町山智浩『おやすみ オポチュニティ』を語る

町山智浩『おやすみ オポチュニティ』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年12月6日放送のTBSラジオ『たまむすび』でアマゾンプライムで配信中のドキュメンタリー『おやすみ オポチュニティ』を紹介していました。

(町山智浩)で、これもすごいんですが。もう1本の方はですね、アマゾンプライムで配信中の『おやすみ オポチュニティ』というドキュメンタリーなんですが。これ、オポチュニティっていうのはロボットの名前です。で、2004年1月25日にアメリカのNASAが火星に向けて打ち出して、火星に着陸して探索を始めた探査ロボットの名前がオポチュニティさんっていうんですね。女の子なんですが。で、最初は90日間だけの耐久度しかないと言われていて。90日、3ヶ月経ったら動かなくなると思われていたんですが、すごく優秀なロボットで。その後も働き続けて、2019年2月14日まで15年間も活動したというですね。

(赤江珠緒)えっ、当初の予定と全然違うじゃないですか。

(町山智浩)全然違うんですよ。3ヶ月のはずが15年も活動したオポチュニティというロボットのドキュメンタリーなんですけど。これね、オポチュニティはカメラを積んでるんですけど。この彼女の一人称しかないので、火星の中で、このロボットが活躍してる部分はなんとルーカスフィルムによる特撮CGで映像化されています。すごいんですよ、それは。で、この映画自体はプロデュースがアンブリンというスピルバーグの映画会社で。

スピルバーグとルーカスが組んでいる作品

(町山智浩)だからこの作品ではスピルバーグとルーカスが組んでるんですよ。だから大作なんですけど。で、とにかくねこれがすごいのは15年間もNASAの人たちはこのロボットの面倒を見ているので、段々家族みたいになっていっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。なんか健気ですしね。

(町山智浩)そうなんですよ。ロボットだからね、「もう働くの、嫌だ!」とか言わないんですよ。「こんなところに1人で置いてきぼりにして……ひどいわ!」とか言わないんですよ。黙々と働くいい子なので。でね、太陽光電池で動くんで、昼しか活動できないんですよ。夜になると、止まっちゃうんですね。だから毎朝「おはよう」って起こして、「おはようございます」って動き始めて。で、日が暮れてくると「おやすみ、オポチュニティ」って言って夜になるんですね。だからタイトルは『おやすみ オポチュニティ』なんですよ。でも、毎朝「おはよう」って言って、夜に「おやすみ」って言っていたら、家族になっちゃうよね。

(赤江珠緒)それは愛着がわきますよね。

(町山智浩)ねえ。だからだんだんとNASAのスタッフと彼女とがどんどんどんどん、精神的な家族関係が作られていくっていう話なんですよ。これも一種のラブストーリーですね。でね、これは要するに2004年から2019年までだから、2004年の打ち上げ時にそれをテレビで見て憧れた高校生の女性とかがですね、そのまま勉強して大学を出て、NASAに就職するんですよ。研究者として。で、彼女たちが今度、このオポチュニティを操作する係をやるんですよ。

(赤江珠緒)それは嬉しいでしょうね。

(町山智浩)嬉しいんですけど。その最初のスタッフたちはオポチュニティは自分の娘みたいに思ってるんですよ。でも、後から、それによって育って入ってきたNASAのスタッフたちにとっては、オポチュニティはお母さんなんですよ。立場が。だから、お母さんのように扱うんですよ。もうその、なんというか完全に家族の一員になってくるんですけど。そうすると、どうなるか?っていうと、やっぱり15年も経つとどうしても劣化していくんですよ。どうしても、たとえば腕とかが動かなくなったりね。足のタイヤが動かなくなったりするんですよ。15年も使っていればね。誰もメンテナンスしないわけですから。

でも、それでもロボットだから。「腰が痛いから私はもう歩けないわよ」とか言わないんですよ。で、そのオポチュニティの使命というのは「火星にかつて、水があった証拠を見つける」っていうことなんですね。どうも昔、火星には水があったらしいんですよ。それを見つけるために火星中を15年、走り回るんですよ。で、もうロボットだから、頭の中にはそれしかないんですよ。それで、あちこち動かなくなる。だけども文句を言わないんで、スタッフがまるで老人の関節炎みたいですね、それは意味がないのかもしれないけども。「大丈夫? まだできる?」っていう感じで大事にこのオポチュニティとコミュニケーションを取るんですよ。

あと、コンピューターだからメモリが入ってるじゃないですか。それも、どうしても劣化するんですよ。物質だから。そうするとね、短期記憶がなくなっていくんですよ。これ、一種のアルツハイマーなんですよ。ロボットが認知症を起こすんですよ。これね、これだけ長い間活動したロボットってね、たぶんほとんど例としてないので。そういうロボットが老化するっていうことをたぶん、実際に検証した例がないんですよね。

でも、これは初めてそれがわかるんですけど。そうすると、彼女によって育ってきた人たちが本当におばあちゃんを扱うように大事に扱っていくんですよ。そういうね、非常に泣かせる話になってまして、非常に感動しましたね。はい。これがね、『おやすみ オポチュニティ』っていうんですけども。僕、見ててね、これはアメリカ映画なんでもったいないんだけども。この映画、松任谷由実さんの『VOYAGER』を主題歌でつけてほしかったですね。本当にあの歌がぴったり合うようなね、感動的なドキュメンタリーですね。はい。それが『おやすみ オポチュニティ』でアマゾンプライムに入っていますね。

『おやすみ オポチュニティ』予告

<書き起こしおわり>

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