町山智浩 エンニオ・モリコーネを追悼する

町山智浩 エンニオ・モリコーネを追悼する たまむすび

(町山智浩)じゃあ、ちょっとここで『Chi Mai』という曲を聞いてほしいんですが。

(町山智浩)はい。すごい美しい曲でしょう?

(赤江珠緒)なんか悲恋の匂いがしますね。

(町山智浩)でしょう? ロマンチックでね。それでまた悲しげで。これね、『Maddalena』という映画のために書いた曲なんですけども。その映画自体は全くコケてしまって日本でも公開すらされていないんですよ。ところが、この曲だけがヒットしてしまって。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)でね、日本のテレビのコマーシャルでも88年ぐらいに使われてるし。いろんな……ラジオとかいろんなのに使われています。この曲は。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。日本ではタバコのコマーシャルなんかに使われたことがあるという。

(町山智浩)そうなんですよ。だから結構みんな聞いたことがあるんですよ。あっちこっちに使われていたから。でも、その元の映画の方は誰も覚えてないというね(笑)。そういうことがよくある人なんですよ、この人は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)日本でもね、この人はあれですよ。NHK大河ドラマの音楽もやっていますよ。市川海老蔵さんが主演した『武蔵 MUSASHI』という作品の音楽をエンニオ・モリコーネはやっていますね。

(赤江珠緒)ええーっ、そうなんですね!

(町山智浩)だからそのぐらいもう全世界的にすごい作曲家だったんですけれども。この人はもうアカデミー賞もね、5回……6回ノミネートされてて、なかなか取れなかったんですが。世界の中では「マエストロ」と呼ばれてましたね。で、ちょっともう1曲、皆さんが知ってる曲をかけたいと思うんですけれども。『アンタッチャブルのテーマ』をちょっとお願いします。

『アンタッチャブルのテーマ』

(赤江珠緒)ああ、これはよく聞きますね。

(町山智浩)よく聞くでしょう? ものすごく使われてます、これ(笑)。本当にね、バラエティーなんかでも使われてるし、再現物とかでも使われているし。あと、いろんなドラマね。たとえば大捜査線物みたいな、そういう刑事ドラマでも、これをパクった音楽が使われてます。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)だから聞いたことがある。医者物とかでも使われてますよね。

(赤江珠緒)そうですね。うわっ、これもモリコーネさん? はー!

(町山智浩)そう。これ、もともとその『アンタッチャブル』っていう映画の内容は禁酒法時代の1930年代にシカゴを支配していたギャングのボスのアル・カポネを逮捕するために結成された捜査官チームがアンタッチャブルなんですね。で、彼らがそのギャング組織と戦う話なんですけど、これはもう何て言うか、廊下を切羽詰まった感じで背広を着た人が走ってる画にぴったり合うわけですよ。

(赤江珠緒)たしかに!

(町山智浩)あと、僕なんかも原稿がなかなか進まなくてやる気が出ない時にこれをかけるとなんか切羽詰った感じが出てきて原稿が書けたり(笑)。あと、約束の時間に間に合わない時とかにかけて、もっと切羽詰った感じになるんですけども(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)僕、スマホにこういう曲がいっぱい入ってるんですよ。その場その場が映画になるので。

(赤江珠緒)なるほど、面白い!

(町山智浩)でも、これは本当にもうみんな聞いたことあるのは、使われまくってるからなんですよ。『アンタッチャブル』は。日本のテレビとかで。だからそういうところで偉大な人なんですけど。ただこの人はやっぱりすごいことをやっちゃうんですね。エンニオ・モリコーネっていう人は。『ミッション』という映画がありまして。

これは1986年の映画なんですが。これね、18世紀のキリスト教の伝道師の話なんですよ。それで南米のジャングルの奥地に布教に行くんですけれども、その頃スペインやポルトガルが中南米を侵略してね、先住民の人たちから物を略奪したり、虐殺したり、捕まえて奴隷にしたりしてたんで、先住民からするとキリスト教の伝道師とか来ても所詮白人だから敵なわけですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、このガブリエルというその伝道師はこの音楽をオーボエで演奏するんですよ。ちょっと聞いてください。

(町山智浩)はい。このね、伝道師のガブリエルはどうしたら先住民の敵対心を和らげることができるのか?っていうことを考えて、このオーボエを吹くんですよ。で、それまでその弓矢や槍を構えて「白人、出ていきやがれ!」っていきり立っていた先住民の戦士たちがこの曲を聞いて、思わず聞き惚れちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああ、たしかに。優しい美しい曲ですもんね。

(町山智浩)でもこれね、作曲家にとってはものすごくハードルの高い仕事だったと思いますよ。だって聞いた人が誰でも「ああ、この曲を聞けばどんな民族だろうと心が和らぐな」と思うような曲じゃないとそのシーンに説得力がなくなっちゃうですよ!

(赤江珠緒)そうですね、うん!

(町山智浩)これ、超ハードル高いんですけど、エンニオ・モリコーネはそこでこの曲を聞かせて、見た人全員が「ああ、この曲だったら誰でも聞き惚れるわ!」って曲を作り出してしまったんですよ。

(赤江珠緒)はー! それでまた『夕陽のガンマン』とかとは全然タイプが違う曲でね。

(町山智浩)はい。すごい人ですね。で、僕と同じ世代のか映画監督でクエンティン・タランティーノという人がいて。彼も子供の頃からエンニオ・モリコーネの曲を聞いてきて、映画監督になってですね、もう何度も何度もエンニオ・モリコーネさんに「僕のために曲を書いてください、曲を書いてください」って頼み続けたんですよ。そしたら「君の映画は血まみれだから嫌だ」って言われて(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(町山智浩)そういう人だったんですね。で、曲を再使用させるさ許可しか出してくれなかったんですよ。昔の曲をね。ところが、やっと2015年にですね、エンニオ・モリコーネで87歳の時に『ヘイトフル・エイト』っていうタランティーノの映画でやっと曲を書いてくれたです。オリジナルを。で、それがですね、ほぼエンニオ・モリコーネの最後の仕事なんですよ。

(赤江珠緒)でも87歳でずっと現役。お亡くなりになったのは91歳ですけども。へー!

『ヘイトフル・エイト』でアカデミー賞を受賞

(町山智浩)そうなんですよ。ところがこれでアカデミー賞の作曲賞を取るんですよ。エンニオ・モリコーネは。それはでは栄誉賞しかもらったことがなかったですよ。だからね、これはクエンティン・タランティーノがものすごくエンニオ・モリコーネを尊敬していたから、アカデミー賞を取る機会を与えて。しかもたぶん裏で動いてるんですよ。「モリコーネさんにアカデミー賞をあげないと! 彼、最後のチャンスだから!」ってやって。それは本当にね、尊敬する人に対する素晴らしいオマージュなんですけど。

でね、今かかっている曲をちょっと聞いてください。これね、セリーヌ・ディオンの『I Knew I Loved You』っていう曲です。

(町山智浩)はい。これはね、エンニオ・モリコーネが作曲した映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』という作品の曲にですね、エンニオ・モリコーネに捧げる歌詞をあとから付けた歌なんですよ。で、この歌詞はこういう歌詞なんですよ。「私はあなたのことを見つける前から、ずっとあなたが好きでした」っていう歌なんですよ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)これは、そういうことなんです。みんな、「エンニオ・モリコーネ」という名前を知らないけども、知らない頃からモリコーネが作った曲やそれを真似した曲をずっと聞いてきて、好きでしたっていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)はー! そうですね。作曲家ってそういうところ、ありますね。

(町山智浩)そうなんですよ。名前は知らなくても、この曲は知ってる!っていう。まあ、素晴らしい仕事だなと思いますね。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)ということで、この歌でエンニオ・モリコーネ、91歳の追悼をしたいと思います。

<書き起こしおわり>

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