町山智浩 小田嶋隆『東京四次元紀行』を語る

町山智浩 小田嶋隆『東京四次元紀行』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年6月28日放送のTBSラジオ『たまむすび』で小田嶋隆さんの遺作となった小説『東京四次元紀行』について話していました。

(町山智浩)すいませんね。本当に飲み会に小田嶋隆さんと2人で遅刻して。

(赤江珠緒)そうよ! 昨日、ちょっと話したんですけど。小田嶋さんと町山さんと私と池田プロデューサーと4人で待ち合わせして。待てど暮らせどこの2人、町山さんと小田嶋さんが来ない。だいぶ来ないっていう。そしてだいぶ遅れてきたと思ったら、2人でキャッキャ言ってるっていう(笑)。「この大人たちは……」みたいな。

(町山智浩)すいませんでした。本当にね。もう僕も今年で還暦なんでね、困ったもんだと思いますよね。小田嶋さんのね、遺作となった『東京四次元紀行』でちょっと読んでてね。これ、小説なんですけどね。小田嶋さんの最初の小説で。

(赤江珠緒)ねえ。はじめて書いたっていうね。

遺作となった小説『東京四次元紀行』

東京四次元紀行
イースト・プレス

(町山智浩)でもすごくエッセイと違いがない、小田嶋さんの非常に独特な文体でね。この文体は一体、どういう文体なんだろう?って今、ちょっと考えてて。でね、小田嶋さんって自分のエッセイのことを「ブルース」と名付けていたことがあるんですよ。たとえば赤羽について書いた文章……彼の生まれ故郷のね。それを「赤羽ブルース」って言ってんですね。で、アメリカのITの集中してるシリコンバレーについてのエッセイに、シリコンバレーのブルースって名付けてるんですよ。小田嶋さんは自分でね。

それで「ああ! 小田嶋さんのこの文体っていうのはブルースなんだな」と思ったんですよ。で、ブルースってのは元々アメリカの黒人が貧しい中で働いて、そのつらさを歌ったりね、彼や彼女にひどい目に遭わされた人が、そのやるせなさを歌ったり。それをまた、すごく皮肉と諦めを込めて歌うものなんですよ。そういう感じなんですね。小田嶋さんの文章って。というのは、この『東京四次元紀行』っていうのは東京23区をそれぞれ舞台にした短編が続いてるんですけど。東京っていうと、おしゃれな青山とか銀座とか六本木とかね、そういったものを想像する人が多いと思うんですけれども。この小田嶋さんの小説に出てくるのは蒲田とか赤羽とか板橋とか。わかる人にしかわからない場所なんですよ。

(山里亮太)下町の楽しく飲める場所。

(町山智浩)まあ、そうなんですけれども。そういうところで生活してる人たちのね、酒に溺れたりね、家賃に苦労したり、恋人とか親に捨てられたりという、そういうやるせない日常がすごくある種の諦めを込めて描かれていて。これは、そういうところで生まれ育った小田嶋さんのブルースなんだなとね。

(赤江珠緒)だからその登場人物の独白部分みたいなところが、ものすごいね小田嶋さんの洞察力が加わって、もう手に取るように響いてくる小説でしたね。

小田嶋隆さんの「ブルース」

(町山智浩)そうなんですよ。それがまた東京のね、きらびやかなビル街とか、そういうんじゃなくて。裏町の方の世界なんですよね。この感じはね、「小田嶋さんはそれで自分のエッセイにブルースって名付けることが多かったんだな」と思ったんですけどもね。でね、僕は今、メンフィスっていうとこにいるんですよ。これ、アメリカの南部なんですけども。本当にもう黒人の人たちが農場で奴隷として働かされてたところなんですよ。ここからブルースが生まれてるんですよ。

ここで働いた人たちがもうクタクタに疲れた後に、酒場でですね、ブルースを歌うんですね。「今日の仕事はつらかった」とかね。「もう嫌になった」とかですね、そういう歌を歌ってたところなんですけども。今日、紹介する映画の主人公が生まれ育った場所でもあるんですよ。このメンフィスっていうのは。今日、紹介する映画はですね、エルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』です。

<書き起こしおわり>

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