町山智浩 新型コロナ・外出自粛と日本のミニシアターの危機を語る

町山智浩 新型コロナ・外出自粛と日本のミニシアターの危機を語る たまむすび

(町山智浩)そう。だからそれから完全に解放される……「他の人とも比べない。何も求めない日っていうのを1日、作ろうよ」って言ってるんですよ。これは本当にね、精神病患者の人じゃなくても、全ての人が必要なのかなと。それで今、おっしゃったみたいに今、それができる時かもしれないですよね。それで、もうひとつこの『精神0』というタイトルに意味があるなと思ったのはね、この先生自身がね、本当に自分のない、「無私」の人なんですよ。だってもう全ての生活をその患者さんたちのケアに捧げてきた人なんですよ。だからね、その意味でも「ゼロ」なんですけど。実はそれを支えてる奥さんがいるんですね。

(外山惠理)へー!

(町山智浩)で、この奥さんがね、また「中学の頃から一緒」っていうから、なんと70年間ずっと支えてる人ですよ。だからすごいんですけども。ゼロよりもすごいんですけど。でね、この奥さんは何にもしゃべらない人なんですよ。黙々とね、この先生を支えてるんですけれども、実はものすごく頭のいい奥さんだったことも後でわかってくるんですが。これね、もうこの先生が何をしても文句を言わないんですよ。

この先生ね、たとえば患者さんが来るでしょう? そうすると、みんなやっぱり仕事がなかったりするじゃないですか。それで「お金、困ってたりするの?」とかっていう話になるじゃないですか。それで「はい」とか言うと「ああ、わかった」って先生、いきなり財布を出して。財布の中のお金を全部あげちゃうんですよ。小銭からなにからなにまで。それで「持っていきな」って言うんですよ。「みんなあげちゃう」なんですよ。弓月光みたいですよ(笑)。

(山里亮太)ドキドキした漫画ですね(笑)。

(町山智浩)そんな先生についていくこの奥さんというのもすごいですよね。

(外山惠理)でも、引退を決めるっていうのもどういう心境だったんだろう? まあ82歳っていうお歳はお歳だけども。ちょっと興味ある……。

(町山智浩)はい。だからそこから初めて奥さんとその先生だけの幸せのために生きるんですよ。初めて。

(外山惠理)そういうことか。ええーっ、すごい!

(町山智浩)だからね、最後はデートをしてますよ。2人で手を握ってね、歩いていくんですよ。そういうラブストーリーになってましたよ。

(山里亮太)へー! これが見れるんだ。

(町山智浩)そう。これが『精神0』っていう映画で。

仮設の映画館『春を告げる町』

(町山智浩)それで、さっき言った『春を告げる町』もそうなんですけど、両方とも監督自身が撮影してるんですよ。だからすごいちっちゃなちっちゃな映画なんですよ。で、どっちもね、ナレーションがなくて。何が言いたいのかとか、メッセージとかははっきり分からないんですよ。「こういう言いたいことがあるよ!」っていうのはもう誰もセリフで言わないんです。しかも、その何もしゃべらない奥さんとかをじっとカメラが映し続けてるんですよ。

すると、見ている人はこの奥さんが何を考えてるのかとか、あとは監督は何でこれを撮っているのかとか。なぜ編集でこんなに長くそのシーンを残しているのかっていうことを考えなきゃなんないんですよ。観客はみんな自分で。だから、さっき「復興とは何かっていう問いかけ」という話があったんですけど。このミニシアターでかかるような映画っていうのはね、問いかけ続けるんですよね。答えがない問いを観客にぶつけてくるんですよ。だから「面倒くさい」と思う人も多いと思うんですよ。

それで娯楽映画っていうのは観客の心の行き先を誘導してくれる映画なんですよ。「はい、ここで興奮するよ。ここで笑うよ。ここで泣くよ」っていう。「テーマはこれだよ」っていう。それが娯楽映画。でも、ミニシアターでかかる映画はそれをしないんですよ。

(外山惠理)そうですね。淡々と撮っているっていうのが多いですよね。ドキュメンタリーとかも。たしかに。

(町山智浩)そう。自分で参加をしなきゃならないんですよ。だからそれは一歩進んだ映画の見方なんですけれども。そのミニシアターがなくなると、そういう映画がなくなっちゃんですよね。

(外山惠理)今はね、聞けば何でも答えてくれるから。

(町山智浩)そうそうそう。そうじゃないのはね、芸術だったりするんですけどね。だからちょっとミニシアターを応援する意味で、今言ったような「仮設の映画館」とか見ていただきたいのと、あとは直接お金を寄付するという手もあります。それはミニシアター・エイド基金というものが行なわれていまして。これはちょっとネットで「ミニシアターエイド」で検索すると出てきますで、ぜひ寄付していただきたいと思います。はい。

ミニシアター・エイド基金

(外山惠理)いやー、またいいものを教えていただいて、ありがとうございます。

(山里亮太)「仮設の映画館」という。

(町山智浩)日本はね、政府がまだね、支援をしないので。政府の支援を今、求めてるんですけれども。いつになるか分からないので、ぜひ寄付をしていただきたいと思います。

(外山惠理)はい。町山さん、今日もありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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