町山智浩 ドナルド・トランプの不法移民弾圧と壁建設を語る

町山智浩 ドナルド・トランプの不法移民弾圧と壁建設を語る 町山智浩のアメリカのいまを知るTV

町山智浩さんがBS朝日『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の中でドナルド・トランプの不法移民弾圧政策についてトーク。メキシコ系のルーツを持つ杉山セリナさんと、メキシコ国境に壁建設を進める本当の目的などを話していました。

(町山智浩)はい。ということで知っているようで知らないアメリカ社会の”いま”をわかりやすく紐解く番組です。今回、聞き手としてお招きしましたのはBS朝日で放送中のCNNサタデーナイトのキャスターの杉山セリナさんです。

(杉山セリナ)はい。よろしくお願いします。

(町山智浩)よろしくお願いします。

(ナレーション)お相手はメキシコ人の父と日本人の母を持つマルチリンガル。現在は上智大学に通いながらCNNのキャスターとしても活躍中の杉山セリナ。

(杉山セリナ)小学校5年生までなので11とか12才ぐらいまでメキシコにいました。

(町山智浩)ああ、そうなんですか。だんだんその間にメキシコ、変わっていったでしょう?

(杉山セリナ)ちょうど私が日本に戻ってくる時……その翌年からすごいマフィアとかドラッグ戦争の関係ですごい危なくなりまして。

(町山智浩)カルテルがね。はい。

(杉山セリナ)言い方はいいかわからないんですけど、すごいいいタイミングで日本に戻ってきたというか。その後にガラッと変わりましたね。

(町山智浩)変わりましたよね。

(杉山セリナ)すごいいい国なんですけど、最近トランプ氏の発言とか関係であまりいい報道を聞かないので、ちょっと私は悲しいなって個人的に思っていて。もっといいところを出していきたいなと思っていますね。

メキシコ国境への壁建設

(ナレーション)トランプ大統領は選挙期間中からの公約通り、先日メキシコとの国境沿いに壁を築くことなどを命じる大統領令に署名。「アメリカは国境を取り戻し、多くの命と雇用を守る。麻薬の密売人など犯罪者が好き勝手に振る舞えるのは今日で終わりだ!」と不法移民対策に全力を挙げる姿勢を強調。これに対し、メキシコのペニャニエト大統領は昨日予定していたトランプ大統領との直接会っての会談を取りやめた。

(町山智浩)お父さんとかそのことについて何か言ってます?

(杉山セリナ)いや、まず結構メキシコの方はみんな、「いや、払わないから!」みたいな。

(町山智浩)そうですよね(笑)。

(杉山セリナ)絶対に払わないっていうスタンスなんですけども。

(町山智浩)大統領も「払わない」って言ってますよね。

(杉山セリナ)そのNAFTAっていう……関税をかける。

(町山智浩)通商条約ですね。

(杉山セリナ)を人質にして、「それ(NAFTA)をなくすか払え!」っていう風に脅してきているので。それがどういう結果になるか?っていうのがすごく私としては怖いというか。最初は「作るわけないだろ」ってバカにしていた部分はあるんですけど、いまは大統領令も出してきてちょっと現実味が帯びてきたので、みんなどうなるのかな?って。

(町山智浩)そうですね。あれ、壁を作っても意味ないよね?

(杉山セリナ)実際に、越えられますよね?(笑)。

(町山智浩)そう。っていうかいま現在も壁はあるんですよ。アリゾナとか。

(杉山セリナ)あるところもありますよね。

(町山智浩)アリゾナとの国境とかに。でも、壁の上から入ってきている人は誰もいないんですよ。

(杉山セリナ)そうですよね。下を掘って(笑)。

(町山智浩)下を掘って入ってくるんで。まず誰も上から通らないんでデカい壁をいくら作ったところで全く意味がなくて。トランプの壁政策というのはほとんど無意味に近いんですね。あと、国境は川だったりするんですけども。あと、このへんって私有地が多いんですよ。国境の。

(杉山セリナ)そうですよね。本当にいま、ちゃんとできていない壁の方が多いんですよ。ゲージ……針金をピーッとやっただけだったり……

(町山智浩)その私有地に壁を作るとなると、そこを買わないといけないし。だからほとんど実効性のない政策を宣伝で公約しただけなんですよ。あと、メキシコ人に対しての言い方が非常にひどいですよね。

(杉山セリナ)もう偏見の塊ですよね。

(町山智浩)で、「不法移民はメキシコ人でそのメキシコ人が犯罪を犯している」という言い方をしていたんですけども、あれはウソですから。実際は不法移民の人ほど犯罪率は低いんですよ。

(杉山セリナ)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)だって、強制送還されちゃうんだもん。

(杉山セリナ)あ、そうですよね。

(町山智浩)だからみんなビクビクして、犯罪を犯さないようにしているんですよ。警察と関わらないようにしていて。あと、今回トランプが大統領に就任した時に就任演説で「アメリカ国内ではギャングたちが大殺戮(carnage)を行っている」と。あれも、ウソなんですよ。

(杉山セリナ)ウソだらけじゃないですか。

(町山智浩)ウソだらけなんですよ。あれ、なんでそう言ったか?っていうと、不法移民を取り締まるためなんですよ。あと、もうひとつは警察官による黒人の殺害事件が増えているんですが、それを正当化するためなんですね。で、警察権力を強くするために「アメリカでは大殺戮が起きている」と言っているんですが、アメリカの殺人の件数はピークは1991年なんですが、それから現在は半分に減っているんですよ。

(杉山セリナ)あ、減っているんですね。なのに、いまだに増えているかのような発言をしているということですね。

(町山智浩)そう。しかも不法移民の数はその頃に比べると3倍近くに増えているんですよ。

(杉山セリナ)矛盾していますよね。

(町山智浩)そうそう。反比例しているんですよ。不法移民がいくら増えても犯罪は減り続けているのに、トランプはそれをウソをついて、「不法移民が増えているために犯罪が増えているんだ」というウソニュースを発しているんですね。トランプは非常にそのウソが多くて、それで政策を動かしているんで非常に危険なところなんですよ。

不法移民弾圧の目的

(杉山セリナ)でも町山さん的になんでそこまでメキシコを、そして不法移民を責めるような発言を中心にやっていると思いますか?

(町山智浩)それは、理由ははっきりしているんですよ。

(ナレーション)不法移民弾圧の本当の理由とは?

(町山智浩)メキシコ系の人たちの人口がこれ以上増えていくと、共和党が今後選挙で勝てなくなるからです。

(杉山セリナ)リベラルの人が多いからっていうことですね?

(町山智浩)そうなんですよ。っていうか、共和党は反移民の人が多いんで。共和党の支持者の9割が白人なんで、メキシコとか黒人の人を嫌いな人たちが多いんですが。現在、たとえばテキサスって非常に保守的な地域でいつも共和党が勝ち続けているレッド・ステーツなんですが、人口が非常に多いんで、選挙人数が多いんですね。

(ナレーション)大統領選挙は人口の比率で各州に振り分けられた選挙人を獲得していく間接選挙制。ほとんどの州で得票数の多かった候補者が選挙人を総取りできるため、全米の得票数よりもいかに選挙人の数が多い州で勝利できるか? がポイントとなるのです。

(町山智浩)ここ(テキサス州)ね、現在人工の4割がメキシコ系なんですよ。

(杉山セリナ)4割も?

(町山智浩)4割が。で、たぶんこれが4割から45%ぐらいにいくと、白人の中でも民主党支持の人はいるから、民主党支持が50%を超える可能性があるんですね。たぶん4年以内に超えると思います。だから、壁を作ったりしてまずひとつはメキシコ系が入らないようするっていうことと、メキシコ系の投票を阻むために彼らが市民権を取れないようにするという2つの方法でなんとかテキサスを落とさないようにしているんですね。

(杉山セリナ)なるほど。

(町山智浩)あとね、アリゾナもメキシコ人がいますごく人口的に30%を超えていて、ここも民主党に倒れる可能性が非常に高いです。ニューメキシコ州はすでに倒れました。完全にメキシコ系の人たちの州になってしまって、圧倒的に民主党が勝ち続けているんですよ。で、この3つが完全に民主党側に倒れるんで、そうすると共和党は永遠に勝てなくなるんですよ。そのためなんですよ。メキシコ弾圧は。

(杉山セリナ)この3州は絶対に共和党に持っていきたいっていうがために、この政策を取り組んでいるということですね。

(町山智浩)その通りなんです。で、アメリカ各地で「サンクチュアリ・シティ」と言いまして、各都市で「不法移民や移民の人たちを保護する」と宣言している町があるんですけども。それはその「トランプの不法移民に対する圧力に対して抵抗する」と宣言しているんですが、それに対してトランプは連邦からの税の優遇とか支援とか福祉とかを打ち切ることによって、そういう都市を現在、弾圧しようとしています。

(杉山セリナ)いやー、もうすごいやり方ですよね。

(町山智浩)戦争ですよ、これ。

(杉山セリナ)戦争ですね。

<書き起こしおわり>

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