DJ松永 D.L(DEV LARGE)『Crates Juggler』を語る

DJ松永 D.L(DEV LARGE)『Crates Juggler』を語る サウンドクリエイターズ・ファイル

DJ松永さんが2020年9月6日放送のNHK FM『サウンドクリエイターズ・ファイル』の中でD.L(DEV LARGE)『Crates Juggler』について話していました。

(R-指定)引き続き私、R-指定とDJ松永のルーツをお話していきます。続いては高校時代です。

(DJ松永)高校時代ね。

(R-指定)松永さん、高校時代も一応サッカーはやっていたんですよね?

(DJ松永)いやー、高校時代が一番苦しかったかもな。部活に関しては。中学校時代もさ、苦しかったけど。

(R-指定)はい。

(DJ松永)中学校は……まず、ちなみに私、高校に落ちました。

(R-指定)おおっ、いいねえ。この後に話すけど、俺も一発落ちた。

(DJ松永)ああ、いいねえ! 見どころ、あるね!

(R-指定)自分、見どころあるやん?

(DJ松永)かわいいところ、あるやん?(笑)。いや、そうなんですよ。

(R-指定)じゃあ、一発落ちて。

(DJ松永)そうそう。高校に落ちまして。それで滑り止めの高校に入るんですけれども。その中学校のサッカー部はそんな弱い部活じゃなかったんです。弱い学校じゃなかったんです。そこそこ、県大会に行くか行かないかぐらいの。県大会の上位には行かなかったけどね。そういう部活だったんですよね。で、高校は部活が弱かったんですよ。部活に……中学サッカーにいい思い出がないから、サッカー部には入らない予定だったんだけども、入った学校の部活のサッカー部がどうやら弱いっていうことを聞いたら「ああ、初めてサッカー部でいい思いができるかもしれない」と思って。

(R-指定)ああ、それ……なるほど(笑)。

(DJ松永)やっぱり、もう滑り止めで入った学校だから。その学校に通うためのモチベーションが全然上がらなかったんですよ。でも、「サッカー部でデカい面をできる」って思ったら「ああ、この学校に通う意味があるかも」って。実は初めて、そこで出てきたんだよね。

(R-指定)へー。俺、それ初めて聞いた。サッカー部でデカい面っていうことは、もう学校を支配できるっていうことやから。正直、高校で。

(DJ松永)で、やっぱり中学校の時っていうのは下手だったんで、下手なりの地味なスパイクを履いたり、地味なソックス、地味なエナメルバッグを買ってたんですよ。上手いやつじゃないと、ヘアバンドとかリストバンドだったり、もうピカピカのナイキの派手なスパイクとか履けないんですよ。それは上手いやつの特権ですから。だから俺は、高校になったらもう急に派手なエナメルバッグにして(笑)。

(R-指定)おお、行ったれ、行ったれ!

(DJ松永)プロ仕様のスパイクに身を包み……。

(R-指定)行け、行け!

(DJ松永)もうガンガン……なんかもうめちゃめちゃ、誰よりもデカい声を出すみたいな。なんかすごいデカい面ができてすごい気持ちよかったんですよ。

(R-指定)ああ、最初の方というか?

(DJ松永)そう。ほとんどね、やっぱり想定通り、新入生の半分ぐらいは初心者だったんですよ。中学までサッカーをやっていない人だった。すげえ最初、気持ちよかったんですよ。

(R-指定)じゃあ最初は結構、トップクラスに上手かった?

(DJ松永)トップクラスに上手い。もうブリバリ。派手なスパイクに違わぬ実力。めちゃめちゃブリバリいわせてたんだよ。最高。でもね、悲しい話し、1ヶ月、2ヶ月と経っていくと……その身体能力のある初心者の方がメキメキ上手くなっていくんだよ。

(R-指定)ああ、せやろ……ああ、聞きたくない!

(DJ松永)もう俺をどんどん越してきて。俺のドリブルが通用しなくなっていき、1年生はじめての練習試合は俺、ベンチで……(笑)。もう最悪だよ。恥ずかしい……(笑)。俺、ピカピカのスパイクを履いて、ベンチだったんだよ? 俺、マジで地獄だったんだから。

(R-指定)聞いてられへん……マジか。

(DJ松永)で、そうなってしまうと、「下手でした。すいません」っていう顔の切り替えがどんどんできなくなってくるんだよ。

(R-指定)それはできへんな。

(DJ松永)できない。上手い面してどんどん肩身が狭くなっていく。

(R-指定)1回、抜いた刀やから収められへんねんな。

(DJ松永)それで俺、どんどんと浮いてくるのよ。で、なんか「触れづらいやつ、ちょっと面倒くさいやつ」って。なんならむしろ、「嫌い」みたいな感じになっていって。それでやっぱり組練習みたいなのがあるんですよ。2人組になってヘディング練習とか、体操をして……みたいなの、あるじゃないですか。あれでどんどんと俺は余り物になっていき、肩身が狭くなっていき。で、「今、1年生の途中でこれっていうことだよな? 俺らが2年生、3年生になっていって、後輩ができた時に俺はどういう面をしたらいいんだ? 全くわかりません!」ってなった時、7年間やっていたサッカー部。「はい、やめます!」ってなって。「やめます! もう嫌です!(ドンッ!)」って(笑)。

(R-指定)なるほど(笑)。

7年間続けたサッカーをやめる

(DJ松永)ということなんですよ。で、それでサッカー部をやめて。それで、時間ができてしまうんですよね。それで、しかも学校に行く理由もどんどんなくなってきたりしたもんですから。それで、時間が余ったから初めてバイトをするんですよ。スーパーでバイトして。結局、それは1ヶ月で辞めちゃうんですけども。7、8万稼いだのかな? 結構バイトして。

(R-指定)お金を貯めて。

(DJ松永)そうそう。それでその時に「何にお金を使おうかな?」っていうのはあんまり考えてなくて。それで、「でも俺、ヒップホップが好きだし」って。それでなんかわかんないけど、「ターンテーブルのセット、安いやつだったらこれで買えるみたいだから、買おうか」ってなって、高校2年生の春ぐらいにターンテーブルを初めて買うんですよね。

(R-指定)なるほどね。

(DJ松永)で、そこからやっぱりどんどん……最初はそんな意思はなかったけれども、lあまりにもすごい楽しいし。自分が中学校の時に現実逃避でNITROとかRHYMESTERとかを聞いていたじゃないですか。やっぱり、「こいつらとは違う大人な世界を俺、知っちゃってるから」みたいな感じで優越感に浸ったり、現実逃避をできたりとか。それで気持ちよくなっていたじゃないですか。

それで助かっていた部分、あるじゃないですか。それで今、その世界に触れられているような気がして。その世界を見ているというよりは、自分の生身の手でターンテーブルに触ることによって、そっちの世界に触れられてるっていう気持ちになって。めちゃめちゃ救われたんですよ。やっぱり部活で学校で結構疲弊した気持ちになっても、それだけですごく楽になったりしたので。そっちに熱中していったんですよ。

(R-指定)なるほどな。それまでは人間関係、学校での生活、立ち位置を気にしてた時の現実逃避やったヒップホップに思いっきり身を任せたんや。全身を。

(DJ松永)生身で触れられたんですよ。はじめて。

(R-指定)最高や!

(DJ松永)そうなっていったら、もう自分が想定以上にのめり込んでしまっていて。結構学校も行かなくなっていって。で、学校をサボってレコードショップとか行ってたんですよ、俺。で、レコード屋の店長に「お前、学校大丈夫なのか?」って言われながら。「まあ、いいんですよ」とか言いながら……。

(R-指定)めっちゃいいやん! なんなん? その映画みたいな……。

(DJ松永)そんなのをしていたんですよ。それで当時、長岡にね。今もあるんですけど。ワンループレコードっていうレコード屋さんがあって。当時は長岡駅の踏切の近くにあったんですよね。今は移転して別のところにあるんですが。そこに通ったりとか。あと、リサイクルショップのハードオフにレコードがあったりするんで。100円レコード。そこですごい他のジャンルのとか、昔の歌謡曲とかジャズのレコードに埋もれてヒップホップのレコードが実はあったりするんですよ。で、お宝のやつを探したりとかして。田舎だけど、レコードショップは全然ないけど、ワクワクしながら、自分のなけなしのお金を持ってレコードショップに通っていた時。その行く道中に聞いてた曲っていうのがあるんですよ。

(R-指定)いいじゃないですか。

(DJ松永)DEV LARGEの『Crates Juggler』っていう……まあ、ここでの名義はD.Lだけどね。『DL presents:THE ALBUM(ADMONITIONS)』っていう作品の。

(R-指定)伝説的なヒップホップグループ、BUDDHA BRANDの。

(DJ松永)そう。BUDDHA BRANDのDEV LARGE。ソロで『ADMONITIONS』っていうアルバムを出したんだけども。その時にはD.L名義で出していて。その『Crates Juggler』という曲。まずは聞いてもらおうか。D.Lで『Crates Juggler』。

D.L『Crates Juggler』

(DJ松永)お送りしたのはD.Lで『Crates Juggler』でした。

(R-指定)これは俺、松永さんがめっちゃ好きって言っていて。そこから改めて意識して聞いたな。元々、普通に音がかっけーなって思っていたけども。

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(DJ松永)音、かっこいいよね。これ、要はレコード掘りの歌なの。「Crates」っていうのは「レコード箱」のことなんだよね。だからもう、曲のラップの入りも「真っ黒、真っ黒、真っ黒、真っ黒 どこもかしこも 外も指も 毎度毎度なこれは出来事 いつもの手を汚す この手の作業 お手の物」っていう。この「真っ黒」っていうのはレコードの黒い円盤。それを掘る。ディグ(Dig)っていうのはレコードを買い漁ることを言うんですけども。「レコードをディグしすぎて、そのレコードの黒い色が手に移って真っ黒だぜ」っていうことなんですね。

(R-指定)なるほどね。

(DJ松永)「ディグり始める時間正午でも 出る頃いつでもミッドナイト」っていう。もうディグり始めたら夢中になって、出る頃には外は真っ暗だぜっていうね。「埃で煙る宝石眠る 中古レコ屋で終える一仕事」っていう。俺がハードオフに行った時に……(笑)。

(R-指定)かっけーな!

(DJ松永)フフフ、そうそう。レコード掘りってかっこいいんですよ。しかもこの人はね、「日本全土 行く先々 街 足運ぶ 鮮度100%なビート ディグる旅に出る 俺は旅人」っていう。この人、全国をDJで回って。その回った土地土地のレコード屋に行って手を真っ黒に汚すわけですよ。で、そこで買ったレコードをレコードバックに入れてまた全国を巡るんですよ。で、その曲をかけて客をうならせ、またそこでもらったギャラでその土地のレコードを掘って自分のストックに入れてまた回るっていう。

(R-指定)かっこいいね!

(DJ松永)こういうのに憧れて俺はレコード買う作業に……本当にやっぱりどれだけ努力してる。たとえばレコードを掘ったり、DJをしてる途中の自分をかっこよく思えるか?っていうのが自分の実力に繋がっていくわけで。っぱりこの曲を聞きながらレコードを掘っている時の俺っていうのは最高に無敵でしたね。

(R-指定)なるほどな! めちゃくちゃいいやん!

<書き起こしおわり>

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