星野源さんが2020年7月21日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でドラマ『MIU404』第4話『ミリオンダラー・ガール』についてトーク。第4話のエンディングの意味などについて話していました。
(星野源)さて、先週金曜日。TBS金曜ドラマ『MIU404』、第4話の『ミリオンダラー・ガール』が放送されました。ちょっと感想メールが届いておりますので読んでいきたいと思います。神奈川県の22歳の方。「『MIU404』、第4話の感想をどうしてもお伝えしたく、初めてメールをさせていただきました。もうそこかしこで話題になっておりますが、私もあのシーンでは心を鷲掴みにされた1人です。源さん演ずる志摩が拳銃を突きつけられてからの数分間の顔、目、口元、話し方、息遣い、表情、筋肉……」。フハハハハハハハハッ! 筋肉もあったか(笑)。
「それから、『じゃあ、撃てば?』というセリフの言い方。全てが志摩のこれまでの人生を物語っているように感じました。狂気的でありながら切なくもあり、それが魅力的でもあり。そこにさらに綾野剛さん演じる伊吹の激昂が重なり、深みが増し……志摩の人生を何も知らないはずの私の心に強く突き刺さってくるシーンでした。とてもかっこよかったです」という。ありがとうございます。
続いて、大阪の方。「『MIU404』の第4話を見ました。銃を突きつけられるシーン。予告で一部、見ていたものの、すごく恐怖で思わず『怖い!』と叫びました。志摩さんが相手をにらんでからのシーンは衝撃すぎて言葉になりません。『狂気の演技を見てみたい』と思っていましたが、まさか警察官役でお目にかかれるとは思ってもみなかったです。志摩の過去がまだ謎な分、どこからくる感情なのかがわからなく、余計にゾクっとしました。世の中の憂いや恨みをこれでもかと込めたようなその目が今でも焼き付いて離れません。あのシーンにまつわる話を聞かせてください」ということで。ありがとうございます。
ええとですね、もう放送も終わりまして。まあTVerで1週間、見られるの。まだ見てないよっていう方はぜひ見ていただきたいんですが。なのでネタバレは普通にしていこうかな?っていう感じですかね。全部は言わないまでも、そこそこしますので。
第4話『ミリオンダラー・ガール』
MIU404
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アンナチュラルもコタキ兄弟(テレ東)も見られますよ。#TVer #MIU404https://t.co/dwfkG4aKff— 野木亜紀子 (@nog_ak) July 21, 2020
で、とあるま犯人と言いますかね、人を追い詰めて。バスに乗っている犯人がいまして。その人たちを捕まえるというか……まあ、そういうシーンがあるんですけれども。そこで、ちょうど出てきたところを銃を構えられて撃たれそうになるというシーンがありまして。あれもですね、いろいろ脚本の決定稿の前に準備稿っていうのがあって。その準備稿を読むのすごく僕、好きなんですけど。やっぱり一番思いが詰まっている状態で。それでもやっぱり1時間のドラマに収めないといけないんですよね。
で、「1時間」と言ってもCMを省くと45分なんですよ。だから45分に収めないといけないので、記録さんという方が「このセリフ量、このシーンだったらおそらくこのぐらいの分数になるだろう」っていうのを出して。それで「○分オーバーなんでこれぐらい削りましょう」っていうやり取りをして決定稿になるんですよ。なので、まあだいたいは準備稿の方がセリフが多いことが多いんですね。セリフだったりとか場面とか。
それでそこから「ここは削れるね」っていうのをたぶん皆さんで話しあって、それで決定稿になるんですけど。で、元々はあのシーンは志摩は最初……あれだね。『MIU404』のスタッフブログみたいなのがホームページにあるんですけど。そこで撮影中に僕がメロンパンの歌っていう……メロンパン車に乗っている警察なのでね。フフフ(笑)。それも今、初めて聞いた人は意味がわかんないと思うけど、まあなぜか乗るんです。そのメロンパンを販売する車、メロンパン号に乗るんですけど。ずっと乗ってるんですけど。
まあ、そのメロンパン号の歌を流してですね、ちょっと犯人を戸惑わせるというくだりがありまして。その歌がずっと後ろで流れる中で銃を付けられて、すごい緊迫したシーンになるっていうものなんですけど。それで最初の僕が読んだ準備稿ではもともと志摩がそのメロンパンの歌を歌ってたんですよ。銃を手に持ちながら。で、その中で準備稿から決定稿になる流れで、「歌わない方がいい」っていう判断をしたんだと思うんですけど。なのでなくなって。でも歌うっていうのも読んでいて面白かったんで、OKがもらえた後に「試しに歌うのも撮ってみてもいいですか?」って言って撮ったんですよね。
だから、ブログで書いているらしいんですけど。どこまで書いてるのかわかんないですけど。「歌う」っていうのは僕が1から提案したんじゃなくて、実は元々あったっていうことなんですよね。
MIU404 現場レポート 第4話https://t.co/mXKbiJNXwv
『本編では残念ながらカットされていましたが、実は志摩が銃口を自分の額に近づけながら「メロンパンのうた」を口ずさむバージョンも撮っていたんです。』— みやーんZZ (@miyearnzz) July 22, 2020
なのであのシーンは僕が4話の中でもすごく好きだったシーンではあるんですけど。あれね、だからいろいろ……Instagramの感想にもお話を書きましたけど。やっぱり志摩の闇が見えるシーンだとは思うんですよね。あと、だからそれの中で皆さんがたぶん分からないっていうか、ちゃんと説明してないからという。あと、ほぼ見えないからわかんないであろうっていうところで言うと、途中で車を志摩が運転しながら、綾野剛くん演じる伊吹に対して「これから銃を持ってる人たちに対して戦いを挑むから、防弾ベストを着用しろ」って志摩が伊吹に言うんですよね。「安全第一!」って志摩が言うんですよね。
それで「OK、わかった。合点承知の助!」って言うというくだりがあって。その上にMIUジャンパーを着て、作業員のふりをしてバスの中に乗り込むっていうシーンなんですけど。なので伊吹は防弾ベストを着ているんですよ。でも、よく見ると志摩はベストを着ていないんですよ。だから志摩の性格がそこでちょっと分かるっていうか。まあ、志摩が運転してるんで。運転して、メロンの歌を流すっていうくだりもあるので。実際、準備する時間がたぶんなかったからっていう。で、あとは早く現場に行きたいからっていうことだと思うんですけど。
だから、そこを大事にする人であるという。自分の命より人の命と事件の解決を大事にする人っていうのがその場面で分かるかなっていう。ただ、伊吹が防弾ベストを着用したかどうかのシーンがないんでわかんないけど、言葉通りに着用しているのだとしたらそうだっていう。なので、僕はしていないんですよね。そういうところでもなんか性格が見えるというか、なぜそういう性格になったのか?っていうのは後々、分かることなんだと思うんですけど。
「思うんですけど」とか言っているけどね。フフフ(笑)。もうね、終盤を撮ってますからね。フハハハハハハハハッ! こちとら、終盤を撮ってますからね! いやー、そうなんです。なのでぜひそれをねお楽しみにしていただければと思いますが。で、インスタでも僕、「4話がすごい好きで……」っていう話を書きまして。その話をここでね、オールナイトニッポンでしゃべれれば……っていう風に言ったけど。まあ、そんな大した話ではないんですけど。その話をちょっとしたいなと思います。
4話をまず読んだ時に「ものすごく好きだな」って思ったのは、美村里江さんがゲストで、すごい重要な役なわけですけども。で、その美村さんが演じる女性のある展開がありまして。その展開……何て言えばいいんだろう? まあ、バッドエンドですよね。で、バッドエンドだと思わせて、そうじゃなかったっていうような話の筋ではあるんですけど。何て言うんだろうな? あれってたとえばニュースになったりとか、その事件の概要だけを聞いたら絶対に「バッドエンドだ」と誰もが思う事件だと思うんですよね。
でも、そうじゃなかったっていう話で。僕が物語とか創作の中ですごく好きな種類のストーリーがあって。「ハッピーエンドがその人の中にしかない」っていう物語が僕は大好きなんですよ。で、物語においてのハッピーエンドって、もちろん全部とは言わないまでも、ほとんどが「社会的なハッピーエンド」なんですよ。で、人間が生きていて、社会があって、社会性があって。その社会性の中で何が幸福か?っていうのを社会が決めているという状況があって。で、その幸福に当てはまるものをハッピーエンドと言うことがすごく多いんですけど。
「ハッピーエンド」に感じる違和感
僕はそこにあんまり幸福を感じたことがないので。小さい時から物語を見ていて、ハッピーエンドになってもその何がハッピーなのかをよく分からないっていうことがすごく多かったんですよね。ちっちゃい頃、普通に生きていても、何て言うか……前から言ってるけど、感覚が合わないことが多いっていうか。「こうして、こうしてね」って言われても「なぜ、そうしなきゃいけないのかがよく分からないな」っていうことが学校の中でも山ほどあったし。家の中でも山ほどあったし。
だからいつも、なんか疎外感をずっと感じてる人生だったんですよ。で、まあ今でもそうなんだけど。「なんでこういう風に思うことが変だと思われるんだろう?」とか、「なんでちょっと違う風に受け取られてしまうんだろう?」とか。ずっとその戦いなんですよ、自分が。なので、もちろんそういう社会的なハッピーエンドっていうのもハッピーのひとつだとは思うんですけど。たとえば「結婚」とか。結婚して話が終わるっていうこととかはすごく多いと思うし。結婚式で終わるとかね。
あとは、優勝するとか、勝つとか。それってやっぱり全体の……社会の中の仕組みとして「よかったね」っていうことを提示されてるものの中のひとつだとは思うので。それでドラマ『逃げ恥』の終わり方で何が好きだったかっていうと、「結婚式が終わりではなかった」ということなんですよね。結婚式が終わりじゃなくて、フレンドパークのルーレットにダーツを投げて商品を当てるやつみたいな感じで、そのいろんな矢が当たったところでその未来を見せるという。
だから、数ある選択肢の中のひとつに「結婚」も入っているっていう、そういう終わりにしたんですよね。で、その終わりを……いろんな選択肢をブワーッと見せた後に2人がハグして。その2人が、思いがすごく近づいてハグしたっていうところで終わるっていう。それは社会的なハッピーエンドじゃなくて、2人のハッピーエンドだったんですよね。だから僕は『逃げ恥』の終わり方がすごく好きなのはそこで。
それで僕がその物語をちっちゃい頃に見ていて、楽しいし面白いし感動するんだけど、何か後ろめたい……自分がそこに全力で参加できない後ろめたさをいつも感じていて。それがなんだかよくわかんなくて、言葉にできなくて。でも、それは自分がたぶん間違ってるんだと思っていて。「きっとこれが本当のハッピーなんだ」ってずっと思うようにしていたんだけど、そこで出会ったのが松尾スズキさんの大人計画の舞台だったんですよね。
で、『マシーン日記』っていう作品を一番最初に見たんだけど。それは大人計画作品じゃなくて、プロデュース公演の松尾さんの作・演出だったんですけど。その話がもうとんでもなく無茶苦茶な話で。最終的には本当にたくさんの人が死んで終わるような、もう本当にかなりドロドロというか……笑いがたくさんあるんだけど、その笑いの量と同じぐらい猟奇的なシーンもたくさんあるっていうような。高校生で見た時にすごいカルチャーショックで。「怖いけど面白い!」みたいな、そういう舞台だったんですけど。
その松尾さんの舞台を見た時に、何て言うか……「お前らに俺の幸福がわかってたまるか!」って言われてる感じがしたんですよ。「お前らなんかに俺のハッピーを共有されてたまるか! 俺は今、幸せだ!」っていう。その登場人物がそう言ってるような感じがして。そこにすごく共感したですよ。なんか共鳴したっていうか。で、松尾さんの作品てすごくそういう作品が多くて。どう考えてもバッドエンドだし、陰惨なことになっていて。みんな幸せじゃないというか、社会的な目線で見たら本当に堕ちて堕ちて堕ちて人たちしかそこにはいないんだけど、でもその中の主人公だったりとか、登場人物はすごく幸せそうな顔で終わっていたりするんですよね。
でも、その彼や彼女の中とか、その登場人物の中には今まで生きてきた中で一番の幸せがあったりとか。だから、それに対しすごく熱いものを感じるんですよ。僕は。で、この『MIU404』はその松尾さんの舞台で感じた時以来の……あの美村さんがやっていた青池透子という人は、たぶんニュースで放送されたら悲劇のヒロインになって。「なんて悲しい事件なんだ」ってなる。きっとそれはどんなに内情を暴こうとも、週刊誌で詳細が載ろうとも、陰惨な事件として終わるんだと思うんですよ。
でも、そうじゃなくて。彼女の中では本当にやりたいことをやり遂げて。それで自分の生きる意味だったりとか、そういうものをちゃんと心の底からがっちり掴んだ瞬間に……まあネタバレですけど、その瞬間に死んでるんですよ。それって、何て言うか誰も共感できないかもしれないけど。でもあの主人公の2人はね、それを見て思うことがすごくあるっていうシーンなんだけど。それがね、すごい胸が熱くなったんですよね。
それを、テレビでやるんだっていう。それをテレビでやって、見事に……たとえば、まあいわゆるトリックみたいなのもあったし、楽しませて。だから、何て言うんだろう? 世の中に「自分は幸せじゃない」って思ってる人ってめちゃくちゃ多いじゃないですか。で、社会が提示する幸せに対して「それが幸せなんだよな」って思いつつ、どうしてもそこに行けない人たちがいて。で、やっぱり「物語の中とかメディアの中に自分の姿があるっていうことがどれだけ救いになるか?」って話だと思うんですよね。
だからそれが……まあ、ああいうシチュエーションの人はすごい少ないかもしれないけど。ああいう風にお金を盗んで、ロンダリングをして……みたいな人はもちろん少ないけど。そこで掴む藁みたいなのが絶対にあるんじゃないかと思うんですよね。で、それをやっぱりテレビっていうものの中で表現したっていうのは僕はすごく……僕は舞台を見て、「ああ、自分は生きれる!」っていう、そのひとつの藁みたいなものをガッとその時に掴んだんですよ。
だから、もしかしたらあれを見て、何かそういうものを掴んだ人がいるんじゃないかなって思うと、非常に胸が熱くなるという。それが脚本を読んだ時にあまりに感動しすぎて。野木亜紀子さんにものすごい長文で「すごい! これはすごいです!」って送るというね(笑)。きっと引いていたかもしれないけど。そう。でもそういう4話でした。
で、5話もね、すごいっす(笑)。まあ5話もすごいというか、今後いろいろ面白いんですけどね。なので、「また違う角度で来たな!」って思うことが本当に毎話あるので。5話もすごいので。今! 今、見てください。5話は数年後とかに見るよりも今、見て。そのことに対して思い、何かを調べるってことがあった方がたぶんいいと思うので。ぜひ今週金曜日、夜10時から見てください。
ゲストは小日向文世さんと渡辺大知が出ますんでね。あとはもうどんどん、いろんなことがまた深まっていく『MIU404』。4機捜のみんなのパーソナルな部分もちょっとずつ深まっていきますので、ぜひ見ていただきたいと思います。それでは聞いてください。米津玄師『感電』。
米津玄師『感電』
<書き起こしおわり>