町山智浩『レリック -遺物-』『オールド』を語る

町山智浩『レリック -遺物-』『オールド』を語る たまむすび

町山智浩さんが2021年7月27日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『レリック -遺物-』と『オールド』を紹介していました。

(赤江珠緒)それじゃあ、映画に行きましょうか。今日は……。

(町山智浩)それで僕、東京オリンピックの開会式の時に僕は歌がね、なんでジョン・レノンの『Imagine』なんだろう?って思ったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そこはね。それはみんな思いましたね。

(町山智浩)アメリカ人も知ってる歌なら、『上を向いて歩こう』っていう曲があって。

(赤江珠緒)ああ、そうね。『Sukiyaki』。

(町山智浩)アメリカのカラオケとかにもあって。アメリカ人でも知っている歌なのに、なんで『上を向いて歩こう』をやらないのかな?っていう風に言っていたら、娘から「そんな古い歌は知らないよ」って言われて(笑)。

(赤江珠緒)そうかー(笑)。でも、『Imagine』はなんで?っていうね。

(山里亮太)意味があるのかな?

(町山智浩)まあ、僕は言っていることが古すぎる今、怒られててね。本当にもう娘から残骸のような扱いを受けているんですけども(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)それで、今日お話したい映画は全くそういう映画でですね。歳を取っていくということの恐怖についてのホラー映画なんですよ。で、1本はまさにそういうタイトルで。『レリック -遺物-』というんですけども。「遺物」っていうのはだから、「かつてあったもの」っていうね。で、もう1本は『オールド』という映画で。まさに「古くなる」っていうタイトルの映画で。『レリック』という映画は親子三代の女性の物語なんですけども。森の中に1人で住んでるおばあちゃんがお年で徘徊をし始めちゃうんですね。

『レリック -遺物-』

(町山智浩)で、「心配だ」っていうので娘が実家に帰ってきて。孫娘を連れて。それで3人で暮らすんですけど。すごくいいおばあちゃんでね。たとえば、指輪を孫娘にあげるんですよ。「この私の結婚指輪をあなたの結婚指輪として使ってね」って言って孫娘にくれるですけど。それをまた孫娘がつけているとね、「私の指輪を取ったね! 泥棒!」ってやるんですよ。おばあちゃんが。おばあちゃん、認知症なんですね。で、だんだん娘とか孫娘に対して「あんた、誰だよ? 泥棒か?」とか「なんでうちにいるんだよ?」とか言いはじめて。それだけならいいんですけど、どんどんどんどん実際の怪物におばあちゃんが変わっていってしまうっていうホラーなんですよ。それが『レリック』なんですけど。これはその監督が実際に体験したことなんですって。

この監督はね、ナタリー・エリカ・ジェームズさんっていう人なんですけど。この人、お母さんが日本人で、おばちゃんは日本の人なんですね。で、夏休みとかお正月休みにはいつも、日本に帰って。おばちゃんの田舎に行ってたんですけども。だんだん、自分のことをおばあちゃんが忘れていっちゃって。「あんた、誰だ!」ってやり始めたらしいんですよね。それで、もう本当に本当に優しくて大好きなおばあちゃんだったのに、どんどん壊れていく悲しさとか、そういったものを……。

(赤江珠緒)つらいね。

(町山智浩)つらいんですよね。それをホラー映画にしていったというのがこの『レリック』なんですけど。でもね、僕はまだボケてないですけど、娘からはほとんど同じ扱いを受けてますから(笑)。

(山里亮太)さっきの歌のこといい(笑)。

(町山智浩)歌のことといい。「古いんだよ!」って言われてますから。それと「最近ね」って、最近のことを話してつもりで80年代のことを話してる、「最近じゃねえ!」って言われてますんでね(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ! そうね(笑)。90年代に生まれている人が普通にもう大人ですからね。

(町山智浩)そうなんですよ。でも「最近」って言っちゃうんですよ。そういうところでね、ほとんどレリック状態になってるということが怖いんですけど。で、もう1本の映画『オールド』というのはですね、これは海の素敵なリゾート地が舞台で。そこに夫婦がやってきます。で、11歳の娘と6歳の息子がいるんですけども。で、この夫婦がインターネットで格安のリゾート地を見つけて。すごい高級リゾートで、すごいいいホテルだったんですけど。しかも、支配人がですね、「お客様だけに、とっておきのプライベートビーチを紹介します」って言うんですよ。で、そのプライベートビーチに連れて行かれると、そこはまあ本当に美しくて。誰もいなくて最高なんですね。貸切状態で。ところがですね、そのプライベートビーチに連れてきてくれるマイクロバスの運転手がですね、すごく不吉なインド人なんですよ。

(山里亮太)不吉なインド人?

(町山智浩)この人はM・ナイト・シャマランというこの映画の監督なんですね。で、この人はとにかく『シックス・センス』とかホラー映画ばっかり撮っている人ですね。で、この人はかならず映画に出てくるんですよ。だから、この人が出てくるとロクなことにならないんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうなんだ!

不吉なM・ナイト・シャマラン

(町山智浩)そうなんです。で、このシャマランが出てきて。バスで主人公たちはそのビーチに連れていってくれるんですけども、映画ファンにとってはその段階でもう地獄行きのバスなんですよ。

(赤江珠緒)地獄の案内人なんだ。シャマランは。

(町山智浩)「シャマランが出てきたらヤバい」っていうやつなんですよ。で、そのビーチで家族が遊んでいるうちに、はっと気づくと、その6歳の男の子がなんかね、口の周りにひげみたいのが生えているんですよ。で、11歳の娘が、なんかおっぱいとかボインになっているんですよ。で、「あれっ?」って思うと、息子と娘がどんどん大きくなっているんですよ。

(赤江珠緒)成長してる?

(町山智浩)成長しているんです。で、これでどんどん大人になってくれれば、育てなくてよくて楽だな、みたいな話じゃないんですよ。どんどん成長していくと、自分たちも……「あなた、ちょっとシワがすごく増えてない?」みたいな話になってくるんですよ。そのビーチでは、ものすごいスピードでみんなが老いていくんです。

(赤江珠緒)うわあ……。

(町山智浩)という映画のこの『オールド』なんですよ。これは怖いですよ。

(赤江珠緒)怖いですね。ちょっと今までのホラー映画とは違う怖さですね。

(町山智浩)これね、僕に毎日起こっていることですよ(笑)。どんどんと頭が薄くなってきて、どんどん耳が遠くなっていって。で、どんどん目が見えなくなっていくんですけど。それがものすごい急激に起きていくっていうホラー映画なんですよ。これ、一番怖いですね。今、起こっているから。

(赤江珠緒)そうか(笑)。

(山里亮太)町山さん、ひょっとしたらシャマランに会っているのかもしれない(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。なんかシャマランがそこらへんにいそうなんですよね(笑)。そういう映画で。この2本がね、なんか日本では相次いで公開されることになって。みうらじゅんさんがこういう老いることが一番怖いっていうことで「老いるショック」って言ったんですけど。

(赤江・山里)フハハハハハハハハッ!

(町山智浩)でも、オイルショック自体を知らない人が多いなって(笑)。「70年代の話だろ、それ」って思いましたけども。

(赤江珠緒)私たちですら、生まれる前だもん。へー!

(町山智浩)言っていることが全然通じながら世界になってますけど。この映画ね、ただこの2本は一体どういう話なんだろうと思って見てると、この『レリック』と『オールド』。一方の映画はどうしてこうなったかという非常に論理的な説明が付いていくんですよ。で、もう一方の映画には全く説明がないんですよ。でね、見比べてみると、僕は説明がない方がよかったですね。説明がないと、そのこの老いるということについて、非常に抽象的に自分に引き付けて考えることができるんですけど。説明があると、その映画の中で話が終わっちゃんですよね。

(赤江珠緒)ああ、そうか。

(町山智浩)だからこれね、本当に比べてみると映画ってなんでも意味とか説明されると面白いとは限らないんだなっていうことがよくわかりましたね。

(赤江珠緒)奇しくもちょっと同じような老いをテーマにしていますけどね。

(町山智浩)老いるってそれだけで怖いんだから、理由とか言わなくていいよ、みたいな話なんで(笑)。ということで、日本ではほぼ同時期に公開されるので、ぜひ見比べてみてほしいなと思います。

(赤江珠緒)『レリック -遺物-』は8月13日からシネマート新宿ほか全国公開。『オールド』は8月27日から全国公開です。たしかに説明とか、ないですもんね。老いていくっていうことはね。

(町山智浩)説明してほしいですよ。僕のこの髪の毛が抜ける理由とか、そういうのをね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。「説明責任だ!」とか言われても、しょうがないですもんね。こればっかりはね(笑)。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『レリック -遺物-』『オールド』予告編


<書き起こしおわり>

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