)感動させるか!っていう。みんな尊敬して。本当に、カブトムシの気持ち忘れているよ。みんな!だから20世紀少年って虫けらにも勝てねえんだ!

(宇多丸)でも、そういうことになっちゃいますよね。しかも、やっぱりいまお話を聞いていると、大写しでそれを見ていると、それ、グッと来ちゃいますよね。

(町山智浩)頭真っ二つですよ。うおっ!って。俺、この後カニとかエビとかしばらく食えないっすよ。もう。本当に。

(宇多丸)(爆笑)

(町山智浩)毛ガニなんか死んでも食えないしね。もう。

(宇多丸)食欲の方は失うけどもっていう。

(町山智浩)もう(笑)。ゲロ出そうで大変でしたけどね(笑)。本当にね。

(宇多丸)(爆笑)。グロいんだ。

(町山智浩)ものすごかったですね。超スプラッター映画でしたね。

(宇多丸)でもその、怪獣的なそういう迫力もあり、スプラッター、切り株もあり、そして最後は、傷だらけの男の意地もあり。

(町山智浩)感動ですよ。だからもう今回ね、カブトムシくん、負けたけどね。この敗北を活かして次回は勝つんじゃないか?と僕は思うんですけど。

(宇多丸)あの、虫たちがあたかも学んでいるように見える編集も巧みですよね。

(町山智浩)見えるんですけど。これ、すごいのは負けたやつら、全員死んでますから。全員食われてます。戦いながら食われているやつとかもいました。

(宇多丸)食っちゃうんですね。

(町山智浩)はい。食っちゃいますから。これ、本当の真剣勝負ですよ。バーリトゥードですよ。

(宇多丸)そのさ、動物界の残酷なところを見せて。昔さ、『グレートハンティング』とかさ、そういうモンドものみたいなのがあったけど。ある種、その系譜でもあるわけですよね。

(町山智浩)まったく動物愛護とか、クソ食らえみたいな映画でしたね。はい。でも、映倫なんのチェックも入ってなかったんで、ちっちゃい小学生、いました。映画館に。

(宇多丸)あっ、そうですか。じゃあ小学生は、でもよろこんでいるっていう?

(町山智浩)あのね、だからひとつの技が決まるたびにね、客がみんな、うおーっ!!もう、プロレス会場状態ですよ。

(宇多丸)えっ、ちょっと、町山さんヤバいっすよ。虫皇帝。これで、さらに人・・・だって俺、すっげー行きたくなってる!

(町山智浩)これ、制作費むちゃくちゃ安いですよ。1カメで撮っていてさ、それで20世紀少年超えてるんだよ。ステージとかさ、こんなにちっちゃい水槽みたいな入れ物だけで、虫を戦わせているだけで、なんでこんなに感動的なんだ?っていう。

(宇多丸)しかも、別に新堂さんのナレーションが熱いとか、そういうわけでもない。

(町山智浩)ないですよ。脚本とかぜんぜんないんですよ。

(宇多丸)それでいいのか?っていう。

(町山智浩)ナレーション、だって何度も『無表情ですね』って言ってるんだから(笑)。

(宇多丸)(爆笑)

(町山智浩)無表情だよ!っていうの。虫なんだから。

(宇多丸)町山さん、でもさ、これでさ、町山さんが面白い、面白いってさ。こういう作りの映画ばっか増えたらどうしよう?っていうね(笑)。

(町山智浩)もう大変ですよ。いろんなもん戦わせて。でも『刃牙』とか好きな人は是非見てほしいなと思いましたね。

(宇多丸)ああー、素晴らしいです。あのね、今日そのチョイスを橋本プロデューサーだけ聞いて。もう橋本プロデューサーが、『町山さん、間違いないです!』っていう。言ってたんです。いや、想像以上です。僕ね、虫皇帝をシネマハスラーに入れようか?って時に、僕、渋ったんですよ。

(町山智浩)えっ、なんで?

(宇多丸)『虫皇帝ってなんだよー!?』って言ったんですけど。僕、反省しました。やっぱりそこは、町山師にはまだまだ及ばぬと思い知った次第でございます。

(町山智浩)(笑)。いや、子どもなだけです。はい。

(宇多丸)いや、でも俺、マジで行きたくなりましたよ。やっぱ、これ。お話を聞いて。

(町山智浩)本当、童心に帰りましたけどね。やっぱり、当分エビとかカニは食べられないです。はい(笑)。

(宇多丸)(笑)。ありがとうございました。久々にスタジオにいらしていただいて、映画野獣町山智浩邦画ハスラーやりましたが。またちょっと機会があったらですね、日本に来るたびにその重荷の数々を背負って。でも、こういう発見があるのは素晴らしいですよね。

(町山智浩)虫皇帝は最高ですよ!

(宇多丸)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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