町山智浩『逆転のトライアングル』を語る

町山智浩『Triangle of Sadness』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年11月22日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『逆転のトライアングル(原題:『Triangle of Sadness』)について話していました。※ラジオトーク時は邦題が決まっていなかったため『悲しみのトライアングル(Triangle of Sadness)』というタイトルでお話をされています。

(町山智浩)で、もう1本紹介する映画もね、非常に似た話なんですけど。『悲しみのトライアングル(Triangle of Sadness)』っていうタイトルの映画なんですね。これはね、スウェーデンの監督の映画ですけど。地中海が舞台で、あるクルーズの豪華客船の船長をアメリカ人のウッディ・ハレルソンが演じてる映画なんですけども。これも富裕層の話なんですけど。これ、『悲しみのトライアングル』っていうのは美容用語で、眉間のあたりのことを言うらしいんですよ。で、そこにシワが刻み込まれる人は人生で苦労しているっていう意味があるらしいんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほどね。おでこに。

(町山智浩)でも、そういう苦労してない人たちの話なんですね。この映画は。で、主人公はモデルの男の子なんですけども。あんまり才能がなくて、オーディションに落ちたりしてるんですけどね。で、その彼女もモデルで。まあ美男美女なんですよ。で、彼女の方はインフルエンサーをやっていて。インスタとかで。それで、すごく人気なんですよね。で、これね、最初にこの2人が結構高級そうなレストランで食事に行って。それでテーブルの上にレシートが置かれると……アメリカとかヨーロッパはレシートがテーブルに置かれるんですが。あれもなんか日本と違うから嫌な感じですけどね。

そうするとね、「なんでいつも男がこれを取らなきゃいけないの?」って彼は言うんですよ。「君はいつも、男女平等って言ってるのにどうしてお勘定の時は僕に払わせるの?」とか言い始めるんですよ。で、喧嘩になって。あんまりネチネチ言うもんだから彼女の方が「金がほしいなら、くれてやるわ!」って札束を丸めて彼の顔にぶつけるんですけど。そういう嫌なシーンから始まるんですけど。これね、監督はね、リューベン・オストルンドというスウェーデンの人なんですが。この人は『フレンチアルプスで起きたこと』という映画で……。

(赤江珠緒)ああ、ご紹介いただきましたね。

(山里亮太)見ました、見ました。

(町山智浩)金持ちの人がスキー場に家族で行ったら、事故防止のため人工雪崩を起こすんですね。スキー場って、時々ね。で、その雪崩を本物と勘違いして、奥さんと子供を置いて、夫が逃げ出しちゃうんですよ。で、その後に何でもなかったんで、その奥さんと子供から軽蔑されてものすごく気まずくなるっていう話を撮った人です。

(山里亮太)ああ。じゃあ、ネチネチが上手なんだ。

(町山智浩)気まずくなることばっかりでコメディを作る監督なんですよ。このオストルンドっていう人は。

町山智浩 映画『フレンチアルプスで起きたこと』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で、ゴーン・ガールよりもエグい夫婦関係を描いた映画『フレンチアルプスで起きたこと』を紹介していました。 (赤江珠緒)今日のお話は、なんですか?雪山でというお話だそうですね。 (町山智浩)雪山で(笑)。...

(町山智浩)で、インタビューとかをすると、要するに「このレシート払う・払わないで喧嘩したってのはいうのは俺がやったことだ」っていうことで。自分がやったことなんですね(笑)。

(山里亮太)ああ、なるほど。

(町山智浩)そういう結構セコい人なんですけど。で、カップルがですね、彼女の方がインフルエンサーなんで、豪華客船のクルーズに招待されるんですよ。宣伝になるからっていうことでね。そういう人たち、多いんですよ。最近ね、映画の試写とかに行くじゃないですか。試写っていうか、ジャケット……記者会見みたいなものにね。そうすると、昔と違って映画評論家の人だけじゃなくて、インフルエンサーの人たちがいっぱいいますよ。そういった人たちを呼ぶんですよ。で、食事、ホテル全部つくんですよ。だからインフルエンサーっていうのはもう今、すごいんですけど。呼ばれてね。

で、この女の子はモデルとしてはあんまりうまくいってないんですけど、インフルエンサーで成功してお金が入ってるっていう設定になってるんですね。で、その豪華客船に乗ると、大金持ちがいっぱいいっぱい乗ってるわけですよ。ところが、この豪華客船の船長であるウッディ・ハレルソンは、自分は船長になりたくて。船が好きで船乗りになったのに、なぜか金持ちのための接待をやらされてることに嫌気がさしちゃっているんですよ。さっきの『ザ・メニュー』のシェフと同じなんですよ。

(赤江珠緒)似てますね。

町山智浩『ザ・メニュー』を語る
町山智浩さんが2022年11月22日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ザ・メニュー』を紹介していました。

(町山智浩)で、「金持ちのためにこんな船に乗って……これは俺の求めていたものと違う!」っていうことで、酒に溺れて船室に引きこもっちゃったんですよ。で、すごく危ない状態になってるんですけど。こういう豪華クルーズって、船長と一緒のディナーパーティーっていうのが必ず設定されるらしいんですね。で、「それは絶対にやらなければいけないことなんだから、出て来てください」って言われて引きずり出されて。お客さんと船長のディナーパーティーになるんですけども。この船長、やる気が全然ないもんだから、この船は嵐に向かって行ったんですよ。まあ、ほとんど自殺願望にもうとらわれちゃっているんですよ。この船長は。で、そのまま船が嵐の中に突っ込んでいく中で、ディナーパーティーが行われるんですよ。

(赤江珠緒)うわっ!

嵐の中に突っ込んでいく豪華客船

(町山智浩)で、豪華なフルコースが次々と出てくるんですけど、すごい船が揺れるから。それで、地中海なのになぜかね、下呂温泉みたいになっちゃうんですね。柔らかい言い方で言ってみましたが。お食事されてる方もいると思いますんで。これ、地獄絵図ですよ?

(山里亮太)たしかに。

(町山智浩)『ポセイドン・アドベンチャー』とか『タイタニック』よりすごいことになっていますよ。

(赤江珠緒)そんなに船が揺れちゃう?

(町山智浩)すごいです。これ、最初ね、みんな上の方からだけ出てくるんですけど。途中から船の揺れがひどくなって、トイレとかが逆流して、下の方もぐちゃぐちゃになりますから。すごいですよ。大金持ちたちがですね、○○まみれになりますよ。いろいろと。まあ、なんていうか……これは関係ないけど。最近、若い人ってさ、「ゲロ」っていう言葉をさいい意味で使うでしょう? 「ゲロかっこいい」とか。

(山里亮太)ああ、「めちゃくちゃ」みたいな意味で使うんだ。

(町山智浩)「ゲロかわいい」とか。あと「ゲロうま」とかいう人もいるよね。なんなんだろう?って思うけど。最近の若い人はね(笑)。この船の中、そういう状況になりますよ。でね、まだそこはこの映画の半分なんですよ。この『悲しみのトライアングル』の。その後、大変なことになってくるんですけど。ひとつの話が三つにわかれてて。だから「トライアングル」っていうタイトルにもなっていて。これ、船が沈没してから、もっと大変なことになっていきます。

(赤江珠緒)ああ、沈没しちゃうんだ。

(町山智浩)沈没します。で、サバイバルしなきゃなんなくなってるんですけど。で、これはどっちの映画も非常によく似てて。やっぱりもう富裕層と、そうじゃない人たちの間でのその格差があまりにもひどいから。そこで働いてるそのシェフだったり、船長がもう絶望してしまって。何もかもぶち壊そうとするっていう話なんですよね。

で、ものすごくお金かかってて。この『悲しみのトライアングル』なんて船の船室が揺れるシーンなんて、本当に実物大のセットを揺らして撮ってるんですよ。だからすごくお金をかけてるんですけど。その『ザ・メニュー』の方もね、離れ小島のレストランのセットとか、すごいんですけど。

でもこれを見てて思ったのは、これって日本では全く同じストーリー、設定でコントでさんざんやられてる話ですね。特に、なんだろうな? ウッチャン、内村さんとかね。すでにやってると思いますよ。あとサンドウィッチマンとかもね。だから「自殺願望のある船長の船に乗ってしまった」っていうコントですよね。で、「客をすげえバカにしてるシェフの高級レストランとか」。これ、コントでたぶん既にやってるもんでしょう? おそらく。たぶんね、もうそれこそ舞台の上で椅子だけでやってるようなコントですよ。

ところがこれをハリウッドとかではものすごい、何十億円もかけて超大作にしちゃってるんですね。だから、発想的には日本でも山ほどあるものなのに……やっぱり金かけるかどうかだなと思いましたね。そういうね、もったいないなと思いましたけどね。

(赤江珠緒)そういう設定がどうなっていくのか、ねえ。

(町山智浩)まあ、どっちも大変なことになっていきますけど。ただね、どっちも意外な食べ物がむちゃくちゃおいしそうに見える映画なんですよ。意外なものが。だからどっちもね、いろんな意味で見に行く時はお腹を空かせていくといいと思います。いろんな意味で……だからゲロ温泉になったりもするんでね。

(赤江珠緒)はい。『ザ・メニュー』は現在公開中です。『悲しみのトライアングル』は日本公開はまだ未定と。

(町山智浩)いや、これは決まりました。2月に日本公開予定です。『悲しみのトライアングル』。

(赤江珠緒)ああ、2月に。そうですか。じゃあ、日本でも見れるということで。

(町山智浩)ということで、お腹を空かせてから、どうぞ(笑)。

『TRIANGLE OF SADNESS』

<書き起こしおわり>

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