町山智浩『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』を語る

町山智浩『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』を語る こねくと

町山智浩さんが2023年9月19日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で実在のルチャリブレのレスラー、カサンドロの生涯を描いた映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』を紹介していました。

(町山智浩)ということで今日はね、やっぱり差別についての話ではあるんですけれども。プロレス映画のお話をします。これから、Amazon Primeの方で22日から配信が始まって日本でも見れるようになる『カサンドロ』というタイトルのプロレス映画について、紹介します。

(でか美ちゃん)ああ、この曲は……。

(町山智浩)はい。これ、そのプロレスラーのカサンドロさんのリングに入る時のテーマソングとして使われてる『Call me』なんですけれどね。これ、実話の映画化ですね。メキシコのプロレスラーでカサンドロという人がいて。この人はゲイのプロレスラーとして、初めてメキシコでチャンピオンになった人なんです。で、実はそのゲイのプロレスラーというのはメキシコには昔からずっといて。なんていうか……エキソティコって言うんですけど。お笑いなんですよ。で、選手にキスしたりね、試合中にお尻を振ったりね、なんていうか、いわゆるオネエの仕草というのをやって。

(でか美ちゃん)過剰にやる感じだったんですか?

ルチャリブレのエキソティコ、カサンドロ

(町山智浩)過剰にやって笑わせるという、そういうレスラーなんですけれども。このカサンドロさんはそうじゃなくて、そのプロレスの技で人々からものすごい人気を掴んだという人なんですよ。で、これね、映画なんで。ガエル・ガルシア・ベルナルという名俳優がカサンドロさんを演じているんですけれども。元々、ドキュメンタリー映画があって。それも日本で公開されていて。そちらの方では本当の試合が見れるんですけども。この人ね、試合すごいんですよ。メキシコのプロレスってルチャリブレっていうんですけども。見たこと、あります?

(でか美ちゃん)メキシコのはないですね。日本の選手のプロレスとかはちょっと、見たことあるんですけども。

(石山蓮華)石山も日本のプロレスを見て。で、やっぱりその国内のレスラーさんが修行に行く先はやっぱり、ルチャリブレとか。メキシコだったりするなというイメージがありますね。

(町山智浩)ルチャリブレっていうのは、空中殺法が中心なんですね。で、リングの外に出た敵に対して、リングの内側からトペっていうんですけども。ジャンプをして体当たりをするとかね、そういうことをやるんで、大怪我をする世界なんですけれども。このカサンドロさんはですね、このドキュメンタリーの方でね、延々と彼のレントゲン写真が出てくるっていうシーンがあるんですよ。すると体中にね、いろんな金属物質が入ってるんですね。この人は。で、大腿骨なんか、ほとんど全部折れているんじゃないかな? すごいことになっていて。

(でか美ちゃん)へー! じゃあ、激しい試合をする選手なんですね?

(町山智浩)すごいんですよ。この人ね。リングからの飛び込みだけじゃ物足りなくて、2階席から落ちますね。

(でか美ちゃん)ええっ? 命がけすぎる!

(町山智浩)命がけなんですよ。

命がけのファイトスタイル

(町山智浩)それでもね、物足りなくなったらしくてね。このリングの上に照明の鉄塔みたいのが立ってますよね? あれのてっぺんから飛び降りたりね。

(石山蓮華)ええっ、すごい! でも本当に、試合中に骨折したりすることあるとは思うんですけども。そうすると、やっぱり担架で運ばれちゃうじゃないですか。それも含めて、技をかけるんですか?

(町山智浩)いや、大抵、レスラーはそのリングの中では何事もなかったようにしていて。控え室に入ってから病院に行くんです。

(でか美ちゃん)そうですよね。

(町山智浩)そうしないと、お客さんのファンタジーを壊しちゃうから。

(でか美ちゃん)どんなに血流してても「血だが?」っていう顔してますもんね。

(町山智浩)この映画の方はね、ちょっとそのへんはソフトにしていて。「プロレス、ちょっと怖い」っていう人も見れるような映画にしてますが。現実の方のカサンドロさんはすごくて。もう全身、血まみれになってやってる人ですからね。でね、どうしてそんなことになるかっていうとこの人、客にも刺されてます。客にナイフで刺されたりしてます。この人。

(でか美ちゃん)えっ、もう普通に事件じゃん!

(町山智浩)普通に事件なんですけど。どうしてかというと、エキソティコ……オカマとかゲイとかっていう風に言われてるような人はメキシコでは、ものすごく差別されているんですよ。カトリックの国なんで、宗教的な意味があって。「神に背くもの」と思われているんですね。だから、ナヨナヨしてクネクネして試合に出てて、それなのに客はものすごい罵声を浴びせるんですよ。「死ね!」とか言ってるんですよ。「神に裁かれるぞ!」とか言ってて、ものすごい罵声が飛ぶだけじゃなくて、場外乱闘の時に刺されてるんですよ。

(石山蓮華)それはちょっと……日本のプロレスを見てる感じだと、想像できないですね。

(町山智浩)ちょっと違うんですね。

(でか美ちゃん)そんなところまでは……良し悪しは置いておいて、エンタメっぽさみたいなところかとは思ったけども。刺したらもう、ねえ。

(石山蓮華)もう、事件、事件。

(町山智浩)ねえ。でもね、宗教的な意味があるんでちょっと日本とは事情が違うんですよ。というのは、メキシコのプロレスっていうのは正義と悪の戦いなんですよ。で、ものすごくなんというか、宗教的な意味があって。で、メキシコの国民的なレスラーっていうのはエル・サント(El Santo)っていうんですけども。「サント(Santo)」っていうのは「セイント(Saint)」。つまり「聖人」なんですよ。だから、神の使いなんですよ。

(でか美ちゃん)元々、役割が完全にある状態で。

(町山智浩)そうなんですよ。そういう、非常に儀式的なものなんですよね。だからその中でゲイのエキソティコっていうレスラーは非常に悪役として嫌われ者だったんですけれども。で、これが面白いのはこの人、メキシコで試合をやってるんすけども、この人自身はアメリカ人なんですよ。

(石山蓮華)ああ、そうなんですね。へー!

(町山智浩)テキサスのエルパソっていうメキシコとの国境地帯で生まれ育っていて。で、試合をするのにいちいち国境を越えていくんですよ。で、試合をして帰るんですよ。この人、テキサスに帰ってから寝るんですよ。

(でか美ちゃん)へー! でも前に町山さん、おっしゃってましたけど。テキサスもやっぱりちょっと同性愛者の方とかにね……。

(町山智浩)そう。ものすごく差別的なところなんですけれども。でも彼自身は自分がゲイであることをちょっと表に出せなくて。最初はそう言わないでレスリングに出ていたんですけども。「やっぱり自分自身になろう」って決めて、そのカサンドロという名前で、その女装してリングに出たんですね。ただ、彼はどうしてそういう風に表に出せなかったのかというと、父親が彼がゲイであることを知って、家を出ていっちゃったんですね。彼を捨てたんですよ。父親も非常に宗教的な、非常に保守的な人だったんで。それで彼はお母さんと2人でずっと暮らしてたんですけれども。

お母さんは普段から、すごい派手な衣装を着てる人でね。だからそのお母さんの服を改造して、プロレスの衣装にしてリングに上がって、カサンドロというゲイのレスラーとしてカミングアウトして。で、最初はものすごい野次を飛ばされたり、刺されたりしていたんですけれども。試合がものすごくハードで。彼、プロレス自体が非常にうまかったので。最初ね、「死ね!」とか言ってた人たちもだんだんね、「カサンドロ! カサンドロ! カサンドロ!」ってコールをし始めるんですよ。

(でか美ちゃん)すごい。実力で。

(町山智浩)実力で。で、どんどんと格が上がっていくんですね。レスラーって、格が上がらないといい試合が組めないんですよ。まあ、ボクシングとかもそうなんですけども。で、とうとうメインイベントが組まれることになるんですね。世界チャンピオンに挑戦することになるんですよ。で、その相手がですね、なんとそのメキシコの歴史上最大のレスラーであるエル・サントの息子で。「サントの息子(エル・イホ・デル・サント)」というレスラーとタイトルマッチをすることになるんですよ。これが1991年かな?

(でか美ちゃん)生まれた年だ。

実力で格を上げてタイトルマッチが決まる

(町山智浩)ところがね、そのサントの息子っていうのは父親がまさしく聖人だった人なんで。本当に国民的レスラーで、神のような存在なんですよ。で、「そういう人がオカマと試合しちゃいけないよ」って話になっちゃうんですよ。保守的な人たちがものすごく反対して。「やめろ!」って言ってプレッシャーかけただけじゃなくて、カサンドロさんのところに脅迫をして。脅して。それで結局、彼は「僕はもう試合をしない方がいいのか?」ってことで、自殺未遂をしちゃうんですよ。試合直前にね、手首を切っちゃうんですよ。で、他の仲間に発見されて命は取り留めたんですけど。ただ、ここがいいのはサントの息子は「いや、みんながどんなに反対しても、俺は彼と試合する!」って言って、試合をしてくれたんですよ。

(石山蓮華)おおーっ!

(町山智浩)いい人なんです。この人も、また。

(石山蓮華)すごい。いろいろなしがらみもある中で、ちゃんと試合ができたんですか?

(町山智浩)差別と戦うっていう中で……これ、1991年なんで、メキシコではまだすごい差別があった頃なのに、サントの息子は「彼と試合する」って言ったんですよ。

(でか美ちゃん)なんかもう、サントと戦うというより……って感じですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、この試合で彼は認められて……最初は負けるんですけども。その後、このカサンドロは本当に世界チャンピオンになるんですよね。これがすごいのはね、プロレスって勝ち負け、決まってるでしょう?

(でか美ちゃん)とか言う人もいますわな。

(石山蓮華)という人もいますが……どうでしょう?

(町山智浩)決まってるんですよ。全部。

(石山蓮華)まあ、ストーリーとかね、いろいろ文脈はありますね。

(町山智浩)決まっているから。あの、ラスベガスに行くとあらゆるスポーツがギャンブルの対象になっていて。日本の高校野球から、何から何まで賭けられるんですけどもね。大統領選から、アカデミー賞から、何でも賭けの対象になるんですが、プロレスだけは賭けの対象にならないんですよ。

(石山蓮華)ああ、そうなんですか。

(でか美ちゃん)プロレスっていうのは、文化がもう確立してますからね。そういうのも含めて。

(町山智浩)だから、チャンピオンになるのは大変なんですよ。

(石山蓮華)単純な、そのスポーツの試合とは違う文脈もあったりしますもんね。って。

(町山智浩)そう。勝てばいいわけじゃないので。お客さんとか、みんなが「この人はチャンピオンでいい!」って認めた人じゃなければ、チャンピオンなれないわけですよ。もちろんプロモーターもね。チャンピオンとして本当に風格があって、実力がなければチャンピオンにはなれないんですよ。

(でか美ちゃん)いろんな人に認められないと無理なんだ。

(町山智浩)だから実は一番チャンピオンになるのが難しいのはプロレスなんですけども。でも、彼はそれになって、本当にも評価されたんですけれども……この映画はね、もっとそのプロレスそのものよりも、この彼とお母さんやお父さんとの葛藤を中心に描いてるんですよね。で、惜しいことに91年のサントの息子との試合あたりまでしか描いてないんですよ。この映画は。ただ、その後にね、すごくいい話があって。彼はチャンピオンになるんですけれども、大怪我をしちゃうんですよ。というのは相変わらず、高いところから飛び降りるのが好きで。YouTubeを見ると、ものすごくいろんなところから飛び降りてるんですけどね。それで大怪我をして、病院に担ぎ込まれたんですよ。そしたらね、気がついたら彼の手をお父さんが握っていたんですよ。

(石山蓮華)ちょっと……今、すごいジンと来ちゃいました。

(町山智浩)ずっと……子供の頃にお父さんは家を出ていったんですよ。「俺の息子がこんな男らしくないのは許せない!」って。ところが、彼はチャンピオンになりましたから。

(でか美ちゃん)離れたところから聞くと「都合がいい父親だな」という風にも思ってしまうけども。本人がね、もしかしたら一番認めてほしかったのかもしれないしね。

(町山智浩)見てほしかったんですよ。戦っているところを。で、お父さんは「男らしくないやつは嫌だ!」って言ってたんだけど、男らしい試合をしてるんですよ。

(石山蓮華)自分のままで、その父親に認められるような試合をできたんだ。

(町山智浩)女装をして、綺麗な格好して、ゲイとして……でも、すごい試合をして。誰よりも強いレスラーとして認められたんで、お父さんは病院に来てくれて。

(石山蓮華)なんか「男らしさって何だろう?」って考えちゃう。

(町山智浩)自分らしさだから、いいんですよ。別に。「男らしく」も「女らしく」も関係ない。彼は自分らしく生きたんで。で、このカサンドロさんは試合で日本にも来ているんですけども。その時、お父さんと一緒に来てるんですよ。

(石山蓮華)うわっ、そうなんですか! 超よかったね!

(でか美ちゃん)お寿司とか、食べたかな?(笑)。

(町山智浩)食べたと思いますよ。ドキュメンタリーはもう仲良くなった後なんで、2人が仲良くしてるんですよ。ただね、その前にお母さんが亡くなっちゃっているんですよね。だから親子3人には、なれなかったんですよね。

(でか美ちゃん)カサンドロさん、めちゃめちゃ心広いな。

(町山智浩)まあ、いろいろあったと思いますね。この映画の中では彼のそのへんの葛藤がものすごくヘビーに描かれていて。見た人ね、結構落ち込む人もいるかもしれないんですけども。

(でか美ちゃん)そうか。いろんな家族のこととか、考えちゃいそうですね。自分自身のことも。

(町山智浩)でも現実ではその後にハッピーエンドが来てるんで。安心してくださいっていうね。「履いてますよ」みたいな世界ですけども(笑)。

(でか美ちゃん)「仲直りしてますよ!」っていうね。

(町山智浩)安心してください。本当はハッピーエンドですから。でもね、これがすごいのはプロレスのことをルチャリブレって言うんですね。これ、「自由への闘い」っていう意味なんですよ。実は。

(でか美ちゃん)なんかすごい深いなー。

(石山蓮華)カサンドロ自身が本当に自由を得る戦いを。うわー、かっこいいな!

(町山智浩)それで何度も、自殺を図ったりね。やっぱり好きなレスラーが妻子がいて。結局、その妻子を捨てられなくて彼と別れたりしてるんですけど。

(でか美ちゃん)失恋もあったり。

(町山智浩)もう本当にいろんなところから排除されて、弾かれてきたんですけれども、彼は生きのびたんですよ。でね、映画の中でちょっと強烈なのはね、お酒と麻薬をすごくやるんですよ。彼は。でもそれもね、やっぱりつらかったからなんですけども。実際は彼、それも克服しました。はい。

(でか美ちゃん)なんか、本当の意味で強い人ですね。

現在も現役のカサンドロ

(町山智浩)で、彼は今も試合をやってますよ! 22日にロサンゼルスで試合をしますよ。すごいですよ。結構いい年なんですけどね。で、彼への敬意を表してですね、このサントの息子はこの映画で実際に出演して、サントの息子を演じて試合をしています。

(石山蓮華)本人出演?

(町山智浩)本人が。この人もね、60なんですけど。まあ、すごいですよ。

(でか美ちゃん)戦いを通して、本当に強固なものがあったんだろうな。

(町山智浩)そう。戦いを通してね、通じ合ったんですね。ということでね、ちょっと映画の中には出てこない話も全部しちゃいましたけど。

(でか美ちゃん)でも見て、感じるものもたくさんありますよね。きっとね。

(町山智浩)そうですね。もう本当にね、僕はプロレスが大好きなんですけど。今ね、カサンドロさんは何をしてるか?っていうと今、その彼が行ってたメキシコ国境の街フアレスがギャングにし占領されて、ものすごい状態になってるんで。そこから仲間のプロレスラーの人たちをですね、アメリカに移住させるための保証人をやってるんですよ。

(石山蓮華)本当に素晴らしいですね。

(町山智浩)偉大なレスラー、カサンドロの話でした。

(石山蓮華)ありがとうございます。ぜひこれ、映画で出会いたいです。今週22日(金)Amazon Prime Videoで配信される映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』をご紹介いただきました。そしてこの22日金曜日は以前、町山さんにご紹介いただいた『PIGGY ピギー』。これ、見たい!

(でか美ちゃん)ねえ。眉村ちあきちゃんの回に紹介してもらった『PIGGY ピギー』。

(町山智浩)「子ブタちゃん」って呼ばれていじめられてる女の子が、連続殺人鬼がいじめっ子を捕まえたところを見ちゃうって話ですね。

(でか美ちゃん)見たい! 22日は盛りだくさんで。アンジーの週に紹介してもらったやつも。

(石山蓮華)『ロスト・キング 500年越しの運命』ですね。さらには4月にご紹介いただいた『ジョン・ウィック4:コンセクエンス』も公開されます!

(町山智浩)『ロスト・キング』もか。大変ですね。

(でか美ちゃん)楽しみ!

(石山蓮華)見たい映画がもりだくさんです。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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