町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信中の映画『さようなら、コダクローム』を紹介していました。
(町山智浩)今回紹介する映画は『さようなら、コダクローム』というタイトルの映画なんですよ。これはもうNetflixですでに今月に入ってから配信が始まっている映画なんですけども。僕はトロント映画祭で去年の秋に見て、ものすごく感動したんですね。
(赤江珠緒)感動の映画。はい。
Netflixで「さようなら、コダクローム」を観よう???♂? https://t.co/NAjI8gAsxb pic.twitter.com/Seb2Vxu5I2
— ??Jimmie Soul?? (@Jimmie_Soul) 2018年5月1日
(町山智浩)これ、「コダクローム」ってわかります?
(山里亮太)わからないです。
(町山智浩)わからない? ノーアイデア? 全然わからない?
(赤江珠緒)イエス。
(町山智浩)ワーオ!
(赤江珠緒)コダクローム?
(町山智浩)コダクロームっていうのはフィルムのことなんですよ。
(赤江珠緒)ああ、コダックの?
(町山智浩)でもまあ、知らなくてもしょうがないなと思うのは、製造を中止してからもう10年近くたっているんですよ。2009年に製造を中止したんですね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、ただこれは僕にとってはもう非常に思い出深いフィルムなんですね。僕が働き始めたのって、大学を出てすぐに編集部で働き始めたんですけども。大学にいたころからなんですけど、出版関係だったんですね。僕、編集者だったんで。で、コダクロームっていうのは出版用の印刷物用のフィルムなんですよ。
(赤江珠緒)ああ、それで。なるほど。
(町山智浩)はい。いわゆるポジフィルムっていうやつで、スライドで上映したりするのもあるんですけど、主に印刷用のカラー写真はこれで撮られるんですね。だから東京には現像所が千駄ヶ谷のところにあって。そこが駅から遠いんですよ。千駄ヶ谷の駅からずっと歩かなきゃならないんですよ。で、僕はその頃、出版社の下働きというか編集者のいちばん下っ端だったので、よく歩いて持っていきましたよ。フィルムを持って。
(赤江珠緒)ふーん! じゃあ、思い出の品だ。コダクロームは。
(町山智浩)そうなんです。すごく思い出が深いフィルムなんですね。いまはもうデジタルになってしまってなくなってしまったんですけども。で、コダクロームってすごくロックファンや音楽ファンにはまた思い出深いものなんですよ。サイモンとガーファンクルという……それは知っていますよね?
(赤江珠緒)はいはい。
(町山智浩)『The Sound of Silence』とかの。そのサイモンとガーファンクルが『僕のコダクローム』という歌を歌ってヒットしたことがあるんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)ちょっと聞いてもらえますか?
『僕のコダクローム』
(町山智浩)はい。これがサイモンとガーファンクルっていうか、ポール・サイモンが歌っているんですけども。ポール・サイモンの『僕のコダクローム』という歌なんですけども。
(赤江珠緒)軽快でなんかいいですね。
(町山智浩)ポール・サイモンがこれを歌った時、結構衝撃的だったのが「コダクローム」という商品名が歌の中に入っていることなんですよ。タイトルになっている歌なんですよ。だからこれ、レコードのタイトルに「(C)」がついているんですよね。すごく珍しい歌ですよ。昔、ピンク・レディーの『UFO』にも「(C)東北新社」って入っていましたけどね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)焼きそばUFOにも入っていたの、知ってます? 「(C)東北新社」って。『謎の円盤UFO』っていうテレビ番組で東北新社がそれで商標を取ったんで「UFO」って使う時には東北新社の商標が入っていたんですけど。まあ、それはいいや(笑)。で、この『僕のコダクローム』っていう歌でポール・サイモンはこういうことを歌っているんですね。「夏の緑の発色がとても美しいんだ。太陽の輝きがきらめいていて、僕はニコンのカメラを手に入れて……」ってここでも「ニコン」っていう商品名が出てくるんですよ。で、「写真を撮りまくっているんだ。だからママ、お願いだから僕のコダクロームをどこかへ持って行かないでくれ」っていう歌なんですね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、1973年にこれが歌われた時は「ポール・サイモン、そんなもの持っていかないよ」って思ったんですけど、本当に持っていかれてなくなっちゃったんですよ。このコダクロームというフィルム自体が。製造中止になりましたから。
(赤江珠緒)ああ、製造中止になったということか。はいはい。
(町山智浩)この映画はね、その製造中止になって現像を誰もしなくなる頃の話なんですよ。で、2010年にとうとう最後の現像所、カンザスにあったところが現像をやめちゃったんですよ。でも、じゃあこれまでフィルムを持っていて現像をしなかった人はどうするのか?っていうことなんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)そこに殺到したわけですよ。もうラストチャンスだっていうことで。そのお話なんですが、これは主人公はマットという中年の音楽プロデューサーなんですね。で、これを演じるのはジェイソン・サダイキスという、この人は元コメディアンなんですけども。最近だと『シンクロナイズドモンスター』でとんでもない嫌なやつを演じていた人ですが。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)この人のところにある日、すごく美しい女性がやってきて。その人を演じているのはエリザベス・オルセン……この人は『アベンジャーズ』のスカーレット・ウィッチ(ワンダ・マキシモフ)の人ですね。
(山里亮太)おおーっ!
(町山智浩)それで、「あなたのお父さんがまだ現像していないコダクロームのフィルムをカンザスに持っていくのを手伝ってほしいと言っています」って言うんですよ。で、「あなたは誰ですか?」っていうと、「私はあなたのお父さんの介護士です」と。「なんで俺がそんなことをやらなきゃいけないんだ?」って言うと、「あなたのお父さんはいま、末期の肝臓がんでもうすぐ死にます。彼の最後の願いがまだ未現像のコダクロームを現像することなんです」「そんなの、他の人にやってもらえばいいじゃないか」「『いや、他の人は信用できない。自分で行きたいんだ』と言っているんです。あなたに車を運転して、ニューヨークからカンザスまで彼を連れて行ってほしいんです。それが彼の最後の願いなんです」という風に言われるんですけども。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)その主人公のマットは「そんなの、知らねえよ。俺はやらねえよ」って言うんですね。なぜかというと、そのお父さんは世界的に有名なカメラマンだったんですけども、家庭を放ったらかしにして、めちゃくちゃにして、彼が子供の頃に家を出ていっちゃった人なんですよ。
(赤江珠緒)ああーっ!
(町山智浩)で、お母さんはその後に苦労をして子供を育てて、そのまま死んでいってしまったんで。お父さんを恨んでいて、憎んでいるんで。なんでいまさら死にそうだからって息子のところに来たんだ?っていうことで、拒否をするんですね。ただ、この主人公も音楽プロデューサーなんですけど、ちょっと時代遅れになっちゃっているんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)いま、音楽のアルバムって全く売れないんですよね。いま、音楽業界ってシングルばっかりになっているんですよ。
(赤江珠緒)ああ、曲単体で買ったりしますもんね。
(町山智浩)そう。で、ネット配信がいま中心ですよね。だからもうアルバムをしっかり作って世界を作るというような古いプロデューサーがお払い箱になっているんですよ。で、彼は「古い」って言われて、アーティストもいなくなっちゃって、レコード会社から首になりそうなんですね。そこで、向こうの弁護士が出てきて、自分のレーベルから抜けていくというバンドを説得することができるから、その交換条件としてお父さんを連れて行ってくれっていう風に言われるんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、このお父さん……エド・ハリスという俳優が演じているんですけども。この俳優さんは『ウエストワールド』というテレビシリーズで残虐の限りを尽くす黒服の男を演じている人で。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)あと、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』ではものすごい殺し屋とか。最近だと『マザー!』っていう映画ではとんでもない暴力的な……いつも暴力的なオヤジの役ばかりやっている人ですね。この人は。キチッとした役の時も多いんですけども。『アポロ13』の科学者のように。ただ、この人はものすごく怖い人なんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)そういう怖いお父さんで、まあ暴れて酒を飲んでそこらじゅうでエッチをしてっていう、もう最低オヤジだったんですね。ただ、世間的には「素晴らしいカメラマンだ」って言われているんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、主人公だけがこのお父さんを最低だということを知っているんですよ。でも、しょうがないから車に乗って旅に出るんですよ。仲の悪い父親っていうか、もう何十年も会っていない父親とね。で、これはいわゆるロードムービーっていうやつで……アメリカ映画ってひとつのジャンルでロードムービーっていうのがあるんですよ。それは誰かがなにか仕事で失敗した時に旅に出てゼロからやり直して生まれ変わるという話なんですよ。
(山里亮太)はいはい。
ロードムービー
(町山智浩)いっぱいあるんですけど、ジョン・ファヴローっていう監督兼俳優の人が出た映画で『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』っていう映画がありましたね。ハリウッドで最高級のレストランのシェフだった人が大失敗をして、それでゼロからやり直してアメリカを横断しながらフードトラックでもう1回修行をし直すという話だったんですけども。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)アメリカは広いから、なにか失敗したり離婚したり会社を首になったりした時にアメリカ大陸を横断することで生まれ直すっていう物語のひとつの典型があるんですよ。
(赤江珠緒)なるほど。新天地を目指すみたいなのがね。なるほど。
(町山智浩)これがすごくアメリカの伝統で、日本にはこういう話っていうのはあんまりないんですよね。旅に出ていくほど広くないからっていうのもあるんですけども。もうひとつは、アメリカ人にとって旅で生まれ変わるっていうのは実は先住民の時からの伝統なんですよ。
(赤江珠緒)へー。
(町山智浩)アメリカ先住民とかオーストラリアのアボリジニもそうなんですけども、成人する時にかならずたった1人で荒野に旅に出るんですよ。で、荒野でたった1人で苦労して、苦しみもありながらもそこの中で自分が本当に目指すものを掴むんですよ。自分自身を見つめ直すことになるから。
(赤江珠緒)一皮むけるための旅というのがあるんですね。
(町山智浩)そうなんです。これが非常にアメリカの伝統の中にあって、そういう話なんですね。この行き場を失ってしまった音楽プロデューサーが生き直すために死につつある父親と2人で旅に出るという。
(赤江珠緒)でも、長旅で何をしゃべっていいのか。最初は……。
(山里亮太)ねえ。仲が悪いしね。
(町山智浩)仲が悪いし。しかも、おじさん(お父さんの弟)の家に行くんですけども。そこが実は自分の育った家なんですよ。主人公が。で、実はそのおじさんが親代わりになって自分の面倒を見てくれたんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、そこにちょっと立ち寄るんですけど、そこで発覚するのはそのおじさんの奥さんもお父さんがやっちゃっていたんですね。
(赤江珠緒)ええっ!
(町山智浩)ヤリまくりなんですよ。
(赤江珠緒)ちょっと! ちょっとちょっと! ええっ!
(町山智浩)そう。そういう人間なんですよ。で、もうどんどん仲が悪くなったりしていくんですけど。その一方で、この主人公がなぜ音楽プロデューサーになったのか? なぜ音楽が、ロックが好きになったのか?っていうことがだんだん思い出してくるんですよ。「お父さんが聞かせてくれたからだ!」って。嫌いなんだけど、自分を作ったのは、自分に種をまいたのはお父さんだったんだってことがわかってきたりするんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)そういう非常に、ひとつの旅の中で1人の人生を生き直す、いい映画なんですよ。で、まあすごいいいセリフも出てきて。「いまは人類が人類史上もっともたくさんの写真を撮っている時代なんだ」っていう言葉が出てくるんですよ。
(赤江珠緒)ああ、たしかにね。
人類史上もっともたくさん写真を撮っている時代
(町山智浩)いまはもう、すごいでしょう。女の子なんか特にそうですけど。ものすごい量の写真を撮っているじゃないですか。こんな時代って、かつてないですよ。
(赤江珠緒)いままではね。本当にアルバムなんかできないですもんね。量が多すぎて。
(町山智浩)そう。すごい量を撮っているから。「でも、すごい量を撮っているけども、これは残らないんじゃないか?」って言うんですよ。それこそ何百年かたって、遺跡とかそういうところに何も写真が残っていないんじゃないか?って。たとえば南北戦争とか明治の写真って残っていますよね。明治維新の時とかの。そういう形では残らないんじゃないか?っていう話をするんですよ。
(赤江珠緒)多すぎて、価値がね。
(町山智浩)価値がない。そう。価値がなくなってきているんです。ひとつひとつが。で、それは写真の話をしているんだけども、音楽プロデューサーの彼にとっては音楽の話でもあるわけですよ。1曲1曲がバラ売りされていくような状況で歌って残るんだろうか? ちゃんとした作品になるんだろうか?っていう、そういったことがいろいろと問われていく映画なんですね。
(赤江珠緒)じゃあちょっと大量消費みたいなことにも疑問符を投げかけているところもあるんですね。
(町山智浩)そうなんですよ。ただね、僕自身は別にそこの部分じゃなくて、すごく涙が止まらなかったんですね。見ていて。というのはこれね、この親父は僕の親父そっくりなんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)うちの親父はそういう親父でしたね。
(山里亮太)破天荒なというか、波乱に満ちた……。
(町山智浩)そこらじゅうに母親が違う兄弟が僕、いるんですよ。
(赤江・山里)へー!
(町山智浩)すごいいっぱいいて。
(赤江珠緒)町山さんはそのお父さんと会話とかはされました?
(町山智浩)僕、30年ぐらい会っていなかったですよ。もっとかな? 14ぐらいの時に親が離婚して。で、最後に会ったのが親父が82で死ぬ1ヶ月前ですよ。その間、1回も会っていないですよ。だから全くこれと同じ話なんですよ。で、「ガンで末期なので会ってください」って、最後の奥さんの方から連絡があって。「会いたいって言っているから」ということで会いに行ったら、もう末期だったんですよね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だからすごくそっくりなんで。もう、たまらない映画でしたね。これはね。
(赤江珠緒)でも現実のお父様も町山さんのご活躍とかを見て、お会いしたいという感じだったのかな?
(町山智浩)それはわからないですけど。ただやっぱり思ったのは、僕は映画について話すんですけど、親父に会って思い出したのは、親父が見てきた映画の話をする人だったんですよ。
(赤江・山里)ああーっ!
(町山智浩)「こんな話なんだ。こうなってこうなって、こうなるんだ」ってものすごくそれが面白かったんですよ。だからそこから始まったんだなっていうのを思い出したんですよね。だからもう全然、それこそ何の影響も受けていないし、育ててもらっていないし……って思っていたんですけど、そうじゃなかったんだっていう。だからね、もう全然この映画は普通の映画なんですよ。はっきり言うと。ものすごい芸術作品とかじゃないんですよ。この『さようなら、コダクローム』っていう映画は。ただね、人それぞれにヒットするものは違うんだなって思いましたね。僕はもうたまらなくて、ずっと号泣して見ていましたね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だから、そういうことがない人にはなんだかわからない映画かもしれないですけども。
(山里亮太)「親子で長旅してるな」ぐらいに。
(町山智浩)そうですね。でもね、コダクロームというものはもうないんですよね。で、あとこれ実はそのお父さんが現像をしようとしていたフィルムは何なのか?っていうことですよ。
(赤江珠緒)そうですね。それが気になるね。うん。
(町山智浩)それを見た時、もう涙が止まらなかったですね。もうね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)僕もね、親父をずっとすごく憎んでいましたよ。だって家を放ったらかしだったし、お金も入れなかったからね。で、どこかに行っちゃって連絡も来ないから。全く連絡が来ないから、別に僕のことを本当に全くどうでもいいと思っているんだなと思ったんですよ。そしたら、亡くなった後、焼き場に行く時には日本に帰ってきて行ったんですけども。その時、最後の奥さんが「最期、ガンで朦朧とした時に呼んでいたのはあなたとあなたの妹さんの名前でしたよ」って言ったんですよ。
(赤江珠緒)へー! そうか……。
(町山智浩)そういうこともあるなと思いましたね。いろいろと。はい。という、全然個人的に……ただ単に個人的に感動した映画『さようなら、コダクローム』でした。Netflixですぐに見れますので。
(赤江珠緒)ねえ。そういう、人生そのものみたいな今回の映画ですね。そうか。
(町山智浩)はい。ということで、来週はスタジオの方にお邪魔しますんで。よろしくお願いします。
(赤江珠緒)そうですね。今日は町山さんに『さようなら、コダクローム』をご紹介いただきました。Netflixで現在公開中ということで。すぐに見ることができますので、よかったらぜひご覧ください。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました!
(町山智浩)はい。どもでした。
<書き起こしおわり>
たまむすびで言い忘れました。『さようなら、コダクローム』は35ミリのコダックのカラーフィルムで撮影されましたが、劇場では上映されることなく、Netflixでの配信公開になりました。でも、色の美しい映画です。
— 町山智浩 (@TomoMachi) 2018年5月1日