町山智浩『ハミルトン』を語る

町山智浩『ハミルトン』を語る たまむすび

(町山智浩)で、ミランダさん自身にもアフリカ系の血が流れてるんですよ。カリブ海は黒人の奴隷の人たちがいっぱいいたんでね、その血が流れていて。だから彼は自分のルーツであるカリブ海の音楽とか黒人の音楽とかだけで、このアメリカの独立の歴史を描こうとして。しかもですね、これはジョージ・ワシントンとかその頃のトマス・ジェファーソンとか、白人の大統領や政治家がいっぱい出てくるんですけれども。全員、黒人かメキシコ系、プエルトリコ系、またはアジア系だけ。つまり非白人だけでキャスティングしてるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、これもアメリカではすごい大論争になって。それは逆に白人に対する逆差別ではないか、みたいなことを言われたりしたんですけども。これはまあ彼自身、ミランダさんが言ってるのは「我々、非白人はアメリカの歴史を学ぶ時に、かならずすごく違和感があったんだ。それは『白人の歴史』だから。自分たちはよそ者であって、お客さんであって、関係ない人たちの歴史を学ばされる感じがした。そうじゃなくて、ここで非白人の我々にとってのアメリカを取り戻したいという気持ちでこういう話、ミュージカルを作ったんだ」って言ってるんですね。

で、それはすごく重要で。というのはこれ、2008年に彼がこのミュージカルを思いついた時に、ちょうど最初のアフリカ系の大統領、バラク・オバマ大統領が大統領選挙で勝った時なんですよ。だからその時から、アメリカはどんどん白人の人口が減っていって、もうすぐ……2040年には白人の割合が50パーセントを切るんですよ。アメリカの人口の。そうやってアメリカの人口が変わっていく中で、アメリカの歴史をもう1回、非白人によって取り戻していくというか、新しいアメリカの誕生みたいなものをもう1回語ってみようということで、彼がこのミュージカルを考えたと言ってるんですけどもね。

(赤江珠緒)その信念がすごくヒットしたっていうことは、アメリカ国民にもハマったということでしょうね?

大ヒットの要因は楽曲の良さ

(町山智浩)そうなんですよ。それは、すごく曲がいいんですよ。で、次にこのハミルトンが結婚する相手であるお嬢さんがいまして。お金持ちのお嬢さんと結婚をするんですね。スカイラーという金持ちの3姉妹と結婚するんですが。その3姉妹がニューヨークの街に初めて出て行くところの歌、『The Schuyler Sisters』を聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。これ、聞いていてすごいノリノリで、しかもかわいいんですよ。すごくかわいい、ガーリーな感じの曲なんですけど。これ、あれですね。ビヨンセが昔、いたグループでディスティニーず・チャイルドっていうのがあって。それにすごくよく似た曲なんですけども。

今現在、流行ってる音楽のスタイルにしてるんですよね。全部ね。で、これね、『ハミルトン』の奥さん役を演じているのは中国系の人なんです。すっごい歌が上手いんですよ。フィリッパ・スーっていう人で。もうすごい声が良くて。彼女がもう1人の主役なんですけども。

この、全員の肌の色が黄色かったり黒かったり茶色かったりする人たちばかりではなくて、実は白人もキャスティングされてるんですが、ただ白人は独立戦争の敵のイギリス軍なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、イギリス軍との戦闘になるんですけど、イギリス軍側はほとんど白人なんですね。演じる人たちは。だから白人対有色人種の戦争に、そのイギリス対アメリカの戦争を置き換えているので、非常に政治的にかなり過激なことをしてますよ。白人を倒して有色人種の国を作る話になっちゃってますから。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)すごいですけど。でね、イギリスの国王が出てくるんですね。イギリスの国王は白人が演じてるんですよ。で、その人の歌う歌だけがブラックなノリとかラテンのノリが全くない曲なんですよ。白人っぽい曲なんですね。というのは、白人っぽい曲と黒人とかラテン系の曲ってリズムに差があるんですよ。シンコペーションっていうんですけど。裏打ちをするとノリノリになってラテンとか黒人音楽になるんですけど。あと、音階を五音階っていうのにすると、そういうノリになるんですね。

でも、そうじゃない風にしてメジャーと表打ちだけでやると白人音楽になるんですよ。で、イギリス国王は完全に白人音楽でビートルズみたいな歌を歌うんですけど。そのへんもね、すごくはっきりと音楽で人種的な表現をしていたりして、すごく面白くて。で、前半はすごくって。天才であるハミルトンがどんどんどんどん、もういろんなアイデアを出して戦争に勝って。それでアメリカという国を作っていくという立身出世のもうアゲアゲのストーリーなんですね。

で、頂点に登って、とうとうアメリカを独立させて。彼はここからもうアメリカという国の大統領になっていくのだろうかと思うんですけど……ところハミルトンはそこから、まあ彼自身の頭の良さみたいなところに溺れて、失敗していくんですよ。

(赤江珠緒)なんでですか?

(町山智浩)やっぱりね、論争とかに勝とうとして、人を言い負かしちゃう。

(山里亮太)ああ、頭が良すぎるから。

(町山智浩)そう。それで敵をどんどん作っていくんですよ。それと、彼自身が若い頃に非常に苦労したっていうことがあって。その苦労をした人がいろいろと寄ってくると、それにほだされちゃうんですね。で、ある人妻が「私は旦那によってひどい目にあってるんです」ってきて、その人妻に同情して、ちょっといい仲になっていっちゃうんですよ。ところがそれは罠で、その人妻の旦那が最初から仕組んだものなんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)それで恐喝されたりして。後半はどんどんどんどんですね、彼が転落していく様が描かれていくんですけど。で、まあそのへんは事実通りなんですが。そのへんも含めて、アメリカ人はそういう話がすごく好きなんですよ。

(赤江珠緒)そうなの?

(山里亮太)出世で終わらないんだ。転落してくまでが?

(町山智浩)そう。だからアメリカンドリームなんだけれども、それ自体がその人の才能のせいで失敗していく。それに溺れて。だから一番有名な話は『華麗なるギャツビー』ですよね。アメリカ人、あれ大好きなんですよ。無一文の男が頭の良さだけでのし上がるんだけども、それで失敗していくっていう話が。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから『ゴッドファーザー』三部作なんかもそうなんですけども。アメリカ人の好きな……まあでも一種、シェイクスピア的な悲劇でもあるですが。それを描いていて、アメリカでは非常に大ヒットしたんですが。日本では初めてなんですよ。2015年に大ヒットしてから、日本でもやっと見れる状態になっていて。で、ぜひ見ていただきたいんですが、まだ字幕が付いていないんですよ。配信しているものが。

(赤江珠緒)うわっ、それは厳しいな……。

(町山智浩)ちょっと厳しいですが、だいたいのストーリーは今言った通りなので。で、もうすぐ字幕が付くそうです。あのね、急遽これを配信しなければならない状態になったですよ。というのは、コロナになっちゃったから。配信のコンテンツが必要になったんで、急遽配信をしたんでね。まあ字幕が間に合わなかったというね。字幕、大変ですよ。ミュージカルって。リズムも合わせなきゃならないんでね。

(山里亮太)ああ、そうか!

(町山智浩)はい。だから今、制作中だそうですが、もうすぐできると思いますが。でもね、これを見ると本当にアメリカの歴史がよく分かるだけでなくて、実は本当のヒーローというか、本当の主役はこの奥さんだったことが最後にわかるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)そこもちょっと、あっと驚く展開なんで。『ハミルトン』、ぜひご覧ください。はい。

(赤江珠緒)はー! じゃあ、真のアメリカの立役者みたいなね。ハミルトンかと思いきや、またその奥さんが。へー!

(町山智浩)そうなんですよ。

『ハミルトン』予告


(赤江珠緒)そうですか。『ハミルトン』はディズニープラスで配信中ということです。先ほどね、町山さんがおっしゃったように日本語字幕はまだということですが。まもなくつくそうです。

(町山智浩)もうすぐつくと思います。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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