町山智浩さんが2020年10月6日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『はりぼて』について話していました。
(町山智浩)でね、今日は実は今週末に公開される映画で『わたしは金正男を殺してない』というドキュメンタリー映画……イメージフォーラムで公開される映画を紹介しようと思ってたんですが。思ったんですが、それより先にやらなきゃなんないのがあって。渋滞状態になっていて。まあ、嬉しいんですけどね。今まで映画がなかなか公開されなかったんでね。で、ちょっとそっちから先に紹介しなきゃならないので。『わたしは金正男を殺してない』は来週話しますが。今週末に公開です。これはあの金正男暗殺事件の実行犯だと女の子たちがいたでしょう?
(山里亮太)はいはい。マレーシアかなんかの。
(町山智浩)そうそうそう。あの子たち、どうしちゃったの?っていうドキュメンタリーなんですよ。みんな、利用されたってことは知ってるけど、その後って知らないじゃないですか。彼女たち、死刑になりそうになっていたんですよね。それがどうなったか?っていうドキュメンタリーで。これはすごい強烈はドキュメンタリーなので、それはちょっと来週お話します。でも映画は今週公開なのでぜひ見てください。
(町山智浩)で、今日はちょっと前にやらなきゃなんなくて。僕、知らなくて……最近、「知らない」っていうのが多いんですよ。日本映画でなにを公開されているのかがわからなくて。それで『はりぼて』という映画を紹介したいんですけども。これはもう随分、公開されてから経つみたいなんですが。僕、全然知らなくて。ただ先週ですね、やっぱりえすごく遅れて紹介した映画で『なぜ君は総理大臣になれないのか』っていう映画を紹介したんですが。
(町山智浩)あれについて僕、すごく大事なことを言い忘れたんですよ。それはですね、あの映画は小川淳司議員という香川県の国会議員さんが真面目すぎる人なんですけども。その人が自宅でご飯を食べるシーンが一番いいんですよ。あの映画の中で。そこにね、この人はなぜ総理大臣になれないのかがよくわかるというシーンなんですけれども。それね、彼は娘さんが2人いて。親子4人で家賃4万7000円の2DKのアパートに住んでるんですよ。今も。4万7000円ですよ? で、ご飯を食べるんですけれども。それがおかずがね、揚げなんですよ。
(赤江珠緒)お揚げ?
(町山智浩)お揚げ。お揚げをただ焼いただけのものを食べるんですよ。いわゆるステーキとか、3000円のパンケーキとか、そういうものじゃないんですよね。で、この人はそれを「おいしい、おいしい!」って言って食べるんですよ。「毎日食べてる」って言っているんですけども。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)そのシーンがすごくよかったっていう風に番組で言えなかったからTwitterで言ったら、「どこがいいのかが分からない」っていう反応が返ってきたんですよ。「それのどこがいいの?」って。で、それで紹介したい映画が今回の『はりぼて』という映画と、あともう1本。『世界でいちばん貧しい大統領』という映画。その2本をぜひ紹介したいなと思ったんですね。そのつながりで。
町山智浩 アメリカ流れ者#tama954
-はりぼて-
富山市議会の議員の不正から全国一厳しい条例を制定したが、今は不正が発覚しても辞職しない政治家が富山ならず全国に広がる。
ムヒカ大統領と同じ"政治家"とは口が裂けても言いたくない強欲な議員を生み出しているのは、やはり有権者の無関心。 pic.twitter.com/Rbf08thQ5S— ノビータ (@yugo1990nobu) October 6, 2020
で、まず『はりぼて』という映画はドキュメンタリーで。これは富山県にあるTBS系のテレビ局でチューリップテレビというかわいい名前のテレビ局があって。そこが作った映画なんですけども。これも僕、知らなくてね。これは畠山理仁さんというジャーナリストの方が書いてるのを読んで知ったんですよ。この人、ほとんどマスコミに注目されない地方議員……地方市議会とか区議会とか、そういった人たちを取材しているジャーナリストなんですね。畠山さんは。その人がこの映画について書いていて。
この『はりぼて』というのは富山市議会で2016年に次々に起こった汚職事件を追ったドキュメンタリーなんですが。そういうと、なんかすごく重々しい感じがするじゃないですか。これね、そうじゃなくて。コメディーなんですよ。
(山里亮太)ドキュメンタリーなのに?
(町山智浩)ドキュメンタリーなのに、コメディーなんですよ。だから音楽は、なんていうか「ポン、ポポポン、ポン♪ スッポコポンポン、ピンピョロポーン♪」っていう感じの音楽なんですよ。
(赤江珠緒)あら、とぼけた感じで。
(町山智浩)そう(笑)。ずっこけ音楽なんですよ。それがずっと流れるという映画なんですが。これ、なにがあったかというと、まず2016年にその富山市議会の議員たちが「議員報酬を月に10万円、上げて年収を1160万円にする」という議案を出すんですよ。で、富山市議会の市議……40人いるらしいんですけども。その7割を占める自民党会派の人たちが出した議案で、「俺たちの給料を上げろ」っていうものなんですね。それで、そのリーダーは中川勇さんっていう人なんですけども。
で、これをこれを彼ら、議会の7割を占めてますから。自分たちの議案を通しちゃうわけですね。議決しちゃうわけですよ。すごいですよね。「給料を上げろ」っていうのを自分で出して自分で通しちゃうっていうね。で、1160万円ってすごいんですよ。これ、富山県の平均年収って447万円なんですよ。倍以上ですよ。で、「これはおかしい」ということになって、このチューリップテレビの人たちが取材するんですね。
で、この映画の監督はこのチューリップテレビの取材をした取材記者であり、キャスターである2人なんですよ。で、この人が監督もやってるんですけども。この人、名前がね、いいんですよ。五百旗頭(いおきべ)さんっていうんですよ。五百旗頭幸男さんっていうんですけども。これ、あれですよね。『重版出来!』でオダギリジョーさんが演じてた、イケメンの編集者の名字だよね?
(赤江珠緒)そうだ! 五百旗頭さんだ。うん。
(町山智浩)まあ、こっちの五百旗頭さんもイケメンなんですが。その人ともう1人、砂沢智史さんっていうキャスターで記者の人がですね、チューリップテレビで追求をしていくんですけども。それで彼ら、市会議員は「お金が足りない」って言うんですよ。ところが、その給料と別に彼らは毎月15万円を受け取っているんですよ。これは政務活動費ということで、政治的な活動する時の経費として15万円を毎月もらっているんですね。それも年間だと結構な額になるわけですよね。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)で、その政務活動費がちゃんと使われているのかどうか、市の方に情報公開ということで、その市会議員の領収書とかを出してほしいって請求するんですね。そうすると、それを市は出さなきゃならないので。で、その出てきた領収書をチェックしていくと、なんかおかしいんですよ。市の公民館とかで彼らは市政報告会をやっていて。そのためにパンフレットを刷っている。その印刷代とかの経費が計上をされているんですけども、調べてみるとその公民館を使ってもいないし、そのパンフレットも刷っていないんですよ。
(赤江珠緒)ああ、ありましたね。
(町山智浩)それでまず、この「自分たちの給料を上げろ」っていう議案を出した一番のリーダーの中川さんという議員がそれで辞職をしまして。そこから次々と、この議員の定数が40人のうちのなんと14人がたった半年の間に次々と辞職してくという事態になっていくわけですよ。
(赤江珠緒)富山で。ありましたね。
半年で40人のうちの14人が議員辞職
(町山智浩)たくさんの人がやっていたんですね。それで結局、「申し訳ない」っていうことで「給料を上げろ」って言っていたことも撤回するという事態になっていくんですよ。で、それがあまりにも次々と起こるんで。やっぱりこれは背景の音楽は「ポン、ポポポン、ポン♪ スッポコポンポン♪」っていうのしかないんですよ。
(山里亮太)滑稽だと。
(町山智浩)間抜け。もう本当に間抜けなんですよ。だって空っぽの領収書を印刷所に出させて。そこに勝手に額を書き込んだり。ひとつの額面があると、それに1ケタ増やしたり。たとえば「20万円」だとそこの一番頭のところにさらに「2」を書いて「220万円」にしたりしていたんですよ。この人たちは。
(赤江珠緒)そうか。白紙の領収書を出したり。そういうことだ。
(町山智浩)そう。ただね、これで一番問題なのはものすごく雑だったんだけども、それを誰も調べなかったっていうことですね。それと、市に対して情報公開を請求したら、市が議員たちにそのことをチクっていたんですよ。「情報公開請求されたので、公開しましたよ。ヤバいですよ」って。それで証拠隠滅を促していたんですよね。市が。市と市議会がグルだったんですよ。
(赤江珠緒)ええっ!
(町山智浩)はい。で、まあひどいことが行なわれているんですけども。で、彼らは給料が1000万円ぐらいで、みんなでも地方の市議会とか区議会って1000万ぐらいなんですよ。給料が。ところがですね、これ畠山さんはいろんなところで取材して書いてるんですけども。畠山さんしか知らないことですけども。今、日本中のえ地方の市議会とか区議会ってどこもこんな感じなんですよ。
しょっちゅう問題が起こるじゃないですか。あの泣き真似議員とかもいましたよね。あれね、そこらじゅうでああいうことが起こっているんですよ。もちろん、それだけじゃなくて。このレベルのことって都知事ですらやらかしているじゃないですか。ねえ。猪瀬さんとか舛添さんとかがこういうことをやっていたでしょう?
だからこれ、この『はりぼて』というのは日本の縮図なんですよ。全ての場所でこういうことが行なわれているんですよ。日本は。めちゃくちゃなんです。で、なぜこんなことになるかというと、まずその市とか地方議会レベルで言うと、何票を取れば議員になれて年収1000万円がもらえるようになると思います? 区でいいですよ。
(赤江珠緒)区で? やっぱり数万は取っている?
(町山智浩)区議会議員。当選すれば年収1000万円です。それにプラスして経費ですよ。何票ですか?
(赤江珠緒)1万5000票?
(町山智浩)2000票!
(赤江珠緒)2000?
(町山智浩)2000で議員になれちゃうよ。
(赤江珠緒)うわっ、2000ってもう学校レベルの……大きい学校の生徒会ぐらいな。
(町山智浩)YouTubeとかTwitterでやっていて、そのビュウワーの数よりも遥かに少ないですよ。誰も議員になろうとしないから、今は誰でもなれちゃうんですよ。
(山里亮太)僕らも悪いんですけど、気にしてないですもんね。
2000票取れば議員になれる
(町山智浩)その通り。気にしていない。どうでもいいと思っているんですよ。市議会とか区議会って。もう区議会とか市議会の議員って今、クズばっかりなんですよ。
(山里亮太)この『はりぼて』の中だけじゃなくて?
(町山智浩)金儲けだけが目当てでなったような。で、そこに入ってきたのがNHKから国民を守る党とかですよね。彼ら、YouTubeの視聴者っていうのは10万とか軽く行っちゃうじゃないですか。その力があれば、数千の票を集めるのは簡単だっていうことに気づいちゃったんですよ。それで一気に地方議会にバーッと彼らは議員を送り込んだんですよ。みんな、知らないから。関心がないからそんなことになっちゃうんですよ。
で、市議会、区議会って年間の仕事がほとんどないです。議会ってそんなに数、開かれてないんですね。なにが行われているのかもみんな、知らないんです。で、最近、足立区議会で問題になっているのはそのLGBTの人に対する差別的な発言を区議会議員が言って。それが問題になっているんですが今、区議会ってどこの区にもかならず、そういう差別議員がいて。区議会でものすごい差別を連発してるんだけど、誰も気がついていないんですよ。
(赤江珠緒)そうですね。足立区のやつはね、さすがニュースになってますけどね。
(町山智浩)葛飾区とかもにいます。豊島区にもいます。で、彼らは本当だったらとても許されないような差別的な言葉を吐いているんですけれども、誰も知らないんです。2000票とか3000票で議員になれちゃうからです。それで1000万円もらっていて。誰も知らない。そういう事態なんですよ。でも、さっき言ったみたいに都知事レベルでも、国会議員レベルでもやっていますから。もう全部、これは政治に関心がないからこんなことになっちゃっているんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、もう1本の映画なんですが、それが『世界でいちばん貧しい大統領』という映画なんですが……。
<書き起こしおわり>