町山智浩 渡哲也を追悼する

町山智浩 渡哲也を追悼する たまむすび

(町山智浩)壮絶ですよ。ただね、どれも非常に純愛だったり、壮絶すぎて悲しい話が多いですよね。聞いてると。でもね、僕にとっての渡哲也さんって、実はそうじゃなかったんですよね。僕が一番好きな渡さんの作品って、『浮浪雲』っていうテレビドラマなんですよ。

(赤江珠緒)ジョージ秋山さんの『浮浪雲』は読んだことありますけども。

テレビドラマ『浮浪雲』

(町山智浩)ジョージ秋山さんも亡くなりましたね。ジョージ秋山さんも在日韓国人の人でしたよ。で、彼の作品の『銭ゲバ』とかですね、『アシュラ』っていうのは「生まれてこなかった方がよかった」とか言って世の中を憎む悲しい男たちの話なんですね。あれはだからジョージ秋山さんの在日としてのつらさが出てる作品なんですけれども。その一方で、「そんなのどうでもいいや。気楽に生きようぜ」っていう彼の理想を描いた作品もいくつも書いてまして。これが『浮浪雲』なんですよね。

で、その『浮浪雲』っていうのは舞台が幕末で。江戸時代の終わりで。主人公の浮浪雲は品川宿で駕籠とか荷物運びとかをやる労働者の手配師みたいなことをしてる人なんですよ。で、ただほとんど働いてなくてですね。いつも女物の着物を着て、昼間から酒を飲んで、道行く女の人を見てはですね、「お姉ちゃん、あちきと遊ばない?」って声をかけて遊んでばかりなんですね。

(赤江珠緒)なんか飄々と生きている感じの人ですよね。

(町山智浩)まあ、はっきり言って遊び人ですね。なんですよ。で、もう本当にその遊び人の雲さんと、その奥さんのかめさんの非常にいい夫婦と、その息子との本当に楽しいホームドラマ、ホームコメディがこの『浮浪雲』だったんですね。

(赤江珠緒)テレビシリーズで『浮浪雲』っていうのがあったんですね。1978年ごろ。ほー!

(町山智浩)そうです。これ、たぶんDVDで出てると思いますよ。で、これがすごいのがね、幕末が舞台なのにも関わらず、一番最初にですね、「このドラマは時代考証がデタラメです」って出るんですよ(笑)。

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(町山智浩)で、どのくらいデタラメかっていうと、テレビを見たりするんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)デタラメですよ(笑)。で、雲さんが「お姉ちゃん!」とかって言っていると着物を着たその当時の女の人が「いやーん、エッチ!」とか言ったりしてるんですよ(笑)。「エッチって何だよ?」って思いますけど(笑)。そういうデタラメな時代劇なんですけども。どのくらいデタラメかって言うとね、まあとにかくこの息子が10歳ぐらいなんですね。で、いろんなことに興味津々なんです。真面目の息子で、新之助っていうんですけども。それで「父上、母上! 今日、おたずねしたいことがあります!」とか言うんですよ。すると、「何かしら?」って両親がね、構えるじゃないですか。すると、「赤ちゃんはどうやって作るんですか?」って言うんですよ。すると雲さんは「ああ、ようがす。今、ここでやってせやしょう!」って(笑)。いい父親ですよ、本当にね(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ! うんうん(笑)。

(町山智浩)でね、この新之助っていう息子はものすごく真面目でね。幕末だから世の中が変わって、日本が大激動の時代ですから。「なんとか立派になって、歴史に残る人になりたい」とかって思ってるんですけど。雲さんはね、「いや、そんなことを一生懸命に考えてみたってね、真面目に生きたってしょうがなくないですか?」とか言うんですよね。それは他の作品の渡さんとは全然違う人ですよ。深刻な。

(赤江珠緒)本当ですよね。なるほど。

(町山智浩)ただ、すごくいいのは渡さん、その新之助という息子にもね、「新之助さん」って言って敬語で話すんですよ。「それは大切なことですか? よく考えてみませんか?」って言うんですよ。で、これがすごくいいのは、黒岩刑事も大門刑事もそういう人だったんですよ。『大都会』や『西部警察』で彼は絶対に乱暴な口を聞かないんですよ。

(赤江珠緒)やってることはかなりハチャメチャでも?

(町山智浩)たまにっていうか、まあ1週に3人ぐらい人は殺しますけども。10人ぐらいかな? まあ、それを除けばすごくいい人で。取り調べ中だったり、その協力する普通の民間人だったり。あと、お年寄りの人とか自分よりも目上の人は全部敬語です。女性に対して全部敬語なんですよ。大門、黒岩は。そこは雲さんと同じで。そこに僕は渡さんを見るんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか!

(町山智浩)僕にとっては本当にだから、「威張らない人」っていうことですね。本当に雲さんみたいな人になりたくて。「将来の夢は遊び人!」とか思いましたけどね。はい。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

「浮浪雲のような大人になりたかった」

(町山智浩)「将来は立派な遊び人になりたいと思います!」とかって学校で作文を読んだりしましたけど。はい(笑)。

(赤江珠緒)ちゃんとね、「アメリカ流れ者」になれていますからね。町山さん(笑)。

(町山智浩)そうなんですけども(笑)。あ、自分、やってますね。ちゃんと夢をかなえているなと思いました。というところで、渡哲也さんの作品、今ご紹介したものはみんな素晴らしいですから。

(赤江珠緒)映画5作、テレビドラマを1作、ご紹介いただきました。やっぱり町山さんにとっても素敵な素敵な大人だったんですね。

(町山智浩)いや、だから本当に浮浪雲のような父親っていう印象ですね。はい。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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