町山智浩 映画『親愛なる同志たちへ』を語る

町山智浩 映画『親愛なる同志たちへ』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年4月5日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でロシア映画『親愛なる同志たちへ』を紹介していました。

(町山智浩)アメリカではですね、今日のニュースは結構ウクライナのニュースばっかりだったんですよ。というのはブチャという町でロシア軍が撤退して。で、そこに入ってみたらウクライナの一般市民たちが手を後ろに縛られた状態で射殺されている死体が300ぐらい出てきたんですね。

(赤江珠緒)そうそう。日本でも結構それは報道されてますね。

(町山智浩)で、今までNATOとかアメリカとか、ウクライナっていう国自体もね、ある程度ロシアと交渉して停戦するということは考えられていて。特に問題の発端になった東部のドンバスという地区があって。そこがロシア系の人がいっぱい住んでるんで、2014年に彼らが独立しようとしてウクライナ政府に対して反乱を起こして。それにロシア軍が介入したってことが一番最初の発端であって。今回もそこに住んでるロシア系住民たちを保護するみたいなことで、なぜかロシア軍が全然離れた首都の方にも入り込んだんですけどね。

で、そのドンバスのあたりをどうするか?っていうことになったわけですけど……この虐殺を見ちゃうとウクライナ人が住んでる地域をロシア側に占領されたまま停戦することは不可能に近いっていうことがわかってきたんですね。そこに住んでいるウクライナの人たちはたとえ民間人であって、完全にロシアに対して降伏したとしても皆殺しにされちゃう可能性が出てきたんで。簡単には停戦ができなくなったんで。まあ、アメリカはそのニュースばっかりなんですが。

(赤江珠緒)本当にひどい映像が届いてますもんね。

(町山智浩)ロシアが命令してやってるっていうか、現場の方の指揮ができなかったんじゃないか。統率が全然取れてないんじゃないかとか、いろんな説がありますけどもね。ただ、実はこれは今に始まったことじゃないんじゃないかっていうことを考えさせる映画がちょうど日本で公開されるんですよ。続けて。それを今日は紹介します。1本目は4月8日……だからもう3日後に公開の映画なんですが。『親愛なる同志たちへ』というタイトルのこれ、ロシア映画です。これね、見てびっくりしたんですけど。一番最初にいきなりね、ロシアの国の国旗がバーン!って出るんですよ。で、「製作:ロシア文化庁」って出るんです。国策映画なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、ロシアが作っている映画なんですか?

(町山智浩)作っている映画。それでロシアね、国歌が流れるんですよ。それで「うわっ、これは引くな……」って思って見たんですけども。これはね、ロシアの巨匠でアンドレイ・コンチャロフスキーっていう監督がいて。今、84歳なんですけども。この人は黒澤明さんの脚本を元にしてハリウッド映画の『暴走機関車』っていうアクション映画を撮ったりしている人なんです。世界的監督なんですけどね。で、この『親愛なる同志たちへ』という映画は1962年。僕が生まれた年ですけども。その6月にソ連の南の町であった事件を映画化したものなんですよ。

で、これはノボチェルカッスクっていう町なんですね。主人公は共産党側の人。その頃、ソ連ですから。共産党のお偉いさんですね。役人さんのリューダさんっていう中年の女性なんですね。これ、演じるのは監督の奥さんなんですけども。で、ここはすごく物資不足が起こっていて、食料がなくなって。もうみんな、「食べるものがない」って困ってるんですけど、このリューダさんだけは共産党のお偉いさんだから、食料店の裏から入ってしっかり肉とかもらえるんですよ。まあ、はっきり言って汚職ですけどね。

だから共産党がいかに威張ってひどいことをしてたかということがよくわかるんですが。で、町の人はもう餓死寸前なんですけど。その店の人が「本当に食べ物とかがなくて困ってるんですよ」とか言うと、そのリューダさんは食べ物をもらってるくせに「ロシアが飢えるわけがないでしょう? そんなことを言うと逮捕するわよ!」とか言って、すごい圧力をかけるわけですよ。その頃、ソ連は国の悪口、共産党の悪口を言ったらもうみんな逮捕されて、殺されちゃう世界だから、誰も逆らえないんですね。

ただその頃、ちょっと状況は変わっていって。1953年までスターリンという独裁者がロシアでは威張って、人を殺しまくってたわけですけども。この人が1953年に亡くなったんで、その後継者である指導者のフルシチョフという人が「スターリンはひどかった」と言って。「もう少し自由にする」って言ったんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それでロシアがちょっと自由になったんですよ。ちょっと民主的になったんですよ。その時代、民主化時代を「雪どけ時代」って言うんですね。で、雪どけ時代になったんで少し自由になってるんですけど、まあ物資とかがなくて苦労していて。ただ、少し言論の自由が出てきたんで、それに対して電気機関車を作っている工場でストライキが発生するんですよ。これはですね、物資が不足してるのに物価はどんどん上がって。物価は上がるんだけど、全然賃上げされないという、なんか今の日本みたいな状況ですけど。ただ、日本と違ってロシアの人たちは言論が自由になってるから、みんな怒ってストライキをするわけですよ。で、それに対してこのリューダさんたち共産党員はそれを抑え込みに行くんですよ。そこに行って。

で、抑え込むんだけど、もうどうしようもないんで。それで軍隊を呼んで、それを押さえつけようとするんですね。労働者たちのストライキを。そうすると、今度は労働者たちは赤旗を立てて。つまり、ロシアの国旗を立てて。「私たちは労働者だ! 立て、万国の労働者!」って歌い出すんですよ。つまり、「ソ連っていうのは共産主義の国で労働者の国だ。だから我々は労働者として、労働者の権利を主張する。これは非常に正しい愛国的な行為なんだ」ということで、ソ連の真っ赤な国旗を掲げて労働運動をするんです。「これなら手を出せないだろう」と思うわけですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)ところが、平気で軍はそれを射殺するんです。無差別射撃するんですよ。

(赤江珠緒)うわあ……。

(町山智浩)ここがね、すごいんです。これ、コンチャロフスキー監督の演出テクニックで。その虐殺のシーンをね、美容室の中から撮ってるんですよ。パーマ屋さんね。で、窓ガラスが広いから、その窓の向こうではものすごいことが行われてるんですけど、音が一切、画面のこちら側には聞こえないんですね。それで、美容室の中でラジオが聞こえるじゃないか。昼の番組の、結構陽気な。その音楽に合わせて、ものすごい虐殺を見られるというね。

(赤江珠緒)じゃあ、本当にもう日常の中で突然起きてるっていうことですね。

(町山智浩)そうなんです。まあ、すごいシーンでね。これはすごい演出力だなと思いましたが。

(赤江珠緒)でもこれ、よくロシアの文化庁が作りましたね?

ロシア文化庁製作

(町山智浩)ねえ。これね、この虐殺は……プーチンはこの虐殺を認めて、この虐殺を慰霊する式典まで開いてるんですよ。つまり、これは前の政権。共産主義政権がやった悪事であって、我々はそれを批判するという立場を現在のロシアは取ってるんで。だからロシアは国としてこの映画を製作しているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

(町山智浩)そうなんです。でもね、今、またやってるわけですよ。だからね、自分のことは見えないんだなっていう気がしますね。すごく。で、この映画が怖いのは、その虐殺シーンよりももっと怖いのは、すぐにソ連共産党がこのことをなかったことにしちゃうんですよ。

(赤江珠緒)なかったことに?

(町山智浩)というのは目撃者とか関係者を次々と逮捕して、どこか行方不明になっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)で、このリューダさんの娘が16歳なんですけど。その騒乱に巻き込まれて、行方不明になっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)えっ、この共産党員の、そっちの立場だったのに?

(町山智浩)そう。娘がいなくなっちゃうんですね。で、それなのに事態はどんどん解決されていって。「大した事件じゃなかった」ってことに……すごい人は死んでいるんですけども。それをなかったっていうことにして、その虐殺自体はソ連の歴史から消えて。実は最近まで、なかったことになっていたんですよ。

(赤江珠緒)怖い、怖い、怖い……。そんな、なかったことにできちゃう?

(町山智浩)全てなかったことしちゃうんですよ。記録とか、全部消しちゃって。関係者も全部行方不明になっちゃうから。まあ、死んじゃうんですけども。だから今でも、正確な死者数とかがわからないんですよ。そういうね、怖い話で。これね、言っていいと思うんですけど。この映画の中で、悲劇的なんですけども……「でも、いい世の中になるよ」っていう言葉が出てくるんですよ。だけど、ならないんだよね。怖いなと思いましたね。その言葉はすごく虚しく響く映画なんですけど。

(赤江珠緒)うんうん。

『親愛なる同志たちへ』予告編

(町山智浩)それで、もうひとつの映画がね、これはそのもの『ドンバス』っていうタイトルの映画で。これね、5月21日に東京のシアター・イメージフォーラムっていうところで公開されるんですけども。これ、そのものずばり、2014年にウクライナから独立しようとしたロシア系の住民がすごく多いドンバスが舞台なんですよ。

<書き起こしおわり>

町山智浩 映画『ドンバス』を語る
町山智浩さんが2022年4月5日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ドンバス』を紹介していました。
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