町山智浩 渡哲也を追悼する

町山智浩 渡哲也を追悼する たまむすび

町山智浩さんが2020年8月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなった渡哲也さんを追悼。渡哲也さんのおすすめ作品を紹介していました。

(町山智浩)今日は先日、お亡くなりになった俳優の渡哲也さんについてお話ししたいと思います。

(町山智浩)(『西部警察』のテーマを聞いて)キターッ!

(山里亮太)この曲のイメージだな!

(赤江珠緒)テンションが……。

(町山智浩)はい、はいはいはいっ! 『西部警察』です。

(赤江珠緒)町山さんなんかは特に世代的にドンピシャですか?

(町山智浩)僕ね、高校3年ぐらいですね。『西部警察』が始まったのは。1980年なんで。で、とにかく日本各地でですね、ありとあらゆるものを爆破して破壊して、まあすごかったんですけども。

(赤江珠緒)車も何台壊したかっていう。

(山里亮太)ショットガンをバンバンよ!

(町山智浩)すごかったですよ。だってもう渡哲也さん扮する大門団長率いる大門軍団という刑事たちがですね、まあなぜか日本の刑事なのに各地に行くんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。もう所轄とか無視して(笑)。

(町山智浩)そうそう! それ、普通はないわけですよね(笑)。それはあらゆる地方で「あそこを壊していいよ」っていう風になると壊しに行く、なんというか破壊作業員みたいな人たちなんでね。

(山里亮太)フハハハハハハハハッ! 犯人を捕まえに行ってるんですけどね(笑)。

(町山智浩)まあ、一応ね。でもこれね、すごかったのはその同じ週の……日曜日に『西部警察』をやってて。で、火曜日には違う局で『大激闘マッドポリス』というアクション物があってですね。そっちでは渡さんの弟の渡瀬恒彦さんが大破壊をやっていたんですよ。

(山里亮太)兄弟で!?(笑)。

(赤江珠緒)そうなんですね!

(町山智浩)兄弟で。そう。渡瀬兄弟がですね、日本全国であらゆるものを破壊して。2人で毎回、車10台、20台と壊してるという、ものすごい状況で僕は高校時代を過ごしたわけですが(笑)。

(山里亮太)週に2回、街中をぶっ壊す兄弟(笑)。

(町山智浩)そうそう。だからね、「大人になって社会に出たらこんな素晴らしい社会が待ってるんだ!」って思いましたよ。そこら中を爆破して。もう破壊のパラダイスでしたね。暴力のワンダーランドに成人したら僕は入れるのかと思ったら、そういう社会にはならなかったですけども(笑)。

(山里亮太)ワクワクさせるもんですよ。演出というか……見ていたら「かっこいい!」って思っちゃいますもん。めちゃくちゃだったけど。

(町山智浩)そう! 「日本って面白い国だな!」と思いましたよ。本当に(笑)。でね、今日はしんみりしてもあれなので、渡哲也さんの映画で僕がぜひ見ていただきたい映画を何本も紹介したいと思います。

(赤江珠緒)うんうん!

(町山智浩)アマゾンプライムで! 今、話題のあのアマゾンプライムで! ねえ。やめる人が続出しているというアマゾンプライムでガンガン見れますので。やめる人はこれを見てからやめてくださいね(笑)。でね、まずは『東京流れ者』。1966年の映画なんですが。これね、僕が「アメリカ流れ者」っていうな名前でやってる意味もあるんですけども。

『東京流れ者』

(山里亮太)そうですよね。このコーナーのタイトルの。

(町山智浩)そうなんですよ。これね、東京から渡哲也さん扮するヤクザが各地を流れていくという旅物映画なんですが。同時にですね、歌謡映画なんですよ。

(山里亮太)歌謡?

(町山智浩)「歌謡曲映画」というのが当時、ありまして。というのは、テレビの歌謡番組だとモノクロなんですよね。まだテレビでカラーが普及してなかったので、カラーで歌謡シーン、歌うシーンを見せるという映画が存在したんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからこれ、ヤクザ映画なんですけど、みんな歌をしっかり歌います。だからミュージカルみたいでもあります。

(赤江珠緒)ああ、その俳優さんが途中で歌をしっかり歌うっていうことですか?

(町山智浩)歌を歌うんですよ。しっかりと。次々に。しかも、その当時の歌謡番組って……今はそうでもないんですけれども。セットが毎回、歌ごとに違うですよ。だからたとえば布施明さんが『霧の摩周湖』っていう歌を歌うと、本当に霧を出して、その霧の中で歌うんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん!

(町山智浩)で、それぞれの歌の風景に合わせてセットを作り替えるんですね。昔のかテレビの歌謡番組っていうのは。それを映画でやっているんですよ。だから各シーンごとにまったく映画の雰囲気が違うんです。

(赤江珠緒)それでちゃんとストーリーは成り立つんですか?(笑)。

(町山智浩)ストーリーはあんまりないです。歌謡映画なんで。ただ、これがすごいのは雪国に行くと本当に雪国のロケで。雪の中で歌って、哀愁あふれる感じなんですが、そのあとに九州に行くと、九州のもう温かくて明るい感じでコメディーになります。

(赤江珠緒)『東京流れ者』。へー!

(町山智浩)そう。各シーンごとに『東京流れ者』は映画のタッチが違うんですよ。ただ、この事情を知らないから、アメリカ人とかフランス人たちはこの映画を見て「なんてすごい前衛的なアートなんだ!」って勘違いをしました。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)それで、監督の鈴木清順が巨匠になっちゃったんですけど。でもこれは日本の歌謡番組のノリなのに……っていうことが外国人にはわかっていなかったんですよね。もう毎シーンごとにジャンルが違うっていうのでね、すごい話題になったんですが。

(赤江珠緒)すごいいい感じに取ってくれたという。商業的な理由がすごくあったのに……っていうね。へー!

(町山智浩)でね、この映画がすごくいいのは、その松原智恵子さん扮する少女漫画から出てきたようなお顔のヒロインと渡さんの純愛物語でもあるんですよ。で、渡さんはね、純愛俳優だったんですよ。それこそ吉永小百合さんとの純愛映画で出てきた人なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それで純愛ヤクザ路線というのがここから始まります。

(赤江珠緒)「純愛ヤクザ路線」?

『人斬り五郎』シリーズ

(町山智浩)はい。それがですね、1967年ぐらいから始まる『人斬り五郎』というシリーズなんですね。これは実在のヤクザの幹部だった藤田五郎さんの自分の体験を元にした話で、人斬り五郎と呼ばれるドスの名手、ドスの達人を渡さんが演じるんですけど。ドスの達人なんですが、ヤクザをやめたい真面目な人なんですよ。

(赤江珠緒)よくわからないけど……うん。そうなんですね。

(町山智浩)で、松原智恵子さんとカタギになって幸せに暮らしたいですけど。彼、まあはっきり言ってすごい腕ききなので、ヤクザたちが放っておかないので。その暴力団同士の抗争に彼が巻き込まれていくという悲しいメロドラマなんです。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、その『人斬り五郎』シリーズの中でも傑作は『大幹部 無頼』という1968年の作品で。これがすごいのはクライマックスがですね、もうヤクザ20人、30人をたった1人で渡さんが斬って斬って斬りまくるんですよ。ものすごい強さなんですけど。それがね、ドブ川の中で戦うんですよ。で、ドブ川の中で彼が戦ってる姿と、そのドブ川のすぐ上に女子高校があって。そこで女子高生たちが健全にバレーボールをやってる光景と、そのドブ川のヤクザ同士の殺し合いというものをカットバックさせるんです。行ったり来たりさせるんです。

(赤江珠緒)はー! すごいシーンですね! えっ、女子高生は気づかずに近くでバレーボールをしてるんですか?

(町山智浩)バレーボールしているんですよ。だからその健全な日常と、地獄のようなヤクザの殺し合いを交互に見せるというすごいクライマックスで。この『大幹部 無頼』は本当に素晴らしい映画でしたね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でね、渡哲也さんがそこまでは純愛ヤクザだったんですけど、黒岩刑事とか大門刑事のようなレイバンのサングラスにスリーピースのスーツで角刈りの暴力刑事になるのはその後なんですよね。

(山里亮太)そこからですもんね。我々が知っているイメージは。

(町山智浩)そう。彼がそういう風になったのは1973年の『ゴキブリ刑事』という映画なんですね。

『ゴキブリ刑事』

(赤江珠緒)タイトルがすごいな。『ゴキブリ刑事』?

(町山智浩)これはね、殺しても殺しても死なないタフな刑事っていう意味なんですけど。これはね、アメリカでその頃に大ヒットしていた『ダーティハリー』っていう暴力刑事映画があるんですけども。それの日本版を作ろうということで作られた映画なんですけども。これね、ポスターを見るとね、そのポスターの文句がすごいんですよ。「警察手帖は殺しのパスポートか。殺すことしか解決を知らぬ。人呼んでゴキブリ刑事」っていう。

(山里亮太)問題じゃないですか!

(赤江珠緒)ダメじゃん!(笑)。

(町山智浩)大問題ですよ、これ(笑)。解決になっていないんですけども(笑)。もうとにかく、ものすごいカーチェイスと日本映画とは全く思えないような大破壊、大暴力シーンの連続なんですね。で、これは『西部警察』とか『大都会』しりーずの元になった映画です。『ゴキブリ刑事』。

(赤江珠緒)たしかに、角刈りでレイバンのサングラスっていう、イメージは本当にね、大門さんの……。

(町山智浩)そう。スリーピースで。ファッションはここからなんですよね。でね、最高なのはね、この敵というのが暴力団と癒着してる、汚職をしている悪徳政治家なんですね。で、そいつを殺したいけど、どうしても殺せないわけですよ。ものすごく悪いんだけども。だからね、相手に拳銃を持たせてね、渡さんが自分を撃たせようとするんですよ。で、拳銃を握った瞬間にものすごい早撃ちでそいつの脳天をぶち抜きます!

(山里亮太)ああ、正当防衛にするんだ?

(町山智浩)そう。で、相手の頭にドーンと風穴が空いたところで「正当防衛っていうのはこうやるんだぜ!」って言うんですよ!

(山里亮太)ゴキブリ刑事!

(町山智浩)よい子は真似しないでねっていうやつですね。

(赤江珠緒)そうですね。共感をしていいのかどうなのかっていう問題……(笑)。

(山里亮太)そのシチュエーションによい子は行かないですから(笑)。

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